229食目 変態マスク爆誕
「ユ、ユウユウ閣下。もう染め終わったんだー」
「えぇ、お陰様で【染色液】には【困らなかった】わ」
にっこりと暗黒微笑を披露なされるユウユウ閣下マジキチ。
いったいどれほどのヒャッハーが、この世から退場なされたのであろうか。
でも、これで少しは世の中も平和になりますね、という名台詞が脳裏を横切ったのでセーフにすることにしました俺は悪くない。
「本当はもう少し濃くしたかったのだけども……追加で染めちゃおうかしら?」
ぬらり、と抜き身の殺気を変態マッチョマスクとなったおっさんに向ける、も彼はそれを謎のセクシーポーズで受け止めたではないか。
「……こいつ、できる」
「ふぅぅぅぅぅんっ、えくすたしーっ」
ぶっちゃけ、もうミンチにしちゃってもいいかな、と思い始めてる。
でも、ここまでしたので、なんとしても情報を吐いてもらいたいところだ。
ただ働きの上に何も情報を持っていないのであれば、それこそユウユウ閣下に焼くなり煮るなりしてもらえばいい。
「さて、おっさんはトマッシュでいいんだな?」
「今の私は【変態マスク】だ」
「面倒くせぇ」
もう変態マスクでいいや。聞き込み開始っ。
「変態マスクは反戦論者なのか?」
「ふむ、それを語るには長い時間を掛けなくてはならない」
「三文字で」
「YES」
爽やかなポージングで語り終えた変態仮面は、病気を治して病気になってしまった感が拭えない。
これにユウユウ閣下もヒクヒクと口角が釣り上がって、今にも血管が切れちゃいそうである。
「そろそろ、この汚物を消毒してもよくて?」
「もうちょっと我慢してくれなんだぜっ」
「ほ~う! この無抵抗な市民を手に掛けるというのかねっ?」
「変態マスクは自重してどうぞ」
あぁ、もう滅茶苦茶だよ。
たった数回のやり取りで俺の精神はボドボドだっ。
「取り敢えず、おっさんがトマッシュだって分った。その上で聞く、幻の食材を知っているのか?」
「君はそれをどこで知った?」
妙にハイテンションだった変態マスクは急に……スン、と静かになった。
きっと、この話は変態状態では語れないのだろう。
でも、顔のおパンツは外さないんだなぁ。
「ジェップという情報屋だよ。昔、ドワルイン王国の部族長から聞いたって」
「……それは俺の爺さんの事だな」
変態マスク・トマッシュは幻の食材は確かに存在する、と断言した。
しかし、それはあくまでも幻である、という。
「全てを融和する食材は確かに存在する。それを俺は【小麦】と断定した」
「小麦?」
「そうだ。全てを受け止め、共に高みへと昇華する食材。それは、人々の心さえも高みに上げると信じ、再生に人生を捧げた」
「幻の食材で戦争を止めようとしていたのか?」
「ドワルイン王国とエンペラル帝国との戦争は、休戦の時代を含めると優に百年を超える。戦争が起こる度に人々は傷つき、多くの悲しみが生まれるだろう」
それを止めるための食材だ、と彼は人々に世界平和のために協力を仰いだ。
しかし世論は開戦派が多数を占めていたため、彼は狂人扱いされて遂には掃き溜めへと押し込まれてしまった、とのこと。
また、その際に薬を打たれた、とも語った。
「随分と強い薬だったようでね。そこからは、まともに生活出来なくなっていたよ。ただ、君が食べさせてくれたアレで全て抜けてしまったようだが」
あの激辛マンは、元々二日酔いゾンビ用なんですが。
もしかしたら、アホみたいに吹き出した汗が毒素を全部吐き出させてしまった可能性も否定できない。
二日酔いも似たような症状だし。
「そんな状態でも幻の食材の再生の事だけは忘れなかったようだ。それを、なんとか再生させよう、ともがいていた気がする」
その瞳には強い意志が戻っていたが、顔面を覆うおパンツのせいで全てが台無しになっていた。
「確か、誰かに小麦を託した話を戦機協会で聞いたんだぜ」
「あぁ……そうだ、思い出した。私は極僅かな時間、自分を取り戻す時があった。その際は町へと赴いて戦争の愚かさと幻の食材さえあれば、戦争をしなくとも済むと説いたのだ」
変態マスクさんは、ふるふると首を振る。
全ては無駄であったのだろうことが、その様子から窺えた。
「彼らは戦争の現実をあまりにも知らなさ過ぎた。戦機バトルという遊戯に現を抜かし過ぎていて、戦機を使った戦争がどれほど悲惨なものかを理解していなかったのだ」
「あら、それじゃあ、王都にまで侵攻されたことはないのね」
「それはエンペラル帝国も同じことだろう。しかし、あちらは機獣が頻発していたようだから、戦いの怖さを知っていたはずだよ。緑髪のレディ」
トマッシュは語る。
戦争の犠牲者となるのは、いつもその末端である、と。
「私たちの部族は、村は両国の戦場となって地図から姿を消した。私は復讐の意味を込めて王都へと赴き、反戦を訴えたのだ。全ては徒労に終わったがね」
