268食目 謎のチャンピオン
これで大会二日目の少年の部は終り、遂にベスト4が確定した。
勝ち残ったのはレッドバレット、レギガンダー君に俺、そして前回の覇者ブルーサンダー君だ。
彼は大人の部のチャンピオンとは違い、実力で勝ち上がってきている猛者。
その戦い方は実に冷静かつスマート。
うちの連中で例えるならヤーダン主任タイプだ。
そのヤーダン主任の試合が本日組まれており、その相手となるのが虎熊童子というのだから大変だ。
何事もなく終わってくれればいいのだが、そうもゆくまい、と俺の勘が告げている。
変なところで仕事しなくていいから、君。
本日は第一試合からチャンピオンの試合があるとのことで、観客たちも大いに盛り上がっている。
どうせ、へなちょこな出来レースを見せられるのだろう、と思っていたのだが、蓋を開けるとビックリ仰天。
「おいぃ……つよすぐるでしょう?」
「いや、チャンピオンだし」
リリラータちゃんが運び込まれた医務室へと向かった俺たち。
彼女の容体も気になるので、そこでテレビ中継を見る事になった。
幸いなことに、リリラータちゃんは精神的なストレスからの気絶だけであり、身体に異常は見られないとのこと。
少し休めば意識を取り戻すだろうとの見解だ。
俺の目からしても、医師の推測は正しいと納得する。
医務室にはレフティコーチもいて、リリラータちゃんを心配していた。
血に塗れた上着は処分し、代わりにマーキスコーチのくそダサ革ジャンを着込んでいた。
なんでアニメキャラがプリントされているのか、これが分からない。
しかも美少女キャラぞ。
ある意味で公開処刑なんですわ。
医務室の主たる女医さんも、ぷーくすくす、と笑っていらっしゃる。
尚、女医さんは黒ぶち眼鏡の黒髪で、お団子ヘアー。
そして、我儘ボディのセクシー系衣装の上に白衣という。
この王道を行くエロ女医様は、ビックリすることにレフティコーチの幼馴染であるもよう。
「それってマーキスの?」
「あ、あぁ……ちょっと上着を汚しちまってな」
「ドジねぇ。それにしても……レギガンダー君、あんな子だったかしら?」
「明らかにおかしかった。それ以前に、あの機体だ」
「また運営の黒い思惑? いつもの事だけど、ジュニアにまで手を伸ばしてくるって異常ね」
盛大なため息を吐く女医さんは【カーリュ】というらしい。
腕を抱えて爆盛なそれをレフティコーチにアピールする。
それを見た彼はこりこりと頬を掻いた。
「この大会が終わったら、聞いてほしい事があるんだ」
「ようやく? もう少しで腐っちゃうところよ。熟れ過ぎて、ね」
だが、子供のいる前でアダルトな会話はNG。
あ~、でも、純真なお子様は意味が通じていないか。
……あれ? そうなると俺って純真じゃない?
「ふ、ふきゅん! チャンピオンがつよすぐるっ! なんでズルなんかするんだぁ!」
これを誤魔化すために、わざとらしく話題をホワイトロードさんにスイッチしました。
俺は悪くない。
「彼は強いよ。下手をすればナイトランカーにも劣らない。何よりも、あの若さで実戦も経験している」
「マジか」
とんでもない情報を頂きました。
今までネームバリューだけのお飾りかと思いきや、まさかのガチ勢とか。
「ここいらに出没した三十もの機獣たちを一人で全滅させた、とか逸話があるんだが……この強さを見せられれば納得しちまうだろうな」
「全部、レ・ダガーだったのかな」
「いや、新型も混ざっていたらしい。どんな機体かは公表されなかったが」
新型を含めた機獣三十機を一人で殲滅するとか、なかなかにクレイジーだ。
戦機乗りは腕前はもちろんの事だが、一番物を言わせなくてはならないのが、その精神力。
ホワイトロードは腕前、そして精神力、共に超一流という事になる。
そして、自前の戦機も相当な機体を所持しているのだろう。
これだけの条件がそろっていれば、ナイトランカーに匹敵するといわれても納得がゆくというものだが……何故、そんなに戦いに飢えているヤツがアリーナチャンピオンなんだろうか。
お遊びの戦い、と言っては悪いが、ここにはホワイトロードの求める戦いは無いように感じる。
