24食目 発動
ロキリズは必死にマシンガンを撃っているようだが、それも効果がなければなんの意味もない。
機体で受けてもまったく問題はないが、映像的には盾で受けた方が格好いいので盾で受ける。
そう、ナイトは格好良くてなんぼなのだ。
「おう、剣の領域に入ったな?」
「あっい~ん!」
エリン剣を振り上げる。そして、振り下ろす。
単純極まりない動作に、いちいちビビる金ぴかさん。
『そ、そんな単純な動きでっ!』
んじゃ、避けてどうぞ。
ぐしゃり、とへし折れるルゴードの右腕。
エリン剣には刃が無いので両断することは叶わない。
分類的には鈍器に入るのだろう。
しかし、俺の光素を無駄に送られたエルティナイトは、比類無きパゥワ~を手にしていたりしなかったりする。
したがって、この無駄に頑丈なエリン剣はエルティナイトの主力兵装に相応しいといえよう。
「おめぇ、クッソ弱いな?」
『お前が異常なだけだっ!』
ルゴードが距離を取るため、エルティナイトの腹部に蹴りを入れる。
流石に弾き飛ばされるも、エルティナイトは転倒しない。
「あいあ~ん!」
「アイン君はできるお方」
そう、機体の制御はアイン君が行ってくれている。
俺は彼に、どうしたいか、を伝えればいいのだ。
あとは、アイン君がよろしくやってくれる。
簡単だな?
『こんなはずでは……』
「機体性能云々じゃない、おまえには決定的に欠けているものがある!」
『な、なんだとっ!?』
エルティナイトは素敵にエキサイティングなポージングを決める。
そして、俺は告げるのだ。
「それは、精霊力だ! お前には精霊がまったく懐いていない!」
『……は?』
「戦機とは精霊が真のパートナーとなった時、真なるちか……」
『もういい』
ガシャン、と使い物にならなくなったルゴードの右腕部が切り離された。
すると、どこからともなく新しい右腕部が投げ込まれたではないか。
ルゴードはそれを受け取り己の機体に取り付けた。
そして、問題無く稼働する右腕。
「おいぃ、それはズルだろ。きたない、金持ち。流石、金持ち、きたない」
『ルール違反ではない』
俺は即座にルフベル支部長に確認を取った。
彼から帰ってきた答えは【ルール違反ではないが、プライドを疑う行為】といったものが返ってくる。
『これが、金持ちの戦い方さ。プライドなんて一文の得にもならない! 勝てばいいんだ!』
「こんにゃろ、開き直りやがったな?」
次々に投入される見たこともないような兵器群。
その一つがエルティナイトに向かって火を噴いた。
抉れ飛ぶエルティナイトの肩装甲。
俺は「ふきゅん」と悲鳴を上げてしまった。
俺の鉄壁の魔法障壁が貫通されてしまったのだ、ほんのりとチビってしまうのも無理は無い。
『はっはっは! ランバール社製の【圧縮重光波砲バルドル】だ! こいつさえあれば、ミスリルクラスの連中だって一撃なんだよ!』
ゲラゲラと勝ち誇ったように笑うロキリズ。
しかし、あいつの言うようにエルティナイトの魔法障壁を突破する威力は脅威としか言いようがない。
きっと大枚を叩いて入手したのだろうが……さて、どうするか。
「考えるまでもなく、突撃あるのみなんだよなぁ」
「あい~ん」
はい、エルティナイトには近接攻撃兵装しかございません。
誰だぁ!? エルティナイトに銃を持たせなかった大馬鹿野郎はっ!
