表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
299/501

298食目 汝、全てを喰らう者

 ◆◆◆ ??? ◆◆◆



 昏い……いったい何があったんだろう? ここはどこ?


 こんなところにいる場合じゃない。早く、みんなの下に向かわないと。


 あれ? 皆って誰の事? 思い出せないや。


 ピタリと足が止まる。そもそも、私は誰?


 後ろを振り向く、すると沢山の灯りの中に楽しそうな映像が映っていて。

 思わず駆け寄ろうとして何かに止められた。


「くっろー!」

「だぁれ? 君」

「くっくー! くろろ~ん!」


 必死になって、私を押し留めようとする灰色のお饅頭。

 なんで、そんなに必死なのだろうか。


「ねぇ、どいてよ」

「くろっ! くろっ!」


 でも、その子は頑として私を止めようとする。

 そして、前へ進め、との一点張りだ。理由が分からない。


 目の前には楽しそうな物が沢山あって、とっても暖かそうで。

 でも、この子が行けという先は、静かで寒くて絶対に楽しくなさそうな暗闇だけで。


「わたしは、こっちが良いのっ!」

「くっくー! くろろろろろっ!」


 ゴマ粒のような目に沢山の涙を浮かべて必死に止められる。

 なんで、見も知らずの私に、そんなに必死になれるのだろうか。


「なんで、止めるの?」

「くろっ!」


 先に進めとの一点張り。納得がゆかない。

 でも、その瞳には覚悟を決めた者の輝きが……。



 ――――。



 瞬間、何かが私に飛び込んできた。

 頭の中が爆発したかのようで、真っ白になって、そして、出来事が物凄い速さで巻き戻ってゆく光景。

 頭が割れるように痛い。金槌で何度も何度も叩かれているかのようで、頭を抑えて転げ回る。それでも治まらない痛みに気が狂いそうだった。



 ―――戻ってこい!



 誰かの声が聞こえた。



 ―――あい~ん!



 誰かの心配をする声。



「くっろぉぉぉぉぉぉっ!」



 泣き声。



 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。


 なんで? どうして? 痛いのやだよ。


 ふらふらと立ち上がる。目の前には楽しそうな沢山の映像の群れ。

 暖かで優しくて楽しそうで……それに手を伸ばす。


 でも、それは―――その映像は、沢山の楽しいに紛れていて。


「なんで? どうして……!?」


 黄金の爆発。消える命。それは恐ろしくて、恐ろしくて。

 失われるという恐怖から私は目を逸らす、とそこには小さなお饅頭の姿。


「くろ……」


 先ほどの黄金の爆発を引き起こした子の姿が、そこにあった。


 そして、この声とは別の声が暗闇の世界に響く。




 ―――汝、全てを喰らう者。




 誰っ? 誰なのっ!?


