250食目 Cランク昇格試験 ~珍獣大勝利・絶望のお説教にレッツゴー~
少しばかり時は流れ、いよいよ俺たちの昇級試験の日がやってきた。
エンペラル帝国とは違って、ドワルイン王国では、このイベントがお祭り騒ぎになることは無いもよう。
そもそも、アリーナがあるから当然であるといえようか。
それでも同じ戦機乗りたちにとってはお祭りであるようで、沢山の飲兵衛戦機乗りが酒を片手に、ああだ、こうだ、と盛り上がっていた。
昇級試験の場は戦機協会ドグランド支部の地下闘技場。
流石に戦機協会も、身内のデータを王国に渡すつもりはないらしい。
「ふきゅん、コロッセウムよりも狭いな」
「……エルティナイトが大き過ぎるからね」
試験は自分の戦機を用いる決まりだ。
したがって、俺はエルティナイトに搭乗し相手をボコることになる。
つまり、ヒュリティアも久々にルナティックに乗ることになるのだ。
「ぶろ~ん」
これにヒュリティアの相棒ブロン君も大喜び。
暫くは慣れない機体に同伴していたので、その鬱憤をぶつけてしまえ、と妙に殺意が高い。
尚、アイン君はクロちゃんがいるので、寧ろ乗り込むのが楽しみなもよう。
そろそろ、春なんやなって。
『そんじゃあ、昇級試験をおっ始めんで! Dランク1位! べイグス対ヒュリティア!』
酔っ払いどもの熱い声援が飛び交う中、銀色の機体がのっしのしと姿を現す。
どうみても過剰な改造でございます。
アリーナでノーマルな機体ばかりを見ていたので、これが元ブリギルトだといっても誰も信じないであろう。
エルティナイト? はっはっはっ、言わずもがな、だ。
Dランク1位のべイグスはスリアムを愛機にしているようだ。
でも、基本に忠実なスリアムじゃヒュリティアの狙撃には耐えられないんだよなぁ。
所持する武器もハンドガンと腰の対機獣用の大型ナイフだ。
ルナティックは装甲の一部を桃色金属に換装しているので地味に硬いぞ。
そんな装備で大丈夫か?
『始めっ!』
眼帯支部長の合図と共にCランク昇級試験が始まった。
出だしは静かになるか激しいかなのだが、どうやら双方静かに行く模様。
相手のべイグスはそれなりの実力を持っているという事なのか。
いや、違うな。
ヒュリティアはあまりに実力差がありすぎる、と確信したのであろう。
自身が挑戦者であるにもかかわらず、胸を貸してやっているのだ。
『……悔いのないようにね』
『言ってくれる』
べイグスの返事には、皮肉とも苦笑とも思える感情が混ざりに混ざっていた。
彼もまた、認識していたのだ。
越えられない壁が目の前にある、という事を。
どっちかといえば、押し迫るデスウォールなんですがね。
ここでべイグスが仕掛けてきた。
巧みなステップを刻みながらフェイントを入れる。
そして、少しずれたタイミングでハンドガンを発砲してくるのだ。
「ふきゅん、やるじゃないか」
「うむ。並の戦機乗りやレ・ダガーならばまともに喰らうじゃろうな」
ガンテツ爺さんも、そう評価した。
伊達にDランク1位ではない、という事なのだろう。
その証明に、ヒュリティアも対機獣用大型ナイフで向かって来る弾丸を弾く……ついでにそれを弾き返してスリアムのリズムを崩した。
予想以上にヒュリティアは回避が難しかったのだろう、と推測する。
さて、弾丸を跳ね返されたべイグスだ。
当然ながら、そんな跳弾では機体にダメージを与えることはできない。
それでも、戦機乗りは本能でそれをかわそうとしてしまう。
ヒュリティアはそれを狙ったのだ。
『ちぃっ!』
『こんなもので自分のリズムを崩していたら、上へはいけないわよ?』
『分かってんだよ!』
それができないからDランク1位止まり。
きっと彼は昇格と降格を繰り返してきたのだろう。
ヒュリティアの挑発に熱くなったべイグスは、先ほどの華麗な戦い方から一変し、荒々しい突撃戦法へと切り替える。
「こっちの方が気迫が籠っていてやりにくいなぁ」
「そうね。こっちの方が彼には合っているのかも。でも、それをしないのは……」
隙が多過ぎるから。
