304食目 戦争が終わった日
俺たちが招かれた部屋は、マックロイ大臣が普段仕事に利用している部屋であった。
広さ的に六人くらい余裕で受け入れる部屋にはガラステーブルとブラウンのソファーが二つ対面式に据えられており、後はご立派な机と壁を覆い尽くす本棚の群れ。本棚には読み過ぎて擦り切れている書物もちらほらと。
マックロイ大臣は意外と勉強家であるもよう。
「おかけ下さい」
俺とヒュリティア、ガンテツ爺さんを部屋に招き入れるマックロイ大臣。
別に用意していたのであろう、一人用のソファーが二つガラステーブルの両サイドに設置されており、そこにフルベルト王とリューテ皇女が向かい合うように座っている。
ヤーダン主任はリューテ皇女寄りの位置に座っていた。
俺たちは彼女と対面になるソファーへと座る。
真ん中にガンテツ爺さん。リューテ皇女側に俺。反対にヒュリティアだ。
何かあった際は、情け容赦のない超常現象を引き起こすぜっ。
まぁ、何も無いとは思うが。
俺たちが腰を落ち着かせるのを確認したマックロイ大臣もソファーへと腰かける。
位置はヤーダン主任の隣。でも、流石にピッタリと付くのは遠慮しているもよう。
フルベルト王の傍に陣取った、が正しいか。
「よくおいでくださいました。わざわざ個室へ招いたのは他でもありません」
「わしらに協力を要請する、といったところかの?」
「話が早くて助かります。戦機協会との関係も悪化した今、頼れるのは自国の戦力のみ。体面上は戦機協会の庇護下にあるとはいえ、彼らは万が一の時に素早くは動いてくれないでしょう」
ガンテツ爺さんの読み、というかここに招かれた時点でこれは察していた。
「でも、俺たちも世界各地を飛び回ってるんだぜ」
「それは心得ております。ですが、強力無比な戦機を有するチームがドワルイン王国と同盟を結んでいる、という情報は強い抑止力を産むでしょう。なんせ、あの異形との戦いは中継を通して全世界に届けられて居りますゆえ」
「あの戦いが? まじかー」
絶対に頭がおかしくなって死んだ奴がいそうです。はい。
「……それで、どうするの? エル」
「どうするも、こうするもないんだぜ。ここで断ったら何もかもご破算になっちまう」
「それではっ」
「うん、精霊戦隊はドワルイン王国との同盟を承認するんだぜ」
「あり難いっ。それではフルベルト王」
「分かった」
マックロイ大臣は二枚の契約書を用意しガラステーブルに置く。
一枚はフルベルト王に、そしてもう一枚は俺に。
誰が精霊戦隊のリーダーか、はヤーダン主任に聞いたらしい。
羽ペンと黒インクを用いて契約書に名前を記入。その後は朱肉にて指紋を押し付ける。
だが、この俺はそんなちまっとしたことはしない。
豪快に朱肉を手に塗ったくって、バシンと手形を付けてやった。どやっ。
「紅葉じゃな」
「……ちっさ」
俺のおてては小さいままでした。早く、大きくなりたいねんな。
「はい、これにて同盟は成りました。この件はテレビ放送で大々的に公表するつもりです」
「タイミング的にはドワルイン王国とエンペラル帝国との戦争終結宣言でかの?」
「そのつもりでおります。できれば式典に出席していただきたく」
それはエルティナイトを式典に主席させるという事か。
抑止力だから当然であるが……あいつが大人しくしてくれるかどうかは未知数なんだよなぁ。
「どのくらい掛かりそう?」
「一週間、以内には」
「分かったんだぜ」
一週間もあれば出立の準備もできる。
それにアースラの小麦もたんまりと貰ったし、それまでは小麦を使った料理でも研究しつつ過ごさせていただくとしよう。
「では、リューテ皇女の処遇の件ですが」
「僕は精霊戦隊と行動を共にするよ」
彼女の発言にマックロイ大臣はやはりか、という顔を見せた。
フルベルト王も、どうやら予想自体はしていたもよう。
「エンペラル帝国を取り戻すまでは、安全な場所でぬくぬくなんてしていられない。民たちは国を取り戻そうと頑張ってくれているんだもの」
まだ幼いとも言えるリューテ皇女。しかし彼女は既に皇帝としての自覚を持ち始めていたようで、民のために身体を張ると申し出たではないか。
「そうだね。リューテ皇女のいうとおりだ。マックロイ大臣、私たちができることは何かあるか?」
「幾つか」
「よろしい。では、よしなに」
「ははっ」
こうして、精霊戦隊はドワルイン王国と同盟を結び、ドワルイン王国とエンペラル帝国との戦争終結宣言、及び和平式典へと出席。
案の定、エルティナイトが調子ぶっこいて会場をざわつかせた。
だが俺は謝らない。珍獣だから。ふきゅん。
多少のトラブルはあったものの、式典は無事に終了。