 とても恐ろしい声だった。全身が騒めき立つかのような低い声。

 地の底から湧き上がってくる大きな力のような、そんな声。




 ―――汝が望もうが、望むまいが、その時は必ず訪れる。




「どういう事っ!? あなたは誰っ!」


 精一杯の声を張り上げた。そうしないと立っていられない。

 挫けて座り込んでしまったら、もう立ち上がれそうにないから。




 ―――汝、全てを喰らう者。汝、命を記録せし者。汝、命を生み出す者。




 何を言っているのか理解できない。何をさせたいのか分からない。

 そもそも、私は自分が何者かもわからない。


「何を言っているのっ!? 知らないっ! 全てを喰らう者なんてっ……がっ!?」


 眩暈が起こるほどの痛みが胸に生まれて、まったく息ができなくなる。

 ガクガクと足が震えて今にも倒れそうになった。


 このまま倒れてしまえば楽になるのかな。もういいよね。

 そう思った、だから私は楽になる方を選んで。


 でも、身体は倒れる事をしなかった。

 誰かが私の背中を支えているのだ。


「くろっ! くろっ!」

「なんで、私のために、そんなに必死になってるの?」


 小さなお饅頭さんが、私の背中を支え倒れないように頑張っていたのだ。

 分からない、どうして? 私は君を知らない。




 ―――汝、全てを受け入れる者。




 違う方向から女の人の声。

 それが誰のものかは知らない。でも、私はこの声を知っていた。


 首を動かし、その声がした方を見る。そこには闇だけがあった。

 でも、薄っすらとそこには道があって。


 沢山の映像が浮かぶ方を見れば、そこにも道はあって。

 誰かの足跡があって。


「私の……足跡?」

「くろっ!」




 ――――目覚めよ。汝、新たなる全てを喰らう者。


 ―――喰らい尽くせ、全ての悲しみを。


 ――喰らい尽くせ、正しき想いを。


 ―それは、汝の力となりて道を示す。




「それが、おまえの、おまえだけの能力だ」




 それは巨大な熊だった。

 闇の中から滲み出るかのような巨体。

 でも、その目はとても優しくて。でも、とても厳しくて。


 バチリ、と何かはまった音が聞こえた。

 空間が固定されたかのようなそんな感覚。


 流れ込んでくる彼の悲しき過去は、その全てが覚悟の連続で。

 そしてその全ては、俺の母のために。その死すら母に捧げるもの。


「……全てを喰らう者・土の枝……グレオノーム」

「左様、我が名はグレオノーム。大地の精霊アースラめの恐怖の感情を喰らい、おまえの覚醒を促せし者」

「それすら特殊食材か。無茶をするなぁ……でも」


 不甲斐なさで気付けば拳をきつく握り締めていた。

 プルプルと震える拳をもう片方の手で押さえつける。


「ありがとう、もう大丈夫だ」

「行くがいい、我が姪よ。これからは私も、おまえの力となろうぞ」


 真っ暗で何もない道へと向き合う。

 これは俺の未来へと続く道。己の力で切り開けという暗示。


 上等だ。


 この先に何が待っているかは分からない。


 でもっ!


