270食目 ほんの僅かな隙間
高機動型アインラーズが、まさかの突撃。
小細工一切なしの突進に、寧ろ虎熊童子の方は驚愕しているかのようにも見えた。
『そこまでやって置いて、攻撃には考えが回らなかったかぁ?』
『さて、どうでしょうね?』
ヤーダン主任はライフルを発砲。
それらは全て命中したものの、赤黒い輝きによって全てが消失させられてしまった。
『効かねぇなぁ。それとも優勢勝ちを狙ってヒット数を稼ぐってかぁ?』
『それもいいですね。でも、僕はそんな勝ち方をしたくはないんですよ』
『欲張りな女だなぁ!』
ヤーダン主任が赤黒い縄の射程範囲に収まったことで、虎熊童子は再び彼女を拘束せんと触手を伸ばす。
がしかし、それらを空中にてアクロバティックに回避するアインラーズ。
これは見惚れてしまっても仕方がない。
『華麗っ! アクアクンママ! トラクマドウジの猛攻を蝶のように舞ってかわしたっ!』
『でも、相変わらず攻撃は効いていません。苦しい展開が続いてますね』
そう、解説さんの言う通り、攻撃がまるで通じていない。
これではいくら攻撃を当てても勝利することは難しいし、判定勝ちに持ってゆこうにも一撃でも喰らったら判定はあっさりひっくり返されてしまう。
背水の陣という表現も生ぬるいこの状況で、ヤーダン主任はどうやって勝利するというのだろうか。
あるいは、ただの負け惜しみで勝利すると言っている?
それとも本気で第二ラウンドで決着を?
それはいけないっ。
やり方は分からないけど、それはお子様を爆誕させる儀式だ、って知識が漠然と記憶に残っているっ!
人間と鬼子ハーフが加わったら、もう精霊戦隊は何が目的の集まりなんだか分からなくなっちゃ~う!
……と思ったけど、ユウユウ閣下って人間と鬼とのハーフ説。
この間、一緒にお風呂に入った時にそう言ってたから今更だった。
なんだ、何も問題はないな!
あ、ユウユウ閣下のおっぱい、凄かったぞー。
湯船にぷかぷか浮いてたから、ぺちぺち叩いてやったぜ。
ちょっとしたリズムゲーム的で面白かった。
そのあと、ほっぺをぷにられまくったけどな。
「はっ!? 俺はいったい何をっ!」
「ど、どうしたんだよ、エルティナ」
唐突な俺の叫びに、アーガス君が怪訝な表情を見せましたが俺は元気です。
俺が現実逃避している間にも試合は進んでおり、残り時間30秒を切っていた。
その間も、ヤーダン主任は触手を回避しながらライフル弾をアインドーガに叩き込んでいたが、ここで残弾が尽きてしまう。
すると、カートリッジ交換ではなく、銃その物をアインドーガに向かって投げつけたではないか。
『うおっ!? 自棄になったか!』
『そんなわけないでしょう』
虎熊童子は咄嗟に金棒でそれを弾いてしまった。
これは判断ミス。
そんなことをしなくとも、特殊な力を付与されていないライフル銃は鬼力に喰われて消滅する。
その一瞬の隙をヤーダン主任は見逃さない。
背部スラスターを全開にして、アインドーガの懐に飛び込むという暴挙。
『血迷ったかぁ!? 女ぁ!』
『私は正気ですよ?』
そして、腰に備え付けていた六本ある柄の内の一つを手にして、アインドーガに突き立てる。
場所は致命的な部分にならない、右太もも部分。
どうやら、手にした柄はレーザーナイフのようだ。
いや、そうじゃない。
俺は何故、レーザーナイフがアインドーガに突き刺さった光景を目撃しているんだ?
『なっ!?』
それは虎熊童子も同様であったもようで、相当に驚いていた。
これはいったい、どういうトリックなんだ?
こんなことが、あってもいいのか?
『やはりそうですね。一瞬ですが、その不思議な力が途切れるタイミングがありますよ』
『なんだと……まさか、さっきの攻撃はっ!』
『えぇ、確認ですとも』
再びアインドーガから離れるヤーダン主任。
機体をアインドーガの金棒が掠めるもダメージはない。
『トラクマドウジ! 今大会初のダメージだ!』
『受けた場所は右太もも。致命傷ではないとはいえ、移動制限が掛かりますよ』
でも、虎熊童子の場合は触手で手繰り寄せればいいだけの事だから、なぜそこに突き刺したのかこれが分からない。
もしかすると、僅かな隙間がそこしかなかった?
