322食目 宣戦布告とぽっちゃり姉貴の謎
「ところで話は変わるんだけど、ルオウ達ってターウォに居たんだろ?」
「ん? あぁ、そこで妙な連中と戦っていた」
「戦っていた?」
妙な言い回しだ。まるで、連中を叩き潰してしまったかのような。
「俺たちがここに居ることでもある程度は察しているんだろうが、ある日突然、いなくなっちまったのさ」
「帝都を占領していたのは、アバズレンだかいう小物だけになっちまってな」
「その情報を掴んだ俺たちとファケルとで、一気に叩いちまったのさ。その後は、あの妙な兵器は湧いて出てこなくなったな」
「ファケル兄貴と知り合っていたのか」
俺の意外そうな顔に、彼らはくつくつと笑みをこぼす。
「あいつも相当だぜ?」
「喧嘩っ早さに」
「腕前もなぁ。もう一度、喧嘩してなぁ」
尚、生身でやり合ったもようです。
「ただ、ファケルが言うには、戻るにはまだ早い、ってことだったな」
「それは俺も同意見だ。あそこはなんというか、陰湿な気、とでもいうのだろうかな。それが濃すぎる」
「それなぁ。吐き気を覚えるレベルだったな」
おっさんトリオは一様に顰めっ面をした。
確かにアレの気配は常人にはきつ過ぎる。
「陰の力溜まりができているのか。それじゃあファケル兄貴じゃ相性的に浄化はきついか」
「陰の力?」
「あぁ、それはだな……」
陰の力に興味を示したおっさんトリオ(若い)に陰の力と鬼の説明をすると彼らは意外な表情を見せた。
「鬼ってのはろくでもねぇな」
「そんな理由がないと戦えない、とか徹底的に潰した方がいい」
「面倒臭ぇ連中だぜ、ったくよぉ」
鬼に対し強い憤りを感じる彼らに、まさかの陽の力を感じ取る。
でもそれは荒々しく獰猛で、ともすると陰の力にも思えてしまう不思議なものであった。
多分、俺は疲れているのだろう。そうに違いない。
「とにかく、一度確認しておきたいな。あいつが立ち直ったら」
「どうにかなんねぇのか?」
「できてたら、真っ先にしているぅ」
「だよな」
ほんと、エルティナイトをどうにかしないと。
結局、おっさんトリオは一度、ターウォに戻ることになりましたとさ。
俺も帝都の様子が気になるので、ミリタリル神聖国へ向かう前にターウォに立ち寄るつもりでいる。
でも、その前に落とし前を付けるべく、ルフベルさんが戦機協会に対し、その暴挙を暴露し糾弾、そして宣戦布告をおこなった。
これは全世界に向けた放送となり、各国に衝撃が走ったことは言うまでもない。
これに続き、リューテ皇女も国として戦機協会を糾弾。
断じて許すまじ、との声明を発した。
これに対し事実無根である、と釈明した戦機協会会長ムナーク。
しかし、このタイミングでジェップさんがテレビ中継をハッキングし、キアンカの惨状を全国に流した。
マジで何者なんですかねぇ? ジェップさん。
そうすると大炎上が発生。
最早、火消しもできないレベルでの抗議が押し寄せられ、ケジメ案件が発生した。
だが、これでも戦機協会は、出鱈目だ、作られた映像だ、の一点張りを通す。
自らの首を絞める行為は、各国の重要拠点に戦機協会の支部を置いていることからか。
いざとなったら、おまえたちもこうなる、との脅迫を多分に示しながら、事を有耶無耶にしようとの薄っぺらな考えが見え見えでして。
だが、これに異を唱えることができないのは小国まで。
エンペラル帝国はもちろんの事、ドワルイン王国、そしてヤーバン共和国、あろうことかミリタリル神聖国までもが戦機協会を糾弾。
戦機協会は事実上、孤立無援となってしまった。
これがルフベルさんが言っていた、世界を周れ、ということか。
ルフベルさんの下に精霊戦隊あり、との情報は強力な武器となり、戦機協会に大打撃を与える形となった。
だが、これであっても戦機協会は姿勢を改めることはなく、ならば受けて立つと宣戦布告を受け入れた。
加えて、精霊戦隊に所属する者たちの資格を剥奪するとの連絡も。
ぶっちゃけ、今更なんだよなぁ。
「全面戦争かぁ。どのくらいの連中が言いなりになるかだよな」
アストロイの艦橋兼自室にて、テレビ中継をぼへ~っと眺めてながら、ポツリと零す。
「……金に目が眩んだ有象無象じゃ相手にならないわ。問題は上位ランカーね」
同じく、まったりとしながら紅茶を啜るヒュリティア。
テーブルの上にはアースラで作った黄金のクッキー。
「一応は精霊戦隊の強さは映像でアピールされているし、サーチスラキーラの撃破も流されているから、下手に手は出してこないと思うけど」
「……問題は五位以上の連中ね。特に聖王」
「あのおっさんか……相当に強いだろうな」
「……そうね。やり合うならエルティナイトは必須になるでしょうし」
残念ながらエルティナイトはまだいじけている。
心が折れにくい反面、折れたら中々、立ち直れないもようで。
どうにもこうにもできないので、今は頭の上に乗せている。
アイン君はいつもの定位置が無くなってしまったので、現在は俺の右肩でまったりとしていた。
ただ、本当にいじけているかどうかは怪しい部分がある。
もしかしたら演技かもしれないし、本当にいじけているのかもしれないし。
「こりゃあ、暫くは俺もアインリールを使うしかないかなぁ」
「……そうね」
そして、ヒュリティアのちょっとした違和感。
多少、演技じみていたのは気のせいであろうか。
「……万が一の場合も戦機を代用できるし、帰ったらレギガンダーと一緒に鍛えてもらうといいわ」
「うおぉ……藪蛇だったぁ」
つまりは俺もガンテツ爺さんのスパルタに付き合わされるという事になる。
誰か助けてっ!