「クロちゃん、ありがとう。俺、もう行くね」

「くろっ」

「絶対に忘れない。さようなら」

「くろ~!」


 クロちゃんの想いに護られた俺は自分を取り戻した。

 これはきっと土の枝の課した試練。


 ここで膝を折ったなら、この先はやってゆけぬだろう、という優しさと残酷さで俺を試したのだ。


 俺は暗闇の道を走り出す。この先に何があろうと、俺はもう決して立ち止まらない。

 この俺を護るために命をかけた小さな鉄の精霊に報いるためにも。


「俺は、皆の太陽になって見せる! 希望を照らす騎士たいように!」


 暗闇の世界に光が満ちる。

 その向こう側に、俺は白エルフの女性の姿を確かに見た――――。






「―――っはぁ! ここはっ!?」

『もどったか!? エルドティーネっ!』

「あいあ~んっ!」


 身体を起こし周囲を見渡す。視力が戻ってきていないのかボヤけていて不鮮明だ。

 だが、音は聞こえる。感触もある。

 ここはエルティナイトの鋼鉄の大地。低い駆動音はエルティナイトの命の鼓動か。


「状況はっ!?」

『正直、良くにぃ。精霊武装も解けちまった。でもよ……これだけは言える』


 ゆっくりと黄金の鉄の塊魂を芯に据える騎士は立ち上がる。


『これで、勝つるっ!』


 ぼんやりとしていた視界がいよいよ鮮明になってゆく。

 目の前には異形と化したG・シェイカーの姿。あそこまで変異させられてはもう駄目だろう。

 そして、剥き出しになったコクピットに囚われる全裸の肉だ……もといぽっちゃり姉貴も。


「エルティナイト! ぽっちゃり姉貴を解き放つ!」

『もう光素も空っけつなのにか?』

「分かっているのに言うな。光素云々じゃない、気合でなんとかするでもない」

『なら、もっと素直でいいんじゃないですかねぇ?』


 意地の悪いヤツだ。でも、その意地悪に乗ってやる。


「喰らい返す! 何もかもだっ!」


 大地の精霊アースラ。おまえは、俺に対して最もしてはいけない事をした。

 それは多くの者たちを傷つけたとか、奪ったとか、そういう類のものじゃない。


 生き死にを掛けた野生の戦い、食うか食われるかの戦いを仕掛けちまった。

 そして、おまえは俺を仕留める事ができなかった。それが、この戦いの結果を意味している。


 全てを喰らう者・土の枝が目覚めた以上、俺は大地を通じて全てを見通すことが可能になった。

 だから分かる、この国の大地がアースラに養分を吸われて干からびている事が。


 全ての作物は枯れ果て、このままアースラを倒してもドワルイン王国に住まう者たちは飢餓によって死に絶えるだろう。

 最早、大都市であったここは廃墟同然となっている。


 逃げ惑う人々はアースラの根によって全てを奪われた。突如として襲い掛かった絶望に対してあまりにも無力で。ただ膝を折って天に祈ることしかできない。


『ああっと! 行動不能になっていた鋼鉄の騎士が立ち上がった!』

『これは、逆転もありますよっ!』


 というか、あんたらまだ居たんかいっ。

 これからもっと酷いことになるから、さっさと逃げた方が良いぞっ。


『ご覧くださいっ! 鋼鉄の騎士は、我らのアリーナ戦士たちはまだ諦めておりませんっ!』

『これは決して絶望に抗っているわけではないでしょう』

『応援しましょう! 彼らをっ! 我々の誇りをっ!』

『そのためにも、我々は実況解説を続けますっ』

『映像を流し続けますっ!』


 さり気ないカメラマンの酷使に草が生える。

 でも、彼は親指を立てて意気込みを見せる。

 全身擦り傷だらけで動くのも辛いだろうに。


「おのれ、おのれ、おのれ! なんだというのだっ!【おまえ】はっ!?」


 怒り狂う、というよりかは酷く怯えている、という表現が当てはまる大地の精霊アースラ。

 最早、慈悲の欠片も俺には残っていない。


 奥底から湧き上がる衝動、それは純然なる食欲。


『……エル!』

「ヒーちゃんっ!」

『……こっちはなんとかなった! 戦機乗りたちが間に合ったわ!』


 どうやら彼女は、戦機乗りたちが蜂起するまでの時間を稼いでいたようだ。

 そしてそれは成り、今は多くの戦機乗りたちが巨大な植物の根と戦っている。


『……彼が目覚めたのね』

「うん、俺の伯父さんだって」

『……そうね。立場的にはそうなるわ。二代目の血の繋がらない兄。二代目の母によって育てられた力ある獣、それが彼の正体』

「理解したよ。全部の記憶が俺に流れてきた」

『……そう、なら大丈夫ね』


 上空からゆっくりと降下しながら、スナイパーライフルで触手を狙撃するルナティック。

 ヒュリティアの解き放たれた実力に絶句するのは実況解説のお姉さんズだ。


『じょ、上空から銀色の機体がっ!? 見たことも無い機体ですがっ!』

『しかし、あの狙撃の腕前、そして何よりもあの機体の色はっ』


 いやぁ、盛り上がっている、盛り上がってる。

 中継を携帯端末で視聴している避難民たちが大盛り上がりだ。


 大地から伝わってくる彼らの感情、それは絶望から希望へと変わってゆく。


 でも、これから君たちには残酷な珍現象をお見せしなくてはならない。


『……さぁ、精霊融合エレメンタルドッキングよ!』

「応! エルティナイト! 精霊融合!」


 鋼鉄の騎士が天高く飛びあがる。

 その意図がなんなのか理解してはいないであろうアリーナ戦士たちは、それでも援護をしてくれた。


 これで、この一連の騒ぎを終わらせてやる。


 今、精霊騎士は皆の太陽きぼうになる時! 刮目せよ、その姿をっ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 珍獣語録もお調子者感も消えたエルドティーネさんただの美少女エルフじゃん。珍獣にもどして。でも娘を珍獣汚染させた二代目はギルティ。罰はモンゴーくんが受けます。 [一言] とはいえ珍獣が美少女…
[良い点] 一つ一つは小さなエルフだが、二つ合わされば炎となる 炎となったエルティナイトは無敵だ! そして炎を二つにしてもっと無敵 いつもの2倍のステッポが加わり超無敵 そして、いつもの3倍の魂(精神…
[一言] 太陽礼賛Y グレオノームさまが優しい… やっぱり精霊王てめーなんか企んでやがるな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