300食目 破壊と創造の枝
◆◆◆ ヒュリティア ◆◆◆
私がエルドティーネの下へと来た理由。今ようやく理解できた。
全ては、あの子の進化のため。
空っぽの彼女の内部を満たすために、私たちは選ばれ導かれた。
エルドティーネは特別な子。
普通ではないし、普通ではいられない。
彼女と真に繋がったことによって、魂さえ持っていなかった事が分かってしまった。
では何故、彼女は生きているのか。
それも違う。
彼女は生かされているのだ。彼女を必要とする者たちによって。
だからこそ、彼女は戦う。
桃使いの使命だとか、ナイトの義務だとか、色々理由を付けているけど根本的な理由など無い。衝動的な物だった。
ただ護る。自分が存在するために。本能のごとく。
ただそれは、これまでのこと。
何かが変わった。エルドティーネの中で根本的な部分が変わった。
そして感じる。彼女の中に生まれた小さいけど、だけども大いなる力。
彼女が、自分の意志でそれを決定した時、エルドティーネという存在は本当の意味で産声を上げたのだろう。
もう彼女は、ただの器ではない。
枝を受け入れる鉢ではない。
エルドティーネという一個の生命として、この第六精霊界に根付いた。
ほんと、策士ね。グレオノーム。
きっとエルティナに入れ知恵したのも彼。他の枝ではこのような回りくどい事はできやしない。
そして、彼の計画は、彼の姪の進化で以って成就した。
森の賢者は伊達ではなかった、という事なのだろう。
「……喰らいなさい」
『ナイトの射撃はパンチ力っ!』
ツッコミはいれない。面倒臭いから。
混沌の銃から放たれるのは、銃同様に暗黒の弾丸だ。
その正体は、銃本体から切り離された全てを喰らう者・闇の枝である。
要は小さい闇の枝をバラ撒いているという事。
ということは、撃ち出せば後は勝手に餌を求めて飛び回るという事になる。
「ふきゅおん」「ふきゅおん」「ふきゅおん」「ふきゅおん」「ふきゅおん」
割と映像が鬱陶しくなった。やはり、普通のスナイパーライフルが一番だ。
縦横無尽に飛び交う食欲の弾丸たち。それは情け容赦なく大地の精霊アースラを貪り食ってゆく。
そこに、追い撃ちとばかりに鋼鉄の弾丸と破壊光線の嵐が殺到した。
「がぁぁぁぁぁぁっ!? な、なんだこれはっ!?」
出鱈目に触手や根を動かすも動きが鈍い。これなら余裕で回避できる。
チラリ、と彼女たちを見やれば同じタイミング同じ表情で親指を立てていた。
仲良しか……仲良しだったわね。
「……レフティコーチ、仕掛けるから、止めを」
『いいのか?』
「……あなたが一番相応しいでしょう? それとも、私がもらっちゃっても?」
『冗談、あいつは俺たちが仕留める!』
「……なら、任せるわ」
ならば、闇の枝は銃から剣に変える。
闇は形無きもの。火、水、風、土、雷、光、闇、竜の八大属性の中で、最も自由でとらえどころのない存在。
だからこそ、何ものでもないし、何ものにもなり得る。
「……チェェェェェェェェジ! ダーク・ブランチっ! スイッチオンっ!」
ぷにっ。
「ふきゅん」
指先に柔らかな肉の感触。
実はこれをやる必要はないけど、私が得をするからする。
ぷにぷにほっぺ、最高。
私のご機嫌上昇が役に立ったかは分からないけど、闇の枝は素直に形状を剣へと変貌させた。
一応は剣ではあるものの、その先端は金槌のようになっていて、今もカチカチと歯を鳴らす音が聞こえていた。
そう、その先端は闇の枝の頭。きっとどさくさに紛れて犠牲者を喰らってやろうと企んでいるのだろう。
やはり、食欲しかない獣で危険極まりない。でも、その食欲は枝の中でも随一であり、もっとも攻撃力が高い強力な存在。
だからこそ、制御が最も困難で。だからこそ、私が選ばれた。
あの子たちの期待に応えて見せる。
親子二代で手間がかかることだが……嫌じゃない。
「……さぁ、存分に暴れるわよ。エルティナイト」
『もう準備はできてるぅ! 腕の血管が破裂しそうで大変に危険っ! だから俺はこう言うだろうな』
『「ぶっ潰す!」』
大地を力強く蹴る。調べるのも馬鹿臭くなるような重さの巨人が天高く飛びあがった。
「うぬっ! 迂闊なヤツめっ!」
アースラが大量の花粉を放出した。何度も同じことを。芸の無いヤツ。
『させるかよ! スピリビット!』
『こちらも……っと、凄い威力だな』
レフティコーチの小型遠隔砲台たちと、ホワイトロードのスナイパーライフルが花粉たちを叩き落とす。
これにアーガスとレギガンターも加わって、花粉たちは全て破壊された。
