287食目 暗殺者の暗殺者
◆◆◆ エルドティーネ・ラ・ラングステン ◆◆◆
えらいこっちゃな準々決勝最終試合が終わりました。
ぶっちゃけ、熊さんが居なかったら特大級の大惨事ですよまったくもう。
それに、とんぺーも頑張ってくれました。
枝の中では特に珍しい自制型の彼でなければ、飛び出した時点で大惨事だったんだけどもねっ! ふぁっきゅん!
しかし、ユウユウ閣下のあの力だ。
俺から誕生したとはいえ、シグルドの力までちゃっかり持ち出しているとか反則でしょ?
あれは桃力であって、鬼力じゃないんですわ。
鬼、きたない。流石、鬼、きたない。
シグルドに苦情を入れたところ、すまん、との短い謝罪が返ってきただけで、その後は黙秘するという。
これは何か重大な陰謀を抱えていますゾっ! 許せんっ!
俺が憤慨している、と向こうからピンクの熊さんがやってきて、問答無用で俺のほっぺを蹂躙してくれやがりました。
やめて、酷い事をするつもりでしょうっ。薄い本みたいにっ。
「ところで、薄い本ってなんだ?」
「三代目はまだ早いね」
「そうなのかー」
どうやら禁書の類らしい。こわいなー。
尚、クロエはビクンビクンしていましたが、ミオに無事救出されました。
おケツを掴んで引っ張り出されたクロエは、いや~シュールっすよぉ。
でも、無傷なのは流石だと思いました化け物ですね分かります。
「ユウユウに何、持たせてんのさ」
「勝手に持ち出したので俺は無関係。ファイナルアンサーで無実確定。勝負あったながはは風呂入ってくる」
「現実逃避してんじゃないよ」
「タスケテー」
「あぁ、ヘルプミール貝のバター焼き、美味しいよね」
「分かる」
はっ!? これは俺を現実逃避から引き戻す策っ!
見よ! 熊さんの満面の笑みをっ!
謀られたっ! 計画的っ! 恐るべきは熊さんの知略っ!
「まったく……堪ったもんじゃないねぇ。珍兵器生産工場かい」
「まことにもって遺憾である。法廷で会おうっ!」
「鬼は暴力で物事を解決するんだよ」
「ご慈悲をっ!」
既に熊さんに捕獲されている俺は哀れな珍獣だ。
抱っこされて逃げ場が無いから舌戦を繰り広げるしかない。
これも全部、ユウユウ閣下ってやつが悪いんだっ。
「クマドウジ選手とも知り合いなんだ」
「いてて……まだ、耳鳴りがしてやがる」
アーガス君とレギガンダー君はなんとか無事だったようだ。
でも、パプリカさんは白目痙攣状態で泡を吹いているし、ブルーサンダー君は立ったまま失神していた。
流石に精霊戦隊の面々は頑丈で、一人も倒れている者は……いたわ。
「H・モンゴー君、死亡確認っ」
やっぱり、H・モンゴー君はダメだなっ。
「こりゃあ、次の試合まで時間が掛かるぞ」
「闘技場が滅茶苦茶だしな」
見ての通り、酷い有様で……というか修繕する人たちも失神しているだろうし、どうしようもない。
「……けてー。たすけてー」
『ナイト、参上!』
忽然と姿を現すナイト。
黄金の鉄の塊の精神を持つ巨大な騎士が、物理法則を無視してバックステッポゥで参上。
壁をすり抜けるとか卑怯でしょ、の理論は、ナイトだから問題にぃ、ということで解決された。
「エルティナイトっ、これ直して」
『おいぃ、ナイトは土木作業員じゃないんですわ』
「直したら、今晩は豪華なディナー」
『ナイトにできない事はにぃ。おまえ、大船に乗った気でいいぞ』
現金なナイト、ちょろいですね。
無駄に器用なナイトはせっせと闘技場を修繕し始めた。
だが、ここで一つの謎が生まれてしまう。
おまえ……そのねじり鉢巻きと粘土と小手をどこから出した?
