313食目 死の予感 ~超集中力~
◆◆◆ エルドティーネ・ラ・ラングステン ◆◆◆
「エルティナっ、エルティナイトっ、いっくぞ~!」
『バックステッポゥっ!』
お願いします、カタパルトを使ってください。
非情なる殺戮者の下への特急券、バックステッポゥにて異次元ワープを果たす非常識な騎士。
それに続くのはオカーメ隊の面々。
まずは数を揃えての制圧が肝要、と判断した次第だ。
彼女たちがしっかり働けるよう、このふぁっきゅん指揮官機をどうにかしないといけない。
だが見て分かるようにガンテツ爺さんすら翻弄する凄腕のパイロットは苦戦必至であろう。
というかデスサーティーン改にガンテツ爺さん乗ってなくね?
「ガンテツ爺さんっ、大丈夫かっ!?」
『ぴよっ!』
「えっ? 火呼子しか居ないの?」
まさかの事態が発生。
機体に乗っていたのは火の精霊だけとかどうなってんの。
『……エル、ガンテツ爺さんはキアンカの制圧部隊を止めに行ったわ!』
「なんだって? もう入り込まれているのかっ」
幾らガンテツ爺さんが生身でも強いといっても、数が数だし、町の中で火属性魔法をぶっ放したらそれこそ大惨事だ。
話によればクロヒメさんも突入しているようだけど……クロヒメさんが乗っていたマネックが動いてんだよなぁ。
パイロット誰さ?
「おいぃ、そこのマネック……あえぇぇぇぇっ!? なんで、マーカスさんっ!?」
『おう、ちと借りてるぞっ!』
通信を試みると画面に映し出されたのはマーカスさんの厳つい顔でした。
昔は戦機に乗って戦っていたとは聞いていたが、なかなかの腕前で驚きですぞっ。
「丁度いいや、みんなは?」
『踏ん張ってくれていたが、機体が機体だからな。モヒカン野郎以外は中破してうちの工場行きだよっ!』
「取り敢えずは無事なんだなっ! だったら! 行くぞ、エルティナイトっ!」
『おう! ナイトの拳がプルプル唸るっ!』
取り敢えず、ダサい。
相手はナイトランカー五位、サーチスラキーラ。
しかも空を飛ぶとか忍者に違いない。
忍者は非常識の塊だから、こちらも非常識のならざるを得ないのだ。
であれば、俺は風の精霊に力を乞うだろうな。
「ミラージュ、頼めるかっ!?」
だが断る、されました。なんでー?
理由はエルティナイトが重過ぎるから、だそうで。
「おいぃ、エルティナイト、ダイエットしていま直ぐ痩せろ」
『ユウユウに頼めぇ、浮き輪取ってくるから』
「的になるだけだろっ。もう魔法障壁で足場作るからっ」
結局は、この方法が安定となりましたとさ。悲しいなぁ。
「行くぞ、おんどるるっ!」
半透明の魔法障壁の足場を作りながら、ぴょん、ぴょんと宙を蹴る鋼鉄の巨人の姿は紛う事なき珍現象。
それでもサーチスラキーラに動揺する気配は感じられない。
俺の魔法障壁の情報を持っているのか、それとも神経が図太過ぎるのか。
いずれにしても、やることはただ一つ。
ぶっ潰す、だ。
「エリン剣っ!」
相手は暢気に滞空している。
容易に真上を取れた。
エリン剣を振り上げる。
しかし、サーチスラキーラはかわそうともしない。
何かしらのトラブルでも発生しているのか。
関係ない。これで仕留める。
オカーメ隊、以下全機が出撃できた。
うちの戦力なら300機の敵が相手だってなんとかしてしまうだろう。
こいつさえ仕留めればっ!
しかし、エルティナイトの一撃は空を切った。
そこにいたはずのサーチスラキーラはおらず、代わりに落下してゆく物が。
それはエルティナイトの左腕だった。
認識した途端に、俺は左腕に激痛を感じる。
痛いってレベルじゃない、本当に腕が切断されたのではないか、という現実的な痛み。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
痛すぎて鋼鉄の大地を転げ回る。
まさか、これが人機一体化の弊害っ。
エルティナイトが感じているであろう痛みをも共有するという事。
つまり、エルティナイトの死は、俺の死……!
『オーバードライブ完了……ターゲット確認。排除開始』
抑揚のない声と、明確なる殺意が叩き付けられる。
エルティナイトの左腕を容易に切断する赤と黒の機体に、俺は濃厚な死を見た。
それを成し遂げるための剣はまさかの手刀。それに纏わり付くドス黒い輝きは、なんの冗談か純然なる殺意。
「ぐっ……! 死ねるかっ!」
左腕を押さえて立ち上がる。
そこに腕はあるのに触れても何も感じないという恐怖。
これが、死を突きつけられているという感覚。
どうしようもなく怖い。
でも―――。
「あい~んっ!」
「大丈夫だっ、俺は負けないっ、負けられないんだっ!」
約束しちまったからな。クロちゃんと。
左腕をやられたくらいで何だ! 俺はまだ生きているっ!