『おまえ、調子ぶっこいた結果だよ?』
「……喰らい尽くせっ! 闇の剣っ!」
もう辛抱堪らん、とばかりに膨張してゆくそれは、変貌したG・シェイカーを頭から真っ二つにした。
その瞬間、闇の刀身は爆ぜて、G・シェイカーごと貪り始める。
これは切り捨てるのではなく、捕食。そう、正しく野生の戦いなのだ。
破壊と再生との戦い。優勢なのは言うまでも無く闇の枝。
「っがぁぁぁぁぁぁっ! こんなところで終わって堪るかっ!」
G・シェイカーからコアを切り離すアースラ。
やはりコアはグリオネではなく、黄金の種だった。
恨めしそうにこちらを睨み付けるアースラは言った。
「これで、勝ったと、思うなよっ!」
『おまえに次はねぇよ』
黄金の種は巨大な眼球を声のした方へと向けた。
そこには巨大な輝く剣を掲げる重武装のアインリールの姿。
私には、いや、私たちには見える。
レフティコーチと彼を支える白い少女の姿が。
『終わりだっ! 大地の精霊アースラ! おまえにまだ、善なる心が残っているのであれば、おまえが苦しめた者たちに懺悔ろっ!』
「おのれっ! おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
振り下ろされる莫大な破壊の力。
それは黄金の種を両断し、光の粒子へと分解していった。
「この……私が……精霊王になるはずの……!」
最後まで謝罪の言葉は無し。芯から腐っていたもよう。
機体のいたる場所から煙を出し、膝を突くレフティコーチのアインリール。
光素剣を持っていたマニピュレータも溶解し使い物にならなくなっていた。
これほどまでに恐ろしい出力の光素剣は見たことが無い。
きっと、安全性などは考慮されてはいないのだろう。
『終わったよ……レイナ』
レフティコーチのその言葉が印象に残った。
同時に、彼に纏わりついていた気配が消えてゆくのも。
「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
だが、その時、女性の金切り声。
言うまでも無く、アースラに侵食されていたグリオネの声だ。
もう、彼女を元の姿にすることは不可能。このまま一思いに介錯してやるしかない。
……以前なら、その一択だっただろう。
でも、大丈夫。
私が独りじゃないように、グリオネも独りじゃない。
あなたを救ってくれる者は、ここにいる。
「……エル、後はお願いね」
「任されたんだぜ!」
必要な物は【取り込んだ】。
後は、私たちの【真なる約束の子】に任せる。
さぁ、見せてちょうだい。
あなたの、あなただけの力を。
◆◆◆ 真なる約束の子・エルドティーネ ◆◆◆
「戻れ、闇の枝」
「ふ、ふきゅおんっ」
「もっと美味いもんを食わせてやる。言う事を聞け」
G・シェイカーの成れの果てを、むしゃむしゃしていた闇の枝を戻す。
目も鼻もない大蛇が戻る先は俺の魂……いや、想いの中。
ようやく、俺は俺が何者であるのかが分かり掛けてきた。
でも、そんなことは割とどうでもいい。
やらなくてはならない事をやる。人生とはその積み重ねだ。
ってガンテツ爺さんが言ってたから、きっとそう。
というか、それしかできない。
そんなわけで、俺がやらなきゃならない事は、目の前の仲間を救う事。
あらあら、まぁまぁ、大胆なイメチェンをしちゃって、まぁ。
ある意味でファンキーな姿へと変貌しているぽっちゃり姉貴を更生すべく、俺は行動に移る。
やることは至極単純。
ぶっ壊して、直す。ただそれだけだ。
大地の精霊アースラの情報を喰らった俺ならできる。
たとえ核でなかったとしても、それと繋がっていた肉体を喰らえばほぼ情報は掌握できるし、何よりも、グレオノーム伯父さんがだいたいの力を喰っていてくれた。
だから、ある程度の制御もできるだろうから、後は捕食中に行う。
「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
激痛が走っているのだろう、再生しながら出鱈目に暴れまくるG・シェイカーの成れの果て。
その暴れっぷりは今までで一番と言えようか。
この国の再興は極めて難しいほど、徹底的に破壊し尽くされた状況。
瓦礫の海が一面に広がるという惨状だ。
失われた命も少なくない。絶望に屈し自ら命を絶った者もいるようだ。
眷属達の目を通し、それが伝わってくる。そのやるせない想いも。
さぁ、全てを取り戻そう。奪い返そう。
俺は、その為に、第六精霊界に居る!
