293食目 護られるという事
「し、しまったっ!?」
一瞬の隙を突かれた。完全に雁字搦めにされて動くことができない。
『エルティナっ!』
レギガンダー君が光素剣で根を切り払ってくれるも、次々に再生してキリがなく、返って根が増殖してゆくというおぞましい現象が生まれた。
このままではレギガンダー君のビッシュガドルも巻き込まれてしまう。
でも、彼は諦めるという事が無く。
「どうするっ!? どうすればいいっ!? このままじゃ、レギガンダー君もっ!」
「……くろっ!」
その時、急にホビーアインリールの手がコクピットに伸びてきた。
俺は決して、そのような操作はしていない。
「アインリールっ!?」
続いてシートベルトも解除されてしまう。
瞬間、俺は鋼鉄の手によって強制的にコクピットから摘まみ出されてしまった。
宙を舞う俺は、遠ざかる鋼鉄の相棒の姿がゆっくりと見えて。
「クロちゃんっ!」
「あい~ん!」
ホビーアインリールに残る小さな鉄の精霊は悲し気に、しかし、意を決し腐れ花を見据える。
それが、彼女たちとの別れとなってしまって。
すぐ傍にいたビッシュガドルに受け止められ、背中に強い衝撃を受ける。
痛い事は痛いが、それどころではない。
『エルティナっ!』
「ぐっ! クロちゃんっ!」
腐れ花の根に圧し潰されてゆくホビーアインリールは、次の瞬間、黄金の輝きを放ちながら大爆発を引き起こした。
「そんな……!? クロちゃんっ! クロちゃぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
馬鹿な、彼女の波動が感じられない。
精霊が死ぬなど、とそんなことがあってもいいのか。
「っがぁぁぁぁぁぁっ!? こ、この爆発はっ! 光素爆発かっ!?」
黄金の輝きは腐れ花に甚大なダメージを与えた。
身体を維持できなくなり、どろどろと全身が溶けてゆく。
……だからどうした。
俺は、俺はっ! クロちゃんを死なせてしまった!
力が無かったから! 彼女に護られてしまった!
こんな体たらくで全てを護る騎士になるなどとっ!
とんだ思い上がりだっ!
「くそっ! くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
『まだ泣くなっ! エルティナっ!』
「っレギガンダー君っ」
『護られたなら、生き残っちまったんなら! やるしかねぇんだ! そうだろうっ!』
そうか、これが【護られる】という事か。
とても辛い事だったんだな。護られるというのは。
俺は勘違いをしていた。
力無き者を護るという行為は、時として弱者を傷つける刃にもなる。
それを今、痛感した。
そして、俺は失うという恐怖を正しく理解したのだ。
それは胸が張り裂けそうなほどに辛く苦しい。
こんな気持ちを経験するなんて、もうこりごりだ。
今すぐに逃げ出したい。
―――でもっ!
俺は震える足を強引に制してゆっくりとだが立ち上がった。
『そうだ、それでいい。俺たちは膝を折ることは許されないんだ』
「ありがとう、レギガンダー君」
『エルティナは【俺たち】を救ってくれた。だから、力及ばないけど、俺は君を支える』
それは彼の決意の一撃。
ビッシュガドルの光素ライフルから黄金の閃光。
それは紫色の膜を貫通し腐れ花にダメージを与えた。
「ぎぃっ!? な、何故だっ!? 何故、【精霊障壁】がっ!」
『精霊障壁は決して万能ではないのです。あなたはそのことを忘れてしまったのですか?』
「っ!? そ、その声はっ! し、しかしっ!? いや、精霊王が二人っ!?」
パニックになるアースラはしかし、次の瞬間、触手と根を出鱈目に暴れさせた。
『ええい! 無茶をしてくれるねぇ!』
『ボングもそろそろ限界だわ』
鬼の二人もそろそろ機体が限界だったようで、ここで遂に機体を放棄した。
それでも逃げないのは、まったく以って胆が据わっているというか。
普通に生身で攻撃し始める、とかマジキチなんですわ。
でも、そんなことができるのは彼女らくらいなもので。
「アーガス君っ! 大丈夫かっ!?」
『くそっ! 脚部損傷! 動けないっ!』
『こっちもですわっ!』
『尋常じゃない手数だっ!』
どうやら、アーガス君達は足を狙われて行動不能になってしまったようだ。
「脱出してくれ! レギガンダー君っ!」
『分かってる! 急げ、レッドバレット!』
ビッシュガドルが光素ライフルで触手と根を攻撃し彼らの脱出口を確保する。
しかし、再生速度が早過ぎて維持が困難だった。
だが、そこにホワイトロードのプリンスが手を貸してくれたではないか。
『てこずっているようだね。協力しよう』
『チャンピオンっ!』
これで、アーガス君達は脱出することができるはずだ。
でも彼らはおかしなことを始めた。
各機体の無事なパーツを切り離し、それらを真紅の機体へと強引に接続し始めたのだ。
そうすることによって、真紅の機体は再稼働する。
「アーガスっ! 後は任せますわっ!」
「僕らの光素を持って行ってくれっ! 未来のチャンピオン!」
『あぁ、任せておけっ!』
アーガス君に後を託し離脱するリリラータちゃんとブルーサンダー君。
でもアーガス君は残り、戦う事を選択した。
「無茶だっ、アーガス君っ!」
