323食目 ターウォへの帰還
戦艦アストロイはキアンカから出立し、僅か四日で道程を制覇。
クロナミではこの倍は掛かるかという距離はしかし、野郎どもの夢というか欲望を詰め込まれた船にとって、なんてことはない距離だったようで。
「クッソ早いんだぜ」
『安定した地形では【HVS】が使用できます。その差でしょう』
とマザーは申し上げておりました。
つまり、この船の船尾には大量の大型スラスターが備え付けられており、やろうと思えば宙に浮いてミサイルのごとくカッ飛ぶことも可能とか。
まぁ、流石に空を飛行することはできないもよう。
でも、おやっさんは言っていた。
次は空だな、と。
そのためのエネルギーを捻出するのが誰だと思っているんですかねぇ?
次は下手をすれば死ぬかもしれない、そのような危機感を抱いたのは言うまでも無く。
「エルちゃんっ、ターウォに着いたよっ」
「リューテ皇女。これまた豪華なドレスだこと」
リューテ皇女はヤーダン主任に連れられて艦橋へと顔を出した。
沢山のフリルがあしらわれた白銀のドレスを身に纏っている。
ギンギラ銀に輝いてはいないので嫌味ったらしさはなく、ただ純粋に高貴さが演出されていた。
まだお子様なので、アクセサリーは付けていない。その代わりに腰には光素銃の姿が。
無論これはフルベルト王から賜った品だ。
「どこからどう見ても、お姫様なんだぜ」
「えへへ、ありがとっ」
ふぅわり、と一回転して見せるリューテ皇女は既に男の子の片鱗も無く。
これには俺たちも苦笑するより他になかった。
「さて、ゲアルク大臣にはどう説明したものでしょうかね」
「……ありのままを言うしかないでしょ」
はふぅ、と悩ましいため息を吐くのは、これまた悩ましい姿のヤーダン主任だ。
完全女性化してから久しぶりに会社指定の薄紫色の制服を身に纏ったところ、サイズが合わなくなっていたらしい。
部分的に言えば胸と尻。
これはつまり、完全に女性で固定された際に増量していたもよう。
今までは伸縮性があったドレスを着ていたから分からなかったらしい。
現在は乳と尻がパンパンでビジュアル的にヤヴァイ。
前のボタンを留められていないし、スカートは今にも破れると悲鳴を上げているようにも見えた。
茶色のストッキングでなんとか誤魔化してはいるが、むっちりおヒップのせいでスカートの丈が短くなっていてぶっちゃけおパンツ覗き放題。
まぁ、俺がおチビだからなんだが、それでもチラチラと見えていそうではある。
「……その前に、スーツのサイズを合わせた方がいいんじゃない?」
「私もそう思います」
どうやら本人も、これは拙いんじゃないのかなぁ、とは思っていたもよう。
俺も痴女よりは、キリッとしたお姉さんの方がいいです。
というわけで、俺とザインちゃん、ヒュリティアとヤーダン主任にリューテ皇女でターウォに向かう。
アクア君はぽっちゃり姉貴に任せた。
どうやら赤ちゃんに目覚めたようでウキウキしているが、何事も無い事を祈るばかりだ。
荷物持ち兼、一応の護衛としてH・モンゴー君を同伴させる。
彼の現在の荷物は縮んでしまったエルティナイトだ。
とんぺーの背中にザインちゃんを乗せ、俺もライド・オン。
ゲアルク大臣やアマネック本社の社員たちが待っている公民館へと移動開始。
そのまえにヤーダン主任のスーツをどうにかすべく、デパートに立ち寄った。
そして、ざわつくデパートの従業員と一般買い物客たち。
彼らが一様に口にするのは「エロい」の言葉。
流石にヤーダン主任も自覚しているのだろう顔が真っ赤になっていて、それがまたエロい。
はっ!? なんということだっ! 俺もまたエロいと口にっ!