「真なる約束の子・エルドティーネが命ず! 来れ! 全てを喰らう者・土の枝!」
右手を天に掲げ、破壊と再生の枝を召喚した。
「グレオノーム!」
瞬間、ルナ・エルティナイトの両足より木の根が飛び出し大地に根を張る。
背中からは無数の枝が伸び、それらは出鱈目な軌道を描きながら伸びていった。
やがて、ルナ・エルティナイトは一本の大樹となりて、G・シェイカーの成れの果てを見下ろす。
これが、全てを喰らう者・土の枝の姿。破壊と再生の大蛇の姿。
その巨大な大樹は雲を突き破り、成層圏にまで届くかという高さだ。
「グレオノーム伯父さん、力を貸してくれっ」
「無論だとも。この日をどれ程待ったことか。一億……いや、一億と六千年、私たちは待ち続けたのだ」
長ぇ。気が長いってレベルじゃないんですが?
「よぉし、全てを奪い返すぞっ! 貪り尽くせっ! 土の枝っ!」
バキバキ、メキメキとの音は一つや二つではない。
この大樹の何本あるか分からない枝、その全てから発してるのだ。
これら全てが全てを喰らう大蛇だ、って信じられるか?
この音はその枝の先端が咢に変わっている知らせなのだ。
そして、変態が完了した枝から順に産声を上げてゆく。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
それは猛獣の鳴き声。でも、木の枝から発しているので異質さが混じった奇妙なものとなった。
これには流石の実況解説のお姉さんズも失神してしまっている。
でも、カメラマンさんは親指を立てて絶賛活動中。
完全に人間を辞めている辺り、クロヒメさんと良い勝負かもしれない。
一本、また一本とG・シェイカーの成れの果てを捕食してゆく。
抵抗など無駄。
土の枝の場合、噛み千切るのではなく、噛みついてそこから養分を吸う。
再生といった遅延は意味がなく、それをおこなってもエネルギーを無駄に消費するだけなのだ。
「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
もちろん、全てを喰らう者なので、枝を攻撃したって、カウンターでぱっくんちょ。
G・シェイカーの成れの果ての触手攻撃や根の一撃だって触れた瞬間に喰われて消滅している。
全ては無駄なのだ。今、俺は絶対の捕食者として、ここに顕現している。
右手をぽっちゃり姉貴に向ける。
意を汲んでくれたグレオノーム伯父さんが枝を彼女へと差し向けた。
その一撃は彼女のエネルギーを吸い尽くすものではなく、一口で捕食するというもの。
ちょーっと痛いけど我慢してくれよな。はい、咀嚼。
筆舌しがたい悲鳴が聞こえてきたけど、お耳をパタンと畳んで、これをしっかりとガード。
俺の精神は安寧を得たのであった。
よく噛んでごっくんちょした後は消化して、新たなるものへと変化させる。
それが土の枝の特殊な力。
捕食によって流れ込んできた情報を基に、彼女を新たに創り出す。
……結構面倒臭い。適当でいいか。
―――これっ、面倒臭がらずに、ちゃんとやらんか。
怒られました。さーせん。
おふざけはここまでにして、個体名グリオネを再構築。
ありとあらゆる部分を完璧に再現し排出する。
ぷりっ。
汚い音がしたけど再生完了です。
樹の股から排出された全裸のぽっちゃり姉貴はころころと転がっ……うわぁ。
止まった先の姿が逆大の字。そして、彼女は全裸なわけで。
『うわわっ!? 急に全裸のお姉さんがっ!?』
『ちょっ!? いや、すげぇ。これが大人の女の人』
『君たち、あまり見てはいけないよ』
『『あっはい』』
なんという事でしょう。アーガス君とレギガンター君が、ちょっぴり大人の階段を上ってしまいました。
このままでは不味いので、ぽっちゃり姉貴の全裸姿をなんとかすべく触手を向かわせる。
「……エル?」
「触手の操作って難しいんやなって」
なんという事でしょうか。見事なボンレスハムが完成してしまったではありませんか俺は悪くない。
そして、大事な部分がまったく隠れていなかったので、仕方ないからエルティナイトのコクピットへと転送しました。
最初からそうしておけばよかった。ふぁっきゅん。
「そんなわけで、再生完了です」
「……そうね。見た目は問題無さそうだわ」
おもむろに、ぽっちゃり姉貴のお腹の肉をぐにぐにする黒エルフの幼女は、いい仕事をしたとばかりに額の汗を拭いましたとさ。
ぽっちゃり姉貴のお腹の肉マッサージはハードトレーニングだった?
