334食目 骸
『「ここは、そのまま予定通りユウユウ閣下に任せるっ!」』
『えぇ、任されてよ』
大桃先生を運ぶアインリールを回収し、アストロイは次なるポイントを目指す。現在は反時計回りで帝都周辺を航行中なのだが、ターウォと帝都の反対側まで来たところでとんでもない物を発見。
それはおびただしい戦機たちの成れの果て。
大反抗作戦時に撃破されたのであろう骸たちがアストロイの進路を妨害していたのである。
『「なんてこった。これじゃあ、迂回しないと進めないぞっ」』
『主砲発射用意』
『「おいばかやめろ、英霊たちが咽び泣くっ」』
流石にこれは許可できない。
俺はマザーに迂回するように命じました。
死体蹴りしてもいいのは、汚い忍者だけだから仕方がないね。
しかし、かなりの数の骸たちだ。
ざっと見渡しても軽く千は越えるだろうか。
いや、もっとあるかもしれない。
だが気になるのは……これを成したのが一つ目小僧なのかということ。
ぞくり、と寒気がした。
それは正しい危機管理能力が働いたからだ。
地中から無数の高エネルギー反応を察知。狙いはアストロイ。
『「っ!? 魔法障壁っ!」』
咄嗟に魔法障壁を展開。
だがっ……! 貫通されるっ! なんという攻撃力っ!
「アストロイがっ!? 被害確認っ!」
『メインスラスター破損。ホバークラフトシステムにも異常。直ちに修復作業に当たらせます』
「予想時間はっ!?」
『推定時間は1時間38分52秒です』
「細けぇっ!?」
いや、そうじゃない。そんなに待ってなどいられるか。
地中から這い出てくる何か。
それは20メートルはあるかというドス黒い骸骨であった。
それを見た瞬間、俺はとある大妖怪を想起する。
『「餓者髑髏だっ!」』
それを見た瞬間に血液が逆流する感じを覚える。
気付けばファイアーボールを何十発も骸骨に叩き込んでいた。
しかし、無傷。ドス黒い骸骨は一切の損傷を受けていない。
いったい、何で出来ているというのだ。
『まだ居やがった!』
『黒い悪夢だっ! 勝てるわけがねぇっ!』
『助けてママー!』
餓者髑髏が出現するや否や大混乱に陥るターウォの部隊。
中には恐怖の余りに逃走する者までも。
というかママーは無いだろ。
「アストロイの修理は待っていられないっ!」
『同感です。アインリール達に神桃の実を持たせ出撃させます』
それでは時間が掛かり過ぎるがこの状況、やむを得ないか。
ターウォの部隊の艦はどうか、と確認したところで一つ目小僧たちに足止めを喰らっていらっしゃる。
ここからは精霊戦隊の戦力だけでなんとかするしかない、という事か。
うん、割とムリゲーな展開になってきやがった。
「くそったれめ。それでもやり遂げないと明日は無いんだよっ!」
アストロイの防衛にも戦力を残さなくてはいけない。
となるとヤーダン主任とリューテ皇女、そしてオカーメ隊の半分といったところか。
俺たちはぷち鉄の精霊部隊をメインに据えての進軍を強行する。
だけど、この餓者髑髏は放置できない。
帝都防衛隊を壊滅させた正真正銘の化物だ。
ターウォの部隊では対処できないだろう。
だが桃大結界陣を起動できなければ本末転倒なのは明らかで。
『エルティナちゃん! 行ってください!』
「ヤーダン主任っ!?」
『桃大結界陣の方が優先です! 早くっ!』
「で、でも……」
無理だ、と言いたかった。
でも彼女は言うのだ。
『倒してしまっても構いませんよね?』
それは死亡フラグだ、と俺の危機管理能力は全力で訴えているわけでして。
でも、俺の気概がそれを許さなかったではないか。
「任せるっ! ぷち鉄の精霊部隊、全機出撃っ!」
『てっつー』『てっつー』『てっつー』『てっつー』『てっつー』
ぷち鉄の精霊部隊、全89機が大桃先生を護衛しながらアストロイより出撃。
その光景を目に焼き付ける。
どうしてそうしたかなど考えるまでも無い。
きっと、この殆どが戻ってこれない、と予感してしまったからだ。
それでも行かなくてはならない。
これはそういう戦いなのだ。
『うじゃうじゃ湧いて出てきよるでっ!』
「ぽっちゃり姉貴は耐えてっ! ザインちゃんっ、大桃先生を護るぞっ!」
『いしゃいしょーちっ!』
「レオンさんはカバーにっ!」
『了解っ』
やはり、精霊戦隊のメンバーが少ないのは致命的だ。
帝都より無限湧きする鬼もどきどもに物量で圧倒されると進軍もままならない。
もたもたしているとヤーダン主任たちの命も危ぶまれるし、何よりもアストロイが轟沈しかねないのだ。
幾ら頑丈だからと言っても限度というものがある。
足りない、圧倒的に足りない。
手数が、火力が、圧倒的なメイン盾がっ。
『エルティナちゃん! 前っ!』
『「え? うあっ!?」』
レオンさんの叫び声に反応し、ファーラの腕を交差してガード体制を取らせた。
しかし、華奢なファーラはふっ飛ばされ孤立。
それを成したのは他の一つ目小僧よりもマッシブな機体だった。
「し、しまったっ!?」
えらいこっちゃ、システムエラーでファーラが動かない。
いわゆる一つの気絶状態とでも言えばいいのか。
システム再起動に250秒とか「らめぇ」されるのに十分過ぎるっ!
