264食目 チャンピオンシップアリーナ ~二日目~
◆◆◆ エルドティーネ・ラ・ラングステン ◆◆◆
激闘があったチャンピオンシップアリーナ初日。
もう既に事実上の決勝だったんじゃないかなぁ、と思わしき鬼と修羅の戦いは、ルールという壁を越えられなかったクロヒメさんが敗北して終了。
もうあとは流れに任せればいいんじゃないかなぁ、とか思ってます。
あ、ぽっちゃり姉貴も貫禄勝ちでした。
流石はナイトクラス……とは言えない強引な戦い方には、俺もにっこりです。
でも、その方がぽっちゃり姉貴らしいので、よしっ、だったり。
本人も普段はできない戦い方に満足しているもよう。
こういう楽しみ方もあるんやなって。
クロナミの自室のベッドの上で寝っ転がている俺とザインちゃん。
既に寝るための支度は済ませているので、あとは眠りの世界にレッツ・ラ・ゴーなだけだ。
ザインちゃんなどは、本日、興奮しっぱなしだったので疲れたのだろう。
俺にくっつき虫となって「ふにふに」と寝言を呟きながらお眠状態だ。
「ふきゅん」
天井を意味もなく眺める。
ヒュリティアはまだ帰ってこない。
一応連絡はあったが、いつ戻れるかは分からないので放っておいてほしい、とのこと。
どうやら、面倒臭い事になっているようで少し心配である。
「大会初日が終わったか……」
さて、これで精霊戦隊も不本意ながら半分になってしまったわけだ。
そして、下手をすると二日目で更に減ってしまうわけである。
問題は明日、鬼とぶつかるヤーダン主任とクロエだ。
できれば勝ってほしいところだが、遠慮なく鬼力を使ってくる相手に、桃使いではない彼女らが勝つのは難しいだろう。
それこそ、鬼とまともにやり合っていたクロヒメさんのような謎の力が無い限りは。
あれって、結局なんだったのだろうか。
彼女を問い詰めても、お母さんから引き継いだ取って置き、と笑顔ではぐらかされてしまった。
鬼力のようであって、陰の気質を持たない訳の分からない荒々しい力、という印象は桃使いとして実にモヤっとする。
その力には名前も無いようで、所持している本人も【クロヒメちゃんスペシャル】という適当な呼び方をしていた。
ちゃんはねぇだろ、ちゃんは。
「ふあぁ……」
大きな欠伸が出た。
瞼が重くなってきていて、もうちょっと頑張れよな~、とエールを送ってみる。
そして、気が付いたら次の日だった、という。
「なんてこったぁ、俺は睡魔に負けてしまった!」
「ふきゅ、ままうえ、おはよーでごじゃる」
「おはよう、ザインちゃん」
俺の声でザインちゃんを起こしてしまったもよう。
ちょっぴり反省。
時間はAM5:40。
俺にしてみれば少し遅い目覚めだ。
自分でも気付かない疲れが溜まっていたのであろうか。
もぞもぞ、と壁のタッチパネルに手を伸ばす。
それはエアコンの操作パネルだ。
就寝中は経費節約のためにエアコンは停止している。
なので部屋は割とひんやりしていた。
エアコンを入れたのは俺のためではなく、ザインちゃんのためである。
ぶっちゃけ、俺は寝起きの体温がクッソ高いお子様なので寒さに割と強い。
寝起き限定だが。
ふっきゅんしゅ、とベッドから飛び降りてささっと寝間着を脱ぎ、普段着へと着替える。
そして、そのまま洗面所へと直行だ。
実のところ、暖房を切っている自室よりも通路の方が暖かいという。
尚、ザインちゃんは置いてきた。
彼女はこの戦いについて来れそうもなかったからだ。
二度寝はお子様の特権だから仕方がないねっ。
朝食の支度が済んだら、ほっぺをツンツンしてやるとしよう。
精霊戦隊の朝食はAM7:00からとなっている。
結構な大所帯となっているので、ほぼバイキング形式な朝食だ。
朝が弱い者もいるので、きっかりと揃う事も少ない。
特にメカニックチームは遅くまで作業している場合が多いし、晩酌もするのでそれが顕著だ。
唯一の例外がオーストさんで、どんなに遅くてもきっかり朝七時には顔を出している。
ここら辺は、生真面目な性格なんだな、と思わせるに十分だった。
エリンちゃんも朝は割と強くはないが、料理当番の時もあるので「ふにゃふにゃ」と呟きながら糸目で包丁を握っている。
危ない、危ない。
でも、包丁で手を切るのは寧ろ、しっかりと意識がある早朝以降なんだよなぁ。
本日はスクランブルエッグにカリカリベーコン、そして【カリカリレタス】、という変わった野菜を仕入れた。
カリカリレタスは一切のふんにゃりを許さない葉野菜で、その全てがピンとしていて、どこを食べてもカリっという音を立てさせる、妥協を許さないレタスだ。
肉を巻いたりするのには向かない野菜なので、ドレッシングを塗して食べるのが主な食べ方である。
スープは【ココーンポタージュナッツ】というココナッツのような実を付ける果実の果汁を温めた物。
