31食目 深緑の悪魔
戦闘開始、初手は当然の権利のごとく深緑の悪魔から。
長い尾の先から放たれる破壊光線がルナティックへ向けて放たれた。
ルナティックはそれを巧みなサイドステップで回避する。
しかし、その流れ弾は一般クソザコ戦機に命中し、哀れにも爆発四散してしまう。
というか、さっさと逃げろ、っつってんだろうが、おぉん?
ここでようやく敵う相手ではない事を悟った戦機乗りたちが蜘蛛の子を撒き散らすかのように逃げ出してゆく。
中には要りもしない根性を示すかのように戦場に残る者もいるが、今回ばかりは完璧なフォローはできないだろうから、守れなかったらごめりんこ、だ。
ルナティックに攻撃を回避された深緑の悪魔は、滞空したまま無差別に破壊光線を撒き散らす。
その射程範囲は広く、しかも破壊光線も波打っていて回避しにくい。
「おっぶえっ!?」
俺は咄嗟に盾に魔法障壁を纏わせて防御する。
エルティナイトの後ろ側にいた戦機たちは無事であったが、防御範囲外の戦機たちは軒並み爆散して果てた。
恐るべき攻撃力を秘めた攻撃であるが、俺は尻尾ビームはただの牽制武器なのでは、と感じた。
その直感は正しいのだろう、無謀にも前へと出たブリギルトが縦に両断されて果てた。
深緑の悪魔が何をしたかと言えば、その両翼をはためかせただけである。
それだけで、鋭い真空波が生じて、青銅の機体を容易に両断してしまったのだ。
容易な相手ではない。
流石にヒュリティアが借りを作るだけのことはある。
とはいえ、これしきの事で尻込みするようでは上のランクに行っても通用しないであろうことは明白。
じゃけん、こいつはここで叩き潰さなくてはならない。
ヒュリティアも、そのつもりでいるもよう。
したがって、盾を構えつつ前進する。
ビュンビュンと飛んでくる破壊光線や真空波であるが、どうやら俺の盾と魔法障壁のコラボは突破できないもようだ。
この結果に深緑の悪魔は困惑しているようにも感じる。
でも、こっちは攻撃ができないんだよなぁ……。
とか考えていると、ヒュリティアのルナティックが狙撃を敢行。
それは見事、深緑の悪魔の脚部に命中する。
しかし、弾丸は甲高い音を立てて弾かれてしまった。
『……硬い!』
そして、俺の後ろにいる戦機たちも手にする銃器を構え発砲。
そのことごとくが弾かれる結果に終わった。
この結果を受けて、いよいよ戦場に留まっていた戦機たちは撤退を決意する。
結果、空港を守るのは俺とヒュリティアだけという非常事態に陥った。
ハッキリ言って、だいぴんちっ! である。
しかし、この危機的状況をなんとかするのはナイトの役目。
まぁ、見てなって。
そう考えていると先に行動してしまうのが、割とせっかちなヒュリティアである。
彼女はルナティックを降着形態にすると、そのまま背部大型スラスターを吹かしながら疑似ホバー移動を開始。
そのまま滑るかのように移動しつつ狙撃銃によるピンポイント攻撃を開始した。
どうやら、狙っているのは翼竜の目のもよう。
装甲の厚い部分は諦めて薄い個所を狙うようだ。
しかし、正確な狙いは相手に勘付かれ易い。
案の定、翼竜はヒュリティアの狙撃を僅かに身を反らすことにより回避する。
これが簡単にできる辺り、相当な技量を持っていることが理解できた。
俺も戦いに加わるべく、爆散して果てたブリギルトが持っていたライフルを手にして発砲。
がダメっ! 弾があらぬ方向へと旅立っていった。
「あれ? アイン君、ひょっとして銃を撃ったことがない?」
「あい~ん」
どうやらそうではないらしい。
彼が言うには、俺の性質に引っ張られてヘタクソになったとかなんとか。
ぷじゃけんなっ! こう見えても俺は割とやればできる子なんだぞ!
きっと、この銃が壊れているに違いないっ! やっぱり銃はダメな子だっ!
