221食目 小さな戦機シミュレーター
さて、アリーナ規約なんて聞いていても面白くもなんともないのでカットだ!
というか、あまりのつまらなさから、ついつい椅子の上に立って踊りだす、とそれに呼応してミオとクロエも踊り出し、遂にはリューテ皇子もこれに参戦。
いよいよアリーナ戦士たちを巻き込む一大ダンス大会になり掛けたところで、ガンテツ爺さんによってしょっ引かれましたとさ。
「ちょっぴり、コロッセウム内を見て回るんだぜ」
「あまり変な場所に行くんじゃないぞい」
まぁ、規約は後で書類として纏めてくれるらしいので、それを読めばいいだろう。
チャイルドな俺はとんぺーを呼び、ザインちゃんと一緒に乗り込む。
リューテ皇子も乗りたそうではあるが、流石にとんぺーも三人は無理だ。
筋力的な意味ではなく、背の長さが単純に足りないのである。
ぶっちゃけ、とんぺーは前足で大岩を平気で砕く超パワーなので、モフモフの見た目に騙されたヤツはもれなく死ぬだろうな。
あ、毛玉の方は見た目通りクソザコナメクジです。
ただし、こちらは耐久性が半端ではないので、殺せるかどうかは不透明。
まず、打撃、衝撃といった物理攻撃は意味をなさないし、斬撃もモフモフの毛がいなす、という訳の分からなさだ。
でも基本的に温厚で大人しく、人懐っこいので悪いようにはならないと思う。
というか、こいつが危険なら世は既に世紀末である、と考えるべきだろう。
ちなみに、俺は歩く世紀末なので刺激しないように。
「お、小っちゃい戦機シミュレーターがあるぞっ」
「あ、本当だっ」
俺はとんぺーに、そこに向かうようお願いする。
すると彼は「おん」と鳴いた後に、ふらふらと購買のドッグフードにホイホイ釣られてしまたではないか。
「おいぃ、そっちじゃねぇ」
「きゅ~ん」
でも、あんまりにも情けない声と、ウルウルした瞳を見せられては断れない断りにくい。
仕方がないので、皆には内緒でとんぺーにドッグフードをご馳走してあげました。
「皆には内緒なんだぜ」
「おんっ!」
むしゃむしゃと固形タイプのドッグフードを食べ進める、とんぺー。
彼にとっては、おやつのような感覚に違いない。
「じゃあ、僕はこれ~」
「ミオはこれにゃ」
「私はこれにしようかな?」
「せっちゃは、これをっ」
「おいぃ、なんでおまえらも、おねだりしているんですかねぇ?」
「「「きゅ~ん」」」
容赦なくとんぺーの真似をする邪悪なチルドレンどもはきたない。
流石チルドレン、きたない。
仕方なく彼らのおやつも購入。
ジュニアリーグもあるとのことで、子供用のおやつが豊富な事、豊富な事。
これは購買店の陰謀説もあるで。
リューテ皇子たちはドーナツをチョイスしたが、俺はちょい悪チルドレン。
ドーナツなどというお子様スイーツには目をくれず、その場で揚げてくれるという串揚げをチョイスした。
なんで串揚げが購買店で売っているんだよ、というツッコミはいけない。
何故なら、コテコテの関西風の店員は、それを望んでいるからだ。
「ほい、揚がったで」
「なんで、購買店で串揚げやねん」
「たはー、言われてもうたっ」
ほら、ご覧の有様だよ。
店員の嬉しそうな事っ。
「そりゃあ、食い倒れの町や。仕方あらへん」
「そうなのかー」
レンコンの串揚げを購入した俺は、すかさずそれを口へと運ぶ。
特性の付けタレにドボンされた揚げたての串揚げに間違いはなく、サクサクとした歯応えの後に来るシャキシャキ感は延々と咀嚼していたくなるほどに魅力的だ。
しかし、串揚げに纏わり付いている濃厚なウスターソースがそれを許さない。
この複雑玄妙、加えて豊かな香りを放つ魅惑のソースは、はよ食っちまえ、と言わんばかりに食欲を刺激する。
こんなことをされちまっては、こんな串揚げの一本程度、あっという間に消えてしまうのは仕方がないというものだ。
「ふきゅん、ごちそうさま」
「まいどおおきにっ」
でも、今は食べることに夢中になれない。
小さな戦機シミュレーターが俺たちを呼んでいるのである。
まぁ、後でたらふく食ってやるが。
ふっきゅん、ふっきゅん、とご機嫌ぶりをアピールしながら子供用の小さな戦機シミュレーターに向かう。
そこには大勢の子供たちの姿。
二機の戦機シミュレーターの正面には超大型のスクリーンがあって、使用中以外の者も対戦を観戦できるようになっている。
