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214食目 不確かな伝説

 大宴会の次の日。


 例によって大量の二日酔いゾンビどもを超激辛チゲ鍋で退治した俺たちは、夜まで時間を潰すべく、久しぶりのキアンカを堪能する。


 その前に急成長を果たしてしまった桃先生の大樹だ。

 俺の隅っこ小屋は完全に使用不可能になってしまっていることは言うまでもあるまい。

 今はその名残である残骸が、そこら辺に転がっていた。


 だが大型ベッドは何故か無事であり、相変わらずその上に、にゃんこやわんこが丸くなっている。

 不思議なもので、ベッドシーツなどはまったく汚れていないようだ。


 きっと桃先生が、あれやこれやで綺麗に洗浄しているのだろう。

 なので俺はベッドに飛び乗るだろうな。


「うんしょ、うんしょ」


 飛び乗れませんでした。

 ベッドに上がるための木箱が行方不明なんだよなぁ。


 なので、とんぺーに「わんわんぉ」とお尻を押してもらいましたとさ。


「ふきゅん、案の定、ここだけが春のぽかぽか感」

「……桃先生の加護ね。動物たちも、それを理解しているから、これだけ集まってくるのよ」


 ベッドの上は、もこもこパラダイスである。


「もきゅ? もっきゅ~!」


 そこに、散歩でもしていたのであろうモフモフが加わって、もこもこ度は更に加速する。


「ありゃ、隅っこ小屋が壊れちゃったね」

「エリンちゃん」


 モフモフと一緒に散歩していたのだろう、エリンちゃんが顔を見せた。

 昨日はとにかく洗い物に終始していたエリンちゃんは、かつての隅っこ小屋に想いを馳せる。


「そういえば、エルティナちゃんがやってきて、まだ一年も経ってないんだねぇ」

「言われてみれば、そうだなぁ。一年持たなかったか、隅っこ小屋」


 とはいえ、今はクロナミでの生活が中心なので、壊れたところで別条はない。

 ただ思い出の一つが完全に過去のものと化しただけである。


「物はいつか壊れるんだぜ」

「……そうね。特に隅っこ小屋はいつ壊れてもおかしくなかったし」

「お耳が痛いんだぜ」

「あはは」


 エリンちゃんはビッグなおヒップをベッドに預けた。

 数匹のもこもこビーストが潰されてはかなわん、と億劫そうに避けるも、それは邪悪な企みあっての事。

 その直後に、しめしめ、とエリンちゃんの太ももの上で丸くなり始めたではないか。


「この子たちも相変わらずだね」

「人に慣れすぎ事案なんだぜ」

「……ここは桃先生に護られていることを理解しているのよ。変なことをしたらお仕置きされるわよ」

「ふきゅんっ」


 ヒュリティアがそのような事を言うものだから、桃先生にお尻ぺんぺんされているイメージを想起してしまった。

 絵面としてはアダルトバージョンの俺が、俺のおケツをピシャンと引っ叩いているといったところか。


 なんで桃先生に俺のアダルトバージョンを当てはめたかは不明。

 丁度いい代役がいなかったからかもしれない。


 これがヒュリティアや修羅だったら大惨事ですぞっ。


「ここは温かいね。これも桃力の能力なのかなぁ」

「そうなんだぜ。でも、ここまで無茶苦茶をするには相当な量の桃力がいると思うんだ」

「そうなんだ……ふぁ~、なんだか眠くなってきちゃった」


 エリンちゃんは大欠伸を披露。

 今日は特にすることもないようなので、そのままもこもこビーストたちと一緒に惰眠を貪ることにしたようだ。


 俺たちは、というと久しぶりのキアンカを歩くことにした。

 雪は積もっているようだが、人通りの多い場所の雪は解けてしまって見当たらない。

 建物の端に積もっていた名残が見受けられるだけである。


「……エル、戦機協会に寄りましょうか」

「そういえば、ルフベルさんに経過報告しとかないとな」


 といっても既にクロヒメさんが報告しているだろうが。


 戦機協会に赴きルフベルさんに顔を出すや否や、俺たちは昇級試験を受けるように打診された。


「ランクアップ? なんかやったっけ?」

「……ヒント。ヤーバン共和国」


 あっ、そういえば、アレは戦機協会公認の依頼だったっけ。

 だとしたら、Dランクの上位辺りでのんびりしていた俺たちに気を利かせたのかもしれない。


「Cランクに昇格すれば、いろいろと戦機協会から受けられる支援も多くなる。ナイトランカーを目指すのであれば受けない手はない、と思うが?」

