220食目 アリーナ登録
ドワルイン王国は文化の最先端、というだけあって極めて発展した科学技術が用いられている国であった。
そこかしこに動く床なるものがあったり、果ては転送装置なる物すら設置されているという始末。
どこのSFだよと突っ込みたくなるも、おめぇらファンタジー勢だろ、おぉん?
とツッコまれそうなので、ここはグッと堪えるのが賢明。
どっちもどっち、ってはっきり分かるんだね。
「王国っていうことだけど、古き良き時代感がまったくないんだぜ」
「そうやな。なんでも、今の王様に変わってから、急速に近代化が進んでもうたらしいで」
地元民であるぽっちゃり姉貴の案内を受けつつ、アリーナに向かう我ら精霊戦隊は、途中の露店で【キャベツ巻】なる料理を購入。
これはお好み焼きを食べ易いよう、クレープのごとく巻いてしまった物だと考えればいいだろうか。
そもそもが、お好み焼き自体が間違いないので、これなるキャベツ巻も大変に美味しい。
食べた感じ、キャベツの量が多いのかとっても甘みが強く感じる。
この料理用に調整したウスターソースもベリーグッドだ。
お店によってキャベツ量やウスターソースの味付けが違っているのも面白い。
「いくらでも食べられるんだぜ」
「……フランクフルトを追加で加えられるとか、あの店は贔屓にしなくては」
ヒュリティアさんは案の定、キャベツ巻ですらホットドッグにしてしまわれました。
彼女は「まぁ、粉物だし多少はね」という理論で完全論破を目論むも「それはちゃうで」と言いたくなるのは俺だけであろうか。
でも、後が怖いので言わない。
だって、俺は長寿タイポだから。
「あっ、あそこのたこ焼きも変わっていて美味しいで」
「なぬっ? それは見過ごせない。皆、つっこめ~」
「「「わぁい!」」」
文化が発達している、ということは食も発達していることに繋がる。
ここは正しく、食い倒れの町と言っても過言ではなく、凌ぎを削る露店が多いこと多いこと。
このままではお金を稼ぎに来たのに、逆に食費でお金が消し飛ぶ可能性が高い。
これじゃあ、勝負になんないよ~。
「こりゃ、買い食いばかりしておると、いつまで経ってもアリーナに到着できんぞ」
「ふきゅんっ!? 俺は正気に戻った!」
というわけでガンテツ爺さんに怒られましたとさ。
尚、先ほど食べた、たこ焼きには、タコの代わりに豚肉の粗挽きが入っており、掛けられていたソースもデミグラスソースでした。
普通に美味しかったけど……タコどこ? ここ?
やってきましたアリーナ。
それなる競技が開催されるコロッセウムは、時代に取り残されたかのようなデザインの建物だ。
古代ローマ帝国の見世物はこちらの世界でもあったようで、その内容も人間同士が殺し合う様を見物するという乱暴なものである。
尚、異世界カーンテヒルにも、これ同様の施設はあったが最初から安全に配慮した闘技場である。
でも、向こうの連中は生身で当たり前のように宙を駆けたり、手からビームを出したり、挙句の果てには爆発したりするから、安全が息をしていらっしゃらないもよう。
誰だよ、爆発するヤツって。顔が見て見たいぜっ。
「ようこそアリーナへ。本日はどのようなご用件で?」
「アリーナ戦士の登録、頼むわ」
「これはグリオネ様、ようこそ。というと、あちらの方々でございますね」
「せや、よろしゅう頼むわ」
「承知いたしました。では、こちらの用紙にご記入してお持ちください」
アリーナの受付嬢はぽっちゃり姉貴とは真逆の痩せすぎの女性であった。
灰色の髪をお団子状にして纏めている。
赤渕の眼鏡がとてもよく似合っている清楚系お姉さんだ。
俺たちは登録用紙を受け取って、そこに情報を書き込んでゆく。
住所の記入欄があるが、どこかに定住しているのでなければ、戦機協会の初期登録場所を書き込めばいいらしい。
