276食目 激突 ~蒼と真紅~
『ブルーサンダー選手とレッドバレット選手のバトルが始まろうとしております。解説のナディアさんはどのように予想されますか?』
『難しいですね。昨年までなら、迷うことなくブルーサンダー選手と言ったでしょうが、今年のレッドバレット選手は一味違うんですよ』
『と申されますと?』
『はい、今年のレッドバレット選手は粘り強さが顕著なんです。データからも、終盤の十五秒での逆転勝利が非常に多い。つまり、チャンスを逃がさない選手へと成長したわけです』
『つまり、一発逆転もあり得る、と』
『はい。いずれにしても、瞬きのできない試合になることは確かかと』
『これは楽しみな試合になりそうです。実況は私、ぺララーナがお送りいたします』
すまん、実況解説のお姉さんズの名前、今ようやく知ったわ。
ふっきゅんしゅ、と選手専用の観戦席へ座る。
お子様たちの姿は殆どないが、その代わりに大人たちの姿がチラホラと。
彼らはどうやら、ジュニアから本リーグへと上がってくる少年少女たちを評価するスカウトマンたちであるもよう。
つまり、いつかアーガス君たちもレフティコーチの下から巣立つ日がやって来る、という事になる。
そのスカウトマンたちが俺の方を一斉に見て、一斉にぷいっと顔を逸らした。
くっそ失礼過ぎるので精霊魔法【あなたに捧げる安らかなるひと時】を発動。
心優しい俺は、無礼極まりない者たちに安らかなる眠りをプレゼントしてあげました。
おめぇら、疲れてんだるるぉ? 死ぬほど喜んでください。
げっげっげっ、と暗黒的笑いを上げた俺は上機嫌。
これで、邪魔されることなく試合を見ることができるというもの。
「……上出来よ」
「ふきゅんっ!? ヒーちゃん?」
音も無く姿を現したのは、ここ暫く姿を見なかった黒エルフの少女だ。
「今までどこに行ってたんだよ?」
「……いろいろとね。でも、今日で全て片が付くわ」
「マジか?」
「……マジよ。それよりも、エルも備えておいてちょうだい」
「え? あ、うん」
「あと、マーシとかいう男は【黒】よ」
「ふぁっ!?」
ヒュリティアは言うだけ言って、また風のように立ち去っていった。
いや、そうじゃない。
マーシさんが黒とは、どういうことだ。
温厚そうで、子供好きのマッスルお爺ちゃんにしか思えないが。
彼から伝わってくる波動も善なるものに間違いない。
なのに、黒という事があるのだろうか。
ヒュリティアが嘘を吐くような人物とは思えないし、彼女がそう言うからには証拠を掴んでいるという事。
「いったい、裏では何が起こっているんだろうか?」
でも、明確な指示がない、という事は、俺は俺のやるべきことをやれ、という事。
だから、レギガンダー君を救った上で優勝しろってことなのだろう。
なんだ、簡単だな!
『大変にお待たせいたしました! ジュニアリーグ、準決勝! ただいま開始いたします!』
いよいよ、アーガス君にとっての大一番が始まる。
相手は越えなくてはならないが、越えられない壁であるチャンピオン。
過去にも敗北を喫した相手に、どう立ち向かうのか。
『華麗さの中に苛烈な狂暴性を秘めて! 青く迸る稲妻が敵を焼き尽くす! ジュニアリーグ三連覇を掛けて、未来の本リーグチャンピオンが今ここに! ブルーサンダー選手の登場だっ!』
ブルーサンダー選手の機体はスリアムに高機動型のスラスターユニットを装着した物、という実にトチ狂った構成になっていた。
しかも、手にしているのはランスと大盾という。
『おっと! ブルーサンダー選手、決勝用に用意した、という蒼い機体を準決勝で使用してきましたっ! これはどうでしょう!?』
『これは明らかにレッドバレット選手を意識しているのでしょうね』
『それほどまでに、レッドバレット選手が脅威になった、と考えても!?』
『恐らくは』
まさか、突撃戦法だけで勝つつもりであろうか。
そんな風に考えていたが、よくよく見るとランスの根元の部分に銃口が見えた。
なるほど、アレは突撃槍であり、射撃にも対応しているというわけか。
ピンときた。
ナイトにランスは付き物なのだから、ヤーダン主任に作ってもらおう。
きっとエルティナイトも喜ぶだろうし。
『敗北するたびに強くなって帰ってくる! 不屈の闘志は不死鳥のごとし! 燃える弾丸、レッドバレット選手の登場だ!』
