234食目 因縁
「チーム【シュテンドウジ】だって!?」
慌てて記事の内容を確認する、ととんでもない内容が書かれていた。
内容としては新規精鋭のアリーナチームがデーバトルを荒らしまわっている、というものだが、その構成メンバーが問題だ。
記事にはメンバーの集合写真が小さく掲載されている。
男女混合の編成で男が二人、女が二人。
男の方は、枯れ木のような、よぼよぼの爺さんと、金髪に黒いメッシュを入れている褐色肌の大男。
女の方は、黒髪の大女と、ふわふわもこもこのピンク髪の少女だ。
彼らの姿を認めた瞬間、ズキリと度し難い激痛が走る。
「ど、どうしたんじゃっ!? エルティナや!」
「ぐ……あ、頭がっ」
激しい頭痛。
ここ暫く、この痛みから離れていたのだが、急に襲い掛かってくるのはNG。
でも、この痛みは受け入れなくてはならない。
急速に蘇ってくる母の記憶。
それは俺にとっても、乗り越えなくてはならない試練であることを告げる。
「なんで、こいつらが……!」
「……見せてちょうだい」
後からやってきたヒュリティアが、ガンテツ爺さんからひったくるように情報紙を奪いテーブルに広げる。
そして、チームシュテンドウジの記事を読むや否や、滅多に見せない表情の変化を披露してしまった。
「……虎熊童子、金童子、星熊童子……それに、熊? でも、この見た目はプルル?」
「プルル?」
「……三代目は情報を与えられてないのね。プルルは二代目の友人にして最強格の桃使い。その正体は鬼の四天王、熊童子の転生体よ」
「無茶苦茶にもほどがあるでしょ」
「……その無茶苦茶さが陰陽の極地へと彼女を導いたのよ」
「あっ、そうか。陰と陽は一つとなって真なる力だった」
ヒュリティアは再び紙面へと顔を向ける。
その眼差しは声を掛けることすら拒絶しているかのようだ。
「……酒吞童子を掲げている割には、酒吞童子の姿は無し、か」
「ヒーちゃん、鬼の四天王の事はおぼろげながら、かーちゃんの記憶で把握した。特に虎熊がヤバい」
「……そうね。彼は二代目に執着してたけど、結局最後まで決着は付けられなかった。容姿が瓜二つで似たような性格、そして桃使いである時点で、彼と出会えば戦いは避けられないでしょうね」
「マジか」
「……今回ばかりは大マジよ」
迫真の集中線までもが恐怖に見えてしまうんですわ。
「こ奴らはエルティナの母親との因縁がある、という事でいいんじゃな?」
「……えぇ、そうよ、ガンテツ爺さん。彼らは【鬼の四天王】。これまで出会った鬼とは比べ物にならないほどの格が違う相手よ」
でも、とヒュリティアは顎に手を添えて悩むかのような仕草を見せた。
「……何故、アリーナなの? 鬼なら鬼らしく、腕力で全てを奪えばいいだけなのに」
「完全な鬼じゃないんじゃないのか。俺みたく」
「……不完全な全てを喰らう者のようになっている、と?」
「詳しくは分からないけど、一応は退治されたんだろ、こいつら」
「……一部は、ね」
ヒュリティアの歯切れの悪い答えに、俺は珍しいと感じずにはいられなかった。
普段ならバッサリと返事を返してくるのに。
「……もしかしたら、既に三代目に感付いているかもしれない」
「そうだとしたら、向こうからコンタクトを取ってくるかも?」
「……そうね。どれだけ不完全かは分からないけど、四天王全員で掛かってこられたら、今の私でもあなたを護りきることは難しいわ」
「絶望がマッハなんですが?」
「……その場合は、私たちに一切構わず、全て喰らう者で対応するように。それこそ、自分だけでも生き残る、という覚悟をもって」
彼女の冗談抜きの言葉に、俺は冗談ではないと思いました。
「おいぃ、俺は全てを喰らう者である以前に、桃使いなんですわ。仲間を喰らってまで生き残るとか卑怯でしょ? そんなこと、ナイトである俺は認めないだろうな」
「……そこはナイトっていうのね」
ぷひっ、とため息を吐いたヒュリティアは「少し頭を冷やしてくる」といってリビングから出ていった。
彼女の姿が見えなくなったと同時に、胸につかえていた空気がぶわっと放出される。
あまりの空気の重さに呼吸すら忘れてしまっていたかのようだ。
「なんだか急に大事になっちゃったんだぜ」
「でも、その鬼って言うのも殴ればいいんでしょ? だったら問題無いんじゃないの?」
「それが、できるかどうか分からないから困っているんだぜ」
情けない鬼しか見ていないクロヒメさんは、いつも通りでした。
寧ろ、この人は鬼の性質に近い気がしてならない。