戦争終結の影には俺たちの活躍があった、という謎のキャスティングがなされており、マックロイ大臣にしてやられた感がある。
だいたい内容が合っているという事は、ヤーダン主任も協力しているのであろう。
完全に逃げ道を塞がれた感じではあるが、俺たちはその塞がれた壁をぶっ壊して逃げるのであまり問題はない事が発覚した。
壊れるなぁ、常識。
だが、何よりも世間を騒がせたのはフルベルト王とリューテ皇女の婚約だ。
そもそもリューテ皇女は元々、エンペラル帝国の第二皇子として認知されていたのに、いきなり実は女の子でした、と公表されればビックリもしようというもの。
この両者の間には絶対にロマンスがあったぞ的な憶測が飛び交った上に、大変に妄想が捗るわぁな状態になって記者どもが超エキサイティング。
酷いドタバタ劇になしましたとさ。
ちなみに、リューテ皇女は純白のドレス姿で式典に参加。ビックリするほどに綺麗で、幼いのに妙な色気があった。絶対にヤーダン主任の影響。
アレ以降、彼女はこれでもかってくらい、女の超パワーを撒き散らしていてもう大変。
その色香だけで野郎どもが失神するレベル。つまりエロ過ぎ問題。
流石に式典の表舞台には立たず、陰でこっそりと様子を見守っていた。
今の彼女を中継で流したら、事故レベルじゃ済まないぞっ。
尚、戦機協会のお偉いどもは参加しなかったもよう。
このことから、金だけの関係であったのは明白。あるいは、アリーナの運営との繋がりが濃厚説か。
連中、軒並み自殺ぶっこいたらしいからな。無責任にもほどがある。
残ったのは彼らに不満を抱きながらも渋々従っていた連中で、目の上のたん瘤が無くなった、という事で健全でエキサイティングなアリーナを取り戻す、と意気込んでいるもよう。
この分なら、ドワルイン王国が立ち直るのも早いかも。主な収益源だしな。
取り敢えずはドワルイン王国は大丈夫、といったところで新たなる問題が。
それは言うまでも無く戦機協会のトップ連中だ。
いち戦機チームに過ぎない精霊戦隊がドワルイン王国からの指名で同盟を結ぶという大珍事に、彼らが動かないわけでもなく。
早速、我がチームには規約違反がある、という理由で解散命令が出された。
従わない場合は、戦機乗りの資格の剥奪も辞さない、とのこと。
「こいつら、馬鹿だろ」
「……うん、馬鹿ね」
クロナミのリビングにて大いに呆れる俺たち。
こんな脅しに屈するようなチームが国一つと同盟を結ぶとか思っているのか。
どうやら、自分たちの権力はいまだ絶大だ、と勘違いしているもよう。
そもそもが、大国同士の戦争が終結した時点で、パワーバランスが崩壊してしまっている事に気付いていないのか。
もしくは、それに気付いて焦っているか、のどちらかか。
無論、こんな要求は無視だ。今更、戦機乗りの資格を剥奪されたところで痛くも痒くもない。
俺は真のナイトのなんたるかを教わり、そして悟ったのだ。
であれば、何を恐れる必要があろうか。
「後ろ盾を失えばどうなるか、を教えたいんじゃろうなぁ」
「こいつら、戦機乗りの信用を失ったらどうなるか、って考えたことがないのか?」
ガンテツ爺さんも呆れ果てている。
この命令を出した時点で、俺たちは戦機協会を見限る決定を下していた。
ルフベル支部長にもこの件は伝えており、彼もまさかの、キアンカ戦機協会の独立を宣言した、という。
割と無茶苦茶な事をしでかしているが、これに俺は大いに勇気付けられた。
きちんと俺たちを見てくれている者はいるのだ。
「うふふ、面白くなってきたわね」
「ユウユウ閣下、面白いかどうかは別にして、もう退けないところにまで来たのは理解できてるんだぜ」
ドワルイン王国での活動が終わったところで、残す四大大国はミリタリル神聖国のみとなった。
これからは、戦機協会の名は使えないので高い金を払っての入国となろうか。
借金がまた増えるなぁ。誰か助けてプリーズ。
「さて、どうしたもんかな」
「お~、いたいた。おまえがエルの娘か?」
「ふきゅん?」
唐突に少年の声が聞こえた。
そちらを振り向けば獅子のような少年の姿が。
「……あ、あんたっ……!?」
「よう、ヒュリティア。久しぶりだな」
驚愕するヒュリティアは、それ以降の言葉が出ない。
「いや、遠いな。ミリタリル神聖国からはよ」
豪快に笑う獅子のような雰囲気の彼。
果たして、この少年はいったい何者であろうか。
―――いや、俺は、母の記憶はこの少年を知っている!
運命は激しい嵐を伴い、導かれし者たちを引き寄せてゆく。
それはきっと、ミリタリル神聖国にへと帰結しているに違いなかった。