クロナミの戦機シミュレーターにも、このような観戦用のモニターが設置されてはいるが20インチなので迫力がない。
あくまで確認用に接続されているだけなので、仕方がないのではあるが。
「ふきゅん、凄い迫力なんだぜ」
「音も凄いにゃーん」
「戦機シミュレーターもグイングインって動いてるね」
どうやら、ここの戦機シミュレーターは実戦を想定した仕様になっているようで、被弾した場合、筐体が激しく揺れるようになっていた。
また、戦機を移動させた際にも筐体が上下に揺れている。
観戦中の子供たちは大画面に映る戦機たちの一挙一動に歓声を上げた。
きっと、アリーナ戦士を夢見るボーイとガールたちなのだろう。
周囲を観察していると対戦の決着がついたもよう。
小さなブリギルトとアインリールの戦いは、アインリールの勝利に終わった。
半べそになりながら戦機シミュレーターから降りてきたのは小学生程度の女の子だ。
逆に意気揚々と降りてきたのは活発そうな男の子。こちらも小学生程度である。
「次は負けないんだからっ」
「へへ~ん、次も返り討ちにしてやるぜ」
勝負に負けた紫髪の少女は「き~」と泣きながら走り去っていった。
少々大人げないが、彼は子供なので割とセーフなのだろう。
「さぁ、俺と勝負する奴はいないか! まだまだ、戦い足りないぜっ!」
「アーガスに勝てる奴なんているかよ」
どうやら、勝者である彼はアーガスという名前らしい。
赤髪の碧眼で、かなり負けん気が強そうな少年だ。
緑色のツナギ、そして髪と同じ赤いジャケットを羽織っている。
彼はどうやら連戦連勝だったようで、かなり調子ぶっこいているもよう。
でも流石に、ミオとクロエは彼に挑戦する気はないらしい。
観戦しただけで、余裕で撃破可能、と判断していたのだ。
なので、白羽の矢を突き立てられるのは俺、という事になる。
「おいぃ、勝負だぁ」
「おっ? 随分とちっちぇな? 大丈夫か?」
アーガスの困ったような表情に、周りのお子様共がクスクスと笑いを漏らす。
おめぇら、その余裕ぶっこきぶりを、すぐさまジョバリッシュ状態に変えてやんよ。
「大丈夫だ、問題無い」
「ならいいけどよ。結構揺れるぜ、ここのは。ゲーセン感覚でやるなら、やめとけよ?」
どうやら、本気で心配してくれているようだが、勝負自体は断る気はないらしい。
「慣れているから大丈夫」
「へぇ……ってことは、他のところのジュニアか?」
「んー、どう返事するべきかな。ジュニアには、たった今なった」
どよめく周囲に対し、アーガスはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「同じジュニアなら、容赦はしないぜ」
「そうしてくれ。自分の実力を知りたいんだ」
「よし来た! じゃあ、早くおっぱじめようぜ!」
楽し気な顔を見せてアーガスは戦機シミュレーターに乗り込んだ。
どうやら、戦うのが楽しいお年頃のもよう。
戦機の現実を知らないからこそだろう。
あるいはアリーナ戦士だけを見て育ってきたか。
「さて、呪いは解けたが……ちゃんと前に飛ぶんだろうな?」
筐体に乗り込んだ俺は各システムをチェックする。
なるほど、マニュアルタイプのコクピットを、そのままスケールダウンした本格仕様のようだ。
これを操作して自由自在な動きを見せていたアーガスは決して三流ではない。
気を引き締めなくてはならないのは俺のようだ。
「機体選択は……」
「あい~ん」
「ふきゅん? アインリールにしろって?」
戦いに参加できないアイン君は、せめてアインリールを使って、とおねだりしてきた。
こう言われてしまっては断りにくいのでアインリールを選択する。
するとアイン君は嬉しそうに、ぴょこぴょこと俺の頭の上で飛び跳ねたではないか。
『へぇ、おまえもアインリールか。いいセンスだな』
アーガスから通信が入った。
どうやら、通信システムも完全に再現しているもよう。
「そりゃあ、長い付き合いだしな」
『そっか、俺と同じだな。おまえ、名前は? 俺はアーガス』
「エルティナだ」
『エルティナか……覚えておくぜ』
筐体の画面が仮想の戦場を映し出した。
場所は荒野、身を隠す場所など無い、純粋な操縦者の腕前を試される地形だ。
合成音で『Lady、Go』との掛け声。
俺とアーガス、そしてアインリール同士の対戦が始まった。