後スコップもだ。しかも園芸用のちっさいヤツ。
幾多の謎は迷宮入りし、ほんのりと平穏が訪れる。
やはり、世は迷探偵を求めていたのだ。
『直ったぞ』
「もう直った! 流石ナイトは格が違った!」
『それほどでもない。では、サラダバー!』
エルティナイトはそう言い残し、再びバックステッポゥで空間を超越した。
その内、次元も超えそうで恐ろしい限りだ。
「……なぁ、なんだあれ?」
「アーガス君、人には知らなくてもいい事がある」
「あっはい」
色々と悟ってしまったアーガス君はSANチェックです。
きっと失敗しているんだろうなぁ。
レギガンダー君は割と落ち着いている、というか、何やらを悟ったかのようでして。
「もしかして……あれ」
「後で説明するから、今は忘れるのだっ」
「お、おう」
もう殆ど答えが分かっているだろうけど、あれは自立しています。
中に人なんていませんよ。
確実にレギガンダー君の精神に大ダメージを与えたであろう突風を誤魔化した俺は、ザインちゃんと力を合わせて覚醒の精霊魔法を行使する。
「ザインちゃん、ユクゾッ」
「しょーちっ」
小さなおてて同士をぴったんこ、ついでにほっぺも、ぷにっと密着。
「精霊魔法【ドキッ☆ちょっぴり刺激的な電撃ちゃん】発動っ」
瞬間、コロッセウム内のほぼ全ての気絶していた連中が、ビョクっと足を動かした。
これは睡眠状態の者の足を電気操作によって強制的に動かす魔法であるが、歩行させるまでは至らない中途半端な魔法だ。
これを体験した者は揃って、高いところから落ちた夢を見た、と語る。
つまりはそういう事でございます。
単なる悪戯魔法だ、ってそれ一番言われているっぽい。
『ふぁっ!? いつの間にか試合が終わってるっ!?』
『あんっ、そこはらめぇ。直ぐにイっちゃう~』
『ナディアさん、起きてっ! あとなんか、とんでもない寝言をっ!?』
会場はいろいろと大騒ぎになったが俺は謝らない。
さっさと試合を進めてどうぞ。
「さて、それじゃあ、僕はお暇しようか」
「ふきゅん、いろいろありがとな」
「礼はいらないさ。あと……ちっさ」
「ひしゃしぶりにあったゆーじんにたいちて、ひどいことばでごじゃる」
熊さんはザインちゃんがお気に召したようで、ひとしきりほっぺを蹂躙した後に立ち去りましたとさ。
その後、無事にチャンピオンシップアリーナは再開。
準決勝第一試合は、オカメインコ選手が華麗に敗北する、という王道な展開で幕を閉じた。
見どころ? んなもんねぇよ、ぺっ。
問題となるのが、この後の試合。
そう、ガンテツ爺さん対ユウユウ閣下である。
ミオに勝利したガンテツ爺さんであるが、正直な話、ユウユウ閣下はもう反則ってレベルではなく。
でもガンテツ爺さんが本気を出した場合、コロッセウムが無事な姿を保っていられるかどうかが危ぶまれる。
あの大技を出した後、彼は悟ったはずだ。まだいける、と。
絶対に、この試合も暴走するぞっ。珍獣、こわれちゃ~う!
でも、その甲斐があったのか、ウィゼン王子の陰の波動がめっちゃ弱まっているという。
寧ろ感じ取れないレベル。
鬼力は力の上下関係に敏感なので、アホみたいに強烈な鬼力を認識してしまってビビっているのだと思う。
桃力メインでよかった~!
ヤルなら今ではあるが大衆の目があるので、問答無用かくご~、はできないできにくい。
ヒュリティアならやりかねないけど……。
あれ? おかしいぞ~?
なんだか、ウィゼン王子の居る特別室が騒がしい上に黒い美女の姿がないぞ~?
「……やりやがった」
なんという事でしょう、ウィゼン王子は退治されてしまったのです。
黒服さんたちが、彼の名残である王族の服を持ち上げて大パニックになっておりました。
その服からは浄化された証である、桃色の粒子がふぅわりと宙を舞い霧散してゆく様子が窺える。
「……ミッションコンプリートよ」
「暗殺者が帰ってきた」
「……鬼を退治しただけ。何も問題はないわ」
問題だらけなんだよなぁ。
あと、容赦なさ過ぎぃ!
ここからは聞かれると拙いので、念話魔法テレパスで会話だ。
『大問題になるんじゃないかな?』
『……チャンピオンシップアリーナ中は大丈夫。実に最高のタイミングだったわ』
淡々と語る彼女は、しかし、ゆっくりはできないようで。
『……あとは黒幕ね』
『ふきゅん? ウィゼン王子じゃないのか?』
『……あれは弱い心につけ込まれて、いいように使われていただけよ。もう利用価値も無かったのか放置されていたようだし』
『むむっ、つまり、どういうことだってばよ?』
『……国王と王妃の暗殺、そして、チャンピオンシップアリーナの開催までが彼の役目だった、ということね。あぁ、それと王妃は既に殺されていたわ』
『王妃は殺されていたのか』
『……公式では二ヶ月前から別荘で休養、という事になっているけど、実際そこで襲われたらしいわね』
『王様より先に暗殺されていたってこと?』
『……そういう事。そして、それを指示した者こそ、今回の騒動の黒幕ね』
ヒュリティアはテレパスを終える、という仕草を俺に見せたので念話を解除する。
「……エル。一度、クロナミに戻るわ」
「ルナティックを持ち出すのか?」
「……えぇ、そろそろ仕掛けてくると思う。だから、エルティナイトもコロッセウムの周辺をうろついているんじゃないかしらね」
「でもあいつ、今、繁華街でホットドッグ店のメニュー表を眺めているっぽい」
「……少し遅れるかもしれないわ」
「あっはい」
この情報は伝えるべきではなかったか。
エルティナイトとリンクしている俺は、あいつの視覚をある程度共有できる。
でも大抵はろくなものじゃないので、普段は遮断してます、はい。
ホットドッグジャンキーさんは疾風のごとく走り去りました。
ほんと、揺るぎねぇな、おぃ。
着々と進んでゆくチャンピオンシップアリーナと黒幕の思惑は、果たしてアリーナ戦士たちを巻き込んでの大騒動へと発展してしまうのか。
そういえば、レフティコーチたち、遅いなぁ。