「おっと、のんびりもしていられない。さぁ、仕上げるぞ、土の枝!」
目標はドグランド全域。ありとあらゆるものを喰らい尽くす。
その目的は情報だ。とにかく土の枝は情報が要となる。
建物の残骸はもちろんの事、その辺の石ころや雑草にだって情報は蓄積されている。
そして、道端に転がる冷たい躯たちにも。
「喰らえ喰らえ、大樹の蛇たち! ありとあらゆるものを喰らって破壊して、新しい古きものたちを生み出せ!」
全てを喰らってドグランドを更地にする。これで順次完了だ。
『何が起こっているんだ?』
「これから大奇跡を起こすのさ、レフティコーチ」
『それに乗っていたのはエルティナだったのか? なら、あの男性の声は?』
「詳しく説明すると時間が掛かるので後回しだっ! そこで見ていてくれ!」
奇跡というものが人の手で起こる瞬間をっ。
「全てを喰らう者・土の枝! 全能力解放!」
有を喰らい、有を生み出す。古来から生物が脈々と繰り返してきたそれを、短時間且つ、有機物、無機物関係なくやってのける。
それが全てを喰らう者・土の枝の真の能力。
この枝のみが、全てを無に還すのではなく、有も生み出すことができる最も慈悲深き枝。
故に管理者は思慮深く自分に厳しい者が選出される。
それが森の賢者たるグレオノーム伯父さんであったのだ。
時間が逆戻りしてゆくかのような光景。
破壊されたすべての存在が再構築されてゆく。
無機物も、有機物も、全てが再構築されてゆく。
死に絶えた命ですら再生させてゆく様は、果たして神への冒涜か。
それで怒り狂う神が居たとするなら、俺は遠慮なくそいつを喰らって差し上げる。
今、この瞬間は何人たりとも俺を止めることは許さない。
神だろうと、悪魔だろうと、容赦なく食い殺してやる。
俺が、俺たちが……全てを喰らう者だっ!
『なんなんだよ……これ』
『壊れた建物が直ってゆくっ!? こんな事って!』
アーガス君はともかくとして、レギガンター君には是非とも慣れてほしいところ。
これから嫌というほど目の当たりにするだろうし。
俺は右手を天に掲げ、それを握りこんだ。
それは全てが再生したという宣言。
同時に、大樹と化していた鋼鉄の騎士は大樹の名残であった光の粒子を纏いながら、ゆっくりと地面に下りてゆく。
――――戦いは終わった。
俺たちは邪悪なる大地の精霊アースラに完全勝利し全てを奪い返した。
完全に再生されたドグランドの町、そしてコロッセウム。
傷付いた戦機だけは再構築していないので、その激しい戦いの痕跡を残したままだ。
「俺たちの……勝ちだっ!」
勝利を宣言する。でも、急に視界が傾いて。
要は力を使い過ぎたのだろう。倒れた先がぽっちゃり姉貴のお腹で助かったぜ。
人をダメにする肉の感触を頬に感じながら、今は眠りにつく事にした。
ヒュリティアがいるから、任せても大丈夫だろう。たぶん。




