241食目 クリーンファイト
こーほー、と周囲を威嚇しながら観客席へと向かう俺。
そこにはエリンちゃんとユウユウ閣下の姿があった。
「あっ、お疲れ様、エルちゃん」
「うふふ、なかなか様になっているじゃない」
「こーほー」
エリンちゃんとユウユウ閣下の間の席は何故か空いていた。
これは、別に席を取っていたわけではないもよう。
この美少女と美女の間に挟まれたい、という猛者は流石にいなかったようで、何かの結界のごとくこの場は守られていたもようだ。
そんな神聖な場所に容赦なくおっちゃんこする暗黒物質は自称、光素の暗黒面の体現者であるトウキチロウ卿である。こーほー。
うんしょ、うんしょ、と頑張って結局はお尻を押されて椅子によじ登る。
三歳児は色々大変なんやなって。
もうちょっと大きくなりたいです。
「子供の部ってあと何試合かな?」
「確か、あと十試合ね」
「ひと試合90秒での決着だけど、準備に時間が掛かるっぽいな」
「どっちかというと機券の購入の猶予時間じゃないかしら?」
ひらひら、とユウユウ閣下は薄緑色の紙を振ってみせた。
「ユウユウ閣下も買ったんだ。どうだった?」
「三枚買って、一枚当たったわ。プラスマイナス0よ」
「やっぱ、そうそう当たらないんだなぁ」
「雑魚を推し量っても、雑魚という答えしか出てこないのよ」
「大雑把な予想過ぎて絶対に当たんないやつだ」
でも確率は二分の一なので、下手な鉄砲も撃てば当たるかも、ではある。
しかし、外れる時はこれでもか、と外れるらしい。
しょせんは賭け事なので、そういうものなのだろうと割り切ることが必要か。
『赤コーナー! 今日も電光石火を見せつけるか! 戦機ルークスカイ!【レッドバレット】の登場だっ!』
おや、と気になるリングネーム。
レッドバレットといえばアーガス君のリングネームだったはず。
そして、聞き慣れない戦機の名前が出てきた。
ガシャン、ガシャン、と金属音を鳴らしながらハンガーから降りて来るスカイブルーの戦機はホビークラスの大きさしかないものの、まるで細身の騎士を思わせるデザインだった。
どうやら、アインリールはシミュレーターでしか使わないもよう。
『青コーナー! ここのところ勝利から遠のいているが今日こそは勝利を掴めるか! 戦機ビッシュガドル!【レギガンダー】の登場だっ!』
おっと、アーガス君の相手はレギガンダー君か。
彼が敗戦後、どんな戦い方をするようになったかを見せてもらおうじゃないか。
『試合! 開始!』
試合開始。
うん、素晴らしい!
まさにお手本と言えるような綺麗なファイトだっ!
だが、無意味だっ!
あまりにも綺麗過ぎてケツから破裂音が炸裂するっ!
「綺麗な戦い方だなぁ」
「そうね、反吐が出るわ」
俺たちは、いつの間にか綺麗な心を忘れ、残虐超人の道を歩んでいた……?
露骨に不満を口にするユウユウ閣下に俺は白目痙攣状態になるも、彼女は鬼だから当たり前だるるぉ、という心境でこれをカバー、事なきを得た。
さて、戦いの方はまさにクリーンファイトのお手本ともいえるべき内容だ。
ラフファイトがお好みのレギガンダー君ではあるが、この二人はお互いの手の内を理解しているのだろう。
決定打に欠ける戦いをおこなっていた。
でも観客たちは接戦だと勘違いしているようで、盛大な応援と黒い欲望をガンガン送っておりました。
結局は時間切れによる判定となり、レッドバレットが僅差で勝利を掴むグダグダの決着となってしまった。
しかし、これに観客たちはいい試合だった、と満足している。
やっぱり……俺のハートはギザギザで汚れてしまっているのだろうか。
午前中のジュニアリーグが終わったことにより、午後からはメインアリーナが始まる。
こちらはやはりジュニアリーグとは違い、激しいバトルが繰り広げられるとあって観客たちの応援も白熱することが予想された。
大半の観客たちは席を立たず、持参した昼食で腹を満たしている。
それ以外はコロッセウム内外で済ませているもよう。
特にコロッセウム周辺の露店は大賑わいを見せていることであろう。
「いやぁ、レッドバレットはいい試合をしたな」
「いやいや、レギガンダーもだいぶ戦い方がこなれてきたよ。やっぱり、あの敗戦が堪えたんだろうね。彼はこれから伸びるよ」