そして、戦機協会の証明書を提示すればOKとのことだ。
後は割と適当でいいらしい。
「アリーナのリングネームかぁ。何にしようかな?」
アリーナに登録する場合、本名とリングネームの二つを登録する必要がある。
本名は基本的に用いないようで、あくまでも本人確認用に用いるらしい。
そして、アリーナ戦士としての活動名が主に用いられることになる。
このリングネームは一度、登録してしまうと変更不可能らしく慎重に決める必要があるらしい。
なので、こうしてピンと来るネーミングが降りてこないか踏ん張っているのだ。
でも、出るのはオナラだけなんだよなぁ。
「……【オナラプー子】でいいんじゃないかしら?」
「おいばかやめろ、それではアリーナ戦士どころか人生が終了しちまう」
「そのリングネームは、もう使われておりますね」
「どこのバカタレだ」
なんという事でしょう、こんなネタネームを使っているヤツがいるもようです。
流石は文化が発達した国だ。格が違うぜ。
「……私は【ものすごい美幼女】でいこうかしら」
「なにそれひどい」
「あ、申し訳ありません。ただいま確認しました。銀閃様のように二つ名が認知されているお方はリングネームを使用できません」
「……そんなー」
これにヒュリティアさんは無表情でしょんぼりなされました。
尚、俺の通り名はまったく認知されていませんでしたよ、ちくせう。
「こんなの別に本名でいいのよ」
「ユウユウ閣下は本名で登録するのかぁ?」
「えぇ、ちゃんと【イバラキドウジ】って記入したわ」
「ある意味でリングネームじゃないですかやだー」
しかも何世代前の名前だよ、とツッコまざるを得ない。
「あなたも【トウキチロウ】にしなさいな」
「トウキチロウ?」
「っと、そういえば、あなたはずっとエルドティーネだったわね。転生者と勘違いしていたわ」
「トウキチロウ、って誰なんだぜ?」
首を傾げて、それなる人物をユウユウ閣下に問う。
彼女は少し悩ましい表情を見せた後に、トウキチロウなる人物を軽く説明してくれた。
「簡単に言うと、あなたの母親の兄。つまりエルドティーネの伯父よ」
「そうなのかー」
確かに俺の中にある母の記憶は消えつつある。
しかし、そんな重要人物の記憶が丸っと無いのはどういうことか。
「その様子だと、桃吉郎の記憶はまったく持たせなかったようね」
「姿形も想像できないレベルなんだぜ」
「ま、あれはあなたに悪影響を及ぼすだろうから賢明ね。うん、あの事は絶対に許しまじ。私の性癖を歪めた罪は重い」
ユウユウ閣下は、怒りと悩ましさが混じった表情を浮かべながら、くねくねと身体を揺らした。
果たして、トウキチロウ伯父と彼女との間に何があったのだろうか。
もしかして、元恋人同士とか?
ははっ、人間が鬼と恋に落ちるとか昔話か。
「よくは分からないけど、トウキチロウで登録しておこう」
「そうね。その名前の悪いイメージを払拭してちょうだいな」
というわけで、俺のリングネームは【トウキチロウ】と相成りました。
他の面子も、思い思いのリングネームを登録したもよう。
そして、意外な人物がアリーナ戦士として名乗りを挙げる。
「えへへ、僕も登録したよ」
「リューネちゃんもジュニアリーグに参戦するのかぁ」
なんと、リューテ皇子もジュニアリーグに出るらしい。
というのも彼はヤーダン主任の戦機シミュレーターに同行しており、いつの間にか自分も戦機を操ってみたい、という願望が生まれていたもよう。
そして、ヤーダン主任の膝の上に乗って戦機シミュレーターを試してみたところ、意外な才能を開花させたとか。
「もしかしたら、エルティナちゃんに勝っちゃうかもね?」
「おいぃ、上等だぁ。俺が上ってことを証明してやるぜぇ」
リューテ皇子の挑発に、俺はムラムラと闘志を燃やす。
こうして登録を済ませた俺たちは、続けてアリーナ規約を説明されることになった。