鬼の四天王と出会ったら意気投合しそうなので、彼らと出会わない事をお祈りしておこう。
「ままうえ。せっちゃ、おもいまちゅに」
「うん? どうした、ザインちゃん」
「かりぇらも、てんちぇーちゃ、ではないでちょーか」
「転生者? いや、確かにあり得ない話ではないけど」
そうなるとヒュリティアの不完全説にも信憑性が生まれるわけだ。
でも確かめるには直接会うしか方法がないのだが……。
あなた転生者ですか、と直接話しかけても前世の記憶が無ければ、なんだこいつヤバい薬でもキメているのか、と返されかねない。
事は慎重に進める必要がありそうだ。
「いずれにしても、アリーナに参戦しているのであれば、こいつらと鉢合わせる可能性が高いという事になるなぁ」
「エルティナはともかく、ヒュリティアは本リーグに参戦しとるしのう」
ガンテツ爺さんが顎髭を擦っている様子が背後から伝わってくる。
頭を巡らせているときによく行う彼の癖だ。
「いっそ、アリーナを諦める?」
「う~ん……エリンちゃん、それだと精霊戦隊の強化ができなくなっちゃうんだぜ」
確かにエリンちゃんの案を採用すれば当面の危機は回避できるだろう。
でも今まさに精霊戦隊は危機を迎えているので、アリーナの賞金を無視することはできないできにくい。
さてさて、困ったものだ、となったところでヤーダンママがアクア君を抱っこしてリビングへとやってきた。
ニューパさんの代わりにクロナミを運転していたので、彼女が戻ってきた事により交代となったのだろう。
「おや? どうかしたんですか?」
「ふきゅん、実は」
俺はチームシュテンドウジの記事を見せる、とヤーダン主任は「おや」と声を上げた。
「キン博士じゃないですか」
「キン博士?」
「はい、ほらここ」
ヤーダン主任の細い指は金童子を示している。
こいつが博士とか、いったいどうなっているのだろうか。
「彼はテトラレックス社の戦機開発部門の責任者だったんですが、ここ最近になって急に退社してしまって大騒動になっていたんです。なんで、アリーナチームにいるんでしょうか」
ヤーダンママが眼鏡の位置を指で修正する、とそれを追いかけて小さな手を伸ばすアクア君。
もう眠いのか半分目が閉じている様子。可愛い。
「いろいろと分からないことだらけなんだぜ。こいつらは何が目的なんだろう」
「ただ単に暇なだけよ、こいつら」
「あっユウユウ閣下」
お風呂上がりのアダルトセクシーなユウユウ閣下が、チームシュテンドウジの記事をひょいと持ち上げて目を通す、と「ぷっ」と笑ったではないか。
「中途半端に鬼として再誕したものだから困惑してるのね。見てこの顔、爆笑ものだわ」
「全然、どこを見て爆笑すればいいのか分からないんだぜ」
ユウユウ閣下はもう飽きた、と言わんばかりに情報誌をテーブルに投げ捨てた。
「ま、悪いようにはならないと思うわ。精々、殺し合いに来るくらいなもんよ」
「それが一番困るんですわ」
鬼にとっての殺し合いは、猫のじゃれ合いと同じ程度なのであろう。
でも俺たちは、そんなことをされたら爆発四散してしまうのでノーセンキュー。
「現状は、死にたくなければ、とにかく強くなれってことかぁ」
「そういうことね。こいつらもお構いなしだろうし。くすくす」
まるで他人事のような彼女は冷蔵庫から赤ワインを取り出し、それをグラスに注ぎ、くいっと飲み干した。
「ふふ、以前みたいに直接やり合うつもりもなさそうだし、大丈夫よ」
「そういえば、アリーナチームって紹介だったな」
「たぶん違うわね。そして、戦機チームでもないわ」
ワインボトルとグラスを持ってソファーへと腰を下ろしたユウユウ閣下は、その両方を否定した。
であるなら、残るのは一つのみ。
「傭兵チームじゃな?」
「そうよ。こいつらを秩序で縛るのは困難だわ。特に虎熊と星熊は。前者は我儘、後者はどうしようもない阿呆だから」
ガンテツ爺さんは俺と同じ考えであったもよう。
「お笑いコンビじゃなかったんだ……」
「どこをどう見たら、こんな禍々しいヤツらがお笑い芸人に見えるんだぁ?」
流石はエリンちゃんだ、ボケもへっちゃらだぜ。
「まぁ、何かあったら私がボコるから安心なさいな」
「そうさせてもらうんだぜ」
でも、頼りっぱなしというわけにはいかない。
俺の方でも何かしらの努力はしないといけないだろう。
まさか、アリーナと関係ない場所に向かっているというのに、アリーナ関係で悩まないといけないとか予想だにもしなかった。
取り敢えず、ヒートした頭を冷やすべく、バニラアイスを取りに向かう俺でしたとさ。




