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290食目 絶望の中の希望

 ぎこちない動き。

 魔法障壁で機体全体を覆っても、ホビーアインリールはまともに動いてくれない。

 もうとっくの昔に限界だったのだ。


 それでも、クロちゃんはこいつを信じて戦場へと送った。

 きっと、ホビーアインリール自身がそれを渇望したからだろう。


「一人じゃ無理……だったらっ!」


 願う。誰に? 決まっている。精霊たちにだ。


「みんな、俺たちに力を貸してくれっ! あの悲しい花を止めるためにっ!」


 俺と契約を結んでいる全ての精霊に助力を求める。


 真っ先に反応したのは海の精霊マッソー。

 なんやかんや俺の精霊魔法のメインとなっていて、ちょっぴり怖いっしゅ。


 続いて風の精霊ミラージュ。

 幼い彼らはしかし、十分過ぎる勇気をもって飛び出して来た。


 雪の精霊お雪さん、花の精霊フロウも協力を惜しまないようだ。


 でも、火の精霊チゲ、水の精霊ヤドカリ君、風の精霊とんぺーは、全てを喰らう者の管理者でもあるため、迂闊に力を借りるわけにはいかない。

 もし、力を緩めるようなら俺の中から無慈悲な力が飛び出し、白い花を上回る悲劇を作り出してしまうだろう。


「アイン君、クロちゃんっ! いくぞっ!」

「あいあ~ん!」

「くっろ~!」


 精霊たちの力をホビーアインリールにっ!


 いいですともっ! という声が聞こえ、ホビーアインリールが虹色の輝きに包まれた。


 各種パワーがぐんぐんと上昇してゆく。

 これなら、なんとか戦えそうだ。


「来るか……精霊王。あの時のように、無貌な戦いを精霊に強いるというのだな」

「なんのことだか分からねぇけどなぁ! こいつは無謀な戦いなんかじゃないっ!」


 試作型光素ライフルに力を込めて解き放つ。

 そこから発射された黄金の輝きは、白い花の花の中心にいる少女へと向かった。


「いいや、無謀だ。計画性も何もない。あの時と同じ……おまえはまた、同じ過ちを犯し同胞たちを滅ぼす!」


 黄金の輝きがマッチョお爺ちゃんの蹴りで砕かれる。

 その蹴りには明白な怒りが込められていた。


 だが注視するべき個所はそこじゃない。

 何故、彼はわざわざ、白い少女を光線から護ったのだろうか。


 あの白い花の防御膜なら、容易に弾き返せるかと思うのだが。


「……この力、何かあるのか?」


 精霊たちが協力し作り出す虹色の輝き。

 桃力や鬼力ほどの力がない事は明白なのに、でも、何かを期待させる、そんな力。


「おまえには何も救えない! あの日のように、同胞たちを見殺しにして己だけが生き残ろうとするだろう! そんな者が王であっていいはずがない!」

「さっきからわけの分からない事をっ! 俺は精霊王じゃないっ!」


 もう一度、黄金の光線をぶっ放す。

 触手の上のマッチョお爺ちゃんは、先ほどと同じく白い少女を護った。


「この程度の光素で何ができるっ!」

「おまえこそ、この光素の何が分かるってんだ!」


 この力は俺を信じた精霊たちが作り出してくれた光素。

 それを馬鹿にすることは許さないっ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 怒りを光素に乗せて解き放つ。

 その際に鬼力がそれに混ざりこんだ。


 黄金の輝きは果たして鬼力を薄めてしまったのか。

 外見は緋色のそれに近い。


 でも、それは間違いようがなく鬼力と光素で。


「っ!?」


 緋色の輝きがマキシオン防衛大臣に直撃する。

 砕け散る彼は果たして死を迎えたのであろうか。


 そんな簡単に事が進むわけはなく。


「悪足掻きを」


 別の触手からマッチョお爺ちゃんが再生した。

 やはり、本体はあの白い花の中か。


「無駄だ、何もかも。そして、【アレ】の力は私がいただく」


 白い花から視認できるほどの大きさの白い花粉が多量に放たれた。

 それは縦横無尽に宙を舞い、紫色に輝く光線を放ってきたではないか。


「っ! 魔法障壁っ……ぐわっ!?」


 魔法障壁が効果をなさない。

 壊れることなく光線を素通りさせてしまったではないか。


「な、なんだっ!? この攻撃はっ!」


 コクピットの機器のいくつかが攻撃で爆ぜた。

 その際に傷を負ったのだろう、額から血が流れてきた。


 ヘルメットくらい被っておくべきであっただろうか。


「ステータスチェック……まだ動けるっ!」


 これくらいでヘバってやるわけにはいかない。

 俺には護るべき者たちがいるのだ。


「こんのぉっ!」


 再び怒りの力を載せた緋色の光線を放つ。

 それを無数の触手を犠牲にして防ぐ白い花。

 砕け散った触手は瞬く間に再生し、それに攻撃しても効果がない事を示唆していた。


「無駄だ。おまえでは私には勝てない」

「そんな脅しで、俺たちが諦めるとでも思ってんのかっ!?」

「では、現実を教えてやろう」


 白い少女が金切り声を上げた。

 すると、無数の花粉たちが一斉に大爆発を起こしたではないか。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 激しく揺れる機体。

