321食目 食を共に ~可能性の食卓~
色々とてんやわんやなこの状況。
収拾がつかなくなってきた戦機協会キアンカ支部はしかし、一人のご老人の到着で収拾がついた。
何もない空間で突如として爆発が起きる。
流石にそんなことが起これば、何事かと注目するだろう。
「落ち着かんか、バカタレどもめ」
そこにはオカーメ隊を引き連れたガンテツ爺さんの姿が。
こうしてみると、オカーメ隊って……あれ、女の人しかいない感。
男かなぁ、と思っていた人にもおっぱいがっ。
「こ、この感じ……! てめぇが、あの炎の使い手かっ!?」
「なんじゃい、藪から棒に」
ガンテツ爺さんにも食って掛かるルオウなるエリシュオン軍人は、拳を振り上げてガンテツ爺さんの顔面を殴り付ける。
がしかし、逆にダメージを負ったのはルオウの方だった
「うわっちっちっ!」
ぶんぶんと腕を振るのは袖が燃え上がっているからだろう。
ガンテツ爺さんは、というと顔の半分が砕け散り、炎となって再生しているところだ。
「かっかっかっ、どこの山猿じゃい。わしは、おまえさん方に会った記憶はないがの」
「んのおやろぉ!」
痛い目に遭ったというのに闘争を止めないのは、褒めるべきか、褒めないべきか。
取り敢えず話が進まないんですがねぇ?
ちらり、とズーイなるお兄さんに視線を送ると。彼は肩を竦めてルオウを止めてくれました。
「話が進まないから、そこまでだ」
「うっせぇ!」
「ルオウ」
ズーイお兄さんが一段階低いトーンでルオウを諭す、と彼は拳を震わせながらもなんとか堪えたようで。
「……ちっ」
「ふぅ、手間を駆けさせたな。それじゃ、話をしようか」
「了解なんだぜ」
ようやく話し合いができるという事で、奥の応接間へと移動。
そこにはみっちりと美人なお姉さま方がいらっしゃいました。
「うほっ、かわいこちゃんがたっくさ~ん」
「おらっ、もうくそったれ共はぶち転がしたから出て行けっ!」
なんという事でしょう、お姉さま方は悲鳴を上げて逃げ出してしまったではありませんか。
「あ~!? なんてことすんだよぉ! 一人くらいは惚れてくれたかもしれねぇのに!」
「おめぇじゃ、無理だ。いいから隅に立ってろ」
「ひどぉい!」
センチメンタルなモヴァエのおっさんは隅っこでいじけました。
なので、そっと情けないナイトも置いておきますね。
こうして、応接間の隅っこは異常に湿度が高くなったとさ。
「さて、まずは礼を言わせてほしい。諸君、キアンカを救っていただき感謝する」
皆に対し頭を下げたルフベルさんは続き、正式に戦機協会と縁を切ることを宣言した。
「皆も知ったかと思うが、戦機協会は決して弱い者の味方ではなく、死の商人と同じであることが理解できたと思う。ただ、これは昔から、というわけではない」
ルフベルさんは簡単に戦機協会設立の経緯を説明。
機獣に対抗する組織としての一面を強調した。
これにエリシュオン軍人たちは黙して耳を傾けている。
ただ、エリシュオン軍に対することにも興味なさそうに思えた。
「以上が戦機協会の意義だ。だが、現在の戦機協会はこれから大きく逸脱し、私欲を満たすだけの組織と化している。私はこれをなんとか打破したく、独立を宣言するものである」
「どの道もう引き返せないんだから、とことんやっちゃえばいいんだぜ。精霊戦隊はルフベルさんを応援する」
「エルティナ君なら、そう言ってくれると思っていたよ」
後日、ルフベルさんは本部に宣戦布告をするという。
300もの大部隊を撃破、町の外299名、町の中299名の捕虜を得たキアンカに対し、戦機協会本部はどのような対応を取るであろうかが注目される。
「やぁ、ルフベル支部長。いや、今はルフベルさん、と言った方が良いかな?」
「君は?」
「ジェップさん、元気そうだな」
応接間に入ってきたのは情報屋のジェップさんだった。
再生の際に彼の情報は入ってこなかったので、流れ弾や兵士にはやられなかったもよう。
ただ、所々に包帯を巻いていることから、何かしらをやっていた感じはする。
「まぁな。それでこれ、幾らで買ってくれます?」
