301食目 黄金の大地
破壊と再生の限りを尽くした俺は暫くの間、深い眠りの中にあったという。
目を覚ましたら、なんと三日後。たまげるなぁ。
その間に、色々とあったようで。
クロナミのベッドの上で久々に目を覚ました俺に、突撃してくるのは黒エルフの彼女、かと思いきやH・モンゴー君という罠。
「我が主ぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「おいぃ、空気読め」
「もきゅ~!」
そしてモフモフのおまけ付きという。別にいいんだけども。
モフモフは柔らかいなぁ。もふもふ。
「……抱き付いてほしい?」
「いや、抱き付くからいい」
「……その分だと衰弱しているわけじゃないようね。でも三日間も寝ていたから、桃先生を口にしておきなさいな」
早速、桃先生を召喚。しゃくりと瑞々しい果実を口にする。
口いっぱいに広がるクリーム色に近い実の味は爽やかさと鮮烈な甘さとで俺の乾いた心を潤してくれた。
「……それじゃ、エルが寝ていた三日間の事、話すわね」
「頼むんだぜ」
人々の暗黒の欲望に染められし大地の精霊アースラは、レフティコーチによって討たれた。
やはり、アレが核だったようで、それ以降は復活の気配を見せなかったそうだ。
そして、ドグランドの町の事情だが、やはり完全に再生とはいかなかったようで。
「やっぱ食料が再生しなかったか」
「……理解していたの?」
「土の枝もしょせんは全てを喰らう者だし。一度口にした食べ物は吐き出さないんだぜ」
そう、エネルギーは放出するけど、食べ物だけは決して出さない、という筋金入りの食いしん坊が全てを喰らう者なのだ。
土の枝は建物や人々を再生させたが、その代償として全ての食料を喰らいつくくしてしまっていた。
当然ながらドグランドの町は大混乱に陥るだろう。
でもそこは精霊戦隊が保有する無限食材で、なんとか凌いでいたもようで。
その無限食材というのが水豚の肉。
水さえぶっかければ幾らでも再生するその食材は、ドグランドの人々の生命線となっていた。
「食料の問題は当てがあるから、なんとかできると思う」
「……そうね。あとは亡くなった者たちの事情」
「自殺者は蘇らなかったんだろ?」
「……えぇ、当然ね。生きようという意思を持っていないから再生はされなかった」
残念ながら、土の枝の死者蘇生は、死んだ者の【まだ生きたい】という想いを糧にして行われるものである。
したがって、生きようとする意志をもたず、絶望と共に自ら命を絶った者に対し、土の枝の特殊能力は発揮されない。
こればかりは仕方のない事だと諦めるより他にないだろう。
「鬼の連中は?」
「……エルが目覚める前にドワルイン王国を出立したわ。プルルが精進なさいって」
「熊さん……か。お節介焼な鬼だったな」
「……エルの先輩でもあるからでしょ」
鬼の四天王は俺が目を覚ます二日前に、混乱深まるドワルイン王国を後にしたようだ。
熊さんこと熊童子以外の動向で分かるといえば、虎熊童子くらいなものだったりする。
ヤツはヤーダン主任に絞り尽くされてカラカラになっていたはずなのだが、アースラの根との戦闘中にピンチになった彼女の下に颯爽と戦機で駆けつけてヤーダン主任を救ったとかなんとか。
そして、そのお礼とか何とかで、ま~たカラカラになったもよう。
代わりにヤーダン主任は艶々になったとかなんとか。
もう結婚しちまえよ、とは言えないし言い難い。
一応、桃使いと鬼は不俱戴天の仇同士なのである。
「色々と面倒臭い事になってるなぁ」
「……そうね。でも彼らはきっと、これからも顔を合わせるでしょうから」
「だが虎熊童子だけはダメだ。俺のソウルが奴を倒せと輝き叫ぶ」
「……ヤーダン主任に退治してもらえばいいでしょ」
「ふきゅん」
ヒュリティアの情報によれば、鬼軍団はドワルイン王国から戦機をかっぱらって逃亡したもよう。
戦いのどさくさであったことも手伝ってか、発覚するまでかなりの時間を要したようで、まんまと持ち逃げされてしまったようだ。
向こうにはキン博士こと、金童子がいるので、今度会った時は魔改造された戦機とやり合う事になるかもしれない。
気を引き締めなければ。
「アリーナはどうなった?」
「……暫くの間、休止するらしいわ。ドグランドがこの有様だし」
「そっかー」
施設は完全再生できたが、食糧問題に瀕している状況で運営は不謹慎とのことで、現在は休止せざるを得ないようだ。仕方がないといえば仕方がない。
んでもって賞金の行方はというと……運営のトップ連中が軒並み自殺、ということをしでかしてくれたので白紙状態という。ぷじゃけんなっ!
