237食目 挑発
さて、次はいよいよユウユウ閣下の試合となる。
彼女は例によってセクシードレスに身を包んでの搭乗となるだろう。
しかし、これはリューネちゃんという前例があるため、そこまでのイヤァンパクトはないかも。
そう考えていた時期が俺にもありました。
「ふきゅん、ユウユウ閣下。その格好は……!」
「うふふ、見せてあげる。私はトラウマを克服したと」
なんという事でしょう、彼女はドレスではなく虎柄のビキニを着こんで棘付きの金棒を担いでいるではありませんか何をしに行くつもりだやめろ機券が紙くずになる。
「……また酷い格好ね。連中に対する挑発?」
「えぇ、その方が面白くなるでしょ?」
俺の方はちっとも楽しくならない件について。
そして、この姿が果たして挑発になるのかどうか。
そして、さきほどから【だっちゃ】の幻聴が聞こえてきて、いよいよ俺の精神もやられているような気がしてならない。
俺もそろそろ、ヘルプミール貝の仲間入りを果たすべきであろうか。
白目痙攣状態にて「タスケテー」と呟いたところでユウユウ閣下の出番となりました。
「それじゃ、行って来るわ」
「……ぶち殺してきなさいな」
「もちろん」
そして、ヒュリティアさんは機券を片手に物騒な送り出しをなされましたとさ。
毟れるだけ毟る、倍プッシュだ、と言わんばかりの機券の買い方に狂気を通り越した何かを感じ始めている今日この頃。
もう俺は賭け事なんてしましぇん。
そもそも、俺の運は実戦ごとに使い果たしているような気がするので、賭け事には使えないっぽいし。
虎柄のパンツに包まれた、くそデカおヒップをフリフリさせながら、ハンガーへと向かうユウユウ閣下を送り出す。
これは記者たちも放っては置かないだろう。
明日はヤーダン主任とクロヒメさんの試合があったはず。
ガンテツ爺さんは、今日の最終試合に出番が来るのであまりインパクトは強くないかも。
そして、明後日にミオとクロエ、そしてまたまた俺のバトルが控えている。
「……それじゃ、観客席に戻りましょうか」
「そうだな」
ふっきゅん、ふっきゅん、と通路を行くとヒュリティアがいるお陰でお子様に絡まれる。
中には大人も混じっているので、銀閃というネームドがこれほどまでとは、という事を思い知らされる。
「……邪魔よ、散って」
でも、ヒュリティアはこういう性格なのでファンはつかないんじゃないのかなぁ、とか思っております、はい。
このように辛辣な扱いを受けているというのに黄色い声を上げるのは、こいつらがドMばかりだからだろうか。
最初から手遅れだったなら問題はないな。うん。
途中、購買に寄ってジャンボサイズのコーンスナックと炭酸飲料を購入。
急ぎ観客席へと戻る。
「ふっきゅん。間に合った」
「遅かったのう……ってまたお菓子かい」
「これが無いと始まらないんだぜ」
ガンテツ爺さんはそう言いつつも、しっかりとコーンスナックを口にしておりました。
サクサクの食感にきっつい塩分、それを押し流す炭酸飲料の甘みとシュワシュワ感はジャンクな永久機関として有名すぎますゾっ。
「始まるみたいにゃ~ん」
「ユウユウさん、どんな機体に乗ってるのかなぁ」
ミオとクロエがコーンスナックを高速でむしゃりながら予想し合っている。
ミオはアインリールじゃないかと予想。
クロエはアインラーズじゃないのかな、と語っている。
でも、俺は彼女の性格上、格下の機体で相手を圧倒すると思っているのでブリギルトでの出場となるんじゃないのかな、とか思っております。
「ヒーちゃん、ユウユウ閣下の対戦相手って?」
「……格上扱いね。オッズ98対2。笑いが止まらないわ」
にちゃあ、というドス黒い笑みを浮かべられた気がいたしました。
だが、それは幻聴だ、と言わんばかりの無表情がそこにあったので、きっと幻聴だったに違いない。
『赤コーナー! 33戦全勝! 今日も弾丸の嵐を浴びせるのかっ! 戦機フロウガルト、【イエローパンプキン】の登場だっ!』
赤コーナーより姿を現したのは逆三角形のマッスル蛙のような戦機だ。
蛙といえば、俺がこの世界に始めてやってきた時に容赦なく命を狙ってきやがった戦機も蛙チックな機体だった。
なので俺はこういった機体に友好的な気持ちにはなれないなりにくい。
「ふ~む、全勝が相手か。ここまで難敵ばかりをぶつけられると意図的なものを感じてしまうのう」
「確かに。俺もエリンちゃんも、有名どころばかりなんだぜ」
「……雑魚だったけどね」
辛辣ぅっ!
