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27食目 ホビーブリギルト

 腹が満たされたことで次なる行動に移る。

 調理は俺が担当、あと片づけはヒュリティアが担当だ。


 彼女が食器を洗っている間に、俺は日課になっているマーカス工場の掃除を開始する。


 普段はエルティナイトで清掃を行うのだが、現在はヤーダン主任が狂気の表情を見せながら内部構造を調べているので使用できない。


 仕方がないので【ホビーブリギルト】という子供用の戦機を使用して掃除を行う。

 エリンちゃんがエリン剣を製作するにあたって使用したのが、この機体だという。


 子供用とあって、機体の大きさは通常機と比べて半分。

 機体性能も大きさに見合う程度にダウンしている。


 しょせんは子供の玩具として開発された機体なので、過度の期待は持ってはいけない。

 ホビーブリギルトは戦機に慣れるための練習機、と言ったところで、お金持ちや貴族といった上級国民たちが子供に買い与える戦機という立ち位置にあった。


 マーカスさんは、不要になった中古ホビーブリギルトを購入し、修理してエリンちゃんに与えたらしい。

 結果、彼女は見事に才能を発揮して今に至るというわけだ。


 彼女が成長し乗れなくなってからも、エリンちゃんはこのホビーブリギルトを整備していた。

 それは、戦機の勉強の意味合いも持っているようだ。


 製造から約二十年経って尚、良好な動作を見せるのは彼女の丁寧な仕事の為せる業であろう。


 子供用とあって、コクピットは小さい。

 即ち、それは俺にとって戦機操縦の練習にもなった。


「なんだか、不思議な感じなんだぜ」

「あいあ~ん」

「ぶろろ~ん」


 やはり、ホビーブリギルトにも精霊が宿っている。

 それは青銅の精霊であるが、ブロン君よりも遥かに小さい精霊だ。


 しかし、彼から放たれる力は、ブロン君にも負けず劣らずである。

 それはきっと、エリンちゃんから注がれる愛情の為せる業であろうことは明白であった。


「エルティナイトと似たようなコクピット内だけど……感覚、というのかな? 違うように思っちまう」


 操縦方法は変貌してしまった元アインリールとは全く違う。

 元アインリールことエルティナイトは操縦レバーを一切動かさない。


 とにかく、アイン君と繋がっていればいいので、俺は光素を流し続けるだけなのだ。


 しかし、ホビーブリギルトはそうはいかない。

 実際に操縦桿を操作して、フットペダルを踏み込まないと歩いてもくれない。


 というか、それが通常であり、エルティナイトは異端であることは否定できない。


「自動車と似ているようで違うなぁ」


 一応、前世では普通自動車免許証を持っていたので、フットペダルの意味を理解できる。

 ただ、フットペダルが三つあるうちの一つはクラッチペダルではなく、前進、後退を切り替えるペダルになっていた。

 そして、ギアチェンジはなく、アクセルペダルの踏み込み具合で速度が変わる。

 思いっきり踏み込むと、機体も思いっきり踏み込んで突撃するという使用らしい。


 ブレーキペダルも二段階あり、一段階目はブレーキの意味合いを持つが、更に踏み込むとカチッとした抵抗と共に最後まで踏み込める。

 すると、戦機はしゃがみ込むのである。立ち上がる時は普通にアクセルを踏むらしい。


 右折左折は、右座席のレバーを使用する。

 これは車のハンドルの片手版のようなもので、右に回すと戦機が右に旋回し、左に回すと戦機も左に旋回するというシステムである。


 左のレバーは主に使用武器の選択と攻撃に使用する物であり、こちらも回転する構造となっていた。


 右回転で武器を選択、レバーの先端にあるスイッチで実行、という感じだ。

 つまり、箒を選択しスイッチを押せば、ホビーブリギルトは、さっさっ、と箒でゴミを掃いてくれるのである。


 とはいえ、この操縦システムは旧式であり、現在生産されている戦機は違う操縦系統に改められているそうだ。

