231食目 デビュー戦 ~俺の戦機は狂暴です~
遮蔽物が無いので相手の機体が良く見える。
レギガンダー君の機体は見たことが無い機体であった。
まるで相撲取りを思わせる体形で装甲なども丸みを帯びている。
例えるなら、オレンジ色の相撲取り、とでも言えるであろうか。
見た目は鈍重そうではあるが、それが当てはまるかどうかは実際に戦ってみなくては分からない。
見えない部分に、うんとスラスターが配置されていたら、とんでもない加速力になるし、あの装甲も実は内部がスッカスカで軽い可能性だってあるのだ。
『よぉ、おまえ、ついてないな』
「ふきゅん? なんだ、対戦前にトークとか余裕か」
『デビュー戦なんだってな? でも、おまえはこれで引退さ』
随分と糞生意気なことを言うお子様である。
これにはちょっぴり大人な俺も怒ですぞっ。
「おめぇ、調子ぶっこいてんな」
『俺のことも知らねぇ潜りがどうなるか……教えてやるよ』
声だけでレギガンダー君の様子は分からないが、きっと舌なめずりでもしているのだろう。
じゅるり、の音だけはしっかりと聞こえた。
よろしい。
では、戦機乗りの戦い、というものを教えてしんぜようではないか。
ただし!【俺式】であることを、ここに明言しておくっ!
『赤コーナー! 戦機【ビッシュガドル】! レギガンダー選手!』
歓声はボチボチであった。
どうやら、嫌われているのは確かな事のようだ。
『青コーナー! 戦機アインリール! トウキチロウ選手!』
一方、俺の方はというと、歓声ではなくどよめきが起こった。
音声を拾ってみると、あんなポンコツ、とか、何年も前に見たぞ、とか不安の声が多数を占める中、負けたら分かっているんでしょうね、との声を拾ってしまいました怖いっしゅっ。
「ま、まけられねぇ! 地獄を見るのはレギガンダー君の方にして差し上げろっ!」
「あいあ~ん」
切羽詰まっている俺に対して、アイン君は余裕すらあった。
クロちゃんは、というと俺同様に緊張しているもよう。
俺の緊張は若干、毛色が違うけど気にしない方向で。
『試合……開始っ!』
カーン、とのゴングが鳴る。
ビッシュガドルは一見して武器を携帯してないようだが、内蔵兵器型であれば携帯しないのも頷ける。
あのゆったりとした体形の内側は、兵器が納められている可能性が高いと判断して間違いないだろう。
そして案の定、スラスターを吹かして左に高速移動を開始している。
『おおっと! レギガンダー選手! 早速、トウキチロウ選手を揺さぶってきたぞ!』
『トウキチロウ選手は今日がデビュー戦です。その緊張を利用しようというのでしょうね』
実況と解説も女性のもよう。
解説くらいはむっさい熱血お兄さんか、おじさんでよかったんじゃないのかなぁ。
でも、こんなもんで揺さぶられるとか本当にあるものなのか。
丸見えなんじゃい。
なのでライフル弾をビッシュガドルの足元に叩き込んで差し上げる。
『ちっ、緊張してないのかよ』
「おまえの方が緊張しているんじゃないのか? 声が震えてんぞ?」
『言ってくれるじゃねぇかっ!』
こんな安い挑発に乗るとか、そんなんじゃ甘いよ。
やっぱり大量に隠されていたスラスターで急ブレーキをかけて、こちらに突進してくるオレンジ色の相撲取り。
ぶちかましでも、かまそうというのだろうか。
「いやいや、真っ直ぐ突っ込んでくるって」
装甲に自信があるのだろう。
取り敢えずライフル弾を叩き込んでみる。
ルールには、なるべくコクピット以外を狙うように、と表記されている。
一応、コクピット周りは頑丈な装甲で包み込んでいるため、余程のことが無い限りは破損することが無いらしい。
それに、武器類も威力が抑えられているため、そう簡単には機体を破壊できない、とのこと。
ただし、それはジュニアリーグだけである。
アリーナ戦士の事故死って結構あるらしいっすよ~?