『青コーナー! 本日がデビュー戦っ! 戦機……ボ、ボングぅっ!? え、ちょっ!?』
実況のお姉さんが物凄く困惑しておられます。
いったい、どうしたというのだろうか。
「なんで、困惑してるんだろ? それにボングってなんだ?」
「うむ、ボングはの、世界初の戦機として誕生した、全ての戦機の始祖のような存在じゃ」
「つまり、どういうことなんだぁ?」
「ポンコツ、という事じゃな」
というか、そんな機体を用意して置くってどういう事?
『し、失礼しました! 改めて……戦機ボング、イバラキドウジの登場だっ!』
呆気にとられる実況解説のお姉さんズは直後にも悲鳴。
なんと、ボングの手の上にパイロットであるはずのユウユウ閣下の姿。
そして開け放たれたコクピットハッチ。
だというのに普通に歩行している骸骨のような機体。
中の人なんていませんよ、とのアピールに仕組みが分からない人々は困惑。
その前にユウユウ閣下の姿に野郎どもが超エキサイティング、シューッ、となって混沌を越えた大パニックとなって、もうどうしたらいいか分からない。
『お、落ち着いてててて、おちちゅいてくだちゃいっ!』
まずはあなたが落ち着きたまえ。
にやにや、と笑みを見せるユウユウ閣下は明後日の方向に視線を送っている。
そこに目をやると……ヤツがいた。
「っ! あれは……熊童子かっ」
「……あのもこもこピンクはそうね。でも、果たしてどっちなのか」
ヒュリティアは観客席にいる熊童子にそのような感想を漏らす。
どっちとは、どういう意味か。
いや、それにしても、もこもこピンクさんも目立つなぁ。
美少女という点でも目立つし、結構なスタイルの良さもベリーグッドだ。
「でも、陰の力は放っていないようだな」
「……そうね。弱体化の話が本当なら、放ちたくても放てないだろうし。もしくは、抑えることが可能になった線も考慮しないといけないわ」
「なんにしても情報が少ない、という事かぁ」
お騒ぎを巻き起こして、ようやくユウユウ閣下は戦機に搭乗。
骸骨に継ぎ接ぎの鎧を着込んだ頼りない機体は背中のエンジン部分から黒い煙を吐き出しながらぎこちない動きでガッツポーズを披露した。
こんな機体で、どうやって全勝相手に勝つつもりなのだろうか。
「いくら何でもハンデを付け過ぎじゃないかしら」
「クロヒメさんもそう思う?」
「えぇ、だって、まともに動けていないじゃない」
よちよち、と前進しているボング。
生まれたての小鹿、或いは電池が切れかけている玩具のような動きだ。
いくらなんでも、アレはない。
しかし、あのユウユウ閣下が何も考えずにポンコツに乗り込むとは考えにくい。
果たして、何か策があっての事か。
どよめく会場、そんな中でユウユウ閣下のデビュー戦が始まった。
『試合! 開始!』
ユウユウ閣下の相手となるイエローパンプキンは先手必勝、とばかりに銃口をボングに向ける。
対するボングは……あれ? 武器持ってなくね?
『ああ~っとぉ! あまりにも衝撃過ぎたため、イバラキドウジ選手が武器を携帯していないことをお伝えしておりませんでしたっ! これは拙いぞっ!』
『イバラキドウジ選手は試合をする気があるんでしょうか?』
これは完全にネタキャラ扱いされる感じがし始めました。
もちろん、そんなことはなく。
そして、実弾兵器ばかりで武装した不幸を、イエローパンプキンは呪うべきであろう。
ガンガン、ライフルをぶっ放すマッスル蛙。
何度も何度もボングに弾丸が命中しているように見える。
観客たちは歓声と悲鳴を同時に上げるも、それはやがて鳴りを潜めていった。
何かがおかしい、そう気付いたのだ。
「やりやがった」
「……そうね」
ギュイン、ギギギギ……と気怠そうにボングが右手を突き出す。
その握られた拳が開く、とそこからポロポロと落下してゆく複数の何か。
言うまでもない。
ユウユウ閣下は、あのポンコツで【弾丸掴み】をやってのけたのだ。
「んん~? ボングの関節に何かが纏わりついてるな」
「……魔法障壁よ」
「あっ!」
なんということだ、ボングの関節を覆い尽くす魔法障壁。
どうやら、ユウユウ閣下は魔法障壁でボングに疑似筋肉を与えているもよう。
これは反則を越える反則ですぞっ。
「……考えたわね。これなら機体を降りれば解除されるし、何よりも防御力強化と運動能力の向上をも期待できるわ」
「でも、なんでユウユウ閣下は魔法障壁を自在に?」
