309食目 さらば、ドワルイン王国
翌日、フルベルト王の指定ポイントへと向かう。
そこには五隻もの戦艦が待機していた。
その中でもひときわ大きなダークグリーンの船に接舷する。
マックロイ大臣が説明した旗艦【ドルストイ】で間違いないだろうから。
その甲板に複数の人物の姿。
そこにはフルベルト王とマックロイ大臣の姿もあった。
なので、急ぎ彼らの下へと馳せ参じる。
「来れ、とんぺーっ」
「おんっ」
俺の呼びかけに応じて、白き狼が床からぴょこんと飛び出してくる。
この登場方法には幾つかのバリエーションがあり、特にH・モンゴー君のお腹から飛び出してきた時には、流石の俺も「ふきゅん」と吃驚してしまった。
「よし、リューテ皇女、ユクゾっ」
「うん」
幼女二人が乗ってもビクともしないとんぺーはアストロイの艦橋を飛び出した。
そして、あっという間にアストロイの艦橋へと飛び出し、そのまま宙を駆けてドルストイの甲板へと到着。
常識なんて通用しないわんこの姿に、護衛役の黒服たちは。ざわ……ざわ……と戦慄したとかしないとか。
「お待たせなんだぜ」
「お待ちしておりました。やはり、その船をものにいたしましたか」
「知ってたのか」
「えぇ、贈り物の一つでございます」
贈り物、とは言ったがマックロイ大臣の表情は驚きのそれに近い。
流石に起動は無理ではないかと思っていたようだ。
「それではフルベルト王陛下」
「うん。エルティナ殿、これを」
フルベルト王は一振りの見事な剣を手渡してきた。
豪華絢爛な意匠が施された鞘と対になる剣は分類的にはショートソードに当たるだろうか。
だが、俺が片手で持てるほどに軽い。
「ふきゅん、これって……」
「それは対人用の光素剣です」
「おおう」
フルベルト王が言うように、それは光素剣であった。
柄に光素を送り込むと美しい黄金の刀身が姿を現す。
それは、エネルギー体とは思えぬほどに煌めき、万人に黄金の剣と思わせるだろう。
「こ、これは想像以上ですな」
「うん。まさか、これほどとはね」
一番びっくりしているのが、渡した本人たちという。
異様なほど軽い剣はまさに俺向きと言えよう。
でも一番は、こいつを振るうような機会が無い事なのだが。
「それは護身用という意味の他にも、我が国との同盟の証でもあります」
「そうなんじゃないかなぁ、と思ってたんだぜ」
「ほら、エルちゃん。ここにドワルイン王国の紋章が」
「ほんとだ」
リューテ皇女の言う通り、光素剣の鍔の部分と鞘には、ドワルイン王国の紋章である鷹のマークが刻まれていた。
「そして、リューテ皇女殿下にはこれを」
「うん、銃だね」
「光素銃です。こちらにも同盟の証……いえ、これはどちらかというと」
そこまで言ってフルベルト王は顔を火照らせてモジモジし始めたではないか。
「分かってるよ。フルベルト君っ」
「わわっ」
もじもじフルベルト王に抱き付いたリューテ皇女は、男の落とし方を理解していた?
いや、これはヤーダンママからの指示の説が濃厚っ!
恐るべし、悪女の手腕っ! これは鬼も裸足で逃げ出すっ!
「必ず、戻ってくるから」
「いえ、迎えに行きます。夫となる男なのですから、それくらいはさせてください」
「うん、待ってる」
お子様の会話とは思えないようなやり取りの後、名残惜しそうに二人は離れた。
どうやら、気持ちは通じ合っているようで何より。
結構というか、かなーり政治的な婚約と見られているから、これは素直に嬉しい部分である。
マックロイ大臣もこの辺りは救われているもようで、素直な気持ちで二人を祝福しているもよう。
この人も王族のドロドロした関係を見続けていたのだろう。
苦労している感が物凄い。
「残る贈り物は、我が王国から兵を三十名ほど。いずれも一騎当千の兵たちです」
黒服の後ろに控えていた兵士たちが一斉に敬礼をおこなう。
いやいや、三十名って……うちに戦争でも行わせる気なのだろうか。
まぁ、ぶっちゃければ、それよりも酷いことになりそうだが。
ミリタリル神聖国へ行った後は、本格的にエンペラル帝国奪還作戦が決行されるだろうし、何よりもエリシュオン惑星軍が大人しいのは不気味以外の何ものでもない。
力を溜めていると考えてほぼ間違いないだろう。
「オカーメ隊、隊長【フレア・ケルラック】と申しますっ」
「ふきゅん、どっかで見たような……あっ!」
「アリーナでは、オカメインコという名前で参加しておりました」
短い金髪に緑色のメッシュを入れたボーイッシュな女性は、チャンピオンシップアリーナでぽっちゃり姉貴を破った、あのオカメインコ選手であった。
まさか、軍人だったとは思わなんだ、という気持ちと同時に、軍人であればこその手腕であったと妙に納得する。
鍛えているだけあって、スラリとした機能美の彼女は長身であり、優に180センチメートルはありそうだ。