もう既に名前で予想が付くと思うが、この実の果汁はコーンポタージュの味がする。
少し値段が張ったが、珍しい現地食材だったので購入。
秋頃が収穫の時期だが長期保存が可能であり、こうして冬の時期にも販売されているとのこと。
主食はホカホカご飯とトーストの二択だ。
ガンテツ爺さんが和食派なので、しっかりと漬物も常備している。
今日は、胡瓜のぬか漬けを輪切りにして用意した。
なかなかの出来だ、と評判で作った俺も嬉しいところ。
最後にガンテツ爺さん用に塩鮭を焼いて朝食の支度を完了。
味噌汁も作り終えている。
具はもちろん、グツグツ大根だ。
身体があったまるぞっ。
朝食後の食器洗いは男性陣の仕事だ。
ガンテツ爺さんとオーストさん、そしてミオがそれに当たる。
以前はヤーダン主任も混ざっていたが、今はリューテ皇子のお世話もあるとのことで、ガンテツ爺さんはこっちは任せておけ、とヤーダン主任をシャットアウトしてた。
実際、リューネちゃんとして活動するようになってからは、その支度に時間が掛かるようになったもよう。
性別が変わってからは、それが顕著になってるような気がする。
俺のようにパパっとやって終了、ではいけないのだろうか。
でも、あんまり省略すると、後でヒュリティアにやり直しさせられるので、ギリギリを攻めるのは難しかったりもする。
女の子の支度って難しいんやなって。
「今日は精霊戦隊同士でぶつからないか。でも最終日が酷いなぁ」
「勝ち上がれば連戦ですしね」
ヤーダン主任の言う通り、最終日が連戦となる。
たかが90秒の試合、と侮っているとあっさり負けてしまう事もあるらしい。
それだけ精神の疲労が激しい、という事がアリーナ新聞に書いてあった。
尚、これはニューパさんが購入したギャンブル新聞である。
絶対に今日も全試合的中させる気だ。
ヒュリティアを越えるギャンブラーは、ここに居たっ。
「エルちゃん、今日は僕と試合だよ」
「あっ、そうだった」
うっかり、自分の事を忘れていた。
そうだ、今日は俺とリューネちゃんのバトルがある日じゃないか。
「そんな大切なことを忘れていたの? うっかりさんね」
「色々ありすぎて、うっかりしてたんだぜ」
既に大会が終わってしまったクロヒメさんは余裕たっぷりだ。
うりうり、と俺の失態を責め立てて弄ってくる。
「これは本腰を入れなくてはっ。負けないぞ、リューネちゃん」
「それは僕もだよっ。思いっきりバトルしようねっ」
ふんふん、と気合を入れるリューネちゃんだが、両の拳をぎゅっと胸に付けて、お尻を突き出しての内またポーズは確実に女の子のそれなのでNG。
男の子だった君は、いったいどこに行ってしまったのか。
遠い記憶に想いを馳せる。
でも、そんなに遠い記憶じゃなかったことに思わず「ふきゅん」と鳴くより他になかったという。
「というわけで本日、試合があるヤツはコロッセウムに突っ込め~」
「「「わぁい!」」」
というわけで、勝ち残った者は試合の支度をするためにコロッセウムへと向かう。
負けた者は時間に余裕があるので、後からのんびりと向かうとのこと。
お子様の選手控室は、それはもうピリピリした空気が充満しておりました。
ぷおっ。
なので、この雰囲気をぶっ壊すべく、オナラを一発かまして差し上げました。
なんという心優しい気配りでしょうか。感動するなぁ。
「ちょっ!? 女の子っ!」
「ふっきゅんきゅんきゅん……怖かろう」
俺とパプリカさんのやり取りによって、一瞬にしてピリピリしたムードは爆発四散し、ため息と爆笑とが充満しました。
やっぱ、お子様はオナラが好きなんやなって。
「おまえは本当にブレないなぁ」
「レッドバレット君はナーバスさんなのかぁ?」
「ナーバスってほどじゃないけどさ。昨日からレフティコーチの様子がおかしくて調子が狂うんだよ」
そういえば、昨日からあのおっさんの様子がおかしい。
親しくない者や、彼に興味が無い者は分からないだろうが、付き合いの長いアーガス君やリリラータちゃん、そして俺のように敏感に心の波長を感じ取れる者はどこかおかしいと感じるはず。
そのコーチの姿がここにはない。
教え子を放っておいて、どこに行ったというのだ。
と思ったら、レフティコーチがやって来た。
でも、どこか様子がおかしい。
「コーチ、遅ぇよ」
「あ、あぁ、すまん」
レフティコーチが姿を見せた瞬間、違和感を感じ取る。
それは臭いだ。
というか……血の臭い?
すんすん、と鼻をひくつかせる。
やはり、レフティコーチからは血の臭い。
それも、真新しい。
「おいぃ、レフティコーチ」
「なんだ……い。トウキチロ……」
しかし、彼は言い切る前に崩れ落ちてしまった。
パプリカさんの悲鳴が上がり控室は騒然とする。
レフティコーチの衣服、その胸からはじんわりと血が滲み出ていたのだ。