「そうだったのか。無駄だと分かって、これからどうするんだ?」
「そうだな。折角、薬も抜けた上に病気も治り、そして強靭な肉体すら手に入れてしまったことだし……世直しの謎のヒーローとして悪を懲らしめる活動をしてみようと思う」
「おいばかやめろ、確実にヒーロー扱いされないぞ」
「ふっふっふっ、慣れているさ。真のヒーローとは理解されないものだと」
そう言う意味じゃない。
女性の下着を顔面に付けたヒーローなんて居て堪るか。
しかも股間に葉っぱ一枚のムキムキの変態だぞ。
どこをどうやっても露出魔か、精神が残念な事になっている人物にしか見られない。
その自信は、いったいどこから来るんだっ。
「あら、その姿で活動するのかしら?」
「うむ、正体を隠すのに都合がいい」
「それじゃあ、足元が寂し過ぎるわね。なら、これを使いなさいな」
ユウユウ閣下はそういうと、するりとストッキングを脱いで変態マスクに渡されたではありませんか。
そして、それを躊躇することなく装着するトマッシュはなんという事でしょう。
目を覆いたくなるほどに完成された変態へと進化したではありませんか馬鹿野郎。
「むぅぅぅっ、力が溢れ出て止まらないっ。これが、私のあるべき姿だというのかっ」
更にムキムキになる変態マスク。
元の人物が誰だか分からない事案に、俺はただただ遠い目をするより他になかった。
変態マスクと別れた俺たちはスラムを後にした。
きっと、数日後には新聞の一面に【変態、現る】と掲載されるような気がする。
朝っぱらから、あの姿を見るのはきっと、いや~きついっす。
「トマッシュさんは小麦を託したって言ってたから、もう自身が関わることはしないんだろうな」
「たぶんね。その託された子が小麦を育てたとしても、収穫は秋になるんじゃないかしら?」
「そんなに待てないし、その小麦が幻の食材である可能性だって保証されてない以上、ひたすら待つのは愚かしい」
「そうなると別のアングルから食材を探さないといけないわね」
大きな乳房を抱えたユウユウ閣下は緋色の瞳を俺に向ける。
「地図から消えたという部族の村。そこに情報が眠っている可能性は多分にあると思わないかしら?」
「あっ、そうか。基本を失念していた」
幻の食材を一番知っていたのはトマッシュではなく、彼の祖父だ。
もしかしたら、自分の息子や孫にも秘密にしていることがあってもおかしくはない。
でも、究極の融和食材を秘密にする理由ってなんだろうか。
皆で分け与えればいいではないか、という想いが脳裏を駆け巡る。
「まぁ、取り敢えず。ユウユウ閣下の姿が色々あれだから服を買い直してどうぞ」
「そうねぇ。今回の染色は失敗だったわ。質が悪すぎるのも考えものね」
クスクスと妖艶に微笑む彼女であるが、いったいどれほどのヒャッハーを駆除したのであろうか。
そんなことを考える、と寝ているときに高いところから落ちそうな夢を見そうなので、俺は考える事を止めました。
色々と情報を獲得した俺たちは帰り際にブティックに立ち寄り、ユウユウ閣下のドレスを購入。
結構なお値段がするはずなのに、戦機周りの品々よりも安いとあって、まったく気にならない辺り末期かなぁ、とも思います。
また純白のドレスを購入した彼女は染色ガチャに邁進するのであろうか。
彼女が染色に満足する頃には、ヒャッハー共も絶滅に瀕しているに違いない。
「また、セクシードレスなんだぜ」
「エレガントさと動き易さを兼ね備える、とこうなるのよね」
大胆なスリットからにょっきりと姿を見せるエロい太ももナイスでーす。
薄紫色のストッキングが、イヤァンパクと大でございますゾっ。
「本当はアクセサリーとかにも気を配りたいところなんだけども……」
「そう言えば、かーちゃんの記憶の中じゃツインテールだったな」
「小さい頃の話よ。その頃はお父様の髪留めを使っていたわね……やだ、ちょっと思い出して」
鬼の目にも涙、とはこのことか。
取り戻せぬ過去を思い出して、ほんのりセンチメンタルになった貴重な彼女を脳裏に記録しておく。
「久しぶりにツインテールにしてみるのも、良いかもしれないわね」
「髪が長いと、色々弄れるんだぜ」
「エルドティーネはいつもロングのままね」
「俺の場合、弄るとヒーちゃんが無言で解いちゃう」
「あらあら、あの子ったら」
おしゃべりしながらクロナミへの帰路に就いている、と露店から芳ばしい香りが。
そういえば、地図から失われた部族の集落の場所を聞いていなかった。
もしかしたら戦機協会の受付おっさんが知っている可能性もあるが、ここは聞き込みという名の買い食いに走るしかなかろう。
「ユウユウ閣下っ! あそこで聞き込みをしようっ!」
「立ち食いうどん? やだ、お汁が飛び跳ねないかしら」
そう言いつつ、しっかりと付き合ってくれるユウユウお姉さん大ちゅき。
というわけで、俺たちは寄り道をするのでありましたとさ。




