282食目 混沌のアリーナ
さて、精霊戦隊に新たなる仲間を加えたところで、俺の成すべきことはあと一つ。
実際はもっと沢山あるけど、これはアリーナ戦士として、ということだ。
「アーガス君、約束通り、決勝にまで上がってきたぞ」
「あぁ、決着を付けようぜ」
俺の超パワーを目撃したであろう彼は、しかし、一切の戸惑いを見せなかった。
そんな彼に頷くのは元チャンピオン・ブルーサンダー選手。
相手にとって、一切の不足なし。
何よりも、レギガンダー君を救う、という大事を成し遂げた今、純粋にバトルを楽しめることができる。
そしてきっと、これが俺にとって最後のアリーナ戦士としてのバトルになるに違いない。
悔いの残らない試合を。
この試合に、今の俺の技術の全てを注ぎ込む。
桃力も、光素も、さっきの白い力も使わない、純然なる楽しいバトルを!
でも、そんな俺たちに水を差す者が現れた。
「あっ、丁度揃ってますね。決勝が延期になりました」
「「えっ?」」
選手控室にひょっこりと顔を出した案内係のお姉さんは、先ほどの準決勝にて、お互いの戦機の修理に時間が掛かることを伝えてきました。
「「なにも言えねぇ」」
「大丈夫ですよ。今、パーツを輸送中ですので、交換が済めば試合ができます。でも、少し遠い工場からの輸送なので、ジュニアリーグの決勝は多分、本リーグの試合が終わった後になるでしょうか」
コアブロックシステムが採用されている戦機は破損部分さえ交換してしまえば、即座に戦場へ復帰できる戦闘兵器である。
でも、それはパーツが揃っていることが前提であり、カスタム機などはオーダーメイドの場合が多いため、あまりパーツが備蓄されていないようだ。
俺が乗っていたアインリールは型が古いらしくて、新しいホビーアインリールのパーツを接続した場合、不具合が生じてしまうらしい。
なので、旧式のパーツを工場から探し出して運ぶ、という手間隙を掛けてくれていた。
「一番最後かぁ。それまで、大人たちのバトルを観てようぜ」
「そうだな、アーガス君がそれでいいってなら」
俺たちは案内係のお姉さんに見送られて本リーグの観戦へと向かう。
選手用の観戦席はこれまでに敗退した者たちも集っていた。
今日は閉会式もあるので、参加選手たちもここを使用することが許されているのだ。
「あっ、レッドバレット。それにトウキチロウ」
「よっ、リリラータ」
「おっす、パプリカちゃん」
「だから、パープリータと言っているでしょうっ!?」
相変わらず生真面目なパプリカさんに一安心。
どうやら、しっかり立ち直っているようで、やっぱり一安心。
「パープリータ」
「レギガンダー選手……」
そんな彼女に頭を下げるのはレギガンダー君だ。
「ごめん。俺、手を出しちゃいけない力を手にしてた」
「正気に戻ったんですのね」
深々と頭を下げるレギガンダー君の手をリリラータちゃんは手に取り、自分の手を重ねた。
「過ちを認め、謝罪できる方は尊敬に値しますわ。そのような方ですもの、もう私がどうこう言う事はありません」
「ありがとう、パープリータ」
レギガンダー君のはじめの一歩は、リリラータちゃんに許された。
小さな一歩であるが、大きな一歩であると俺は感じた。
これを積み重ねてゆけば、いつか自分を許せる日がやって来るだろう。
その日が早くやって来るように、俺はささやかな祈りを捧げる。
「ブルーサンダー選手もお疲れ様でした。まさか、敗れる日が来てしまうだなんて」
「僕もそうさ。でも、悔いはない。そして、新たな目標もできた」
険しかった表情も消え失せ、ブルーサンダー選手の顔には年相応の幼さが垣間見えた。
でも、アリーナの話になると話は別のようで。
「次からは僕も挑戦者さ。だから……絶対に勝てよ」
とすっ、とアーガス君の胸板を小突く。
「あぁ、俺に負けた連中の夢を背負ってるんだ。負けられるかよ」
不敵に笑って見せる赤毛の少年には、確かなる覚悟と責任を持っている、という事が理解できる。
そうか、そういう考え方もできるんやなって。
俺もパリパリポテトチップちゃんの夢を背負わなくてはっ。
というか、誰だ? あれ? 一回戦の相手ってだれだっけ?
