333食目 大人と子供の戦いは、しかし常識が息をしない
一つ目の巨人、仮にサイクロプスと呼称しようか、は異常な力を垂れ流すユウユウ閣下のアインリールに反応。
緩慢な動きで彼女へと向かってゆく。
それはのろまともいえる歩みであったが、しかし歩幅が異常に広いので、あっという間に攻撃可能な距離にまで接近。
その手に持つ小さな山ともいえる棍棒を天高く振り上げた。
こんなものを振り下ろされればアストロイとて一撃で沈んでしまうかもしれない。
そんな危機感がサイクロプスに一斉攻撃を仕掛けさせる。
「ちょっ!? どんだけ頑丈なんだっ!」
ところがヤツの金属筋肉は攻撃をことごとく受け付けなかった。
鋼の筋肉とはよく言ったもので、それがマジものなのだから手に負えない。
まさか攻撃魔法にも耐えるとは思わなんだ。
『うふふ、遅いわねぇ。ワインを一杯楽しむ時間すらあるわ』
というか、戦場で飲酒をしないでくれませんかねぇ?
実際にワイングラスを傾けながらドレス姿で戦機を操るユウユウ閣下に戦慄を覚えます。
もちろん、着ているドレスは彼女のコレクションの一つで、まだら模様の赤がこれまた狂気度を高めてくれます。
あれ全部、とある生物の血液で染めてるんだぜ? 頭おかしい。
ユウユウ閣下の鮮血アインリールがちょいちょいと指を動かす、と急にサイクロプスがバランスを崩して後ろに転倒した。
「そうか、振り上げた棍棒をくっそ重くしたのか」
「あい~んっ!」
動きが緩慢な事を利用して武器を使えなくさせたユウユウ閣下は、続けて機体の重力を操って宙に浮きあがる、とサイクロプス目掛けて突撃。
起き上がってきた彼の顔面に鋼鉄の拳を叩き込む。
アインリールおよそ10メートル。対するサイクロプスはその五倍。
まさに子供と大人の戦いは、しかし子供が圧倒するという展開に。
だが、サイクロプスは異常なほどにタフネスだった。
何度殴られようが、蹴られようが、平然と立ち上がってくる。
逆に悲鳴を上げているのはアインリールの関節の方だ。
重力の防御フィールドを拳に纏わせているものの、間接にまで気が回らなかったのか、煙が上がっている。
『あらやだ、脆い子ねぇ』
「扱い方が無茶苦茶なんだぜ」
『ボングを無許可で借りればよかったわ』
「永遠に返さないやつですね分かります」
『うふふ』
笑って誤魔化したっ! やっぱ鬼だったっ!
どうやらアインリールは全身に鬼力を纏う事ができないらしい。
それは鬼と武士たちとの戦いに、鉄製の刀が用いられたことに起因するようで。
『どうにも鬼ってのは、鉄に遠慮しちゃうみたいなのよねぇ』
「ハンデのつもりで、いつの間にか癖になっちゃった、とか?」
『たぶんね。ボングみたいに木材も使っている機体は鬼力を纏わせることができるわ』
「あれって木材を使っていたのかぁ」
衝撃の事実。
めっちゃ硬い木材を使い、それに青銅を張り付けて塗装していたもよう。
そんな物で機獣に勝てるわけも無く、早々に戦場から姿を消した最古の戦機はしかし、鬼との相性は抜群だったようで。
『専用機を作ってもらうなら、木製かしらね』
「火に弱い機体とか癖がありすぎ問題」
うちには俺とかガンテツ爺さんがいるから火をバンバンぶっ放す。
仮に引火したら大変ですぞっ!
『みぎゃぁぁぁぁぁぁっ!? 引火したっ! 何してくれてるんっ!』
「あっ、ファイアボルトを余所見しながら撃ってたんだぜ」
なんという事でしょう、うっかり炎の矢を植物アインリールに当ててしまったではありませんか。
「ごめりんこ。【アクアボルト】っ!」
『あ~いきかえるわ~』
無数の水の矢を燃え上がる植物アインリールに叩き込む。
それらは炎を瞬く間に鎮火。
オバハン臭い声をあげながら、ぽっちゃり姉貴は即時、植物アインリールを再生させた。
条件さえ揃えば圧倒的なタフネスさを誇る植物アインリールはしかし、サイクロプスの流れ拳を受けてぺちゃんこにっ。
「ひえっ」
でも、潰れて地面にめり込んだそれから、ぴょこん、と巨大な若芽が飛び出し、見る見るうちに成長。
やがて実を付けてそれが地面に落下。衝撃で真っ二つに割れて中から元気な植物アインリールが「おぎゃあ」しました。
『いやいや、無茶苦茶だね』
『死んだかと思ったわぁ』
これにはレオンさんも呆れているようで。
普通はそれまでの致命傷も、今のぽっちゃり姉貴には致命傷になり得ない。
いや、普通に致命傷なのだが致命傷に仕事をさせないというか。
これもう、わっかんねえな。
『やってくれたやないかっ。それならこっちもお返しやでっ』
植物アインリールを再生させた巨大植物は、ただそれだけで終わり、ということは無かった。
そのご立派な茎から幾つもの触手を生やして一つ目小僧どもを蹂躙する。
相当な力があるようで、巻き付かれた一つ目小僧どもは身体を両断されたり、切断まで行かなくとも潰されて行動不能になってゆく。
まるでカメレオンが長い舌で餌を取るかのように一つ目小僧どもが次々と餌食になってゆく様は、割と精神に来るものがございますゾっ。
あと、間違えてもこっちを攻撃しないでください。
ファーラはもう全裸に近い姿なんです、どうかご慈悲を。
『おおっと! 手が滑ったわぁ』
『「ふぎゃぁぁぁぁぁっ!? 絶対にわざとだろっ!」』
なんという事でしょう。
ねばねば、ぬとぬとの触手がファーラの柔肌に食い込んだではありませんか。
きもいー! むっちゃきもいー!