「確かに……やっちゃう? ヒーちゃん」

「……そうね、パパっと済ませちゃいましょうか」


 これにルフベルさんは苦笑いを見せた。


 昇級試験はここではなく、もっと大規模な施設がある場所でおこなわれるという。

 本来ならザイガでそれは可能だったのだが、現在帝都は鬼どもに占領されていて使用不可能だ。

 なので俺たちが行くべき場所は……。


「ドワルイン王国?」

「あぁ、昇級試験はそこの戦機協会でおこなってもらうことになる」


 ドワルイン王国か。

 確かエンペラル帝国と仲が悪い国だったはずだ。


 そんなところでエンペラル帝国をホームとする戦機乗りが昇級試験を受けても大丈夫なのであろうか。

 この疑問に対して、そんなアウェイをねじ伏せるのも試験の一つ、といわれてしまいました。


「う~ん。なら、ジェップさんにドワルイン王国にある特殊食材の情報をもらおうか」

「……都合よくあればいいけどね」


 尚、この他の場所となるとミリタリル神聖国の聖域に足を運ばないといけないらしい。

 でも、そこから戻った戦機乗りの話を聞かない、とか怖いにもほどがある。


 あとはヤーバン共和国となるのだが……あそこは今戻るには危険すぎるので却下だ。


 そこの出身である、おっぱいぶるんぶるん、なニューパさんは本日はお買い物デーとなっている。

 流石に南国ファッションでは活動できない。


 彼女は南国の出身だけあって寒さに弱いようで、モフモフに負けないくらいの着ぶくれ状態で出かけていった。


 歩くよりも転がった方がいいんじゃないのかな。

 まともな姿になって帰ってきてどうぞ。


 尚、彼女の付き添いにはヤーダンママwithちびっこ軍団だ。

 ついでに彼らの服を買いたいもよう。




 戦機協会を後にする。

 その後は町をぷらぷらと当てもなく歩いた。


 お昼は例のごとくホットドッグ地獄だ。

 ヒュリティアのお気に入りのホットドッグ専門店を巡り歩いてはむしゃむしゃする。


 だからお金が貯まらないんだよなぁ、と思いつつも食べちゃうのは俺が食いしん坊だからさっ。


 実際に美味しいのだから仕方がない。

 冬の寒い時期には、絶妙な塩梅のホットチリドッグが大変に喜ばしい。


 口の中を適度に温める辛みはやがて体の末端へと移動し、身体をぽかぽかと温めるのだ。

 温かい部屋の中で食べるのもいいが、澄み渡る空の下、冷たい風が体温を奪おうと頑張る環境で「だが断る」と言わんばかりに食べるのもまたオツである。


 ホットドッグ巡りを終えて一度、クロナミへと戻り準備を始める。

 彼はいつも通りの場所で、いつものようにグラスを傾けているはずだ。




 準備を整え、Barスクラッパーへと足を運ぶ。

 やはり彼は、いつもの席でグラスを傾けていた。

 そして俺の顔を見るや否や口角を釣り上げ、あいさつ代わりにグラス内の琥珀色の液体を飲み干す。


「今回は早かったな」

「俺たちも、そう思うんだぜ」


 ふっきゅんしゅ、と椅子によじ登る。

 ヒュリティアさんは華麗に椅子へ飛び乗りましたとさ。


「出ておいで」


 俺がミラージュの稚魚に語りかける、と彼らはぴょこっと胸から顔を覗かせた後に店内を泳ぎ始めた。

 これには客も目を丸くするのは仕方のない事であろう。


「やっぱり獲得していたか。もう、おまえさんがしくじる姿が思い浮かばないね」

「今回も大変だったんだぜ。とんでもない化け物がいたから」

「マスター、バーボン、ロックで」


 酒のお代わりを注文したのは同時に俺への催促であろう。

 であれば、ミラージュ料理をご馳走しようではないか。


「来たれ、風の精霊とんぺーっ」

「おんっ」


 椅子から飛び降りた俺はとんぺーを召喚する。

 風が俺の目の前に集約し白い狼を生み出す光景は、しかし客である戦機乗りを驚かせるには至らない。


「もうなんでもありになってきているからなぁ、この町」

「そういうことか」


 一瞬にして巨木となった桃先生のインパクトが強過ぎるのであろう。

 それに、この町では俺の珍現象と奇行は割と有名。


 人って慣れるものなのねっ。


「マスター」

「いいぜ」


 その内、許可すらもいらなくなるのでは、というやり取りを交わしてミラージュの調理開始。


 やることは同じなので過程はカットだ!


