表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/501

28食目 グマプッカ

 それから、ちょっぴり日は過ぎて三日後。


 現在、俺たちは空港があるという【グマプッカ】という人口三十万人の町へと移動中だ。

 辺境に位置する町の中でも大規模の町とあって、様々な設備が備わっているとの事。


 そのため、この町を拠点とする戦機乗りも多いらしい。


 ただし、駆け出しの戦機乗りは仕事があまり回ってこないので、ある程度の実力を持たなければ、ここでの生活は苦しいそうだ。


「おっ? あれがグマプッカか?」

「あいあ~ん」


 戦機輸送用のトレーラーの助手席の窓から身を乗り出し、見えてきた街の風景に興奮するのは白エルフの珍獣こと俺だ。


「……エル、危ないわよ?」

「大丈夫……めぱぁぁぁぁぁっ!?」


 何かが顔面にぶち当たりました。いたいっしゅっ!


「いったいなんだぁ?」

「しらしら~」


 顔に引っ付いた何かを引っぺがすと、それは羽の生えた白いお団子であった。


「……だから言ったのに」

「注意された直後に激突した件について」

「……よくあること」

「ふきゅん」


 ヒュリティアは外の景色を眺める。

 そこにはパタパタと飛び交う白玉の群れ。


 正直、なんじゃこりゃである。


「あぁ、【しらパタ】が発生する時期になっていたのか」

「しらパタ?」


 ヤーダン主任は、トレーラーの速度を落として俺の質問に答える。

 トレーラーの速度が落ちたことにより、しらパタたちは車に当たることなく、ふわふわと宙を舞い続けた。


「まぁ、一言で言うと、翅が生えている白玉かな? 生物かどうかも不明で、学者たちも頭を悩ませる存在さ」

「食えるのかぁ?」

「食べれるよ。中には自分から口に飛び込んでくる個体もいるって」


 俺の手の中に納まっているしらパタは「たべて~たべて~」と訴えかけていた。

 なので、俺はそいつを、ぱくりんちょ、して差し上げる。


 咀嚼する、とモチモチした食感とほのかな甘みが口に広がった。

 具はないようだが、かえってその方が、ほのかな甘みを壊さないで良い塩梅となっているようだ。


 とここで、しらパタの魂のようなものが、俺の中から抜け出してゆくのを理解する。


「あぁ、なるほど。こいつらは精霊だ」

「ほぇ? しらパタが精霊?」


 後部座席に座っていたエリンちゃんがお間抜けな声を上げる。

 彼女はヤーダン主任の勧めもあって、アマネック本社の見学に付いてきた。


 まだ、戦機乗りになるか、技術者になるかは決めかねているようだが、本場を知っておくことは無駄にはならない、と判断した形であろう。


「うん、大地の精霊だよ。俺の中から魔力……いや、光素を少しもって土の中に還っていった」

「……なるほど。光素を持ち帰って土を活性化させるのね」

「へ、へ~?」


 ヒュリティアはすぐに理解を示したが、やはりエリンちゃんは頭の上に【?】を浮かべて分かったふりをしている様子を見せた。


 ぜってぇ分かってねぇだろ? 白状するんだよ、おるるぁん!