クロヒメさんは、そう指摘する。
戦場で隙が多過ぎると生き残れない事を知っている戦機乗りは、自分の特性を活かせるスタイルを封印せざるを得ない状況が幾つもある。
敢えてこれを見せる場合は勝負を掛ける時だけだ。
つまり、べイグスにとっては、それが今という事になる。
『思い切りがいいわね』
『そりゃどうも!』
愚直に真っ直ぐ。
ハンドガンを撃ち尽くし、それすらもルナティックに投げつけて跳躍……。
『……フェイントっ!』
『取った!』
……する振りをしてのスライディング。
これはまんまとしてやられた。
ルナティックは既にスナイパーライフルを構えている。
その状態で懐に飛び込まれてしまったのだ。
そして、スリアムの手には取り回しのきく大型ナイフ。
これは勝負あった、とみなすのが一般的だろう。
でも、一般的ではないのが精霊戦隊。
そして、ヒュリティアなのだ。
コクピットへと伸びる大型ナイフは、しかしルナティックのスナイパーライフルの銃床にて弾かれた。
『んなっ!? か、固いっ!』
『残念、ここは特別製よ』
ヒュリティアがそう言うように、狙撃銃フォリティアの銃床は桃色金属製である。
鈍器にも使えるよ、やったねヒーちゃん。
ぐしゃっ。
はい、容赦のない銃床の一撃でスリアムの頭部がぺしゃんこになりました。
『勝負ありや! 勝者、ヒュリティア! Cランク昇格決定!』
湧き上がる歓声。
しかし、ガンテツ爺さんは渋い表情である。
「慢心があるのう……格下を甘く見過ぎじゃ。後で引き締めておかんとの」
「確かに、らしくない戦い方だったんだぜ」
アリーナでのバトルは彼女から緊張感を奪ってしまったのであろうか。
だとしたら、俺たちは長くアリーナに居るべきではないのだろう。
でも、その前に大会の賞金だけはなんとかゲットしないと。
しかし、恐らくはチームシュテンドウジのメンバーとのバトルが不可避。
連中がヒュリティアかユウユウ閣下とぶつかれば最悪の事態もある。
実に悩ましいところだが、やって見なくては分からない。
「ほれ、次はおまえさんの番じゃぞ」
「よし、ヒーちゃんに続くぞっ」
久しぶりにエルティナイトで戦うとあって、やる気満々な俺たち。
アイン君も大張り切りだ。
えっさほいさと向かった戦機待機場にて、退屈そうに寝っ転がっているナイトを発見。
おまえ……それでいいのかぁ?
『やっと出番が来た感。あまりの退屈さに思わず歌い出しそうになった』
「おいばかやめろ、おまえの歌は大量破壊兵器なんだぞ」
『俺のハートがギザギザになった、訴訟』
「いいから合身だっ」
これ以上は、猛烈にグダグダになりそうなので速やかに合身。
エルティナイトの鋼鉄の大地に降り立つ。
やはり、そこに下りたつと防寒具はどっかに消えてしまい、ラングステン王国の聖女の服へと変化してしまう。
でも、エルティナイトから降りると元に戻るので安心だ。
「よぉし、盾はいいかぁ?」
『あいっ!』
「エリン剣もばっちりかぁ?」
『あいっ! あるますっ!』
「それじゃあ、対戦相手をボコりにユクゾっ」
『わぁい!』
「あいあ~ん!」
のっしのっし、とではなくスキップをしながら登場する恥知らずなナイトは俺の相棒でございます。
通路が壊れるから静かに移動しようぜ。
案の定、騒めく戦機乗りたち。
四方八方から「なんやあれ」との声が飛びかっております。
まぁ、そうなるよなぁ、との心境は俺のやわなハートをしっかりガード。
殺意の波動に目覚めることはございませんでした。
『けったいな戦機やなぁ。ま、ええわ。Dランク2位! ボドルラック対エルティナ!』
眼帯支部が合図を下し昇格試験が始まる。
対戦相手は蛙の戦機フロウガルト、その重装型。
下半身、特にふくらはぎの部分が特に幅広で、沢山のスラスターが見て取れる。
そのため、逆三角形ではなくしっかりとした三角形に見えた。
武装は両肩から伸びるキャノン砲と両腕の二連装ハンドガン。
頭部にも外付けの機関砲が取り付けられているもよう。
種類によっては弾薬費がとんでもないことになりそうな構成である。