そして、スーツを取り扱っている店が見つからないという。
つまり、そこを求めて歩き回った結果、ヤーダン主任はエロい晒し者にっ。
これによって、男の尊厳を守るポージングの男性が増産されてしまい、デパートはほんわかと混沌の塊と化したのであった。
それでも、なんとかスーツを取り扱っている店を発見。
その頃には俺たちの手には余計な荷物がっ。
主にソフトクリームとかホットドッグとか、クレープとか、タコ焼きとか。
そして、H・モンゴー君が持参した大型リュックサックは割とパンパンに。
「おいぃ、その程度で膝を笑わせるなぁ」
「我が主っ! 自分は戦闘型ではございませんっ!」
「じゃあ、何型なんだよ?」
「バカンス型でありますっ」
「……じゃ、これもよろしくね」
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ヒュリティアに追加のお土産を突っ込まれたH・モンゴー君は重量過多で潰れてしまいました。もっと体を鍛えてどうぞ。
あっ、機械だから改造しないといけないのか。面倒だなぁ。
おやっさんに……あ、だめだ。あの人、ロマンとか言ってH・モンゴー君を女性型にしそうだし。アナスタシアさんに任せるしかないかも。
オーストさんも付いてるし滅多な事にはならないだろう。多分。
それに一応、貴重な男手だ。これ以上の女性の追加は精霊戦隊が乙女の花園になりかねない。だからH・モンゴー君は男のままでええねん。
「すみませんが、このスーツの丈の調整を」
「はい、エロい。あ、いえ、かしこまりました」
ヤーダン主任へ向ける眼差しが既にヤヴァイ店員は、ヤーダン主任には若干劣るもののエロい女性でした。
二人が並ぶと急に百合の花が咲き乱れて見えるのは気のせいでしょうか。
俺はきっと疲れているに違いない。
ここは甘いものを摂取して疲労を回復せねば。
というわけで、あまぁいクレープをパクリんちょ。
ふうわりとしたホイップクリームとねっとりとしたカスタードクリームの黄金比率が素晴らしい。
そこに加わるのはトロトロのビターチョコレートだ。こいつがビシッと舌を引き締めてクリームたちの甘さを引き立てるのだからいじらしいではないか。
クレープのデコレーションの苺、キウイフルーツ、バナナも、ただの飾りつけではない。
彼らの自然な甘みと酸味は舌をリフレッシュさせ、クリームたちの甘みを再認識させるには打って付け。
でもバナナはクリームたちの援護を受けて主役になる、という我儘ぶりを発揮しておりました。
流石はバナナだぜっ。
ただ、肝心のクレープ生地は微妙な感じ。
多分これはアースラの小麦で作った物を食べ過ぎたせいで、あまり旨味を感じていないのだと思う。完全に弊害となってしまっている感。
決して悪い材料は使っていないのに、悪い感じに受け取ってしまって罪悪感がにょきっと顔を覗かせた。
するとそれは「謝罪する? 早くっ、早くっ」とまくし立ててきたではないか。
「本当に……申し訳ないっ」
なので俺は謝罪するだろうな。
「……誰に謝っているの?」
「アースラの小麦以外の小麦に」
「……あぁ、くそ不味く感じちゃうわよね」
「言い方ぁっ!」
情け容赦のないヒュリティアさんに掛かれば、クレープの生地は激烈しょんぼり状態となり、しょんぼりナイト同様に湿った空間を作り出してしまうので、もう急いで食べちゃいました。
君、なんてことをしてくれるの? 慰める立場になって考えてくれる?
と思いましたが、彼女の場合はそこからさらに追い打ちをかけて死体蹴りまで敢行する未来予想が現実的に見えちゃったので、そっと意識の彼方に不法投棄をおこないました。
尚、クレープの生地は完食したことによって機嫌を直してくれたもよう。
めでたし、めでたし。
でもめでたくないのは試着室のお二人。
「あんっ、くすぐったいですっ」
「はぁはぁ、大丈夫です。一切傷付けませんからぁ。やだ……絹のような触り心地っ」
いったい何やってるだぁっ!?
怖いもの見たさにカサカサと試着室への突入を試みたところ、ヒュリティアさんに捕まりました。
「……駄目よ、穢れるから」
「おいぃ、あそこは混沌の領域だというのかぁ」
「あ、ママが濡れてる」
「……リューネちゃん、目が腐るでしょっ」
お子様二名を管理するヒュリティアさんは、実はお母さん的なポジションだった?
試着室の混沌を覗いてしまったリューテ皇女はEROチェック。
チェック判定に成功しても失敗しても一時的なエッチ気分に陥る、って桃先生が言っておりました。
あと俺にはまだ12年早い、と言われたので9秒でいい、と言い返したら割りと怒られた。解せぬ。
「ふぅ……それでは光の速さで仕立て上げますので」
「はぁはぁ……お、お願いします」
妙に息が上がっているエロい大人の女性は、小声で「あとはホテルで」との密約をかわしておりました。
この珍獣イヤーに聞こえないものはあんまりないのだよっ。
でも、ホテルで二人っきりになって何をするんだぁ?
リアル着せ替えごっこかな?
妙にしっとりとしたヤーダン主任はぽつりと呟きました。
「私もまだまだですね。あのテクニック、全部モノにしなくては」
多分、俺の知り得ない技術が強化されるんだろうなぁ、と漠然に思いつつ、スーツが仕上がるのを待ってデパートを後にしました。
目指すは公民館。そこまではタクシーに乗って直行。
歩きだと迷子になりかねないし、これでええねん。




