23食目 ロキリズ Eランク2位の男
◆◆◆ Eランク2位の男 ◆◆◆
爽やかな朝、小鳥が囀る中、私は目覚めた。
本日はバトルが行われる日だ。
シャワーを浴び身支度を整え、優雅に朝食を摂り終える。
屋敷に勤めるメイドたちは、いつものように私のご機嫌取りに余念がない。
可愛らしいものだ。
そして、紅茶を味わっている、とタキシードに身を包んだ初老の男が姿を現した。
「坊ちゃま、お時間でございます」
「爺、今日の相手はどんな奴だったかな?」
「は、Eランク14位のエルティナという幼女……あ、いえ、少女でございます」
私はティーカップを、コトリ、と皿に置いた。
なるほど……彼女が、私が留守の間にレ・ダガーを仕留めて名を上げた者の内の一人、というわけか。
「爺、私が世間では、なんと呼ばれているか知っているか?」
「は、金だけのボンボン、でしょうか」
「そのとおりだ。だが、それすらもできない盆暗どものたわごとに、私は聞く耳も持たぬ」
「仰る通りでございます」
そう、世の中はしょせん金。
そして、金を持っている者こそ、最強足り得るのだ。
世間の連中は、その道理を理解しようとはしない。
「戦いは、戦いが行われると決まった瞬間から結果が定められているのだ。ボンボンの戦い方というものを教えてやる」
私はパイロットスーツを着込み、愛機の下へと向かった。
このバトルは消化試合に過ぎない。
私の標的はただ一人。
「銀閃、きみを倒し、私のコレクションに加えて見せよう」
あの気高き少女を、他の誰かに取られるわけにはいかない。
私こそが、彼女に更なる輝きを与えることができる男なのだ。
故に、最高の機体と装備を整えた。
もう一度言おう、これは消化試合であると。
勝利が確定しているバトルなどくだらないが、規則は規則。
観客たちには申し訳ないが、私の強さを証明して帰るとしよう。
◆◆◆ エルティナ ◆◆◆
戦機協会、その建物の地下にはバトルアリーナというバトル専用の空間があった。
そこは大体、東京ドーム程度の広さと高さがある地下空間となっており、客席は設けられていないが、代わりにカメラが多数設置されていた。
これにより、テレビ放送によって、バトルの内容を知ることができる、という仕組みだ。
また、有料であるが戦機用の観客席はある。
要は戦機に乗り込んでバトルを観戦する、というもので、その場合、命の保証などまったくない。
ただし、バトルを肌で感じられるという事もあり、将来を見越して戦機に乗り込んでバトルを観戦するという戦機乗りが結構な数いるらしい。
それはランクが上に上がるにつれて顕著となるそうだ。
上位ランクの順位争いは苛烈なんだそうな。
『よし、両者とも準備はいいか?』
スピーカーからルフベル支部長の声が聞こえてきた。
現在、俺たちは戦機から降りてお互いの顔を睨み合っている。
俺の相手はEランク2位の男【ロキリズ・デ・マンス】という金持ちのボンボンだ。
金髪の癖っ気に碧眼という、いかにも、という感じの青年で、整った顔立ちは、なるほど己惚れるわけである。
尚且つ、金持ちなので質が悪い。
だが、戦機乗りの世界はお金だけで決まるものではない。
特に俺の場合は不確定要素が大暴れしているので、常識をもって挑むと大惨事待ったなしだ。
覚悟しとけよ~?
「Eランク2位は頂くんだぜ」
「ふっ……なんとも負けん気が強いお嬢ちゃんだ。しかし、これは勝負。負けてやるわけにはいかない」
キザったらしいと思ったら、行動もそのままだった。
前髪を、ふぁさっ、と舞い上げて踵を返しやがった。
もうゆるさんぞ、おい。
『両者、戦機搭乗』
ルフベル支部長の促しにより、俺たちはお互いの戦機へと搭乗する。
コクピットハッチを閉めれば、後はバトル開始の合図を待つのみだ。
『バトルのルールは理解しているな?』
「おう、コクピットを狙わない、頭部を破壊された場合、即時敗北だっけか?」
『その通り、付け加えるなら、行動不能になっても敗北だ』
戦機の場合、光素というエネルギーを用いて動いている。
それが尽きる前に決着を付けなくてはならないという事だ。
光素の最大保有量は機体によって違うが、ブリギルトの場合、最大稼働時間は二時間。
戦闘を行った場合は一時間稼働できるかどうかである。
エルティナイトは、というと……わかりませんっ!
