246食目 電光石火
まずは機体選択画面へと移行。
ザインちゃんは、たどたどしい操作で機体を選んでいる。
この様子が気になったのか、次々と野次馬が集結。
ザインちゃんをほんわかと見守り隊が結成されてしまった。
そんな彼女が選択した機体が、まさかのブジンである。
ブジン、といえば東方国で、俺たち精霊戦隊と共に深緑の悪魔に引導を渡した機体だ。
性能はお世辞にも高くなく、肉壁として戦いに参加し一応の成果を上げた機体、という側面が強い。
「ブジンか……絶対、見た目だけで選んじゃってるなぁ」
「遅い、鈍い、届かない、の酷いバランスなのよね」
「最高の地雷機体だな」
野次馬さん方が心配する中、今度は武装の選択画面へと移行。
すると、ザインちゃんが選んだのは日本刀。
それ一本である。
これに野次馬ならずとも、アーガス君やパプリカさんも、あんぐりと口を開いてしまった。
俺はだいたい事情が呑み込めてきたので特に言う事はない。
予想通り、ザインちゃんはブジンの装甲を全部取っ払い始めたではないか。
すると、戦機の耐久力を示すHPバーがぐんぐん下がって行き、遂にはレッドラインへと到達してしまった。
これに野次馬たちはギョッとするも、一部では納得を示した。
「な、なるほど。ブジンはディフェンスタイプだ。これだけの重装甲を外せば規格外の突進力を得ることができる」
「でも、これじゃあ一発貰ったらアウトだぜ? リスクが高すぎる」
「それを承知なのか、それとも面白そうだから、という理由かはバトルを見ればわかるだろ」
妙に博識な野次馬さんは、子供たちに同行しているお兄さんのもよう。
彼らのズボンを掴んでいるお子様たちは、ザインちゃんが何をしようとしているのか分かっていないようで、キラキラと目を輝かせながら早く戦いが始まらないか、と期待で胸を膨らませている。
「遂に刀一本か」
「相手は新型だな。アイアンクラスの新作、【フォーアインス】。四脚タイプの機体で発砲の反動をガッツリ減らせる」
「予想通り、バズーカ編成か」
「俺なら武器腕だな。ガトリングタイプの」
「だよなぁ」
お兄さんたちはアリーナ戦士なのだろうか。
ポンポンと専門用語を交えながら評価してゆく。
そんな中、俺は妙な視線を感じ取った。
それはザインちゃんに注がれており、彼女もその気配を察したのか不快そうにお耳をピクピク動かしていた。
「……エル」
「把握してる。でも、位置が特定できない」
「……仕掛けてきたら特定できるんだけど、ね」
でも、仕掛けてくる気配はない。
観察だけが目的? でも、なんでザインちゃんなんだ?
疑問は尽きない。
そんな中でバトルポイントを賭けた戦いが始まった。
「いじゃ、じんじょーに、ちょーぶっ!」
ザインちゃんはブジン軽装タイプを躊躇なく突進させた。
流石に早い早い。
俺なら盛大にスッコケさせる自信がありますともっ。
「ちょっ!? なんだその速度っ!」
「ビビってないで撃てって!」
「ちげーよ! そっちじゃねぇっつーの!」
チンピラボーイズのパイロットは、プチモヒカンの少年であるもよう。
それ以外は彼に応援や野次を飛ばしている。
想定外の突進速度にプチモヒカン君は動揺したのか、バズーカ砲を明後日の方角へと発射。
連射のできない大砲の誤射は致命的であるが、対するザインちゃんもまた、ポン刀のみという極端さなので、次弾発射が可能であった。
「こ、今度こそっ!」
ピピッ、というロックオンの報告音が鳴り、バズーカ砲の重々しい一撃が放たれる。
砲弾の速度は流石に機関銃のそれとは違い遅い、が常人では見てからの回避は難しいだろう。
誰しもが勝負あった、と認識したに違いない。
でも、精霊戦隊に所属しているのは常人ではなく、ほぼ全員がなんらかの変態だ。
「ちぇすとぉぉぉぉぉぉっ!」
はい、出ましたっ! 砲弾切りでございますっ!
変態に勝ちたかったら、ビームもってこい! ビームっ!
