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223食目 対戦 ~翻弄される子供たち~

 勝負は一瞬だった。


 その勝者は、なんとリューテ皇子である。


「勝った~」

「震えてきやがった」

「ごじゃる」

「とんでもないにゃん」

「だねー」


 彼は対戦早々に両肩の主砲を放とうとしていたリュッテバッテのそこに、ライフル弾を叩き込んだのである。

 そんなことをされれば内部で誘爆し大変なことになるのは明白。

 結果、対戦は数秒を待たずして決着となってしまった。


 これには俺たちならずとも観戦していたお子様方も、口をあんぐりと開けて呆然としていた。

 対戦相手の少女も呆然としているに違いない。


 それにしても、えげつない戦い方である。

 とはいえ、心当たりがないわけでもなく。


 はい、この戦い方は我らのエース、ヒュリティアさんの戦い方でございます。


 少ないスナイパーライフルの弾丸を節約するために編み出された戦法を、シミュレーターとはいえ経験の浅い彼がやってのけるという。


 恐るべき才能が開花しつつあるのだろうか。

 惜しむらくは彼が実戦に出ることはないだろう、ということ。


 次期皇帝様が最前線に出るとか、まずあってはならない、ってそれ一番言われてる。


 あれ? なんか金髪碧眼のお下げ少年の姿が頭の中に浮かんで……?