「チラッと見たけど、戦いに飢えているような人には見えなかったなぁ」
「いや、彼はどん欲だよ。こと戦いに関しては」
「そうなのか」
「貪欲というよりかは、そうだな……焦がれている、と表現してもいいくらいだ」
「焦がれている? 何かに追い立てられているって感じか?」
俺の認識にレフティコーチは「そんなところだ」との同意を示した。
「彼の過去はほぼ明かされていないが、出身はここではないらしくてな。幼い頃にここに流れ着いてきたらしい。そして、そのままアリーナで稼ぎ始めたようだ」
「幼い頃って……ホワイトロードさんって幾つだよ」
「公式発表では十八歳」
「若過ぎるだろ」
「君がそれを言うか」
はい、ツッコミを頂きましたっ。
しかし、謎が多い人物だ。
ホワイトロードは幼い頃に、既に戦機乗りだった可能性すらある。
両親のどちらか、あるいは両方が戦機乗りだった可能性もあるが、いずれにしても幼い身でアリーナで稼ぐとなる、と流れ者の身で生活が苦しかったか、戦いに飢え過ぎてトチ狂ったか、のいずれかだろう。
心に闇を抱えてそうなホワイトロードさんが、まさかの強敵急浮上とか頭が痛くなる案件だ。
ただでさえ鬼問題で忙しいというのに、更に忙しくするとか鬼か。
もうなんだっていい、全部鬼にしちゃって纏めて退治じゃい!
……桃先生に怒られました。いたいっしゅ。
「オレハショウキニモドッタ」
「う、うん? どうした? どうみても正気とは思えない表情だが」
「あっはい、おまかいなく」
「お構いなく、な」
とここでリリラータちゃんが目を覚ました。
彼女は悲鳴を上げながら飛び起きたのだ。
パニック状態の彼女はベッドの上で何かに救いを求めるかのように暴れた。
「リリラータっ!」
そんな彼女をアーガス君が強引に抱きしめる、と次第にリリラータちゃんは体力が尽きたハムスターのように大人しくなって、遂には嗚咽し始めたではないか。
「アーガス君……ごわがっだぁ、ごわがっだよぉ~」
「もう大丈夫だ、無事に終わったよ」
しゃくりあげながら泣くリリラータちゃんの背中を優しく擦ってあげるアーガス君は、きっと無自覚女たらしの才能を秘めているに違いない。
あれ? 俺はやはり心が汚れている?
己を戒めたまえ! アーガス君は純真な少年ぞっ!
俺……これが終わったら、炭酸ジュースの滝に打たれてくるんだ。
「リリラータちゃん、よく頑張ったな」
「ううっ、う~」
言葉にならないのだろう、リリラータちゃんは唸りながら、こくこくと頷いた。
無事で何よりだ。ようやく安堵できるというものである。
しかし、レギガンダー君を救うためとはいえ、桃先生も酷な事をリリラータちゃんに要求したものだ。
下手をすれば、彼女の心がぶっ壊れて本末転倒もいいところである。
テレビ中継では現在、ミオの試合が行われていた。
彼は機体を乗り換えており、クロヒメさんが使用していたアインボクサーを使用している。
どうやら、彼はアインボクサーの存在をそこで知ったようだ。
「うわ……こりゃあ、酷い」
「対戦相手が可哀想だぁ」
レフティコーチも思わずドン引きするかのような結果でした。
一方的にオラオラされてボコボコにされた対戦相手は、機体が棺桶状態になってしまっている。
当然、一切動けないので、その時点でKO負けを宣言されておりました。
「水を得た魚、という表現が最適解だな」
「とんでもない出会いを果たさせちゃった感」
これにてミオは三回戦に進出。
最終日の三連戦の切符を手に入れた。
続くガンテツ爺さんも相手が哀れになるような横綱相撲を見せつけての勝利。
三回戦では、この両名が激突する。
勢いに乗っているミオか、それとも老練際立つガンテツ爺さんか。
まったく予想が付かない戦いの結末に、機券の桜吹雪が舞うに違いなかった。
そして、いよいよヤーダン主任対虎熊童子の戦いが始まろうとしている。
「無事に終わってくれれば、何も言うことはないんだぜ」
ただ、それだけを望む。
果たして、ヤーダン主任は無事に戦いを終えることができるのであろうか。
緊迫の試合は、今、ゴングが鳴らされんとしていた。




