303食目 円卓の告白
議事堂に入ると黒服の男に案内を受けることになった。
どうやら、事前に話が付いていたようである。というか、そうじゃなければ困る。
「エルティナ様でございますね。こちらへ」
「ふきゅん」
議事堂内は国の中枢の割には小奇麗であった。
ただの職場だから、という理由もあるだろう。
でも、その調度品の一つ一つは良く吟味されていて、国の顔としての役割は十分に果たしているように感じられる。
そして、再生に失敗した壁の一部を発見したので観葉植物で隠し、こっそり証拠隠滅しておいた。
やっぱ、完全再生は難しいんやなって。
まぁ、小さな失敗だから平気でしょ。
「こちらです」
赤い絨毯の通路を進み、とある二枚扉の前にまで案内を受けた俺たち。
黒服の男が扉を開ける、とそこには無数の男女の姿。
いずれも一癖も二癖もありそうな曲者ばかりだと感じた。
大きな円卓の奥、そこにフルベルト王子とリューテ皇子の姿。
その彼女の隣にはヤーダン主任。
リューテ皇子の服装は男の物だが、性別はまだ戻していないもよう。
ヒュリティアが戻そうとしたが、ヤーダン主任が待ったを掛けたらしい。
彼女らは、パッと見で人質のようにも見えたが、きっとそういう意図もあるのだろう。
だが、彼女らをそのように扱うのであれば、こちらもそれ相応の態度で臨ませていただきたく。
「そこの席におかけください」
集まった者たちの中で、最も腹黒そうな中年のおっさんがそう指示した。
だが、妙に覇気がないようにも見える。
席に着くと簡単な紹介が始まった。
この覇気がないおっさんは実質上の国のトップとなったマックロイ大臣だ。
またウィゼン王子を王にと推していた人物でもある。
彼が推していたウィゼン王子が死に、そしてフルベルト王子を推していた穏健派のマキシオン防衛大臣が死んだ今、言い方は悪いが国の面倒ごとが一気に彼に舞い込んできた形となっている。
覇気がないのは単純に、ウィゼン王子を失った失意と面倒ごとによる疲労であろう。
あとは戦機協会から複数のお偉いさん。
ぶっちゃけ、印象に残らない。
そんな有象無象よりも気になる男が一人。
世紀末覇王みたいなルックスの厳つい大男が、筋肉ムキムキの腕を組んでこちらを見ていた。
彼は金髪碧眼で髪を短く刈り上げている。ごっついが割と美形。
でも、どこかで見たような不思議な感じがする。どこだったかなぁ。思い出せない。
そんな彼は、幾つもの死線を超えてきたかのような凄みを持っていた。
きっと、そうなのだろうと感じさせるものを世紀末覇王様は垂れ流しておられた。
遠慮なく放たれる覇気は、周囲のおっさんどもを畏怖でガチガチに強張らせている。
でも、俺だって酷い死線を幾度となく超えてきているので、この程度の覇気なら春のそよかぜ程度にしか感じない。
「ふっ……なるほど」
急に圧が感じられなくなった。どうやら、俺たちを試していたようだ。
「聖王、ほどほどにしてくれたまえよ。折角のルーキーがダメになってしまったらどうするのかね?」
「ダメになるのは貴様らであろう。あれは、この程度でダメになるような猛者ではない」
にやり、と世紀末覇王様がほくそ笑んだ。
どうやら興味を持たれたらしい。
いや、ちょっと待て。
この戦機よりも生身で戦った方が強そうなおっさんが聖王っ!?
戦機乗りたちの頂点が、ここに居るというのかっ。
「聖王、悪い癖が出てますよ」
「あぁ、すまん。活きが良いのを見ると、つい……な」
「気持ちはわかりますよ。銀閃を従える者がどのような者か見極めようという、ね」
聖王の隣に金髪碧眼の女性の姿。
とても綺麗で長い髪を後ろで結んで纏めている。
見た感じ二十代後半か、それとも三十代前半くらいか。
知性的で白いスーツが良くにあっている。
「聖女王、聖王の手綱はしっかりと握っていてくれたまえ」
「夫はこういう人間です。手綱を握ったからといって、どうこうなるかは、あなた方が一番知っているでしょう?」
「ぐむっ」
まさかの奥さんだった。
年齢はどうなってんだぁ? 年齢詐称は重罪だぞぉ!
「茶番はそろそろいいかの? うちのエルティナは、こういう話し合いにすぐ飽きるのでの」
「こ、こほん。それでは本日はお集まりいただき―――」
話し合いは始まった。
内容はこの大騒動の真相解明、責任問題、等々。
ただ、これらは次なる真の目的の前菜に過ぎない。
マックロイ大臣の最も手に入れたい結果はこれらではないのだ。
「では、此度の騒動の真犯人はマキシオン防衛大臣ということで」
「意義はありません。こちらとしてはゴッズクラス戦機の代金を弁償していただけるのであればね」
お? ラッキー。弁償代は回避されたっ! これで勝つるっ!