『こいつの威力を知って、まだ来るかっ!?』
「ナイトにバックギアはついていないんだよ!」
エルティナイトを踏み込ませる。
瞬間、頭の中が真っ白になった。
当たれば敗北必死、コクピットに直撃すれば死すらあり得る。
これは試合ではあるが真剣勝負でもある。
生死は戦った者同士の責任なのだ。
『こいつっ!』
ルゴードが大型砲を構え、銃口をエルティナイトのコクピットに定めた。
叩きつけられる殺気、これに懐かしさを覚える。
どこか懐かしいその感覚に、俺の意識が加速してゆくのを覚える。
周りの風景は異常にゆっくり動いているのに、俺の思考は逆に加速していった。
『死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
放たれる破壊の光線。当たれば必死。
その殺意が俺を覚醒させる。
「アイン君っ!」
「あ~い~あぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
盾を前方に投げ、跳躍。
それを踏み台にして、更に跳躍。
盾は俺の身代わりとなって融解した。
『二段ジャンプだとっ!? その重装甲でやることかよっ!』
攻撃をかわされたことで動揺したのだろう。
圧縮重光波砲バルドルの照準が定まっていない。
ルゴードの上を取った。
決めるなら、ここしかない。
「唸れエリン剣! 必殺、おんどるる斬りっ!」
技名は今考えた。
俺の闘志を受けた黒い鉄の塊は桃色のオーラに包まれたではないか。
これはいったい、と考える間もなく圧縮重光波砲バルドルが火を噴く。
『これだけ近けりゃ、適当に撃っても当たる!』
それは正しい判断だ。
しかし、覚悟を決めた者の一撃はそれを上回る。
俺は構わず、エルティナイトにエリン剣を振り下ろさせた。
激しい桃色のオーラに包まれた鉄の塊。
そして、人間の技術が生み出した大砲の光線が激突する。
「ふっきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!」
「あいあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
白エルフと精霊の心が一つになった時、それは大いなる力を生み出す、ってそれ一番言われてっから!
『なぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
桃色のオーラに包まれたエリン剣は、黄金色の光線を切り裂き、そのまま大砲をも両断。
遂には、ルゴードの頭部を叩き潰した。
俺はそこでエリン剣を止める。
『勝負あり! 勝者、エルティナ!』
勝者を称える歓声がスピーカーを通して俺に伝わった。
どうやら、結構な人が観戦していたもよう。
俺はエルティナイトにエリン剣を掲げさせて、その声援に応えた。
ルゴードのコクピットから這う這うの体で出てくるロキリズは、エルティナイトを睨みつけて言った。
「何故、殺さなかったっ!?」
「おまえ、何言っちゃってるわけ? エルティナイトは超一級のナイト」
エリン剣を背中に収め、ロキリズに指を指し、勝利の奇妙なポージングを炸裂させて告げる。
「ナイトは命を守る者。頼まれて守るんじゃない、気がついたら守っているのがナイト!」
「ぐ……くそっ! これで勝ったと思うなよ!」
「もう勝負ついてるから」
ロキリズは【黄金の鉄の塊魂】に論破され、その場に崩れた。
流石の俺も死体蹴りはしない。
その場を颯爽と去る。
チラリと視界に入る融解した盾を拾い、そしてちょこっと凹む。
ナイトの命ともいえる盾を早々にダメにしてしまうとは。
まだまだだな、と自分を戒めた。
場所は移り戦機協会の支部長室。
そこで、俺は正式にEランク2位を受領。
同時にDランクへの昇格権を得た。
また、勝者として戦機の修理費と幾らかの賞金を手に入れる。
その額一千万ゴドル。
無論、それは借金の返済に充てられた。悲しいなぁ。
「見事だった、エルティナ君」
「それほどでもないんだぜ」
「あい~ん!」
ふよふよ、と嬉し気に飛び回るアイン君。
俺は戦いの最中に感じ発動した力について考える。
あの桃色の輝きは、間違いなく光素ではなかった。
明らかに別物の力だ。
何故、あんな力が放たれたのかは分からない。
それは、俺の失った記憶の中に答えが眠っているのだろうか。
俺は軽く首を振り、この疑問を保留とした。
考えたって頭が痛くなるだけだ。
今は自分のできることを一つ一つこなしてゆこう。
「それでは、エルティナ殿。きみをEランク2位として正式に認める」
「ありがとなんだぜ」
ルフベル支部長から返された協会証にはEランク2位の文字が。
これで、ヒュリティア共々、上のランクへ上がれるというわけだ。
しかし、それはキアンカの人々との別れも意味している。
「さて、どうしたもんかな?」
俺は協会証を懐に仕舞い込み、支部長室を後にしたのであった。