べしっ、と使えない銃を地面に叩き付けた俺は気を取り直し、他の得物を物色する。
すると爆散して果てた戦機が持っていたのであろう、投擲槍を発見した。
それをすかさず手にして翼竜目掛けてぶん投げる。
「おりゃっ!」
やはり、槍は明後日の方角へと飛んでいった。
「……ふきゅん」
もうこれには俺も鳴くしかない。
俺はきっと、重要な何かが欠けているに違いなかった。
それでも、ヒュリティアを援護すべく槍を投げ続ける。
内、一本が翼竜の翼を掠める。
その一撃は翼を欠けさせたではないか。
ひょっとしたら、翼はあまり耐久力がないのかもしれない。
その結果を目撃したヒュリティアのルナティックは、狙いを翼へと変更する。
その執拗な攻撃は遂に翼に風穴を生じさせた。
しかし、これに深緑の悪魔は激怒。
無差別に真空波を生じさせて滑走路をズタズタにしてしまう。
『これ以上の損害を被ると飛行機を出せなくなります! 早急な撃退を!』
管制からの指示により、被害が拡大していることが判明した。
ヒュリティアが小さく舌打ちする音がスピーカーから聞こえる。
強敵相手にそんなことまで気が回るかよ、と言ってやりたいところであるが、空港は町にとっての生命線みたいな役割があるから多少はね?
とここでヒュリティアがらしくない行動を取った。
降着状態を解除し地べたに足を付けての撃ち合いを開始したのだ。
おそらくは動き回りつつ攻撃を回避することによって生じる空港の被害を抑えるためであろう。
しかし、それではルナティックの持ち味を殺すことになる。
早急にカバーに入らなくては。
だが、一歩遅かった。
ルナティックが翼竜の真空波を脚部に受けて転倒、走行不能となってしまったのだ。
それでも、反撃する辺り相当な勝負根性をしていることが分かる。
て言うか、そんな考察している場合じゃないんだよなぁ。
俺はエルティナに盾を構えさせて、転倒したルナティックの正面に立つ。
「唯一無二の盾っ!」
俺の言葉に呼応するかのように、鉄の盾は青白い輝きに包まれた。
それは迫り来る真空波をことごとくシャットアウトせしめる。
これに、翼竜は僅かに動揺する仕草を見せたが、直ちに立ち直り激しい攻撃を仕掛けてくる。
だが、それは全て無駄だ、と断言しよう。
俺の後ろには守るべき人がいるのだ。
その時、【ナイト】は決して砕けない、砕きにくい鉄壁の守りを【得る】。
【エル】ティ【ナイト】なだけに。
「ぬわ~っ!? 防御が突破されたっ!」
「あいあ~ん!」
しょうもないギャグを考えていたからだ、とアイン君に怒られました。
なんだか、このやり取りを戦いの度におこなってたような気がしないでもない。
だが、それは記憶の彼方に眠っているのだろう。
今は戦いに集中しなくては。
だが、ルナティックが自走不能となってしまった今、ただ防御しているだけでは勝利することなどできない。
やはり、攻撃する方法を考えねばならないのだ。
それはきっと、俺の経験した戦いの中に眠っているに違いなかった。
だから、俺はそれを思い出さなくてはならない。
尚且つ、思い出すまでに残された時間はそうないだろう。
長引けば長引くほどに空港の損害は広まってゆく。
決断しなくては、いや、そうじゃない。
「考えてどうする、俺らしくもない」
考えるんじゃない、感じ取れ。
言葉を発せない者たちの心を感じ取れ。
俺が忘れていても、俺と共にあったこいつらなら覚えているはずだ。
エルティナイトに、背負っていたエリン剣を引き抜かせる。
そして、それを構えた。
右手にはエリン剣、左手には鉄の盾。正しきナイトの姿がここに顕現する。
一度、目を閉じ深呼吸。そして、肺に溜まった空気を一気に吐き出す。
吐き出した息は、俺に教えてくれた。
感じることの大切さを。
今まで聞こえてこなかった声が聞こえるようになる。
それは、戦いを告げる音でもあったのだ。