「あい~んっ」
「っだぁぁぁぁぁぁぁっ! やっちまった! こうなったら、生身でやってやる!」
コクピットハッチを予備電源で開き外に出る。
目前に迫るマッシブ野郎の姿。
「おんどるるぇ! ナイトは逃げない逃げにくいっ!」
でも、俺は言うだろうな。魔法の言葉を。
「……て~、早く来て~、早く来て~」
それは希望を繋ぐ言葉。
この言葉に過剰反応する希望は果たしてあったか。
いや、それはある、と確信するだろうな。
ほら、耳を澄まして良く聞いてみよう。
それは……。
『バックステッポゥ!』
「音を立てないできやがった!」
壊れるなぁ、感動。
いや、あり難いんだけどさ。
異次元バックステップにて、元の姿に戻ったエルティナイトが突如出現し、その勢いを利用したヒップアタックをマッチョ野郎に炸裂させました。
哀れ、マッチョ野郎は爆発四散。
ナイトのケツはパンチ力だったのだ。
「元に戻ったんだなっ!?」
『色々と強制力を働かされて苛立ちが有頂天に達した! この怒りは割と治まることを知らないっ!』
「ならっ!」
『応! 精霊合身だ! エルドティーネっ!』
いつものエルティナイトが戻ってきた。
我が身を光素の粒子へと解きほぐし、彼の体内へと潜り込む。
真っ暗な空間を通り抜け、肉体を再構築させながら鋼鉄の大地へと降り立った。
「全ての命を護るためにっ!」
『精霊戦機エルティナイト、ここに見参っ!』
「この黄金の鉄の塊を砕けると思うなら!」
『「かかって来いっ!」』
圧倒的な力の塊、それは更に強力になっている事が理解できた。
それは倒れ立ち上がる度に強くなっているかのような、そんな不屈の魂のようなものを感じる。
そして、こいつこそが唯一無二の半身であるとも。
「エルティナイトっ、ファーラを回収するんだっ」
『お姫様を抱っこするのはナイトの特権!』
その抱っこの仕方はおかしい。
なんで赤ちゃんにおしっこをさせるポージングなんですかねぇ?
「もうなんでもいいから、とにかくアストロイに運んで差し上げろっ」
『わぁい!』
でも、バックステップを使わないで走り出すエルティナイトは色々と訳が分からないよ。
しかして、野郎どもの戦意は何故か復活、向上、大☆噴☆火。
パニックになっていた連中は闘志を取り戻し、果敢にも餓者髑髏に攻撃を開始した。
そして、おやっさんたちの苦情と称賛の声は、俺の混乱をさらに深めてゆく。
いったい何を間違ったというのだ。エルティナイトは答えてくれない。
カタパルトデッキに到着。
ファーラを雑に置く。
折角頑張ってくれたのに酷い扱いだが、エルティナイトだし仕方がないよね、と諦めが付いてしまったり。
顔から床に突っ伏して、むっちりお尻を強調する姿勢となったファーラをおやっさんに任せる。
もちろん、お小言を言われる前に出発じゃい。
「こらーっ! ファーラを雑に扱うんじゃないっ!」
「サラダバー!」
『バックステッポゥッ!』
カタパルトの時代は終わった。
これからは異次元バックステップの時代だ。
あっはい、これができるのはナイトだけなので良い子は真似しないように。
戦場へと戻り俺たちは選択を迫られる。
餓者髑髏と対峙するか、それともぷち鉄の精霊部隊と先行するかを。
俺が選んだのは……。