『無茶は承知さっ! でも退けないだろうがっ!』
続く言葉は無い。でも、俺は理解できた。
ここには、まだ取り残された人たちが沢山いる。
今、変態マスク達が誘導に加わってくれているが、それでも避難が終わるまで時間が掛かるはず。
俺たちは、ここから逃げるわけにはいかないのだ。
何よりも、俺は……クロちゃんから託されてしまった。
―――未来を。
だから、俺はあいつを呼ぶのだ。
俺の相棒。俺の半身を。
大丈夫、ヒュリティアがこっちに向かっている。
大丈夫、ガンテツ爺さんが来てくれた。
大丈夫、ミオとクロエが背中を合わせながら戦ってくれている。
大丈夫、クロヒメさんが暴れてくれている。
大丈夫、ヤーダン主任が援護してくれている。
大丈夫? H・モンゴー君。ま~た逃げてる。囮役、凄いですね。
不穏な色で埋め尽くされた天から何かが降ってきた。
それは、この場の全ての者たちの関心を一手に集める。
その溢れ出す命の力は黄金に輝き、そして、俺を誘うのだ。
『よく頑張ったな』
「頑張るのはこれからだ」
『あぁ、そうだな。合身だ! エルドティーネっ!』
「応! 精霊合身!」
俺の身体が光素の粒子へと分解され、鋼鉄の騎士の魂へと吸い込まれる。
その鋼鉄の大地にて俺は再構築された。
五感の全てがエルティナイトと接続される。
心が彼と繋がる。
黄金の鉄の塊魂を共有する。
嬉しい事も、怒ることも、哀しい事も、楽しい事も、全てを彼と共有する。
人機一体、真なる合身を果たした俺たちは高らかに宣言するだろうな。
「全ての命を護るためにっ!」
『精霊戦機エルティナイト、ここに見参っ!』
「この黄金の鉄の塊を砕けると思うなら!」
『「かかって来いっ!」』
盾を構え、エリン剣を構える。
腐れ花に完全と立ち向かう鋼鉄の騎士は、その溜めに溜めた命の力を爆発させる。
『ああっとぉぉぉぉっ! これはどうした状況かっ! コロッセウムが滅茶苦茶だっ!』
『いたた……これは? いやいや、逃げましょうよ』
『ナディアさんっ、我々は実況解説の使命を果たす義務がっ!』
『それもそうでしたね。だったら実況解説を再開しましょうか』
簡単に説得されるとか、そんなんじゃ甘いし困るんですが。
なんという事でしょう、こんなクッソ危険な状況で実況解説をおっぱじめた実況解説のお姉さんズは、胆が据わり過ぎていてまいっちんぐ。
『中継さんもよろしくお願いしますよっ!』
カメラマンも頑張ってんのかっ!? 逃げてくれ、って言ってんだるるぉっ!
スタンドでカメラを抱えているおっさんを確認。
生身で腐れ花の根や触手を回避しながらの中継は、もう人間を辞めているってレベルじゃない。どうなってんのこれ。
よし、考えるのを止めよう。
『突如、コロッセウムを襲った大地震! その正体はおぞましい腐れた花が引き起こしたかと思われます! それに立ち向かう戦機たちの姿が確認できますっ! しかしっ! あの巨大な騎士はいったいっ!?』
『どうやら、コアブロックシステムを搭載していないようです。恐らくは完全カスタム仕様かと』
いいえ、ただの突然変異です。
『うわっ、何事かと来てみれば、酷い有様やなっ』
「あっ、見どころ無く負けたぽっちゃり姉貴、おっすおす」
『帰ってええか?』
ここでぽっちゃり姉貴がG・シェイカーに乗って援軍に駆け付けてくれた。
彼女の見事な負けっぷりを慰めるよりかは、オカメインコ選手の手練手管を称えるべきであろう。
まぁ、ぽっちゃり姉貴は戦い方が強引というか、彼女の実力を活かせる機体が無いのが致命的だったわけで、決して雑魚ではない事をここで明言しときます。
『まったく、散々やで。家もきしょい植物の根でおしゃかやし』
「災難だったな。んでもって、あいつが犯人」
『んなら、さっさとぶっ叩いて終わらせたるわ』
巨大な大槌を構えるG・シェイカー。
そこにホワイトロードのプリンスが並ぶ。
『子供たちは無事に離脱できたよ』
「ありがとう、チャンピオン」
『【レオン】だ。よろしく頼む、エルティナ君』
「エルティナだ。こちらこそ」
その名がホワイトロードの本当の名前なのだろう。
この名乗りは背中を預ける、そういう意味合いが多分に含まれているに違いない。
『レギガンダー、遅れるなよ?』
『誰に言ってやがる、レッドバレット』
ジュニアの魂を一手に受けたレッドバレットと、彼に勝つために執念を燃やしていたレギガンター君が手を取り合った。
それは彼らの命の力を益々燃え上がらせる。
『これは凄いっ! アリーナのトップファイター達が手を取り合っている!』
『ですが、あの怪生物から伝わってくる脅威は、彼らの闘志と同等、寧ろ、それ以上かと』
『大丈夫です! アリーナ戦士が、あんな不細工な植物に負けるわけがありませんっ!』
ぶんぶんと拳を振って、めっちゃ楽しそうな実況のお姉さん。
彼女は『僭越ながら』と咳ばらいをひとつ。
『さぁ、アリーナの未来を賭けた戦いが今ここにっ! 両者、定位置っ!』
それは粋な計らいだった。
どうやら、アースラもそれに乗っかるもようで。
『エクストラバトルっ! 試合! 開始!』
今、アリーナの、ドワルイン王国の未来を賭けた戦いが始まった。
獰猛な牙を剥き出しにする大地の精霊アースラ。
果たして、俺たちはその牙を打ち砕くことができるのだろうか。