だとするなら、やっぱり判定勝ちを狙っているのだろうか。
『さぁ、残り時間もあと僅かっ! これが最後の攻防になるかっ!』
残り15秒。
実況さんが言うように、これが最後の攻防になるだろう。
だが、ヤーダン主任は逃げまわらないで突撃。
大人しそうな顔をしていて、相当な勝負根性でございます。
『逃げまわらねぇのかい?』
『それは僕の趣旨に反しますので』
両者とも獰猛な笑みを見せ、最後の攻防に臨む。
ヤーダン主任のアインラーズは両手にレーザーナイフ、迎え撃つ虎熊童子は膨大な数の赤黒い縄に金棒と鉄壁の布陣だ。
にもかかわらずヤーダン主任はそこに突貫した。
『血迷ったかぁ!? アクアクンママ、難攻不落の赤黒い壁に突っ込んだぁぁぁぁぁっ!』
『これは悪手ですよっ、アクアクンママっ』
誰しもが虎熊童子の勝利を確信する。
最後の最後で一手を誤った、と皆が皆、思ったのであろう。
機券の花吹雪が舞う中、ヤーダン主任は突如、機体を地面に這いつくばらせた。
同時にガコンという音。
そして、単独で飛行する背部スラスター。
『んなっ!?』
『僕からのプレゼントです』
続いて手にしたレーザーナイフを背部スラスターに投擲する。
それは鬼力の壁に衝突し消え去る前に命中。
背部スラスターユニットを爆発させることに成功した。
『うわっとぉ! アクアクンママ! まさかの背部スラスターユニットを囮に使用したっ!』
『これがあるから、アクアクンママは怖いんですよ』
爆発による黒煙が視界を潰す。
これがヤーダン主任の狙いか。
『殺った!』
『やらいでかぁっ!』
金属が切断される音と叩き潰れる音が黒煙の向こうから同時に響いた。
その全貌はいまだ見えない。
『じ、時間ですっ! 両者、そこまでっ!』
ここでタイムアップ。
果たして、勝ったのはどちらか。
パイロットが存命なのは巨大スクリーンを見れば一目瞭然。
問題は決着を判断する機体の状態。
ようやく黒煙が晴れてきた。
両機の全貌が見える。
ヤーダン主任のアインラーズは、なんとアインドーガの右腕を切断していた。
右腕といえば金棒を持っていた方の腕だ。
つまり、唯一の武器を所持していた方となる。
これはポイントが高かっただろう。
だが、それは無意味だった。
虎熊童子のアインドーガは残った左腕で、ヤーダン主任のアインラーズのコクピット目掛けて手刀を突き入れ、そこを掌握していたのだ。
つまり、最初から右腕を犠牲にしてヤーダン主任を仕留める判断を下していた、という事になる。
虎熊童子は粗暴な部分だけが目立って見えていた。
だがヤツは、肉を切らせて骨を断つ、という戦いができる冷静さを持っていたのだ。
これは脅威以外の何ものでもない。
嫌な汗が頬を伝う。
これが……虎熊童子。
鬼の四天王なのかっ!
『は、判定……! 1対2! トラクマドウジ選手の判定勝ちですっ!』
とんでもない激闘に、大歓声とため息が混じった。
主に純粋なバトルマニアの方々が称賛を。
不純なアクアクンママのファンがため息をだ。
『くっくっくっ、おまえ、良い女じゃねぇか。是が非でも、俺の女にする』
『試合は僕の負けですけど、男と女の勝負に負けるつもりはありませんよ』
あっさりとヤーダン主任の居るコクピットブロックを手放し、アインドーガは闘技場を去っていった。
アインラーズの方は自走不可能なので救護班がヤーダン主任の脱出を手伝っている。
本当に凄い戦いであったことは間違いないだろう。
そして、虎熊童子があっさりと手を引いたことも。
ようやくコクピットから出てきたヤーダン主任は、応援してくれた観客たちに手を振る。
すると再び大声援が沸き起こったではないか。
どちらかといえば女性の声が強く感じる。
そして『第二ラウンド頑張って』との声も。
頭が痛くなる案件を思い出させないでくれよなー頼むよー。
こうして、ヤーダン主任と虎熊童子の戦いは、無事? に終わった。
残すのはクロエと熊童子との試合だ。
これも熊童子の強さが未知数なため不安が残る。
無事に試合を終えてくれればいいのだが。