どうやら、G・シェイカーの損失はドワルイン王国側が悪い、という形で決着したもよう。
「こちらも貴重な戦機とパイロットを失いましたので……」
「えぇ、心得ております。支援金を割り増しましょう」
「お心遣い感謝します。これで亡くなったグリオネ嬢も浮かばれるでしょう」
何言ってんだ、この河童おデヴ。
喜んでいるのは、おまえだるるぉ。
なんともまぁ、分かりやすい小物だ。
しかも、これが戦機乗りたちが所属する組織のトップだという。
大丈夫? 戦機協会? 今からでもガンテツ爺さんとトップを入れ替える?
……あ、ダメだ。そんなことしたら、大半の戦機乗りが白目痙攣状態になる。ガンテツ爺さんは自他に厳しいから。
うん、この件は無かったことにっ!
「引き続き、次の議題を……ドワルイン王国の王位継承問題です。これを戦機協会に認めていただきたく」
「フルベルト王子の件ですな。無論、我々に異存はございません」
「感謝します。それでは今より、フルベルト王子は王として即位いたします」
え? これで終わり? あっさりしてんな、おい。
「即位式典は後日改めまして……では、最後の議題です」
一瞬にして空気が変わった。
フルベルト王子、いや、フルベルト王にも緊張が走る。
のほほんとしているのは隣のリューテ皇子だけだ。
「こちらにいらっしゃるのは、エンペラル帝国帝位継承権一位のリューテ皇子でございます」
これには事情を知らない者たちが、ギョッとした表情を見せた。
でも、聖王は表情を一切変えない。
胆が据わっているのか、それとも事情が呑み込めていないのか。
リューテ皇子は軽く頷く事によって、それを肯定とした。
「そして、驚くべき事実をもう一つ。リューテ皇子は……女性です」
「なっ!?」
どよめく円卓。これは事件もいいところ。
まさか、いやしかし、という話し声がドワルイン王国、戦機協会、両サイドから聞こえてきた。
事情の大部分を知っている俺たちは、であるか、との心境下に置かれている。
「それは本当かね?」
「えぇ、侍女たちに調べさせましたところ。ありませんでした」
これに沸き立つのはドワルイン王国サイド。
対する戦機協会サイドは顔面蒼白な者が結構多い。
それもそうだろう。
莫大な利益を生み出す戦争が終結するかもしれないのだ。
死の商人と化していた戦機協会側からしてみれば看過できない事態である。
「そして、フルベルト王はリューテ皇女に……」
「それは私が言います」
マックロイ大臣を制し、フルベルト王は立ち上がった。
「私はリューネちゃんが好きだっ! 欲しいっ!」
迫真の集中線と共に言い放ったシンプル過ぎる告白。誇らしくないの?
分りやす過ぎる愛の告白に、大人たちは口をパクパクさせるだけだ。
これに対し、世紀末覇王様はくつくつと、やがてがっはっはっ、と大笑い。
「おまえの負けだな。ムナーク会長」
「ぐぬっ……! しかし、リューテ皇女の返答がまだですぞ!」
これに対し、リューネちゃんことリューテ皇子、いやもう皇女でもなんでもいいや、は同じく立ち上がり告げた。
「うん、いいよ。お嫁さんになってあげるっ」
「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
まさかの了承であった。
これにフルベルト王は咆える。
ヤーダン主任は、というと目を閉じて頷いていた。
どうやら、リューテ皇女の意思を尊重するもよう。
そしてマックロイ大臣はホッと胸を撫で下ろしていた。
これは当然の事。
現在のドワルイン王国の命運は彼の肩に圧し掛かっている。
権力争いとか、そんなことを言っている場合ではないのだ。
国が亡べば権力もくそもあった物ではない。それくらいの事は理解しているのだろう。
であれば任せても問題はない、と俺の勘が告げている。
「では、二人の婚約を認めていただきたく」
にやり、と今度はマックロイ大臣がムナーク会長に意趣返しをおこなう。
寧ろ、大打撃は戦機協会側だったという。
肉を切らせて骨を断つとか、政治の世界は怖いねんな。
「ぐぬぬぬぬぬ……み、認めます」
「ありがとうございます。これで、ドワルイン王国とエンペラル帝国の戦争は終結という事でよろしいでしょうか? フルベルト王、リューテ皇女」
完全勝利、マックロイ大臣はそう確信したであろう。
「私に異存はない」
「僕も喧嘩はもういいと思うよ」
「了解いたしました。全世界に戦争の終結を宣言いたします。君、直ぐに手筈を」
黒服の男ははち切れんばかりの笑顔で「ははっ!」と一礼し、部屋を早足で出て行った。
誰だって戦争は嫌だって、それ一番言われているっぽい。
でも、その戦争を商売に使っていたヤツはそうではないようで。
「では、これにて円卓会議は終了とさせていただきます」
全てをやり切った、そんな表情のマックロイ大臣。
しかし、彼の戦いはこれからが本番なのだ。
そんな彼に、俺たちが個室に呼ばれるのは至極当然の成り行きであった。




