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26食目 野草の有効活用

 ◆◆◆ エルティナ ◆◆◆


 俺の朝は超早い。

 鶏が「コケコッコー」と鳴くよりも早くヤツらの前に立ち、余裕の「ふきゅん」をかましてやるのだ。

 これに鶏どもは「流石ナイトは格が違った」と降参するのである。


 ハッキリ言おう、まったく意味はないと。


 マーカス工場の隅っこにある俺たちの掘立小屋の真向かいにある鶏小屋の主たちに勝利した俺は散歩へと出発。

 道端に生えているであろう【草】をせっせと回収する。


 実のところ、この町には食べれる野草が大量に生えており「食わないか?」と露骨に誘ってきやがるのだ。

 そんな野草どもに俺はホイホイと乗せられ、籠いっぱいに野草を詰め込む。


 キアンカの連中は、道端のお宝に興味が無いのか誰も咎めもしない。

 彼らは基本的に肉食であるので、野草には目もくれず、肉、肉、肉、だ。


「おやおや、精が出るねぇ、エルティナちゃん」

「草婆ちゃん、おはよう」


 樫の杖を突きながら、よちよち、と早朝の散歩をしていたのは、俺に野草の見分け方を教えてくれたステラというお婆ちゃんだ。

 白髪をお団子上に纏めた、いかにも優し気なおばあさんである。


 俺がくっそ貧乏であるため、食費を浮かそうと無差別草食いを行っているのを見かねて声を掛けてきたのが彼女との出会いの始まりである。


「今日は、ゴマヨモギと胡椒ゼンマイを摘んだんだぜ」

「うんうん、きちんと選別できてるわね」


 基本的に俺は腹を壊すということが無い上に、毒が体に入ってもまったく問題ない体質なので、なんでもかんでも口に運ぶことが可能だ。

 でも、それは美味しく食べれていないという証であり、素材のまま食べても腹が満たされないという欠点があった。


 じゃあ、なんで触接、口にしていたかというと、もしかしたら腹が膨れるかも、という淡い思いがあったからだ。

 結局は腹は膨れなかったが、【草婆ちゃん】事、ステラおばあちゃんに出会うことができた。

 この出会いは俺の食事に多大な恩恵をもたらすことになる。


 彼女は野草に詳しく、また、それらを用いて薬を作っている。

 草婆ちゃん印の漢方薬はキアンカの戦機乗り御用達の品だ。


 特に遠方へと赴く際は必ず複数個常備するべし、と皆口を揃えて言う。


 俺? 俺はこの身体になってからというもの、一度足りとて病気になったことなんてないです。はい。


 これは決して、俺が馬鹿だから、とかではない事を強く訴えておく。


「天ぷらにして食べようと思うんだぜ」

「いいわねぇ。私も若い頃は、よくそうやって食べたもんさ」


 野草に詳しいステラお婆ちゃんは、食用に適する野草にも詳しかった。

 なので、彼女が俺に食べれる野草を教えてくれたのである。


「ゴマヨモギは、おひたしにしても美味しいわよ」

「おっ、それは美味しそうなんだぜ。半分は残しておくかな」


 軽い挨拶を交わして、草婆ちゃんと別れた俺は、マーカス工場の隅っこ小屋へと帰還する。

 そして、調理を開始するのだ。


 天ぷらに合わせるのは白米、ってそれ一番言われているので、お米を炊く。

 マーカスさんに無理を言って作ってもらった飯盒が火を噴くぜっ。


 いや、噴かんけどな。


「こういう暮らしをしていると、魔力でなんでも出来た元の世界は異常だったんだなぁ」


 自転車用の空気入れで焚火に空気を送り込む俺は、【魔導機】という魔力が原動力の便利アイテムに想いを馳せた。

 原理としては戦機に近いものがあるが、こっちの世界では戦機以外は地球の暮らしとなんら変わらない生活スタイルである。


 ただ、あちらとは違い、ここの住人たちの殆どは拳銃やライフル銃を携帯している、という点があった。

 先ほどの草婆ちゃんも、愛用している銃がリボルバーマグナム、というのだから恐ろしい。


 というか、杖突いてるのに撃てるのか?


