226食目 聞き込み開始
まずは近くの小汚いジャケットを着ている冴えないおっさんに聞き込み開始。
「おいぃ、持っている情報を吐けぇ」
「んあ? なんだ、このガキは」
うんしょうんしょ、とおっさんによじ登って膝に座る。
これで最早、こいつは俺から逃げることはできぬぅ。
「うわ、登ってきやがった」
「ふっきゅんきゅんきゅん、もう逃げられんぞ~」
「面倒くせぇ、お子様だな。で、なんだって?」
「俺は特殊食材の情報を集めているんだ」
「特殊食材?」
おっさんは、う~ん、と唸りつつビールを喉に流し込んだ。
すると何かを思い出したのだろう、タンッ、と空のジョッキをテーブルに置いた。
「そういえば、この町に妙な事を言っていたやつがいたなぁ」
「妙な事?」
「食材の事かどうかは分からねぇが、【みんな仲良くできる】って喚いていたヤツが居てな」
「ふきゅん、これは有力情報の予感っ」
おっさんはテーブルの上の鶏皮のから揚げを口に運んだ。
すっかり冷めてしまっているようだが、かりっかりに揚がっているので問題はなさそうである。
「そいつの探している物とは違うと思うぞ」
「おう、遅かったな」
ガタガタ、と椅子を引いて冴えないおっさんの友人らしきおっさんが席に着いた。
すぐさま彼もビールを注文し、間髪入れずにウェイトレスのおばちゃん風お姉さんがキンキンに冷えたビールを持って来た。
「あら、お嬢ちゃん。今度は他所様に迷惑をかけているんか?」
「子供の特権なんだぜ」
「子供の癖に難しい言葉使うてんなぁ。あんまり迷惑を掛けたらあかんで」
おばちゃん風ウェイトレスさんは尻に手を伸ばしてきた客の手を、ぺちっと迎撃し次の注文を取りに行く。
「んで、違うってどういう事なんだぜ?」
「あぁ、それな。その喚いていたヤツ、ってのは反戦論者なんだよ。適当な事を言う事で有名でな。そんときも誰も信じていなかったぜ」
「詐欺師か何かなのか?」
「話を聞いた限りでは犯罪には手を染めていないらしいがな。だが言っていることが突飛過ぎて誰も理解できない上に、少し頭の方もやられているらしい。だから会うのはお勧めできんな」
なるほど、少しばかり気が触れている感じなのか。
だが、その程度で俺が臆すると思ったら大間違い。
「その人は、どこにいるんだぁ?」
「会う気なのか? おまえも随分と変わっているな。それとも、親に聞いて来いって言われてんのか?」
「親はいない」
「そっか……そいつはドグランドの西区の奥、通称【掃き溜め】に住んでるよ」
「掃き溜め?」
「一言でいえばスラムだ。この国の最下層の連中が身を寄せ合う区域だな。止めやしねぇが、それなりの防衛手段は用意しておけ」
つまり、そこは無法地帯でヒャッハーがうろついている、ということか。
じゃあ、ミオとクロエでも連れてゆけば喜ぶかもしれないな。
「ありがとなんだぜ。お姉さん、この二人にビールを」
「はい、まいど」
情報料代わりにおっさんたちに大ジョッキを奢り、今度はカウンターで飲んでいるマッチョな女性戦機乗りへと突撃。
紺色の髪に白のメッシュを入れている短髪のお姉さんだ。
ムキムキだけど、おっぱいデケェ。
おりゃっ、と隣の椅子の上に飛び乗る……ことはできないので、とんぺーを呼んで押し上げてもらいました。
さぁ、聞き込み開始だ。
「おっぱい警察だ! おっぱい法違反で逮捕するっ!」
「いきなりなんやねん、このお子様。これか、これが恋しいんか?」
結構に酔っぱらっているマッスルおっぱいお姉さんは、俺をひょいと持ち上げて自分の胸に抱きしめてきたではないか。
くっそ柔らかいんじゃ~。
「見事なおっぱいなんだぜ」
「あんたも、あと十数年経てば、こうなるんやで?」
「そうかもしれないんだぜ」
実は爆乳で確定しているとかは言えない言い難い。
それに、おっぱいは自分が持っていても重りにしかならないのでノーセンキュー。
他所様のおっぱいだからこそハッピーになれるのだ。
「それで、うちのおっぱいだけが目当てなんか? 甘えん坊ちゃん」
「それはそれで良さそうだけど、違うんだぜ」
俺はこの国にあるという特殊食材の伝説を彼女に語った。
彼女はソルティードッグを口に運び、艶めかしい吐息を吐き出してから答える。
「特殊食材かどうかは分からないんやけど、うちの友達が伝説に挑戦するって息巻いてん思い出したわ」
「なんですと? 興味あるます! お姉さんっ、このマッチョおっぱいエロお姉さんにブラッディ・マリーをっ!」
「妙なニックネーム付けるのやめーや」
ほっぺをぷにられました。