『……エルっ! 離れてっ!』
「逆だっ! 近付いて叩き潰すっ!」
俺の勇気は、この程度じゃ切り落とせないぞっ。
『オカーメ隊、キアンカ突入部隊十五名、運搬完了しましたっ! 援護に向かいます!』
「フロッゲールって複座式だったか。援護はいいから周囲の敵をっ! こっちに近づけさせないでくれっ!」
『オカメインコ、任務了解! 作戦行動に移ります!』
フレアさん有能。制圧部隊の事も考えていてくれたようだ。
これなら、ひょっとするとなんとかなるかも。
俺たちはサーチスラキーラに専念すればいい。
だが、専念するといってもこいつは早過ぎる。
空をビュンビュン飛び回る上に、魔法障壁の蜘蛛の巣を容易に切り裂く剣を持っていた。
深緑の悪魔を捕らえた方法は通用しない。
完全に実力でのぶつかり合い。
しかし、相性は最悪。
鉄壁の防御力で相手を圧倒するエルティナイト。しかし、その腕を簡単に切り落としてしまう素早い相手は、これまで相対したことが無い。
正しく、正念場。
こいつを乗り越えることができなければ、俺たちに明日は無い。
「エルティナイト……怖いな」
『あぁ、だが、同時にワクワクしている』
「頭がおかしくなって死ぬぞ?」
『おまえだってそうなんじゃないのか? ちんちくりぃん』
「へへっ……そうかもな」
なんだか、気分は戦闘民族。
だから俺は戦意が向上するだろうな。
相手のすれ違いざまの手刀が来る、そう直感で感じた。
盾で防ぐか、それとも―――。
頭で考えるよりも先に身体が動いていた。
選択したのはエリン剣。
その漆黒の塊は、死の剣をことごとく弾いたではないか。
「頭で考えるな……てか?」
『あんまりにも大ピンチで思考が機能していない感。おまえ、直感に頼ってもいいぞ』
「そうするんだぜ」
でも、妙に心は落ち付いている。
雑音すら聞こえないほど静かに感じる。
聞こえているのはサーチスラキーラの飛行音。
そして、自分の心臓の鼓動。
妙に周囲の流れが遅く感じる。
だから目を閉じた。
それは一瞬だったはず。
でも、目を開けると随分と久しぶりに目を開いた感覚がして――――。
「……見える」
エルティナイトの胸を僅かに逸らす。
サーチスラキーラの手刀は空を切った。
これに明らかな動揺を見せる赤と黒の機体。
動揺は極々僅かだが、俺には解った。
返事はない、ただ俺を殺すことに集中しているようだ。
であれば、俺もそうしよう。
サーチスラキーラが手にした大型の銃を撃ってきた。
でも、それすらもゆっくりと動いているかのようで。
―――そう、それでいい。上手く弾いて。力は入れなくていい。
声が聞こえる。
誰の声かは分からない。
でも、とても安心するし、心が落ち着く。
だから、行動も淀みなく行われて。
迫りくる黒い輝きはエリン剣によって切り払われて霧散する。
今の俺に、これらは脅威足り得ない。
左腕の痛みすら、どこかへと追いやられてしまったかのようで。
これが集中の極致とでもいうのだろうか。
―――賢しい攻撃が来る。
分ってる。
大丈夫、何も問題はない。
エリン剣を前でぶん回す。
高速回転するそれは勢い衰えることなく。
やがて漆黒の剣は盾のように変化し、エルティナイトの正面をガードした。
ことごとく弾かれる細い暗黒の輝き。
この不思議な物体は超破壊力の光線を受けてもビクともしないのだ。
同時に疑心が生まれる。
エリンちゃんは、どうやってこれを加工したのか。
幾ら彼女の中に精霊王がいたとしても、精霊王は力を失っている状態だ。
彼女が力を貸したとしても、剣の形に加工するなど生半可な力では叶わないだろう。
―――集中するんだ、エルドティーネ。
おっと、いけない。
余計な事を考えたら、超集中モードが切れてしまう。
今はただ、あいつの撃破だけを考えよう。
大丈夫、今の俺ならそれも可能だ。
「魔法障壁っ」
周囲に大量の足場を作る。
エルティナイトに空中戦ができないなんて思わないことだ。
こいつは単に重くて飛べないだけ。
おまえに、エルティナイトの空中戦というものを見せてやる。
激しく宙を舞うサーチスラキーラ。
俺は確信する。
決着の瞬間は近い、と。