コトリ、と置いた携帯端末の画面に映るのは、キアンカ襲撃の際の映像が生々しく映し出されていた。
惨殺される市民や、それをおこなった兵士、そして、それらを指揮するサーチスラキーラや、精霊戦隊の活躍に、俺が町を再生させた場面までもが納められている。
「こ、これは……よし、言い値で買おう」
「これは大層な太っ腹で。痛い目を見た買いがありますよ」
戦場ジャーナリスト顔負けの映像を収めていたジェップさんは、果たしてただの情報屋なのだろうか。
あの修羅場を掻い潜るのは、相当な実力がなければやってのけることは不可能だ。
謎が多いジェップさんはしかし、そのことを告げると大いに笑った。
「おまえさんに比べれば些細な事だろうに」
「ある意味で酷いんだぜ」
「それに、戻ってきたってことは、ゲットしたんだろ?」
「もちのロンだぜ。ドワルイン王国の秘宝、黄金の小麦アースラをな」
というわけでフリースペースから実物と、それを用いて作った食パンを取り出し皆に堪能していただいた。
「おいおい、マジかよ。食パンが黄金みたいに輝いてんぞ?」
「見た目だけなんだぜ。切ったらこの通り、ふわふわ、ふかふかな、パンでございます」
すっとナイフを入れて断面を見せる。
そこから現れたのはやはり、黄金で作られたかのような食パンの断面であった。
「まぁ、食べてみた方が手っ取り早いんだぜ」
「「「食べる」」」
これに真っ先に喰いついたのが、獣のおっさんトリオという。
やはり、彼らもまた食いしん坊であったか。
「んおぉぉぉぉぉっ!? なんだこりゃあっ!?」
「何も味付けをしていないというのに、凄まじい甘さだ」
「いやぁ、でもよぉ、この優しい甘さは……!」
「「「蜂蜜っ」」」
「正解なんだぜ。でも、それはアースラを単体で食べた場合。お次はこれを食べてくれ」
続いて取り出したのは、ヒュリティアさんがせっせと作っていたアースラのホットドッグだ。
これもまた外見は黄金。それゆえにソーセージが存在感増し増しになっている。
これには作った本人も暫くうっとりと眺めていたくらいに迫力がある。
やはり、真っ先に手を出したのは獣のおっさんトリオ。
ジェップさんはお酒が入ってないとあまり食欲がわかないらしいが、それでも次いで手が伸びるのが早かった。
「おおっ!? パンが甘くねぇ!」
「いや、甘い事は甘い……だが」
「ソーセージの肉汁の甘さを引き立てる甘さに押さえられている? 調理工程で何かしたのかぁ?」
獣のおっさんトリオは結構な舌をお持ちのようで。
「いや、俺は極普通にパンを焼いただけ。具が入っていないコッペパンがこれ」
俺はスッと具無しのコッペパンにナイフを入れて片方をルオウに渡す。
彼はそれを口に放り込み咀嚼した。
「甘い。最初の食パンと同じだ」
「んでもって、この片方にソーセージをドッキングして……ほい」
続いてホットドッグにした残りを食べてもらう。
「甘さが抑えられている? いや、これは……」
「そうなんだぜ、この小麦は全てと調和する食材。全てを受け入れる愛の食材なんだ」
アースラの小麦は全てを包み込む。
単身の場合は主役に、しかし、他の食材と一緒の場合は脇役に徹し、主役を盛り立てる。
その際の主役は、本来の美味さの数十倍になるという恩恵があるのだ。
ちなみに、これでケーキを使った際はとんでもないことになりました。
女性陣でケーキの奪い合いが始まった時には、終末の到来を理解してしまったわけでして。
特にエリンちゃんが酷かった。何がどう酷かったかは口にするのも躊躇われるけど、ユウユウ閣下にコブラツイストを極めれる、って何がどうなってるの? 火事場のなんちゃらなの? マジで怖かったでしゅ。
「すげぇな、ここにはこんな食い物があるのか」
「軍の連中に渡しちまうのは惜しくなっちまうよな」
「あいつら、光素を取り出すことしか頭にねぇからなぁ」
モグモグ、と味わいながら喰らうおっさんトリオはそのようなことを口にした。
そういえば、H・モンゴー君もそのような事を言っていたなぁ。
うん? もしかしたら、機械人に光素料理を安定供給できるようになれば、この戦いの終結の糸口が手繰り寄せられるんじゃないか?