さて、アストロイは現在、ターウォに向かっている最中である。
キアンカの防衛にはクロナミを配置。万が一に備えた。
ターウォに向かうのは近況をゲアルク大臣に報告するため。
それと帝都の様子をこの目で実際に確かめるためでもある。
もし、脅威無し、と判断できれば帝都の浄化後に再生をおこなうつもりであるし、ターウォの戦力をキアンカに回してもらう事も叶うであろう。
そのためにもターウォへと向かうのだ。
加えてターウォは難民受け入れによる食糧難が発生しているので、アースラの小麦を持ち込めば、それも劇的に回復するはずである。
問題は、そのための媒体が「あひぃ」な状態になっていること。
ぽちゃり姉貴は、やり過ぎたのだ。色々と。
でも、まったく痩せない、と苦情を漏らしている辺りは流石である。
そんな噂のぽっちゃり姉貴が艦橋にやって来ました。
「エルちゃん、これ」
「凄い触手だと感心するがどこもおかしくはない」
「いやいや、おかしいことだらけやないかーい!」
セルフツッコミ、ご苦労様です。
ぽっちゃり姉貴はある程度、触手を制御できるようになっているようで、自分の腕を触手にして、にゅるんと伸ばすことができるようになってました。
彼女が渡してきたものとは……なんとベビーでございました。
「このばぶー様はどうしたの?」
「産みたてホヤホヤやで」
「おいぃ」
なんという事でしょう、ぽっちゃり姉貴はお子様を出産して?
「……いつの間にヤッてたの?」
「言い方っ! うちは穢れ無き乙女やでっ。まぁ、定期的に産んでるけど」
「色々と酷いんだぜ」
既に人間を半分以上辞めていらっしゃるぽっちゃり姉貴は、遂に赤ちゃんすら産んでしまう体質になったらしい。もうわけがわからないよ。
彼女が産み落としたベビーは女の子。
ぽっちゃり姉貴にそっくりで、頭のてっぺんに何故か若芽が、ぴょこん、と生えている。
「たぶん、これ、うちの腹の中で発芽したんちゃうかな?」
「え? じゃあこれって植物の種?」
益々理解不能。
植物人間、という考えで良いのだろうか。
それとも人間植物? うごごごご……人間とはいったい?
「というか、凄い格好だな、ぽっちゃり姉貴」
「仕方ないやん。いつ、孕んで産むか分からないんやし」
幾ら春に向かって言っているとはいえ、ビキニ姿はどうかと思います。
一応はローブみたいのを羽織っているけど、完全に痴女です。寒くないのかな。
「この格好、便利なんや。すぐに産めて、乳やりもできるし」
「乙女とはいったい……」
完全にお母んです。本当にありがとうございました。
ボロンとおっぱいを晒して赤ちゃんにおっぱいをあげるなど、乙女にはできない芸当っ。
俺じゃなきゃ、見逃してたね。
「あ~あ、うちも男を知りたかったわぁ」
「……別に今からでもできるじゃない」
「赤ん坊がいるんやで、出来るわけないやないか」
ちゅっちゅ、とぽっちゃり姉貴のぼいんぼいんを吸うベビーは人間の赤ちゃんにしか見えない。
だが、俺は彼女に違和感を感じた。
なので、ぐむ~、と目を細めその本質を見極めんとする。
するとピンときた。
「土の精霊だっ」
「なんやて?」
「その子だよ」
「うちの子の事かいな?」
そう、この子は土の精霊だ。
つまり、放っておけば土に還ってゆくことだろう。
土の精霊の役割は大地を活性化させることにある。
星にとって土の精霊とは最重要な存在であり、多ければ多いほどに星は豊かになる。
そのような存在を生み出せるぽっちゃり姉貴は、ある意味で女神だった?
そうこうしている内に、授乳を済ませたベビーは一気に成人し、ぽっちゃり姉貴似の、くっそエロエロすっきりボディの土の精霊へと進化。
ぽっちゃり姉貴に祝福のキスをし、スッと姿を消してしまった。
恐らくは、ぽっちゃり姉貴から力を授けてもらって、大地へと還ったのだろう。
ここからは、そこが彼女の仕事場になるに違いなかった。
「う、うちの赤ちゃんがっ!?」
「何気に子育てする気満々だったのかぁ」
割とショックなぽっちゃり姉貴は、土に還らない赤ちゃんを欲するようになりましたとさ。
めでたし、めでたし?