『レッドバレット選手も決勝で使用するはずだった機体を持ち出してきましたね』
『本当です! 真紅に染まった【アインリール・カスタム・069】だっ!』
『これは第二次大戦中に活躍した【真紅の閃光】が駆った機体を参考にしたという高速戦闘仕様機ですね。限界まで装甲を削って軽量化したピーキーな機体です。一撃でも攻撃を喰らったらお終いですよ』
アーガス君も、とんでもない機体を持ち出した物だ。
といっても、ブルーサンダー選手も同じようなものだったり。
スリアムの装甲は極端に薄い。
にもかかわらずスラスターユニットを装着しているのだから、突進中に攻撃を受けたら大惨事確定だ。
この事から、勝負は一瞬。
そして呆気なく勝敗が付くものと思われる。
突進力のブルーサンダー選手か、軽量化からの運動性を取ったレッドバレットか。
いずれにしても、この90秒で全てが分かる。
『レッドバレット』
『なんだ?』
『お互いに、悔いの無き戦いを』
『あぁ、もちろんだ!』
お互いに、ニヤリ、と笑みを浮かべる。
バトルが楽しくて仕方のない表情に、俺はほっこりとした。
そうだ、この大会はこうあるべきなのだ。
だから、俺はこの次の戦いに勝たなくてはならない。
アリーナに清浄なる戦いを。
『試合! 開始!』
準決勝が始まった。
ぶっちゃけ、事実上の決勝とまで言われている試合だ。
予想通り、高機動型スリアムは突撃攻撃。
しかし、大盾を構えてのランスチャージは理に適っている。
しかも、ランスには機関砲が備わっているのだから、やり難い事この上ないだろう。
「えげつねぇっ!」
思わず声に出る。
だが、アーガス君は何も対策していないわけではなかった。
真紅のアインリールカスタムの左腕に小型の盾が備え付けられていたのだ。
それで必要最小限の動きで弾丸を弾いている。
小型盾を装備しているためか、いつもの狙撃銃は装備していないもよう。
取り回しの利くバレルの短いライフル銃を手にしている。
なので、両者には遠距離戦はあり得ない。
激しい近接戦闘で決着が付くであろうことを予期させた。
『ブルーサンダー選手! ランスの射程範囲!』
『機関砲付きのランスを、ここまで使いこなすアリーナ戦士は本リーグにも記憶にありません。果たして、レッドバレット選手はどう対処するのでしょうか』
ガチガチに守りを固めての突撃は、やり難い事この上ない。
俺であったなら、真正面から受け止めるであろうか。
しかし、それは規格外のパワーを持つエルティナイトに乗っていた場合に限る。
普通のアインリールに乗っていた場合、真正面から受け切るのはまず不可能だ。
であれば……光素の縄で【蜘蛛の巣】のような物を作り出して雁字搦めにするのが手っ取り早いか。
いずれにしても、それらが使用できないレッドバレットは正攻法でブルーサンダー選手をどうにかしなくてはならない。
厳しい戦いを強いられながら、どうやって勝利をもぎ取るのか。
『もらうっ!』
『この日のために、自分を追い込んできたんだっ! 早々に終わって堪るかよっ!』
ランスの連続突きをやはり最小限の動きで回避。
追撃の機関砲もしっかりと避けれている辺り、レッドバレットの操縦技術は子供のそれではない事を窺わせた。
しかし、回避一方で攻撃に転じることができていない。
だが、俺はそれでいい、と感じていた。
『レッドバレット選手! 防戦一方!』
『いえ、それでいいと思います。問題は攻撃に移るタイミング。それまで堪え切れるかどうかです』
『といいますと?』
『お互いに装甲を限界まで削った機体ですから、どうしても一撃必殺の決着になります。なので下手に手を出して隙を作れば、そこでバトル終了になることは確実かと』
『なるほど! それがレッドバレット選手の回避に徹する理由なんですね!』
どうやら解説さんも俺と同じ考えに至っていたようだ。
だが問題は90秒間回避し続けれるかどうか。
反撃に転じる残り時間が15秒くらいとして、75秒間もの間、この猛攻を凌ぐのは正直な話、無理というもの。
俺なら我慢できなくて、ヒャッハーしちまう攻撃にレッドバレットは実によく耐えている。
ふと残り時間を見る。
これだけの攻防だというのに、たった30秒しか過ぎていない。
互いに高機動、高運動性の機体はここまで激しい動きを見せても時間を余らせるのか。
残り60秒。
二人の少年は決着の瞬間を虎視眈々と狙っていた。