そんな彼女は片膝を突いて俺に握手を求めてきたので、それに応える。
顔のパーツは結構、きつめだが笑顔がとってもキュート。
釣り目がちな大きな目には薄いエメラルド色の瞳。
ヒュリティアのは濃いので区別は容易だろうか。
ふっくらとした唇が超セクシー。
タイミングを見計らってマックロイ大臣が口を開く。
「我々も軍を再編成し、来るべき時に備えます」
「それは心強いんだぜ」
「当然のことです。フルベルト王陛下、そしてリューテ皇女殿下の婚約が成り、両国の戦争が終わったことは新たなる時代の幕開けを意味します。何よりも、ドワルイン王国とエンペラル帝国が一つになることを民は望んでいるのです」
長かった戦争で両国との交友は百年以上も断絶していた。
特に国境付近の住民たちは悲惨な境遇化に置かれていただろう。
それこそ、離れ離れに生きる家族も少なくない数だったとか。
「それじゃあ、俺たちもそれまでに、やるべきことをやっておかないとな」
「うん、憂いがあっては戦いに集中できないもんね」
「リューテ皇女は積極的に戦場に出ちゃダメだからっ」
「え~?」
ちょっと戦機に乗れるようになったからって、調子に乗ってはいけません。
本来は生きるか死ぬかの超危険な状況だって、それ一番言われてっから。
リューテ皇女は、うちの連中が強過ぎるから、感覚が麻痺している可能性が極めて高かった。
これは近いうちに感覚を修正してもらわないといけないだろう。
「では最後に支度金として十億ゴドルを用意しました」
「ふきゅんっ、十億っ!?」
でも、借金はそれ以上なので、要は兵士たちのために使ってくださいな、という事なのだろう。
それにアストロイの維持費も結構かかりそうなので、借金の返済には割り当てられそうにもない。
これ、借金全額返済できるんですかねぇ? 不安になってきた。
「では、リューネちゃんをよろしくお願いします」
「任されたんだぜ、フルベルト王」
フルベルト王と固い握手を交わす。
最後にもう一度、フルベルト王とリューテ皇女は抱き合い、別れを惜しみつつも離れる。
とんぺーの背に乗って再び宙を駆ける。
あっという間にアストロイの甲板へと戻るとそこには精霊戦隊の面々が。
「どうやら、無事に終わったようじゃの」
「うん、これでドワルイン王国でやることは終ったんだぜ」
ガンテツ爺さんの優しい笑顔は、この国でやることの全てが終わったことを実感させてくれた。
オカーメ隊はアストロイ所属となり、ある意味でリューテ皇女の親衛隊的なポジションに落ち着いた。
こちらとしても、割とやんちゃなリューテ皇女が暴走しないように目を光らせてくれるので大助かりだ。
ヤーダン主任もやることが増え過ぎて大変なので、渡りに船であっただろうか。
オカーメ隊が持ち込んだ戦機はスチールクラスの【フロッゲール】。
あのにっくき四ツ目蛙の発展機だ。
基本的なデザインは変わっていないようで、その代わりに出力と運動性が15%ほど向上しているとのこと。
とはいえ、持ち込まれたのは兵士30名に対して15機。
これは、交代制で滞りなく運用するための処置であろうことが理解できる。
なので、急を要する場合はアインリールたちを運用してもらうことにしよう。
離れ行くドグランド。
色々とあったし、結構長い事滞在しただけあって名残惜しい。
「町が小さくなってゆくんだぜ」
アストロイの後部甲板にて感慨に更ける。
隣にはヒュリティアとザインちゃん、レギガンター君、そしてリューテ皇女の姿も。
「……寂しい?」
「ふきゅん。そりゃあ、友達と別れるのはな」
「皆、良い子たちだったよね」
「きっと、また、あえりゅでごじゃりゅっ」
「それまでに、しっかりと強くなんねぇとな」
「そうだね。君たちの栄光はこれからだよ」
爽やかな風が吹き抜けて、俺の長い髪を流してゆく。
そう、俺たちの栄光の道はこれからなのだ。
「……」
「……」
「おいぃ、なんでここにホワイトロードさんがいらっしゃるんですかねぇ?」
「そりゃあ、こっちの方が刺激的だろうと思ってね」
いつの間にか紛れ込んでいた異物、それはホワイトロードことレオンさんだった。
「それに、今のあそこには聖王がいるから居づらいんだよ」
「ふきゅん? キングと何かあったのか?」
「ま、色々と、ね? 暫くここで厄介になるよ」
「……強引ね。でも、その間はこき使ってやるから、しっかり働く事ね」
「もちろんですとも、レディ」
こうして、俺たちはキアンカへと向かう。
きっとそこで精霊王は俺にコンタクトを取ってくるだろう。
彼女は果たして、どのような想いでアースラと対峙したのか。
そして、その過去とは。
希望と不安を胸に、精霊戦隊はドワルイン王国を後にしたのであった。