俺たちも昼食の【油淋鶏サンド】とコケ・コーラをむしゃむしゃする。
すると三つほどお隣で、貧弱一般人のお兄さんと太っちょさんが、おにぎりを食べながらアーガス君たちの評価を始めたではないか。
どうやら、彼らは純粋にアリーナのファンであるもよう。
あ、ちなみに指定席以外は無料となっており、気軽に観戦できるのはアリーナの魅力の一つであろう。
もちろん、指定席だと迫力あるバトルを観戦できる。
でも人気がありすぎて席なんて取れないから、存在を忘れてしまっても問題無いんじゃないかな。
「今年の大会も、この二人の争いになるかな」
「いや、それは無い。おまえも見たじゃないか、トウキチロウの試合」
「あ~、思い出させるなよ。あれは、戦機バトルという名の何かだろ」
「でもバトルはバトルだろ。俺はあの子が優勝するんじゃないかな、と見てる」
おぉ、太っちょお兄さんは見る目がある。桃先生を奢ってやろう。
「確かに強いけどさ。光素剣しか使わないってハンデで自分を縛っちまっているんだ。これは大きなマイナス要因だよ」
「相変わらずロマンを理解しないやつだな。縛りを作って勝つ奴は魅力の塊だろ」
ああだ、こうだ、と午後の試合が始まるまで持論を述べ合う二人。
しかし、この二人だけが意見をぶつけ合っているかといえば、そうではなく。
「あっちこっちでバトルの話をしてるねぇ」
「みんな、熱狂的なファンみたいなんだぜ。こーほー」
「あぁ、その呼吸音、自分で口に出してたのね」
くそダサお面は昼ご飯を食べるのに邪魔なので外しております。
鬼~さんに見つかるって? 気にするなっ!
ジュニアリーグとメインリーグの間時間は色々とイベントを行うらしい。
今は試合会場にてチアリーダーによる演技がおこなわりており、ピチピチムチムチの少女たちが爽やかなお色気を振り撒いていた。
「そろそろ、メインリーグの時間だねぇ」
「そうね。第一試合はミオだったはずね」
「その次がクロエちゃんだったはず」
この二人は戦機シミュレーターでは下から数えた方が早い評価だった。
でも、ぶっちぎりに最下位の俺であの有様だ。
どうなるかなど考えるまでもなく。
『圧勝~っ! ベテランのヘッドマカロン、手も足も出ずに敗退っ!』
『素晴らしい試合内容です。とてもルーキーとは思えません。【ニャンガー】選手の今後に注目ですね』
ミオはリングネームをニャンガーというものにしたもよう。
乗機は癖がないアインラーズを選択。
マネックは登録されていないし、ルビートルも当然ながら登録されていないので無難な選択であろう。
でも、試合内容はとにかく突っ込んで接近戦。
一応は銃器も使っていたが牽制程度にしか使用していなかった。
その結果が超クリーンファイト。
その整った容姿も相まってスター選手になる可能性を十分過ぎるほどに見せつけることになる。
同世代と思われる少女や、ミーハーなお姉さん、そして妙齢のマダムからも黄色い声が飛ぶ飛ぶ。
これにはクロエも嫉妬の炎を燃やしてしまう事であろう。
そんなクロエもミオに続く、といわんばかりのやる気を見せていた。
彼女の場合は射撃戦をメインに据えての戦いとなるだろうか。
しかし、対戦相手もかなりの手練れで、俺たちがやり合ったどの相手よりも強いと思われた。
やはり、強者はいるもので、クロエも苦戦を強いられている。
「対戦相手、強いわね」
「ふきゅん、あいつ……実戦経験があるな」
ライフルに実体剣、目を凝らせば光素剣も携帯している隙の無さ。
何よりも射撃にフェイントを入れてくるえげつなさは、アリーナバトルだけで身に付くものではない。
「戦機乗りかしらね」
「その可能性は否定できないんだぜ」
でも、それならばクロエも遠慮しないだろう。
現に彼女も、相手のライフル弾を大型戦機ナイフで弾きながら、自分もライフルで応戦している。
お互いに使用している戦機はアインラーズ。
装備内容もほぼ同じ、という。
つまり、この戦いは実力が上回った者が勝利する、という単純明快さがあった。
『こ、今年のルーキーは豊作すぎるぞっ! 去年のベスト16、【トマホーク】選手に一歩も引かないっ!』