 機器が連鎖爆発を引き起こし、俺を焼き尽くそうとした。


「あい~ん!」

「くろ~!」


 それらから身を挺して護ってくれる鉄の精霊たち。

 その体は煤に塗れ、ところどころに痛々しいひび割れが生じていた。


「ぐっ、大丈夫かっ!?」

「あいあ~んっ!」

「くろ~!」


 諦めない、という意思がひしひしと伝わってくる。

 そうだ、ここで俺たちが諦めたら全部終わっちまう。


 許されないのだ、俺に敗北はっ!

 俺と、俺を信じる仲間がいる限り、血に塗れようとも立ち上がれっ!


 既にメインカメラは機能していない。

 ホビーアインリールにコクピットハッチを引き千切らせる。


「……しぶとい奴だ」

「そう簡単にくたばってやるもんかっ!」


 とはいえ、もうまともに戦えるとは言えないこの状況。

 正しく絶望の中の絶望。

 エルティナイトはまだ来れない。


 狡猾で計画的な破壊行為は反撃の余地を与えてはくれなかった。

 何か転機になる一手があれば、そこから逆転できると信じ光素ライフルを構える。


 真上から何かが降ってきた。それは黄金の輝き。

 不意の一撃が白い花を襲う。


 あと一歩で白い少女に命中する、かというそれはマキシオン防衛大臣が自らを盾にすることで防がれた。

 砕け散る彼はしかし、触手の先端より高速で再生される。


 天より何かが降ってきて、かつてはコロッセウムと呼ばれた戦いの地へと降り立った。

 それは無垢なる雪原を思わせる純白の機体。

 優雅で洗練されたフォルムはしかし、獰猛さを隠しきれていない。


『困るね。大会を滅茶苦茶にしてもらっては』

「ホワイトロードっ! 何故、貴様がっ!?」


 白い少女が大量の花粉を撒き散らす。

 また、防御不可能の攻撃が来る。


『私はチャンピオンだが、戦機乗りでもあるからね。君たちの行動は看過できない』

「出てこなければ、チャンピオンのままでいられたものを」


 花粉が紫色の光線を放出せんとエネルギーを溜め始めた。

 だが、その一瞬で次々と撃ち落されてゆく。


 それをやってのけたのはホワイトロードの戦機、プリンスだ。


「なっ……!?」

『生憎と私はチャンピオンの座にそこまで執着心は無いよ。これはあくまで次への土台に過ぎない』


 光素ライフルのカードリッジを素早く交換するホワイトロード。

 まるで息をするかのような自然な動作は、彼が何百、何千回と練習を繰り返してきた証か。


『でも、今回の大会は楽しみにしていた。私を燃え上がらせる選手が沢山いたからね。それを台無しにした報いくらいは受けてもらわないと、私の気が納まらない』


 再び発砲、自爆せんとしていた花粉を全て撃ち落す。

 無駄弾など一発も無い正確な射撃を、あろうことか会話をしながらおこなう彼に、脅威を感じるのは仕方がない事であろう。


『そこの戦機。ここは私に任せて逃げることを勧める』

「生憎と、逃げるわけにはいかないんでねっ!」

『やはり……その声、ジュニアか』

「理不尽に立ち向かうのに、年齢は関係ないんだぜ」


 ほんの僅かな沈黙の後にホワイトロードは『そうだな』という簡単な、でも絞り出すかのような返事を返してきた。


『出た言葉はもう引っ込めることはできない。覚悟はいいか、ジュニアの君』

「覚悟なんて戦場に立った時から決まっている! 戦機乗りなら……」

『ふっ、言葉は不要だったか。ならば行くぞ』


 絶望の中の希望。

 想定外の援軍に俺の闘志は再び灼熱を帯び始める。


 白き道は果たして勝利へと続いているのだろうか。

 邪悪なる者たちは、それすらも暗黒へと染めんと無数の触手をもたげた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] みなさん!いよいよお別れです。 アリーナを守る精霊連合は大ピンチ! しかもデビル珍獣最終形態と化したレイラが、 レフティに襲いかかるではありませんか! 果たして、全宇宙の運命はいかに? …
[一言] 白道登場 珍獣「タイミング良いな!狙ってたか?」 白道「イメージトレーニングも兼ねて 機体に乗っていたらそのまま忘れられて…」 珍獣「もういいです」(放置しなきゃ…)
[一言] 会話の内容から、「二世」に関連する奴と見ました!
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