通常、魔法障壁はドーム状か板状にしかできない。
俺は母からの遺伝で自由自在に変形できるが……と考えたところで、彼女は俺から再誕していたことを思い出した。
「……気付いたようね。あなたから特性を引き継いでいることに気付いたのよ」
「鬼にとんでもないものを与えちゃったんだぜ」
「……あの状態、何かに似てるでしょ?」
「ふきゅん、そう言われても」
でも、ピコン、と頭上に豆電球が浮かび、とある奴の姿が脳裏に。
「エルティナイト」
「……そう、エルティナイトよ。魔法障壁の疑似筋肉。戦機では実現しにくい動きは、でも骨のような機体には最適解。見なさい、蹂躙が始まるわ」
狼狽えるマッスル蛙、その直後にゴンっという破裂音。
粉砕される地面、そして甲高い金属音。
メリメリと悲鳴を上げるのはマッスル蛙の右腕の関節。
それを成しているのは、見た目骸骨のような戦機。
『あなたに、戦機による、格闘地獄というものを体験させてあげるわ』
それはイエローパンプキン選手にとって死刑宣告以外の何物でもなかった。
バキャ、という音と共に引き千切られるマッスル蛙の右腕。
わざと右肩を残している辺り、その性格が歪んでいることが良く分かる。
『な、なんなんだっ!? おまえはっ!』
残る左腕で腰に装着されていた光素剣を引き抜く。
直ちに輝く刃が形成された。
息を吐く間もなく、それをボングに突き入れる。
命中した個所はボングの右手の平。
ずぶずぶと突き刺さっているかのように見えるが、実のところ、輝く刃は魔法障壁によって散らされてしまい機体にはまったく届いていない。
にもかかわらず、貫通したとイエローパンプキンは思ってしまったのだろう。
『へっ、口だけかよ!』
ぐしゃり、と光素剣ごとマッスル蛙の左手が握り潰された。
『え? ひぃっ!』
もう見ていられない。
マッスル蛙のHPは0を通り越してマイナスよ、と言いたくなる。
でも、試合は続行されてしまいました。
誰しもが、これから起こるであろう惨劇に期待してしまっているのだ。
『うふふ、さぁ、竦みなさい、怯えなさい。甘美なる死が、あなたを待っているわ』
ひえっ、なんちゅう声を出しているんですか、ユウユウ閣下っ。
もう気分は悪の大魔王なのであろう。
ボングの左手でフロウガルトの顔面を掴み、そのまま強引に引き千切る。
バチバチと稲妻が走り、血のようにオイルが吹き出してボングを茶褐色に染め上げた。
その所業と相まって、地獄の悪魔を彷彿させる姿となった。
ここでようやく観客たちから悲鳴が上がる。
でも、真っ先に悲鳴を上げるのがおっさんというのは勘弁。
ほらみろ、可愛らしい悲鳴を上げるタイミングを失った女性たちが困惑しているじゃないか。
野太い悲鳴なんて聞きたくもないんですわ。ぷんぷん。
『ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ! ギ、ギブアッ……』
バリバリバリ、メキメキメキ! ボンッ!
はい、いったい何が起こっているんですかねぇ?
マジで震えが止まらないんですわ。
『くすくす、うふふ……あぁぁぁぁっはっはっはっはっはっ! 御覧なさい、綺麗な焚火でしょう! ねぇ、熊童子っ!』
ボングの右手にはオイル塗れのコクピットブロックが握られていた。
どうやら、パイロットの安全【だけ】は確保したもよう。
そして、この残虐ファイトは熊童子に対する挑発であった。
この挑発に熊童子はニヤリと口角を上げ、その場を後にする。
しかし、立ち去るその背は明らかに笑っていたではないか。
「……盛大にやらかしてくれたわね」
「ちょ、待てよ。こりゃあ、完全に宣戦布告じゃないですかやだー」
こんな場所で桃使いと鬼の大戦争なんて冗談ではないですぞっ!
負ける気はないけど、ドグランドが火の海に沈んじゃ~う!
騒然とするアリーナをゆらゆらと照らす巨体な焚火は、いよいよ以って悲鳴と共に爆散。
それはボングに付着したオイルに引火する。
しかし、ボングが軽く腕を払う、とそれらはたちまちの内に消滅してしまった。
「喰いやがった」
「……まさか、ね」
物理的ではない、違う方法での鎮火。
それはまるで、全てを喰らう者の食事のようでもあったのだ。
なんにせよ、この試合の異常性は確実に話題になるだろう。
尚、イエローパンプキンさんは、その日の内に引退しました。
合掌、ち~ん。