「ちょっ!? なんだよそれっ!」
「おいのち、ちょーだいっ!」
ドシュッ、という音。
ピクリとも動かないフォーアインス。
「わぎゃけんに、たてぬもの、なちっ」
パチン、と日本刀を鞘に納めるブジンはフォーアインスに背を向ける。
悠々と立ち去るブジンの背後で真っ二つに裂ける四本足の異形の機体は、時の流れを思い出したかのように爆発四散した。
ザインちゃんの完全勝利である。
これに声が出ないアーガス君やパプリカさん、そして野次馬たち。
もちろん、プチチンピラーズも開いた口が塞がらない。
完膚なきまでに幼女なザインちゃんに、手も足も出なかったのだから当然だろう。
「せっちゃの、かちにてしょーりょー」
「ふ、ふざけんなっ! チートだろ! チート!」
「そうだ! そうだっ! 汚ぇぞっ!」
しかし、勝負にいちゃもんを付けるのはNG。
「……戦いに綺麗も汚いも無いのよ?」
「「「すんませんしたー」」」
綺麗にボコられたプチチンピラーズは、ザインちゃんにケツプリ土下座を披露した後に釈放されました。
「これで勝ったと思うなよー!」
「ばーか、ばーか!」
「うぇ~んっ!」
微笑ましい彼らの逃げっぷりを堪能した後は、ようやく俺たちの練習タイムとなった。
しかし、野次馬さんたちは解散する気はないらしい。
「う……この動き、いや、まさかっ」
「は、早い! 動きが予測できない? いや、予測の先を行っている!?」
絶句するのは野次馬のお兄さんズだ。
現在、ヒュリティアとパプリカさんがバトル中。
条件を同じにしての実力勝負となった。
即ち、いまヒュリティアが扱っているのは高機動、高運動性能のスリアムだ。
実際問題、俺も何が起こっているのかわけワカメ。
正面にヒュリティアのスリアムが居たと思ったら、既にパプリカさんの背後に陣取っている。
機体の性能を十分過ぎるほどに活かした結果であろうが……これは酷い。
「ふぎぃぃぃぃぃっ! 全っ然、捉えられませんわっ!」
「……眼だけで追っているからよ。頭も使いなさいな」
ボンッ、とパプリカさんの機体の背中から黒い煙。
そして大型モニターにはKOの文字。
「はうぅ……手も足も出ませんでしたわ」
「……お疲れ様。筋は悪くないわ。今度は戦略を立ててから挑んでみることね」
滝のような汗を流すパプリカさんとは違い、ヒュリティアは汗一つ掻いていない。
これが、現段階の二人の実力差なのだろう。
そんでもって、俺とアーガス君とのバトル。
結果は僅差での敗北となりました。
「やっぱ、戦機シミュレーターじゃ勝てないなぁ」
「それって、光素を使えないからか?」
「たぶん、そうなんだぜ。光素は戦機のポテンシャルを最大限に発揮する、と同時に限界を突破させる力があるんだ」
「おまえ自身が戦機の一部、ってことか?」
俺は彼に頷く。
「そう、戦機とパイロットは一心同体。別物と考えているヤツには、戦機の能力を真に引き出すことはできない、って俺は考えてる」
「一心同体……」
赤髪碧眼の彼は、何か思う部分があったらしい。
少し視線を足元に落とし、そして何かを決心したかのように顔を上げた。
「俺、少しおまえを見直したよ」
「ふきゅん?」
「でも、おまえを、トウキチロウを倒すのは俺だ」
何やら心につっかえていたのであろうか。
アーガス君は、やたらとスッキリしたかのような表情を俺に見せた。
あらやだ、イケメンっ。
「ふっきゅんきゅんきゅん、勝てると思うなよ。光素の暗黒面へ誘ってくれるわぁ」
「そんなもん、俺の力で切り裂いてやる」
握手を求める彼に対し、俺は素直に応じる。
邪な心を感じないライバル関係というものは実にすがすがしいものだ。
「……行ったか」
「うん? どうした?」
「いや、なんでもない」
俺たちを監視していた者はどこかへと去ったようだ。
アーガス君たちの誤解はなんとなく解けたのだが、この謎の視線が俺たちを困惑させる。
敵意は感じられないが、絡みつくような視線はいただけない。
いずれにしても、この監視者をとっちめる必要はありそうだった。