「なんか、魔導機がポロっと出て来ないかな?」


 そのような願望を抱きつつ米を炊く。あとは蒸らせば完成だ。

 もちろん、ヒュリティアの分も炊いている。


 彼女はホットドッグジャンキーではあるが、炊き立ての米の味も理解する。

 流石の彼女も、天ぷらをコッペパンに詰めるのは現実的でない、と言っていた。


 一度やってみたようだが、微妙、と言っていた。

 どうにも、コッペパンの方に問題があるらしく、もっと甘みを抑えないと天ぷらの味を受け止められない、と嘆いていた。


 まさか、とは思うが……畑から麦を作ったりしないよな?


「……いい匂い」

「おはよう、ヒーちゃん。珍しくお寝坊だな」

「……ちょっとね。考え事をしていたの」

「ふぅん、コッペパンのことかあ?」

「……やっぱり、畑からね」

「マジで震えてきやがった」


 悪い予感は的中しておりました。


「そんなことよりも、天ぷらを揚げ始めるから、身支度を済ませるんだぜ」

「……そうするわ」


 ヒュリティアが身支度をしている間に、てんぷら粉を塗したゴマヨモギと胡椒ゼンマイを菜種油へと静かに流し込む。


 これをマーカスさんをこき使って作らせた菜箸で天ぷら同士がくっつかないように調整する。

 もちろん、油から引き上げるのにも使用するぞ。


 ゴマヨモギは、ゴマとヨモギの風味を併せ持つ不思議な野草だ。

 油で揚げるとゴマの風味が引き立って、ヨモギの風味は影を潜める。


 茹でると逆にゴマの風味が大人しくなる、というのだから面白い。


 胡椒ゼンマイは書いて字の通りだ。

 胡椒のピリリとした味が効いた野草となる。


 これを天ぷらにしてパラリとミネラルたっぷりの岩塩を掛けるとお酒のつまみにピッタリとなる。

 一度、マーカスさんに菜箸制作のお礼として振舞ったのだが、いたくこの天ぷらを気に入ったのか、時折、作ってほしいと依頼されることがあり、借金の返済に一役買っている。


 とは言い難いんだよなぁ。額がおかし過ぎて。


「よし、揚がったぞ」


 揚がった天ぷらは、皿の上に敷いた細かい木の枝の上に載せる。

 こうすることによって、揚がった天ぷらが滴り落ちる油に浸ることはなくなるのだ。

 そして、この木の枝は緑茶の香りがする不思議な枝で、お湯に浸せばお茶になるという一品である。


 しかし、普通のお茶を飲めばいいじゃん、ということで見向きもされなくなった不遇の枝である。

 草婆ちゃんがいうには、彼女が若い頃はこの枝の事を【お茶】と指し示していたという。


 時代が変われば意味も変わってくる、という良い見本と言えよう。


 しかし、物は使いよう。

 こうすることで、お茶のいい香りが衣に移るのだ。


 爽やかなお茶の香りは天ぷらにアクセントを加える。

 食欲も出るし、油も切れるし、とで【お茶枝】も大活躍である。


「あとは天つゆだな」


 こればっかりは自作するのに手間が掛かるので、和食料理店の店長にお願いして分けてもらった。

 いい値段がしたが、それだけの価値がある味なので後悔はしていない。


 やはり、天丼に掛けるタレは、これ一択である。


 ちょっとひび割れた丼に出来立ての米をよそう。

 お焦げも入っているが、気にしない方向で。

 これに天つゆを回し掛けする。


 そこに油が切れた天ぷらをドッキング。

 ここにも天つゆを回し掛けすれば天丼はパーフェクトになる。


「よし、野草の天丼の完成だ」


 魚介類の具が無いのは寂しいところであるが、この天丼に掛かっている費用は調味料と米くらいなものである。

 それ以外はお金が掛かっていないので、一人当たりの費用は百ゴドル以内に納まってるのだ。超節約料理ぃ!


 飲み物は、お茶枝からとったお茶。隙を生じぬ二段構えである。

 このお茶枝も、そこらへんに生えているので勝手に取っても怒られない。


 町に良い枝が無くても、町から出て傍に、わちゃわちゃ、と生えているので問題ないというお手軽さだ。


「……相変わらず、手際がいいわね」

「料理は段取りなんだぜ」


 できた天丼は中古で購入した折り畳みテーブルの上に置く。

 同じく折り畳みのパイプ椅子を用意して着席。


「「いただきます」」


 と食材に感謝を捧げて、さくさく、と小気味いい音を奏でる天丼を堪能したのであった。

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