「おごごごご……新しい船の計画が台無しじゃないですかやだー」
「……こればかりは仕方がないわね」
「そうだ、レフティコーチたちは無事なのか?」
「……彼らなら無事よ」
ヒュリティアが言うにはきっちりと第二ラウンドも制したらしい。
二十年間も待っていた幼馴染はレフティコーチの告白を受け入れてそうだ。
その幼馴染とはコロッセウム勤務の、あのエロい女医さんだ。
「もう一度、顔を合わせてしっかりと話しておかないとな」
「……そうね。【彼ら】も、それを望んでいるはずよ」
「エルティナ、目が覚めたか」
とここでレギガンター君が顔を覗かせた。彼の後ろにはアーガス君やリリラータちゃん、そしてブルーサンダー君の姿も。
「お陰様で目が覚めたんだぜ」
「心配したんだぞ。でも聞けば、しょっちゅう寝込んだりしているんだってな」
「進化のために寝込むことは稀によくある」
「稀によくあるって、どっちだよ」
俺たちのやり取りで笑いが生まれた。
やはり、お子様同士はこうでなくては。
「エルティナ、これからどうするんだ?」
アーガス君が少しばかり不安そうな表情で今後の事を問うてきた。
「まずはこの町の食糧事情をなんとかする。その後は……一度、エンペラル帝国に戻るよ」
「そっか。決勝、戦えなくて残念だったな」
「そうだな」
しんみりとした雰囲気になったが、俺はこういうのは好きではないので、ぺちぺちと手を叩いて仕切り直しと行く。
「大丈夫だ! いつかまた、戦えるさ! 続けるんだろ? アリーナ」
「あぁ、もちろんさ! いつかチャンピオンになるのが俺の夢なんだから!」
アーガス君の差し出された手を掴む。それは約束だ。
「またいつか、チャンピオンシップアリーナの決勝で」
「うん、約束だ。アーガス君」
俺たちの繋いだ手に、レギガンダー君、リリラータちゃん、そしてブルーサンダー君が手を重ねた。
「「「「「またいつか」」」」」
俺はこの国を離れる。でも、それは永遠の離別ではない。
こうしてアーガス君達と確かに絆は繋がっているのだから。
さぁ、こっからが俺の仕事だ。
やってきたのは筋肉お姉さんことウェンディさんのお友達の畑。
まだ雪が残るそこに、精霊戦隊の面々はいた。
「何をしようってんだい?」
「これから、この畑を黄金に変える」
「はぁ?」
この瞬間を立ち会うのは、ウェンディさんとその友人で畑の持ち主さんだ。
尚、ウェンディさんはアースラの根と戦ってくれていたもよう。
「来れ、グレオノーム伯父さん」
俺は土の枝の管理者グレオノーム伯父さんを召喚。
ボコっ、と土が盛り上がり、それはどんどん巨大化。それが更に変化を起こし、3メートルは優に超えるかという熊が姿を現した。
これに「きゃっ」という乙女な悲鳴を上げてへたり込むウェンディさん。
不覚にも萌えてしまうのは俺だけではなかったようで。
どうやら、元々臆病な性格のようで、身に着けた筋肉はそれを隠すためのものだったもよう。可愛い。
「エルドティーネ、これが必要なのだな?」
「うん、こいつの本来の想いを叶えてやらないと」
巨大な熊さんがぷにぷにの肉球から生み出したのは【アースラの黄金の種】だ。
こんなことができるのも、グレオノーム伯父さんが、アースラの力を喰らったからに他ならない。
その際にアースラの本来の想いも喰らっていたようで。
「思えば不憫な奴よ。黄金の種に封じ込められたのではなく、自ら進んで封じ込められたことも思い出せなくなるほどに、人間の欲望に染められてしまっていた」
「人間が好きだったんだな」
「左様。しかし、その黄金の外見は人々の黒い欲望を集めてしまった」
「アースラの意志はもうない。でも……」
その真なる想いは、俺が引き受けよう。
それが真なる約束の子の務めであるのだから。