 王子様? いやいや、まさかそんな……ははっ。


「でも、すぐ終わっちゃって面白くないね」

「ヒーちゃんの戦法だろそれ」

「うん」

「ヒーちゃんは経費節約の鬼だからなぁ。ホットドッグ以外は」


 当たり前のようにヒュリティアの戦法である、と肯定する彼に戦慄せざるを得ない。

 言うは易く行うは難し、の代表ともいえる【銃口抜き】を簡単にやってのける少年は、果たしてどこまで強くなれるのか。


 ここで、ようやく不審少女がぶるぶると身を強張らせながら筐体から降りてきた。

 相当に強いショックを受けているもようだ。


 鳴り物入りで最新鋭機に乗って、数秒しか持たなかったのだから仕方がない。


「……許さない」

「えっ?」

「あなたの顔、覚えたからっ! 必ず、【ジュニア・マスター・トーナメント】に出なさいよっ! 実戦で叩きのめしてやるんだからっ!」


 銀色の不審人物はリューテ皇子に指を刺し、一方的に告げると走り去っていった。


「きゃんっ」


 あ、こけた。


 でも、彼女は立ち上がり、ぴすぴすと鼻を鳴らしながら再び駆け出したのであった。


「エルちゃん、ジュニア・マスター・トーナメント、ってなんだろうね?」

「なんかの大会っぽいけど」

「説明しよう、お嬢さん方っ」


 ここで、またしても説明小僧が出しゃばってきた。

 まぁ、少々鬱陶しいくらいなもので実害はないので説明していただく事にしよう。


 ジュニア・マスター・トーナメント。

 通称JMTは、毎年三月の末に行われるジュニアリーグの集大成ともいえる大会とのこと。


 基本的には上位ランカーから出場選手が選出されるらしい。

 全48枠の内、トップ10がランカー枠。

 それ以外は予選を勝ち抜いた者たちで埋められる。


 でも、この予選というのが曲者で、ある程度の戦績を上げている者しか参加できないらしい。

 なので、今の俺たちでは予選にすら参加できない。


 果たして、あと一ヶ月半程度でどれだけ実績を上げられるのか、といったところか。


「こんなところかな。年に一度の集大成、ってことで皆、相当に熱が入っているんだ」

「そうなんだ。じゃあ、俺たちはまずジュニアリーグで勝ちまくらないと、だな」


 これにリューテ皇子も納得を示す、と同時に黒い笑みを見せた。


「そうだね。宣戦布告を受けて出場しないのは失礼に当たるし、ね?」


 彼は意外にも闘争心が高いようで、銀色不審人物からの挑戦状を真っ向から受けて立つもようだ。

 そうとなれば、今日からでも対戦に臨んで戦績を上げてゆかねばならないか。


「……こんなところにいた。何をしているのかしら?」

「あっ、ヒーちゃん。説明終わった?」


 どうやら、大人たちの説明会は終わったもよう。

 ヒュリティアが、アクア君を抱っこするヤーダン主任を伴って姿を見せた。


 瞬間、周囲がどよめく。


「ぎ、銀閃だっ」

「本当に子供だったんだっ!」

「すっげー! マジかよっ!」


 どよめきは数秒後に興奮へと置き換わり、ヒュリティアに群がるお子様の群れが出来上がった。

 とはいえ、男の子は外堀に追いやられ、ヒュリティアに纏わり付いているのは女の子ばかりとなった。


 もっと頑張れ、男の子っ。


「銀閃お姉さまはジュニアリーグに出られるのっ?」

「戦っている姿を見せてくださいっ」

「以前の対戦の中継を見てファンになりましたっ!」

「サインっ、ここにサインをっ」


「……鬱陶しい」


 どうやら、以前戦機協会の本部に出向した際におこなった模擬戦がテレビ中継されていたようだ。

 ヒュリティアにとっては良い思い出ではないのだが、それを見ていたちびっ子たちはそうではないようで。


「あの対戦、感動しましたっ! あのナイトランカー7位のルイン・アイに一撃を加えるだなんてっ」

「銀閃さんは、僕たちの憧れですっ」


 そういえば、そんな話をしていたような気がする。

 結局は完敗だったようだが、熱心なスカウトを受けたとかなんとか。


「……なんとかならない? この子たち」

「迂闊な行動は死に繋がるんだぜ。まぁ、一戦だけやってあげればいいんじゃないかな?」

「……はぁ、めんどくさ。エル、相手をしてちょうだい。ついでに調整もしておきましょう」

「がってん」


 この大騒ぎにヒュリティアは呆れつつ、これをなんとか収めるために一戦だけ戦機シミュレーターでの対戦を引き受ける。

 その対戦相手は俺に決定して、いざ対戦開始。


 俺はアインリール、そしてヒュリティアはブリギルトだ。


「え? 格段に性能が劣るブリギルト?」

「しかも、スナイパーライフルのみで弾丸も二発だけっ!?」


 どよめく子供たちだが実はこれ、クロナミでの戦機シミュレーターでの定番である。

 二撃必殺、それがヒュリティアのタイマン勝負のやり方なのだ。


 それがまぁ、えげつない事。

 どれだけ、えげつないかは見ていれば分かる。


 とはいえ、彼女の引き立て役になる気はまったく無い。

 寧ろ、やるぞ馬鹿野郎勝つぞこの野郎、の精神でこの一戦に臨む。


 俺はアーガス君との対戦の反省を活かし、マシンガンの代わりにスナイパーライフルを選択。

 ヒュリティアとの戦いに近接武器は不要なので、それ以外は機体半分を覆い隠す盾をチョイス。


 動きは遅くなるが、この盾は必須と言っても過言ではない。

 後は予備カートリッジを三つほど。


 スナイパーライフルの弾丸装填数は3。

 最初から込められている分を含めて12発で決着をつける必要がある。

 尤も、その前に終わる可能性は十分にあるが。


 だが、二発を凌げば俺にも勝ち目があるという事。

 そのための大盾だ。


 対戦が始まる。

 地形は先ほどと同じ荒野で遮蔽物は一切無し。


 だが、俺には大盾がある。

 それを大地に突き刺し機体に膝を突かせる、とほぼ機体が盾に隠される。


 そしてスナイパーライフルを盾の上に載せて安定させれば、狙撃精度も上がるというもの。

 この攻防一体をどうやって凌ぐのか、見せてもらおうかっ。


「先手必勝っ」


 一発目をブリギルトの右足元へと射出。


 よし、いいぞっ! 真っ直ぐ飛んでる!

 これで、ヒュリティアは左に飛び退くはず!


 ……と思ったらスナイパーライフルを抱えて大ジャンプしてきたっ!?


「ヤヴェよ、ヤヴェよっ。真上は盾の意味がないって!」

『……なんのために必要最小限にしている、と思っているのかしら?』


 流石はブロンズクラスの鬼だ。

 ブリギルトの限界性能を把握した上での最小装備。


 まさか、ブリギルトがこんなにも跳べるだなんて思いもよらず。


 アインリールの真上を取ったブリギルトが姿勢を制御しスナイパーライフルを構える。

 その指が引き金を引こうとする場面を目の当たりにし、俺は急ぎ盾を捨てバックステップ……がしかし直後に左膝関節を撃ち貫かれた。


「なんとぉぉぉぉぉぉっ!?」


 激しく振動する筐体。


 何が起こった!? 確実に回避したはずっ!


『……目が良すぎるのも困りものね。引き金は引いてないわ』

「フェイクかっ」

『……そういうこと。それじゃあね』


 ごん、という衝撃。


 それは左足を失ったアインリールが大地に手を突いたものと、コクピットを撃ち貫かれたものであった。

 あの一瞬の攻防を理解できたお子様が、果たしてどれほどいたか。


 ヒュリティアが敵じゃなくて良かった、と心から思う。


 でもまぁ、エルティナイトだったらまともに戦わないので、どうなるかは不明なんですが。


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― 新着の感想 ―
[一言] シミュレーターじゃなければ魔法障壁とかあるからまた結果は違ったんやろなぁ…。 でも与えられた条件の中で最善を尽くすのもパイロットの腕だから多少はね?
[一言] 珍獣いいとこなし!
[一言] 子供達、どよめく A「誰だあのお姉さんは!?」 B「子供を抱いてる?経産婦だと!!」 C「見てるとナニかがこみ上げて……うっ!」 NG「是非も無いな……」 珍獣「最後のヤツトラウマレベルに …
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