『ば~か、それを待っていたんだよっ!』
急激に軌道を変えて曲線を描く相撲取り。
俺は咄嗟の事に対応できずに、レギガンダー君の接近を許す。
『これで、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
勝利を確信して叫ぶなど二流がやること。
ビッシュガドルの右の手の平から光素の刃が伸びて、俺のアインリールを突き刺そうとしてきた。
狙いは……コクピットとか中々に挑発的じゃないか。
『あ~っとぉ! コクピットを狙っているぞ!』
『危険な行為ですね。でも、これが決まればレギガンダー選手の勝利になります。危険行為も勝利判定には敵いませんから』
なんじゃそりゃ。
アリーナのルール、ガバガバじゃねぇか。
「あらよっと」
ただ突っ込んでくるだけの攻撃なんて、軽く光素剣の手を弾いてやればどうとでもなる。
こつん、と軽くアインリールの左手の甲で真上に跳ね上げ、ビッシュガドルの刺突を防ぎ、続けて右手で持っていたライフルを手放した。
『なっ!?』
「それで勝利確信とか何かの冗談か? それに、わざわざ俺の土俵に上がってくるとか馬鹿なの? 死ぬの?」
お返し、と空いた右手でボディブローを叩き込む。
狙う個所はコクピットの真下。
俺は紳士的なので、できる限りはルールを守る。
でも、コクピットを外した、とはいえそこはすぐ傍の個所なので。
『ひぃっ!』
レギガンダー坊やの悲鳴が聞こえましたとさ。
コクピット狙いをするなら、自分もやられる可能性があることを考えるべきである。
『うわわっ! トウキチロウ選手もレギガンダー選手に劣らぬラフプレイだぁぁぁぁぁっ!』
『一見、同じように見えますがトウキチロウ選手の方はテクニカルですよ。それに……』
おっと、解説のお姉さんはちゃんと見ていたか。
慌てて右手に纏わせた光素障壁を解除する。
まともに殴ったらマニュピレーターがぶっ壊れちまうからな。
ちなみに、エルティナイトの拳はくそ頑丈なので光素障壁はいりません。
下っ腹が、がっつりへこんだビッシュガドルが無様に倒れる。
俺は紳士的なので立ち上がるのを待つ。
とでも思ったのかぁ?
すかさずライフルを拾い、膝関節を滅多撃ちにして差し上げた。
甲高い悲鳴を上げながら破損してゆくビッシュガドルの膝関節。
レギガンダー君は慌てて機体を起こそうとしているようだが、先ほどの恐怖で身体が強張っているのかなかなか立ち上がれないようだ。
そうこうしている内にビッシュガドルの膝関節の破壊に成功。
もうこうなれば焼くなり煮るなり俺の自由である。
「おう、ギブアップすんだよ。あくしろよ」
『こ、このっ! まだ戦えるんだよ!』
「なら、続けるか」
ライフルの照準をコクピットに定める。
もちろん、引き金は引かない。
その代わりに殺気をドバーっと叩き付けて差し上げた。
すると、ゴングの音が鳴り響き試合が終了したことを告げてきたではないか。
『試合終了! 試合終了です! コクピットロック3カウントによる勝利っ! 勝者トウキチロウ選手!』
「あ~、そういうルールがあったなぁ。ふきゅん、命拾いしたな、坊や」
強者感を遺憾なく発揮した素晴らしい決め台詞だと思う。
でも、返事は返って来ませんでした。ふぁっきゅん。
「乱暴だから嫌われている、か。残念だけど、実戦に置いては俺の方がもっと乱暴なんだぜ」
「あい~ん」
そうなるとエルティナイトは乱暴の権化だった?
これは事案ですぞっ!
青コーナーからアリーナ格納庫へと戻った俺はホビーアインリールから降りる。
整備員に機体を任せ、青い扉を潜るとヒュリティアの姿があった。
「……お疲れ様」
「ありがとなんだぜ。やっぱり実戦の方が得意っぽい」
「……でしょうね。動きが段違いだったし、光素障壁も使い放題だしね」
「それな。ルールブックガバガバなんだぜ」
ぷひっ、とため息を解き放つ。
なんだか、とっても疲れた感じだ。
それにモヤモヤ感が心臓の真下辺りで渦巻いているような不快な感覚。
「お遊びの実戦は俺には合わないな」
「……そりゃそうでしょうね。殺さないように手加減しながらの戦いって、とても重労働よ」
「俺も本リーグに参加したかったなぁ」
「……エルの分も暴れてあげるから我慢なさいな」
俺以外には見せないヒュリティアの微笑がまぶちぃです。
「ところで……どれだけ儲けた?」
「……じゃん」
「おいぃ、0が六つもあるんですが?」
こうして、俺のデビュー戦は勝利で終わった。
でも、俺の肌にジュニアリーグは合わないらしい。
勝利の余韻よりも、全力を出せないモヤモヤ感の方が強かったのだ。
やっぱり、戦機というのはこう、自由で暴力的じゃないといけないんやなって。
ふきゅん、ふきゅん、と鳴きまくり鬱憤を吹き飛ばしながら選手控室へと戻る、とそこにはドン引きのお子様たちの姿がありましたとさ。