ダラダラと嫌な汗が止まりません。
これも鬼の種ってやつが悪いんだ、俺は悪くない。
「エルティナは気負わなくていいぜ。俺の事で気を遣わせ過ぎちまったし、何も考えずにバトルを楽しんでほしい」
「レギガンダー君にそう言われると心が軽くなるな。分かった、思い残すことなくバトルを楽しむんだぜ」
「そう来なくっちゃな」
この言葉を受けてアーガス君は俺に拳を突き出した。
その拳に、俺は拳を合わせて返答とする。
「絶対に負けないんだぜ」
「それはこっちのセリフだ。負けて泣くんじゃねぇぞ」
にかっと笑い合って、いよいよ本リーグの準々決勝が始まろうとしていた。
準々決勝の最初の試合は絶対王者、ホワイトロードの試合だ。
でも、それは試合といえるようなものではなく。
『つ、強い! 強過ぎるっ! ホワイトロード選手、相手を瞬殺だっ!』
試合開始から僅か三秒の出来事。
相手が格下であることもあったであろうが、それにしたって準々決勝にまで上がってきた選手をこうも易々と下されては堪ったものではない。
「ホワイトロード選手の機体って、なんだ、あれ」
「テトラレックス社の開発したミスリルクラス戦機、【ホワイト・プリンス】ですわ」
細身でシャープな形状は純白に覆われ、細やかな黄金の意匠はなるほど、王子の気品に満ち溢れている。
でも、そこから放たれる闘気に気品などありはしない。
貪欲で、あまりに乾いた飢えのようなものは、鬼力と一瞬、勘違いしてしまいそうになる。
ある意味で、破滅願望のようなものさえ感じてしまうのは、ホワイトロード選手が強者を誰よりも求めているが故か。
「確か、オーダーメイドの一品物だったっけ?」
「えぇ、そうですわ、ブルーサンダー選手。ホワイトロード選手の能力を最大限に発揮するべく建造された至高の戦機。ゴッズクラスの戦機に匹敵する、という規格外の戦機ですのよ」
「ふきゅん……それでコアブロックシステムが採用されていないのか」
「よく見ていらっしゃいますわね、トウキチロウ。そう、反応速度を追求した結果、コアブロックシステムの利便性を捨てる事に繋がりましたの」
「やっぱり、コアブロックシステムだと反応速度に劣るのか?」
「えぇ、お父様の話によるとですが」
それでエルティナイトにコアブロックシステムが無くなったのか。
確かに、ホビーアインリールを操縦していると反応がやたらと遅く感じる。
きっとそれは関節部分が完全に切り離し可能になっているからだろう。
整備には都合がいいであろうシステムも、事戦闘になると性能がダウンしてしまうジレンマ。
しかし、戦機での戦いというのは戦機乗りだけのものではなく、裏方に回ってくれている整備員の尽力あってのものなのだ。
うちで言うならアナスタシアさんたちという事になろう。
今じゃ、彼女たち整備チームの力無くして精霊戦隊は立ち回らないのである。
尚、エルティナイトは飯さえやっていれば多少の傷なら勝手に治る。
ほんま、なんやねん、きみ。
準々決勝第二試合は、ぶっちゃけ退屈な試合となった。
確かに腕のいいアリーナ戦士たちであったが、ホワイトロード選手の試合の後だと凄みが無くなってしまう。
試合の内容も堅実な戦いぶりをぶつけあうというもので、オカメインコ選手が僅差の判定勝ちを手にした。
万が一にもホワイトロード選手が彼女に負けるという事はないだろう。
そして、意外にも女性のアリーナ戦士が多いことに気付く。
きっと、生き死にの戦いにならないから、なのだろうか。
「次の試合が問題なんだよな」
「ガンテツ選手とニャンガー選手か」
「そう、それ。またうちの連中が激突する」
ミオはヒュリティアに勝利して勢いに乗っている。
対してガンテツ爺さんは淡々と勝利を積み重ねていった。
両者の差は強敵に当たっているかどうかだが、ガンテツ爺さんはめっぽう強いため、強敵と呼べる存在がイマイチ分からない。
果たして、どちらが準決勝にコマを進めるのか、これがどちゃくそ分からない。
そして、ミオがもし勝つと、今度はきっと勝ち上がってくるであろうクロエとのバトルになる。
それに勝つと今度は……ユウユウ閣下か虎熊童子とやり合う事になる。
うん、終末戦争か何かかな?
本リーグに参戦してなくてよかったわー。
でもって、ちょっとここら辺がややこしい。
チャンピオン有利のトーナメント表なので、何故かクロエが一戦多いのだ。
これは、どうやら今年だけの出来事のようで、博徒どもも何かの陰謀では、とひそひそ話を交わしていた。
ぶっちゃけ、陰謀以外のなんだというのだろうか。ぷじゃけんなっ。
「接近戦のニャンガー選手か、それともトータルバランスの優れるガンテツ選手か。いずれにしても目が離せないバトルになりますわ」
「できるだけ、技術を盗まないとな」
「レッドバレットに賛成だ。本リーグに上がるのであれば、いつかはやり合う事になるかもしれないし」
あー、ブルーサンダー選手は俺たちがこの一件が終了したら撤退することを知らないのか。
でも、そんなキラキラした目を見ちゃったら、今は言い出せない言い出しにくいっ。
だから俺は、沈黙の珍獣になるだろうな。
白目痙攣状態で我慢の子になっていると、いよいよミオ対ガンテツ爺さんの試合が始まろうとしていた。
オッズ的にはガンテツ爺さんが有利か。
でも、一発があるという博徒の支持もあってか、ミオの人気もかなりのもの。
まったく予想が付かないこの一番、果たして勝ち上がるのはどちらであろうか。