そう考える、と機関砲以外はエネルギー兵器と考えるべきであろうか。
『消し飛んじまえっ!』
殺す気か、とツッコミたくなるようなビームの弾幕。
やはり、経費削減のためにエネルギー兵器中心の構成か。
君には大変申し訳ないが……それらは効かないんですわ。
「魔法障壁、展開」
『一枚で防がれるとかコスパ重視し過ぎでしょ? そんなんじゃ甘いよ』
盾を構えるまでもない。
回避するまでもない。
のっしのっし、とただ前進するのみ。
『な、なんだっ!? こいつはっ! 対ビームバリアなのかっ!?』
「いいえ、魔法障壁です」
『はぁ!? 魔法……なんだって!?』
完全にパニックになっているようだ。
それもそうで、対ビームバリアは発展途上であるので、ここまでの防御性能は持っていないらしい。
それがキャノン砲を含めノーダメージ。
唯一の実弾である機関砲の攻撃ですら弾き飛ばす、という理不尽ぶりに対戦相手であるボドルラックさんは、いよいよビームソードを用意し突撃してきましたとさ。
『短気は損気っ、ってそれ一番言われてっから』
『ガキと大人が一緒に乗り込んでいるのかよっ!』
「そう思うよなぁ」
戦機が自分の意志を持っていて、尚且つ喋るなんて信じるわけもなく。
でも、反則ではないんだよね。
そもそも、なんでもありなのが戦機乗り。
一つの機体にパイロットが二人など割とよくあるらしい。
機獣との初期の戦いはメインとサブの二人が搭乗して抗っていたという。
一人乗りのボングでは劣勢だったが故の処置とのこと。
「戦機は常に進化しているんだ。喋ったりもするさ」
エルティナの場合は異常な速度なんだけどな。
そんな理不尽を象徴する騎士様は、例によってビームソードの刃を片手で受け止めてしまいました。
これじゃあ、エリン剣を使うまでもないな。
『メガトンパンチっ』
というか、こっちが指示を出す前にぶん殴っている、せっかちなナイトがここに居た。
「おいぃ、パイロットの存在意義がゲシュタルト崩壊してるんですわ」
『身体が勝手に反応することは稀によくあること。そして、ぶっ潰す、と思った瞬間に行動は終ってる、って名台詞、知らないのかよ?』
「そう言う問題じゃないんですわ」
『あっ、軽く殴っただけなのに、蛙さんが伸びていらっしゃるぞ!』
「大変だぁ、介抱して差し上げろ!」
めしゃっ。
「それは介錯なんだよなぁ」
『あるぇ? 間違えたかなぁ?』
もうグダグダだよ。
やっぱり、俺たちの場合は、こうなってしまうんやなって。
『しょ、勝者! エルティナ! Cランク昇格っ!』
「かったどー」
「あい~ん」
『わぁい』
勝利の余韻は軽く挨拶して、どこかに行ってしまわれました。
ハッキリ言って消化不良過ぎてモヤっとする。
もう普通の戦いじゃ満足できないのであろうか。
こう考える、となるほど。
ヒュリティアの油断も納得であろうか。
チラリ、とガンテツ爺さんを見やれば、額に手を当てて首を振っておられました。
きっと帰ったらお小言が待っておられますぞっ!
「勝ったのに勝った気がしねぇ」
『お説教、凄そうですね』
「代わってください」
『嫌です』
「ナイトは弱き者の盾なんだるるぉっ!」
『ナイトにも選ぶ権利はあることを主張したい』
「いあ~ん」
こうして、俺たちの昇格試験はグダグダな形で幕を下ろした。
これにて俺たちは晴れてCランク最下位からのスタートを始める事になる。
とはいえ、ここから戦機乗りの層が厚くなるため、なかなか順位も上がらなくなってくるらしい。
そういうわけで、ナイトランクへの到達はじっくりとやればいいだろう。
目下、帝都ザイガを占拠している鬼軍団をどうにかすることこそが肝要。
そして、機獣を送り込んでくるエリシュオン惑星軍の存在も忘れてはいけない。
最近はあまり接点が無いが、ヤツらだって黙ってはいないだろうから。
ま、なにはともあれ、今晩は俺たちの昇格を祝ってくれるらしい。
何やら、クロヒメさんたちが料理を作ってくれるとか。
いやぁ、楽しみだなぁ。