 とはいえ、それなりに調理の光景は驚いてもらえましたとさ。


「ほい、ミラージュ料理セットだぁ」

「おぉ、これが伝説の魚の料理か」


 目ぼしいものはだいたい作り上げた。

 刺身、から揚げ、焼き魚、あとはカルパッチョも作ってみたが……。


「どいつもこいつも最高だ。でもよ……」

「ジェップさん、最近、舌が肥えてないかぁ?」

「ふふん、これだけ特殊食材をくちにしてりゃあ、なぁ?」

「確かに、このカルパッチョは失敗だぁ。問題は葉野菜なんだぜ」


 残念ながら、ミラージュの旨味を受け止めるだけの力を、この葉野菜は持って行なかたようだ。

 俺的にはミラージュの旨味に染まってくれるものだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


 それを確認すべく、もう一度、使用したレタスを口に運ぶ。

 ドレッシングは酢醤油をチョイスした。


「ただのレタスなんだぜ。それ以外の感想が浮かばない」

「……ミラージュの旨味を殺しちゃっているわね。まさか、野菜とここまで相性が悪いだなんて」

「確かに……そういえばグツグツ大根とは相性よかったなぁ。それに、野草天ぷらも」

「……何かしらの条件があるのかしら? でもやっぱり、特殊食材には特殊食材なのよ」

「う~ん、俺的には普通の食材とも仲良くしてほしいんだぜ」


 これにジェップさんはしたり顔を見せた。


「そいつは丁度いい。あるぜ、丁度いい伝説がよ」

「なんだって? 是非聞かせてほしいんだぜ」

「構わんさ。だが、こいつは俺が持つ情報の中で最も不確かなものだ。それでも買ってくれるのかい?」

「もちのロンだ」


 これにジェップさんは肩を竦めるも、とてもうれしそうな顔を覗かせる。


「彼の者、全ての仲を取り持つ者。大いなる大地よりいずるは豊かな緑。称えよ、愛せよ、その命。それなるものはドワルインの至宝なり」


 そう言い切った彼はグラスを空け、タン、とテーブルに置く。

 グラスの結露がテーブルを濡らす。


「これはまた、情報が息をしていらっしゃらないんだぜ」

「まぁな。食材名すら分からねぇって食材だ。俺が若い頃、ドワルイン王国を訪れた際にとある部族の村長から聞いた昔話の一文さ。でもな……」


 ジェップさんは語る。

 それなる食材は確かに実在する、と。


 曰く、それなる食材は気まぐれだと。

 曰く、それなる食材は我がままだと。


 しかし、それなる食材の愛は無限大であると。


「何もかもが謎、だが、その男は確かに一度だけ、その伝説の食材を口にしている」

「その村長さんは、まだ生きてるの?」

「流石に生きちゃあいないさ。俺が若い頃に既に九十過ぎていた爺さんだ」

「そっかー」

「だが、その孫がドワルイン王国の王都で生活しているらしい。話を聞けば何か分かるかもしれないな」

「どうして、そう思うんだ?」

「情報屋の勘さ」

「勘なら仕方がないな。会ってみるよ」


 それがそう断言すると、ジェップさんはお酒のお代わりをマスターに告げる。

 今宵のBarスクラッパーもアダルトな夜で浸ることができるのだろう。


 それに彩を加えるべく、ミラージュ料理を追加で作る。

 そこにモヒカン兄貴やスキンヘッド兄貴、ゴーグル兄貴やワイルド姉貴も訪れて、益々賑やかになったのでありましたとさ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 桃先生の根元でもふもふに囲まれて寝るのはきもちよさそうっすなぁ…。 それにしても今度の特級食材は雲を掴むような話だわ。
[一言] また、ミラージュみたいなシロモノだったり?
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