 即ち、俺がこの戦機で学んだことはあんまり意味がない。悲しいなぁ。


「ゲーム感覚だけど、移動の際の振動とか圧を考慮すると、操縦に集中できないなぁ」

「あいん?」


 やはり、俺は感覚的に操縦する方が向いていることに気が付く。

 ヒュリティアみたいに、全てを把握して計画的に物事を運ぶことはできないのだ。


 料理も意外と適当で大雑把だしな。


「よし、お掃除も終わりなんだぜ」

「ぶろ~ん」


 沢山の光素を貰ったちびブロン君は大はしゃぎだ。

 ホビーブリギルトも心なしかキラキラと輝いて見える。


「さて、エルティナイトは、いつから使えるのかな?」


 装甲を全部外されて、いや~ん、な姿となっているエルティナイトを観察する。


 完全に別物やんけ、と素直に思いました。


 ヤーダン主任によれば、バトル前と後では更に構造が変化し、機体内部を護るかのように鋼鉄の筋肉が生成されてしまっているという。

 現状の設備ではこれ以上の研究はできないらしく、彼はアマネック本社に問い合わせをしている最中だという。


 アマネック本社はエンペランザ帝国の帝都【ザイガ】にあるそうだ。

 もしかしたら、そこにまで行く可能性があるのかな、とぼんやり考えているとヤーダン主任が欠伸をしながら二階から下りてきた。


「ふぁ……おはようございます」

「おはようなんだぜ、ヤーダン主任。エルティナイトは、いつから使っていいんだ?」

「あぁ、そのことなんだけど、昨日の深夜に本部ラボの使用が決定してね」


 ヤーダン主任は案の定、俺の同行を求めた。

 行き先はエンペランザ帝国帝都ザイガである。


「ザイガはここから遠いの?」

「そうだね、輸送機に乗ればそこまでかからないけど、ここから戦機だと一ヶ月掛かるかな」

「クッソ遠いじゃないですかやだー」


 ヤーダン主任は「そうだね」とボサボサの頭を掻いて苦笑した。

 続いてマーカスさんも二階から下りてくる。


「おう、おはようさん。ヤーダン主任、昨日の話か?」

「はい、エルティナさんに話を持ち掛けたところです」


 ふむ、とマーカスさんは俺に向き直った。


「それで、おまえさんの決断は?」

「取り敢えずは行ってみるんだぜ。そういう約束だし」

「ふふん、そいつぁ好都合。ヤーダン主任、もう一人追加でいいか?」


 マーカスさんは俺の決定に悪い顔を見せた。

 その顔を見て気にもしないのはヤーダン主任だ。


「えぇ、構わないでしょう。エリンさんもいい勉強になるかと」

「エリンちゃんも同行するの?」

「はい、彼女は有望ですからね。私としては戦機乗りという危ない職業ではなく、開発者になってほしいところです」


 ヤーダン主任にそこまで言わせるということは、エリンちゃんにはそっちの才能の方が高いという意味なのだろう。

 確かに、と俺もそう思う。

 エリンちゃんは少しおっとりとしている部分があり、咄嗟の判断力が少し欠けているようにも感じる部分があった。


 それでは、命のやり取りの場にあって致命的だ。

 確実に命を落とすであろうことは目に見えている。


「俺も実戦を経験した者として、エリンちゃんは開発者が合っていると思うんだぜ」

「おまえもか? エリンは、ちょっとトロい部分があるからなぁ」

「あぁ、昨日の件ですか?」


 マーカスさんとヤーダン主任はため息の後に苦笑いを見せる。

 どうしたか、と問うても二人は首を振るだけであった。


 マジに何をやらかしたんだ、エリンちゃん。


「とにかく、エリンさんの件は僕がなんとかしましょう」

「よろしく頼む。お前も、しっかり自分の相棒を調べてもらう事だ」


 俺は「分かった」と返事をして旅支度を開始する。

 まずは、ヒュリティアに報告からだ、と彼女の下へと向かうのであった。


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[一言] ますますエヴァ化してゆく・・・
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