「う~ん、また精霊かい? 科学万能の時代に精霊はねぇ」

「ヤーダン主任、科学は確かに万能だけど、絶対じゃないんだぜ」

「うっ、幼女に戒められた。自分の未熟さが恨めしい」


 ヤーダン主任は「そのとおりだね」と自分の硬くなった思考を反省する。


 彼は、技術者は常に柔軟な思考を持たなければならない、と主張する人物だ。

 自ら、それを破るという事は、自分を否定することと何ら変わりないのである。


「まぁ、人間は実際に自分で目撃した物しか信じられないからなぁ」

「それは、きみが白エルフという種族だからかい?」

「俺の友達の人間は、普通に精霊を見ることができたぞ」

「む……それは羨ましい。僕も見てみたいな」

「信じれば見えるようになるさ」


 ヤーダン主任は「そうだといいね」と運転に集中した。

 トレーラーの後を追うように、しらパタたちが空の散歩を楽しむ。


 彼らは野生動物たちに食べられるのが一般的であり、その後は植物たちが一気に成長する、という調査報告が上がっているらしい。

 これも、一つの食物連鎖と言えようか。


「やっぱ、この世界の食材たちは妙なものが多いな」

「……そうね」


 また一匹、しらパタがトレーラーの中に入り込んできた。

 それを口に運ぶヒュリティアは、ほんのりと微笑んでお腹を擦る。


 そこから大地の精霊が嬉しそうに飛び出して、暫くヒュリティアの周りを飛んだ後に、大地へと還っていった。


「ちょっと、多く分けてあげたのか?」

「……うん」


 トレーラーの中に入り込んでくる風は爽やかだ。

 しかし、これから夏へと向かう時期であり、冷房装置を買おうかどうかで真剣に悩んでいる。


 あぁ、また借金が増えるんやなって。






 しらパタたちとの邂逅から一時間。

 俺たちは無事にグマプッカへと到着した。


 無事といっても、まったく盗賊に襲撃されなかったわけではない。


 無謀にも「ヒャッハー」してきたタワケがいたが、ヒュリティアが助手席から身を乗り出し、ぬもももももも、と負のオーラを放ったところ、連中は「すいあせんでした」と逃げていった。


 銀閃の二つ名は、ここいら周辺でも有効であるようだ。


「ヒーちゃんのお陰で無駄な戦闘をしなくて済んだんだぜ」

「……あの連中、ここにまで逃げてきてたのね」

「まさかの知り合いだった!」


 マジで震えてきやがった。【盗賊殺し】に二つ名を改めてどうぞ。


「流石に都会は道路が混んでいるな」


 ヤーダン主任は眉間にしわを寄せる。

 普段はまったく混雑しない道路を行き来していると、この混雑が煩わしく思うのも無理は無いだろう。

 俺も【ファイアーボール】で爆破処理してしまいたい衝動に駆られている。


 もう、やっちまっていいのかもしれない。


 まぁ、流石にそれはやらかさなかったが。


 町に到着から二十分くらいして空港に到着。

 凄く大きな空港であるが、規模としては小さいらしい。


 ファンタジー世界暮らしが長くなると、なかなか勘が鈍くなるんやなって。


「さて、受付も終わったし一休みしようか」

「ヤーダン主任、出発は何時?」

「午後二時かな。今は午前十一時だから、暫くはグマプッカでも観光でもしてていいよ」

「そりゃあいい。ヒーちゃん、エリンちゃん。食堂に目星をつけて差し上げろぉ」


 俺は早速、二人を連れて昼食をどこで食べるかを吟味する。

 これは極めて重要な任務であることを伝えておく。


「あ、そういえば……ここの空港のパスタ店のカルボナーラが絶品って噂だよ?」

「ほぅ……詳しく」


 エリンちゃん情報は、戦機育成学校でのクラスメートたちから得た物であるらしい。

 きゃっきゃうふふ、な女学生たちからの情報はどれくらい信憑性があるか確かめるいい機会だ。


「うん、それじゃあ、お昼はそこにしようぜ」


 俺の提案はエリンちゃんに受け入れられた。

 しかし、ヒュリティアは口を三角形にして負のオーラを放っている。


「……ホットドッグは?」

「多分あると思うよ」

「……勝利した」


 負のオーラは解除された。俺たちは許されたのである。


「さて、お昼まで暇になったんだぜ」

「……そうね、観光でもする?」


 意外にもあっさりと昼食の場が決定してしまい、時間を持て余した俺たちはグマプッカの町を観光しようとする。


 しかし、空港内に、けたたましいサイレンが鳴り響いた。


『緊急事態発生、緊急事態発生。機獣の群れが空より空港に接近中。タイプは大鷲型。手の空いている戦機乗りは至急迎撃に参加されたし』


 どうやら、機獣たちが空港を襲撃しに来たらしい。

 なんという迷惑な連中であろうか。


「……暇潰しが来てくれたようね」

「早急にお帰り願うんだぜ」


 もちろん、俺たちも迎撃に参加だ。


 ロビーを走り抜けてゆく者たちは戦機乗りであろう。

 俺たちも迎撃に参加すべく、直ちにドックへと向かわなければならない。


「エリンちゃんは、ヤーダン主任の下へ」

「うん、分かったよ。気を付けてね、エルティナちゃんにヒュリティアちゃん」

「……問題ない、任せて」


 ヒュリティアの頼もしい返事を受けて、エリンちゃんはヤーダン主任がいるVIPルームへと駆け出す。


 さぁ、俺たちも急ごう。


 俺たちは頷き合った後に発着ドックへと駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こっちの珍獣様は、「世間ずれ」している印象です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