「はい、おまちどうさま。変な子に好かれとるなぁ、ウェンディ」
「好かれているわけやないと思うで、マリー。きっと誰にでもこうやと思う」
ウェイトレスさんは、マリーという名前らしい。
そして、このマッチョおっぱいさんは、ウェンディというそうだ。
「うん、ブラッディ・マリーも久しぶりに飲むと美味いなぁ」
「それで、その伝説って?」
「あぁ、なんでも、えらいごっつい小麦の種を手に入れたとかなんとかでな? 今、それを育てるために準備しているんや。でもなぁ……」
と表情を曇らせるウェンディさんは、その伝説の小麦の種は詐欺師から購入したものだ、と告げた。
「掃き溜めのトマッシュ、っていえば有名な詐欺師や。頭がイカれとる。そんなヤツから買うたもんなんて伝説なわけがあらへん」
「掃き溜め……?」
そう言われて、俺はピンときた。
「その人って反戦論者の?」
「なんや、知っとるんか?」
「さっき話で聞いたんだ」
「せや、反戦論者で頭がイカれてる。同情の余地もあるけど、関わり合いになったらあかん」
ウェンディさんは、鶏レバーを用いたテリーヌをフォークで少量口に運び、味わった後にブラッディ・マリーを口に流し込んだ。
ふぅ、という吐息は蠱惑的な色気を多分に含んでおり、周囲の男たちを大いに魅了する。
だが、まだ真昼間だ。おまえら自重しろ。
「ふきゅん、点と点が早速、繋がったっぽい。ありがとなんだぜ」
「かまへん。それよりも。トマッシュには近付くんやないで」
とんぺーの背中に乗って、ぶんぶんと手を振りながらウェンディさんに礼を言う。
行くな、と言われても食材のためならば、どこまでも行くのがこの俺だ。
取り敢えずは、掃き溜めのトマッシュが何かしらの情報を持っていることは間違いない。
であれば俺は、そこに赴くだろうな。
「抱っこ!」
「はいはい。それで情報は集まったのかしら?」
ユウユウ閣下の膝におっちゃんこした俺は、テーブルの上のワイングラスの数に白目痙攣状態へと速やかに移行した。
いったい、何杯飲んでんだぁ?
でも、まったく酔っていない辺りが鬼なんだよなぁ。
「掃き溜めのトマッシュって人物が有力な情報を持っているらしいんだぜ」
「掃き溜めとは、また随分な二つ名じゃの」
掃き溜め、という言葉にガンテツ爺さんが表情を曇らせる。
それは一部を除く者が全員同じ思いであったもようで、彼と同じく表情を曇らせた。
尚、その一部とはミオとクロエであることは言うまでもない。
掃き溜めの意味を理解していないのか、それともまったく興味がないかのどちらかであろうか。
いずれにしても、彼ら共通の答えは、何かあったらぶん殴る、なので脅威が息をしていないのは確定的明らか。
マジで震えてきやがった。ふきゅん。
トマッシュの説明を済ませた俺は、次の行動を皆に示す。
「まずは、そのトマッシュって人物に会いに行こうと思うんだぜ」
「そうじゃな。じゃが、話を聞く限りでは、ろくなところに住んでいないようじゃの」
ガンテツ爺さんは顎髭を擦りながらチラリとエリンちゃんとヤーダン主任を見やる。
当然だが、そのような場所に彼女たちを連れてゆくつもりはない。
「場所が場所だからな。付いてきてもらうのは……」
「それなら、私が行ってあげる」
名乗りを挙げたのはユウユウ閣下でした。
「小汚そうな場所なんだぜ」
「実は新しいドレスを買ったの。でも、色が気に食わなくて別の色に【染めよう】かと」
「すたーっぷ! 嫌な予感が、ぷぃんぷぃんしてきたんですわっ!?」
「ゴミ掃除だもの、きっと喜ばれるわよ?」
絶対、真っ白なドレスだ。
それを何かの液体で真紅に染めようとしていらっしゃる。
「うふふ、まぁ、私も良識があるから【手あたり次第】、なんてしないわよ」
「ほ、ホントかぁ? 絶対だぞ、絶対」
「えぇ、約束するわ」
というわけで、俺とユウユウ閣下はスラム街へ。
残りのメンバーはアリーナの情報を集めることになった。
そして、ここでぽっちゃり姉貴とはお別れだ。
「ちゅうても、うちん家はドグランドさかい、連絡くれれば、いつでも会えるで」
「そうなんだ。何かあったら連絡するんだぜ」
「それとな、うちらライバル同士や。八百長してくれって話は無しやで?」
にんまり、と暗黒微笑を浮かべるぽっちゃり姉貴は、アリーナ戦士でもあったのだ。
もしかしたら、俺と彼女の対戦もあるかもしれない。
ひらひら、と手を振りながら去ってゆく巨大おヒップを見つめながら、俺は実のところ、ぽっちゃり姉貴との対戦は無いと気づいたのだった。
だって、俺ってジュニアリーグだもの。ふぁっきゅん。