自分が直接やられていた、と思うと発狂ものです、はいっ!
「ふぁっきゅん! これ絶対に映像に残しているヤツがいるだろっ!」
『現時点で、およそ347件ほど確認しました』
「半分以上じゃねぇかっ!」
マザーの割と聞きたくなかった報告に憤慨する。
そして、いよいよ触手とファーラの絡みは危険な領域に。
彼女の純潔はぬめぬめに奪われてしまうのかっ。
この続きは発売未定の円盤に収録予定っ。
というわけで、おバカなことはダラダラと続けてはいられない。
仕返しをして満足したのか、ぽっちゃり姉貴はファーラを釈放しました。
その代わり、ファーラは白濁した粘液塗れになってしまいましたとさ。
『現時点で、およそ1058件の撮影を確認』
「身内以外もっ!?」
なんという事でしょう、身内以外にも撮影すると言ったら一つ目小僧どもしか居ないじゃないですかやだー。
これは一機残らず叩き潰さないといけない案件にっ。
おめぇら、覚悟すれよおらぁん。
取り敢えずは、このぬめぬめを洗い流す。
水属性日常魔法アクアドロップを発動。
天よりドバーっと滝のような水が降ってきて、一気にファーラの身体に纏わり付いた粘液を洗い流した。
初陣だというのに散々だな、ちみは。
水着だからへっちゃらさ、的な感じで髪を掻き上げる仕草はオートプログラミングです。
なんという無駄なプログラムを組み込んでいるのでしょうか馬鹿野郎。
俺じゃなきゃ、この隙に弾丸を叩き込まれてお陀仏ぞ。
実際、それをやった野郎がいたが、俺には魔法障壁がございますので跳ね返してやりましたとも。
『「こんのぉっ! 反撃の【ウォーターボール】っ!」』
水属性攻撃魔法ウォーターボールは周囲の水分を掻き集めて水の球体を作り出す魔法だ。
ただし、攻撃力は殆ど無く、ロボットに対しては有効打にはならない。
そもそもが暴徒鎮圧用の非殺害魔法だから仕方がないのである。
ただ、これには色々と使い道がございまして。
まずは濡れ濡れになったファーラを速攻で乾かすことができる。
そしてもう一つが、一つ目小僧どもを漏電させることができる、というものだ。
帯電した突撃槍で濡れた一つ目小僧を突き刺してやれば、いつもより攻撃力の高い電撃が水を伝って大暴れする。
ただこれは非常に手間がかかるので、余程のことが無い限りは使用しないだろう。
これならばファイアーボールを叩き込んだ方が早いもん。
直後に大きな物音が聞こえた。
確認するとサイクロプスが紫色の液体を撒き散らしながら倒れている。
首と胴とが泣き別れになっていることから、それが致命傷になったもよう。
その方法というのがまたえぐい。
首を重力操作でねじ切ったみたいなのだ。
仮にサイクロプスに痛みを感じる機能が付いていたなら、地獄の苦しみどころではなかっただろう。
『うふふ、でもこれって酷くつまらないのよねぇ。やっぱり、直接殴る方が楽しいわ』
「それはそれで恐ろしいんだぜ」
しかし、サイクロプスは一機だけではなかった。
恐ろしい事に量産機だったもようで、帝都より続々と湧いて出てきているではないか。
一機だけではない、という事実は戦機乗りたちを絶望させるのは十分。
ユウユウ閣下だからこそ、圧倒できるものの、普通の戦機乗りならまともにダメージを与えられない事は既に証明されている。
『冗談じゃねぇぞっ!』
『あんなのがターウォに押し寄せたらっ……!』
無線に流れ込んでくるターウォ所属部隊の悲鳴は当然のものだった。
だが、この程度で臆していては精霊戦隊ではやっていけない。
新規加入のオカーメ隊も、そこら辺は良く分かっているようで、積極的にサイクロプスに攻撃を仕掛けている。
しかし、効果はイマイチのもよう。武器が通常兵器なだけに厳しいか。
「オカーメ隊は一つ目小僧をっ! デカブツは俺たちが引き受けるっ!」
『オカメインコ、了解っ。オカーメ隊は一つ目小僧の撃破を優先せよっ』
女性たちの「了解」の乱舞。
ひとりごっつい声が聞こえたけど、じつは女性です。
マッチョゴリラだけど、オカーメ隊一番の乙女思考な彼女は色々と悩みを持っているようで。
っと、雑念が入り過ぎだ。
そろそろ第三ポイントに到達する。
今のところは順調に事が運んではいるが、そろそろ攻撃も激化してくる頃合いだ。
それに対して俺たちの疲労は蓄積されるばかり。
時間をかけていられないのは明白で。
『「大桃先生の設置、急いでっ!」』
『てっつー』『てっつー』『てっつー』『てっつー』『てっつー』
わっしょい、わっしょい、と大桃先生を運ぶアインリールを守りながら、しかし逸る気持ちを抑え込む。
残す大桃先生はあと二つ。
しかし、行く手を阻む者は、一つ目小僧ばかりではなかったのであった。