「なぁ、ルオウのおっさん」
「おっさんじゃねぇ。俺はまだ十八だ」
「マジかっ!?」
おっさんじゃなかった件について。しかも十代とか。
でもまぁ、俺にしてみれば十分おっさんなんですが。
俺って、見た目3歳。実年齢1歳とちょっとだし。
こうして考えると俺って超異常。鳴けてきた、ふきゅん。
他の二人も同じ年齢だという。
モヴァエはどう見ても三十代にしか見えないんですが。
「エリシュオン軍が侵略に走る理由ってなんだ?」
「んぐんぐ……理由は色々ある。母星がもう駄目とか、総統閣下の覚醒のために大量の光素が必要だとかな」
ルオウはホットドッグを口に放り込み、面倒臭そうな顔を見せた。
それに苦笑するズーイは肩を竦めながら言った。
「実は本当の理由は分からないのさ。特に末端の兵士はな」
「ただよぉ、どうにもおかしな部分はあるんだよなぁ」
「おっと、それ以上は口にするなよ」
モヴァエはルオウに口止めされて眉をしかめたが、それ以上を口にすることはなかった。
どうやら、口にしていい部分をしっかり管理しているもよう。
「ふきゅん、つまり、生きるために光素を奪っているわけじゃない?」
「いや、生きるためという側面もある。機械人は光素を必須エネルギーにしているのに自ら生産することはできないからな」
受付嬢によって運ばれてきた紅茶を啜りながら、ルオウはそれを肯定する。
「ルオウは光素を生産できるの?」
「俺たちは唯一、生身の肉体を持って生まれたエリシュオン人だからな」
「正確にはハーフだ。異星人との実験の結果さ」
つまり、純粋なエリシュオン人は機械人の方、というわけか。
「あいつらは肉体を持って生まれてこねぇのさ。精神生命体ってやつなんだが……意志を持っちまったのが不幸の始まり、とすら言われている」
「精神生命体のう。ということは、生まれて消えて、の短いサイクルを繰り返すだけの存在じゃったと?」
「ざっくり言ったら、そんな感じだな。それをどうにかしちまったのが総統閣下さ」
尚、どうやって解決したかは分からないらしい。
「う~ん、つまり、今のエリシュオン軍は困っているから総統閣下を目覚めさせて知恵を貸してもらおうとしている、ってことでいいのかな?」
「単純な考え方をしたら、その解釈でいいな」
「だが、何事も裏はある。特に軍人は裏で動く奴らが多いからな」
俺の結論に、ルオウは面倒臭そうに肯定した。
しかし、ズーイはもう一つの側面があるという。
だが、彼は明言を避けた。
「俺らも全てを知っているわけじゃない。そもそも、俺たちは敵同士だ。今はたまたま、こんな事があって同席しているがな」
「まぁ、それもそうなんだぜ。でも、こうして食を共にできているんだし、可能性はあってもいい、と認めてもいいんじゃないかな?」
「……そうだな。軍の石頭を柔らかくできりゃあ、戦争は終るかもな」
ルオウは俺の言葉に頷いて、しかし、次の瞬間には獰猛な笑みを浮かべた。
「ただし、それはそれ、これはこれだ」
「俺たちは元々、おまえに借りを返しに来たのさ」
「おうよっ! 勝ち逃げなんてさせねぇぜ」
そういえば、そんなことを言っていたな。
「俺だって勝ったとは思ってないから白黒付けたいところだ! でもなぁ……」
「そうだな、あれじゃあなぁ……」
応接間の隅っこ、そこには依然として膝を抱えている、情けナイトの姿がございましたとさ。