「く、くまがしゃべったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「きぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
「え? このタイミング?」
話を全部聞いた後の悲鳴って割と余裕があるんじゃないですかねぇ。
「これ、娘よ。熊だからといって無暗に人を襲ったりはせぬ。安心せよ」
「「ふぁ、ふぁい」」
がっちりと抱き合うマッスルお姉さんとぷにぷにお姉さんは、人々に背徳的なものを感じさせるであろう。これが俗にいう、薄い本が熱くなる現象なのだ。
ん? 厚くなる、だっけ? まま、ええわ。
「さぁ、エルドティーネ」
「うん。大地の精霊アースラ。今こそ、その優しい想いを思いだせ!」
黄金の種を掲げ、そこに力を籠める。
すると白き輝きが生れ出て黄金の種を優しく包み込んだ。
「……始まる。真なる約束の子の奇跡が」
ヒュリティアが呟いた。それはどこか感無量のようであって、寂しさも覚えるかのような呟き。
ふわり、と黄金の種が浮き上がり、パンっ、と爆ぜた。
その破片は畑へと向かって飛んで行く。
「心優しき大地の精霊アースラ! 飢える者に差し伸べる手を与えたまえ! 黄金の優しさを遍く大地より差し伸べたまえ!」
生命の息吹が感じられない冷たい大地より、それは一斉に芽吹いた。
それは生命の塊のような若芽たちだ。
「えっ!? 嘘っ! こんな時期にっ!?」
ウェンディさんの友人が口を押えて驚きの声を上げる。
当然、普通の小麦の種じゃ、こうはいかない。
発芽するための条件は全て満たしている。
あとはその成長を見守るだけ。
「育てや育て、実れや実れ。飢えし者のために、飢えし者のために」
ささやき、えいしょう、ねんじろ。
割と「ひえっ」という悲鳴が聞こえなくもない。でも大丈夫。
人々の満たされたいという想い。お腹が空いたという想いがある限り、失敗は無いのだ。
ぐんぐんと成長してゆく小麦の若芽たちは、三分もかからない内に成長しきり、黄金の穂をたっぷりと蓄え頭を垂れ下げた。
それは絨毯が敷かれるかのように、どんどんと広がっていって、遂には畑を通り越し冬の大地を黄金に染めてしまったではないか。
「これがアースラ。冬に実る特殊食材。飢える者たちに差し伸べられる黄金の想い」
「し、信じられない……これは現実なの?」
「一瞬で小麦畑にっ? あぁ、凄い。本当に小麦だわ!」
アースラが名も無き部族たちによって大切に護られていた理由がこれだ。
想いを糧にして、冬の時期のみに発芽する超特殊食材。
それは、冬の食糧難を救う大地の精霊の優しさ。
今より昔は、冬を乗り越えるのも常に死と隣り合わせだっただろう。
そんな命のために、自ら黄金の種に封じ込められ、彼らのために力を振るったのがアースラだった。
でも時は流れ、冬も脅威ではなくなった頃。黄金の種は人の欲望を集める秘宝になってしまっていた。
集まるのは黄金に魅せられる黒い欲望だけで。
だからこそ、トマッシュの部族は黄金の種を隠したのだろう。
悲しみに染まる大地の精霊アースラを、彼らは代々護ってきたのだ。
でも、眠りについていた彼は、再び人間の欲望によって解き放たれてしまって。
マキシオン防衛大臣の目を通して、アースラは黒い欲望を吸収し続けてしまった。
その結果が、自分が目指した未来とは真逆の存在に堕ちてしまったという。
なんという悲劇か。
「凄い! これでドグランドは救われるよっ!」
「あぁ、ありがとう! 大地よ! 私たちはあなたに感謝します!」
聞こえているか? アースラ。
おまえに感謝するヤツは、まだまだいるみたいだぞ。
だから、今はゆっくりお休み。
またいつか、この大地に還ってくるまで、ゆっくりと。
日の光を浴びて黄金に輝く大地の噂は瞬く間に広がり、大勢の人が集まってきた。
彼らは大地に感謝し、食べれる黄金を収穫してゆく。
そこには大地の精霊アースラが望んだ光景が確かに存在したのであった。