こいつは、内部構造が激変した結果、どこに光素タンクがあるのか判明していないのだ。
したがって、現時点では、いつ、どこで、光素が尽きるか分からない、爆弾野郎と化しているのである。
こわれるなぁ、バトル。
『では、ここに、バトルを宣言する! 始めっ!』
ブザーと共にバトルは開始された。
ロキリズの機体は、ビックリするほどに磨き上げられた金ぴかの戦機だ。
その名も【TAS‐063‐G・ルゴード】という。
汎用性を追い求め、オプション装備で、どのような機体にも化ける、という高性能機である。
対戦相手は、これでもか、とミサイルポッドを装備していた。
火力で圧倒してやろう、というのだろうか。
ルゴードは、その外見から分かるように、ゴールドクラスに分類される機体だ。
しかし、大抵のゴールドクラスの機体は、一部を金色に塗装をしているだけであり、こいつのように全身の装甲を金色になど染めてはいない。
いったい何を目指しているのか困惑するが、これは戦いである。
ぼっこぼこにしてやんよ!
「あい~ん」
「分かってるんだぜ、先手必勝っ!」
俺はエルティナイトに突撃させた。
武装に射撃武器などありはしない。
ナイトには、剣と盾、ってそれ一番言われてっから!
『猪め、身の程を知れ』
そんな俺に対して、バンバン、ミサイルをぶっ放してくる成金さん。
それらが空飛ぶお金にしか見えない俺は、既に病んでいるに違いない。
「丸見えなんだよなぁ」
「あいあ~ん」
動きが単調過ぎる。
ミサイルも、ただ撃てばいいものではない。
適切なタイミングで放たなければ無駄になってしまうというものだ。
にも拘わらず、無駄撃ちをやめない。
「なんだか、調子が狂うんだぜ。ヒーちゃんも、こんな感じだったのかな?」
「あい~ん」
まぁ、愚痴っても仕方がない。
俺はエルティナイトの背に背負うエリン剣を引き抜き、日の出立ちを敢行、大いに格好いいポーズを炸裂させた。
「精霊戦機エルティナイトのつよ……あばぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
無粋にも、そこにミサイルを叩き込む空気の読めない男。
もくもくと黒煙が立ち込めて、最高のシーンを台無しにする。
久々に頭に来ちまったよ……バトルしようや?
「もう、やってんだよなぁ」
振動で我に返りました。反省。
「アイン君、損傷は?」
「いや~ん」
損傷無し! 普通だな。
『……は? いや、なんだそれはっ!? ミサイルの直撃だぞ!』
まったく無傷のエルティナイトを目の当たりにして、ロキリズはあからさまに動揺する。
残念だが、魔法障壁を突破できないようなクソザコミサイルは廃棄してどうぞ。
「よし、そろそろ、まじめにやるか?」
「あい~ん……」
最初っからそうしてくれって? さーせん。
アイン君に苦情を申し立てられた俺は、盾を構えながら突進。
ぶっちゃけ、盾は無くても良かったかも。
まぁ、折角作ってくれたし多少はね?
「うおしゃあっ!」
そして、盾で殴りつける。常套手段だ、何も問題はない。
『た、盾で殴ってきたっ!?』
「おめぇ、盾で殴らないとか甘えだろ」
『ひ、非常識なっ!』
ルゴードの手にするマシンガンが火を噴く。
まぁ、効かないんですけどね。
全弾を弾き飛ばされたロキリズは、いよいよエルティナイトが普通の戦機ではないことを悟ったようだ。
慌てて距離を取る黄金の機体。
それを追撃するために、俺はエルティナイトに踏み込ませた。