『正確な射撃に無駄のない動き、何よりも弾道を見極める確かな目。これはトマホーク選手、やりにくいでしょうね』
一進一退の攻防は、しかし終わりを見せ始める。
フェイントを入れつつ早期撃破を狙ったトマホークだったが、ここで弾丸が切れる。
『ちぃっ!』
ライフルを捨て、実体剣と光素剣を準備しクロエのアインラーズへと突っ込む。
やはり、この思い切りの良さは戦機乗りのそれだ。
守ったら負ける、それを理解するが故の捨て身。
『来たっ!』
だが、クロエはこれを狙っていたらしい。
彼女はミオとは違って考えるタイプだ。
そして、これは一対一であることを理解していた。
クロエは残弾がまだ残っているライフルを対戦相手に投げつける。
『ライフルをっ!?』
虚をつかれたトマホークは、それを思わず光素剣で切り払ってしまった。
ライフルを投げつけると同時に、クロエはアインラーズを突撃させている。
切り払う、という挙動は完全なる隙を生み出した。
戦機乗りの本能ともいえる行動は、しかし致命的な隙を生じさせてしまう。
『これでっ!』
クロエの大型ナイフはトマホークのアインラーズの首へと突き立てられる。
バチバチという音と小さな爆発が起こった。
選手たちの様子を映し出すスクリーン、その片方のコクピットが真っ暗になった。
『まだ! メインカメラを失っただけっ!』
トマホークはまだ諦めない。
直感で膝蹴りをクロエの機体に叩き込む。
『それは……読んでた!』
即座に大型ナイフを手放しバックステップ。膝蹴りを回避。
だが、これでクロエの機体は丸腰。
『か、回避っ! 起死回生の膝蹴りを回避ですっ!』
『いけませんっ! トマホーク選手が勝利への執念でコクピットハッチを!』
やはり、対戦相手は戦機乗りだ。
目的のために命を懸けれる、それこそが戦機乗りの絶対の条件。
視界を取り戻したトマホークのアインラーズが実体剣を振りかぶる。
これに対し、クロエのアインラーズは手刀を構えた。
『光素よ、私に力をっ!』
その手刀が黄金の輝きに包まれる。
それは間違いようがなく黄金の剣。
これにトマホークが委縮するか、などとは愚問。
既に覚悟が決まっている者には。
『うおしゃぁぁぁぁぁぁっ!』
『はぁぁぁぁぁぁ……! やぁっ!』
両者の気迫が籠った剣が激突する。
しかし、勝ったのはクロエか。
『おまえ、まだまだ強くなるよ』
『えっ?』
しかし、勝負に勝ったのはトマホーク。
実体剣ごと腕を切断されたトマホークのアインラーズは、しかし、もう片方の腕に光素剣を持っている。
それをクロエのコクピットに突き付けていた。
『3、2、1……試合終了っ! 勝者、トマホーク選手っ!』
それはコクピットロック3カウントとなり、クロエはまさかの敗退を喫してしまったのだった。
『それにしても白熱したバトルでしたっ!』
『敗退してしまった【ホネ】選手も次に繋がる試合内容でしたし、注目のルーキーといっても間違いは無いでしょう。彼女の次の試合が今から楽しみですね』
予想をはるかに上回る試合内容に会場は興奮のるつぼと化し、次の試合への期待感が更に増すことになる。
『ふにゃ~! 負けちゃった~!』
悔し涙を見せるクロエ。
『あぁ……しんど』
大きなため息を吐き、疲れ果てた態度を見せるトマホーク選手。
ヘルメットを鬱陶しそうに取り外す、と彼は茶髪のイケメンさんであった。
クロエは決して油断をしてはいなかっただろう。
ただトマホーク選手の執念と覚悟がクロエよりも上回った、ただそれだけの事だったのだ。
「いいわね。あんなヤツもいるだなんて」
「かなり強いな、あのあんちゃん」
「手に汗を握る、とはこのことだねぇ」
負けてしまったクロエには申し訳ないが、なかなか見応えのあった試合だった。
ただ、これも実戦となる、とどう転ぶかは分からない。
「ま、クロエはミオに任せればいいでしょ」
「そうだな。次はいよいよヒーちゃんか」
「誰が相手なんだろうねぇ」
そう、次の試合はいよいよヒュリティアなのだ。
ネームドとはいえ、アリーナバトル初参戦とあってオッズは分が悪い。
ということは相当に強い対戦相手がぶつけられたのだろう。
彼女の試合は十五分程度のインターバルが過ぎた後に執り行われた。




