235食目 地図から消えた集落
ドグランドを昼に出て、地図から消えた、という集落跡に辿り着いたのは夕方の事だ。
本来なら、本日は休んで明日の朝一番から本格調査となるのだが、明後日にエリンちゃんのデーバトルが入ってしまっているので、到着し次第に調査を始める。
そして、その調査中に気付いてしまった。
エリンちゃん、ドグランドに置いて来ればよかったじゃないですかやだー。
過ぎてしまったことはしょうがないので全力で調査する。
幸いにして、俺たちエルフとにゃんこびと、そして鬼のお姉さんは夜目が効く。
でも、クロヒメさんは普通の人間ですよね? ね?
「月が出ていて助かるわ。流石に真っ暗だったら何も見えないし」
「十分、暗いんですが?」
「この程度で何も見えない、とか甘えでしょ? そんなんじゃ破壊こうさ……げふん、夜の散歩ができないわよ」
「言い直したっ! 明らかに闇系クエストを隠したっ!」
本当にこの人は戦機協会の受付嬢だったのであろうか。
最近はいろいろと闇の部分が明るみに出てきて命がヒュンとなる。
「……遊んでないで、ちゃんと調べる」
「「あいっ!」」
返事だけは良い俺たちは、えっさほいさと瓦礫と雪が積もる廃墟を探索。
でも、有益な情報を取得することはできない。
結構なぶっ壊れ具合は、相当な戦闘があった証であろう。
人間が付けれるような傷跡などは見当たらず、戦機による蹂躙があったに違いなかった。
「これ、なんだろう? エルティナちゃ~ん」
「ふきゅん、どうしたんだぁ、エリンちゃん」
もこもこの防寒具に身を包んだエリンちゃんが手招きをしてきたので、俺もわっせわっせ、とザインちゃんの手を引きつつ彼女の下へと向かう。
すると、今まで感じなかった精霊ちからの存在に気付いた。
「うん? ここら辺だけ、精霊ちからを感じるな」
「たぶん、これじゃないかな」
エリンちゃんが瓦礫に積もった雪を手で払う、と下から石碑のような物が姿を見せる。
でも、その文字は俺たちが扱う文字ではなく、ここの部族たちが用いていた独特のものであった。
したがって、石碑の内容を読み解ける者は現時点で存在しない。
ワンチャンでヤーダン主任が読めるかなぁ、とか思ったけど、やっぱり畑違いだったようで解読はできなかった。
「これは無理ですね」
「だぅ~」
「そっか~」
降り出した白い妖精たちにアクア君が反応、小さなおててを伸ばして雪に触れようとする。
すると、彼女らは小さな人の姿となってアクア君の周りを漂ったではないか。
「あぁ、そっか。こういう場合は精霊に聞くのが一番だ」
「おっと、それを失念してましたね」
尚、にゃんこどもは探索開始三分で飽きて、今はかまくらを作ってやがります。
そしてユウユウ閣下も静かに降り積もる雪をさかなに、ポケットウォッカをワイルドに、ぐびりとやっておられました。
働け、おまえらっ。
「おいぃ、おまえら。この文字読める?」
小さな雪の精霊は、ふるふると首を振る。
でも、文字は読めないけど、ここに居たという精霊の事は知っていたようで。
「土の精霊?」
雪の精霊たちは身振り手振りで情報を伝えんとする。
でも、時間が掛かるのでカットだ!
桃力と精霊ちからを練り合わせたものを糸状にして、小さな雪の精霊に持たせる。
イメージとしては、糸電話だ。
「あーあー、聞こえますかどうぞ」
「ふにゃ~、かいわができるー。すごーい」
どうやら、成功のもよう。
きゃっきゃ、とはしゃぐ雪の精霊たちは、わらわらと糸に群がってきた。
「それで、ここに居たっていう土の精霊は?」
「にんげんが、どこかに、つれさっちゃった~」
「おとなしいこだったから~」
「ひどいね~」
「ひどいよね~」
お雪さんの小人バージョンのような雪の精霊たちは、ふんすふんすと怒りを露わにする。
話を聞く限り、ここの精霊ちからは残り香のようなものなのだろう。
でも、この集落が滅びたのは結構な昔のはず。
にもかかわらず、いまだに精霊ちからを感じ取れる、ということは相当に強力な力を持った精霊という認識をするべきか。
しかし、人間が連れ去ったとはどういうことか。
ここに居た土の精霊は強力な力を所有していたことは想像に難しくはない。
幾ら大人しい性格とはいえ、ここまで無残な侵略行為を黙って見ていたのか。
確かに精霊にとって、人間とは取るに足らない存在であろうが、それでも、ここの部族が土の精霊を敬っていた可能性は非常に高い。
にもかかわらず、一切の手出しをしてないとなると、相当に性格に難がある精霊なのだろうか。
或いは……手を出したくとも出せない状況に追い込まれていた、か。
「そっか。どこに連れて行かれたかは分かるか?」
「わかんな~い」
「きたのほうに、つれていかれたって、おともだちがいってった~」
「ひがしじゃなかった?」
「わかんな~い」
「わかんな~い」
きゃっきゃ、と無責任な発言をする雪の精霊たちであるが、だいたいの精霊などこうして意思疎通すること自体が難しいので、十分過ぎるほどの情報を得ることができた、と考えるべきであろう。
中には問答無用で「オレサマ、オマエ、マルカジリ」してくるヤツもいるのだ。
まぁ、そんな奴はぶん殴って大人しくさせるのだが。
「ありがとなんだぜ。精霊ちからを奢ってやろう」
「「「わぁい」」」
糸を通じて精霊ちからを送ってあげると、小さな幼女たちは大喜びをした。
彼女らにとってはオヤツ感覚だったのだろう、精霊ちからをお餅としてイメージし具現化。
それにもりもり齧りついて美味しそうに食べ始めた。
「ふきゅん、北か東か」
俺が強力な精霊ちからを持っていることを知った、ぷち雪の精霊数体が契約を持ち掛けようとしてきたものの、それはお雪さんがシャットアウト。
嫉妬レディはことごとく、若い同族を追い払ってしまわれましたとさ。
「お雪さんぇ」
「雪女は私だけで十分」
ツンツンデレデレな彼女はとってもスェクシーに着物をはだけておりますとも。
幼女にはできない大人の魅力。俺じゃなくとも見逃さないね。
さて、北の方角といえばドグランドがある方角だ。
この情報の中でも、最も信憑性が高いといえるのではなかろうか。
そして、東の方はというと、これがまったく情報がない。
戦機協会に立ち寄って情報を収集するしかないだろう。
或いは変態マスクに話を聞ければいいが……今どこにいるのかさっぱり分からない。
もうあの家には戻らないそうなので、彼を捕まえるのは困難を極めるに違いなかった。
「……何か分かった?」
「うん、北と東、そのどちらかに、ここに居た土の精霊は連れ去られちまったらしい」
もこもこ羊ちっく防寒具に身を包んだ褐色の彼女は「ふ~む」と無表情で唸った。
彼女も北と聞いて、すぐさまドグランドを思い浮かべたのであろう。
そして、変態マスクの事情を顧みれば、王国が何かしらのかかわりを持っていてもおかしくはない。
ただし、連中が精霊の存在を信じているかは不透明だし、精霊を拘束できる技術を持っているかどうかも怪しいのだが。
そもそもが、連れ去る理由というものがまったく分からない。
土の精霊が、人間にとって価値のある物に宿っていた、と考えれば一応説明はつくのだが。
「ここから東って何かあったっけ?」
「う~ん、確か小さな町があったわ。漁業が盛んな町ね」
これにクロヒメさんが答える。
どうやら、ドワルイン王国の地理をある程度、調べてくれていたもよう。
「小さな港町か……接点が無さ過ぎなんだぜ」
「となると、やっぱりドグランドに何かあるのかなぁ?」
「たぶんな。エリンちゃん、他にも気になった部分はある?」
う~ん、と彼女は周囲を見渡す。
でも、彼女は首を横に振った。
「無さそうかな」
「そっか、俺と同じだな」
どうやら、ここで集めれる情報はもうないようだ。
そうとなれば、もうここに居る理由がない。
役に立たなかった連中を回収して、さっさと撤収することにした。
「帰るぞ~」
「「そんにゃ~!」」
「あら、もう?」
どうやら、ミオたちはかまくらでお餅を焼こうとしていたらしい。
でも、俺たちは忙しいのだ。
「クロナミの甲板にかまくらを運んで、そこで食ってどうぞ」
「「天才だったにゃ……!」」
そんなわけで、彼らは作ったかまくらをクロナミの甲板に難なく運んで、そこでお餅を十分に堪能したとさ。
もちろん、俺たちも参戦。
焼いた餅をお雑煮にして美味しくいただいたのは言うまでもない。げふぅ。




