203食目 決戦 ~ヤーバン市防衛戦~
月夜の世界にサイレンの音が響き渡る。
その日は、やたらと満月が綺麗な日であった。
迫りくるエリシュオン惑星軍は予想通り部隊を三つに分けて進軍。
うち一つは案の定、空を飛ぶ戦艦だ。
海より来る部隊は戦機協会所属の戦機乗りたちで対処してもらうとして、空よりやって来るエリシュオン惑星軍は精霊戦隊で対応しなければ撃破は難しいだろう。
しかし、海の部隊も一般戦機乗りたちに丸投げするわけにはいかない。
やはり、ここは精霊戦隊も二手に分かれる他にないだろう。
航空母艦に対処するのは、俺とヒュリティアのルナ・エルティナイト。
それと、ぽっちゃり姉貴のマネック・フライトタイプと、クロヒメさんのアインラーズ・フライトタイプだ。
彼女ら以外は全員、海に向かってもらう。
海での司令塔はガンテツ爺さんに任せれば間違いないだろう。
問題は戦機協会の要請を受けた戦機乗りたちだ。
彼らがどう動くかで、この戦いの結果は大きく異なる。
こうして集まってはいるものの、戦機乗りはしょせん個人の集まりであり、戦況が不利になれば逃走も当たり前のように行う。
軍隊ではないので、敵前逃亡罪なんてありはしないのだ。
首都ヤーバンを護るためには彼らの協力が必要不可欠。
ヤーバン共和国軍が当てにならない以上、俺たち戦機乗りでなんとかするより他にない。
「それじゃあ、海の方は任せるんだぜ」
『うむ。それよりも、本当にそんな数で大丈夫か?』
「大丈夫。なんとかするんだぜ」
心配をするガンテツ爺さんたちを送り出した俺たちは早速、エリシュオン惑星軍を迎え撃つ準備を進める。
エルティナイトが戦いやすいのは平坦な地形。
とはいってもルナ・エルティナイトなら空を飛べるので地形は問題にはならなかったり。
俺が気にする部分はそれではなく、地上で奮闘する戦機乗りたちだ。
彼らの戦機はレ・ダガーに勝てるか勝てないかのギリギリのラインだ。
正直な話、豆鉄砲をジャンジャンバリバリ航空母艦に放っても全部弾かれてしまうのではなかろうか、と考えている。
大部分が実弾のライフル銃という事で、距離が離れると威力が落ちるし重力の関係で地上に引っ張られて更に倍率ドン☆、ということで、こんなんじゃ勝負になんないよ~、が確定していた。
なので、彼らにやってもらいたいことは海の防衛網を抜けてきた機獣たちの対処だ。
『本当に、おまえらだけでアレをやるのか?』
「大丈夫だ、問題無い」
一機のアインラーズが接触通信をおこなってきた。
バックパックをツインキャノンに換装した火力重視型で、地上の戦機乗りの中では最も手練れだ、というベテラン戦機乗りだ。
「それよりも問題なのは海を抜けて来る機獣なんだぜ」
『確かにな……海の連中も数が多いわけじゃない。それに、命を捨ててまでも町を護ろうってやつは少ないだろう』
「あんたもそうなのか?」
『そうしたいところだがな……困ったことに、ここが俺の故郷だ』
「なら、やるしかないな」
『あぁ、お互いに武運をっ』
アインラーズキャノン、とでも呼称すべきであろうか。
ベテラン戦機乗りは名乗ることなく直接通信を終えて所定の位置へと就く。
俺も気を引き締めよう。
『海戦が始まった! 戦況はこちらがやや不利!』
戦機協会より通信が入る。
やはり、数に劣るこちら側が不利か。
『敵、航空戦艦1、領空に侵入! 対処されたし!』
いよいよ、こちらも戦闘開始だ。
侵入してきた航空母艦は一言でいえば空飛ぶエイだ。
最近は深海魚が空を飛ぶのが流行っているのだろうか。
君たちは大人しく海の底でまったりとしていてください。
「クロヒメさん、ぽっちゃり姉貴、準備はいい?」
『えぇ、もちろんよ』
『いっちょ、やったるかぁ』
クロヒメさん、ぽっちゃり姉貴共々、ヤーダン主任が魔改造したスナイパーライフル【ロータス改】を装備している。
これは、実弾に光素を纏わせる、という無茶な発想から生まれた武器で、対機獣戦はもちろんのこと、もしかしたら下級の鬼相手でも通用するのでは、というくらいに威力を重視したスナイパーライフルに仕上がっている。
難点は有効射程距離が通常のスナイパーライフルよりも短いという点であろうか。
装弾数も六発と少ないため、ベテランパイロット向けの武装と言えよう。
ごっつい武器なので肩に担ぐと様になる。
俺も射撃が上手ければなぁ~、と考えてルナ・エルティナイトにはこれらを上回る武装がたんまりとあることを思い出して遠い目をした。
ぶっちゃけ、今からそれをぶっ放します。
「……エル、バスターランチャー【アルテミス】、準備よくてよ?」
「いいんだぜ……それよりも取り巻きどうしようか」
「……小型のエイね。アルテミスで薙ぎ払いましょうか?」
「う~ん、威力が落ちたら落とせないかもしれないし、薙ぎ払うんじゃなくて母艦だけを確実に落そうか」
「……そうね。取り巻き程度なら他の戦機乗りに任せても大丈夫でしょうから」
よし、方針は決まった。
まずは、あのデカブツを処理して景気付けをするとしようか。
「エルティナイト! 行くぞっ!」
『応っ、もう照準はバッチリ定めているぅ!』
「バスターランチャー【アルテミス】、発射っ!」
腰だめに抱えた巨砲より、莫大なエネルギー光線が放たれる。
それは、まるで月にまで届くかのようだ。
月夜にあって尚、輝く光の線は巨大なエイの半分を飲み込み消失させる。
怪物や鬼相手にしか使ってなかったが、これはエゲツナイ威力ですぞっ。
『まてまて! なんだ、その武器はっ!?』
『ヒュー! ご機嫌な武器じゃねぇか!』
バスターランチャーの威力に、戦機乗りたちは呆れと称賛を送ってくる。
アルテミスの一撃で呆気なく落ちる航空母艦。
海に墜落する前に爆散して粉々になり、取り巻きも上手い具合にそれに巻き込まれた。
それでもまだ三十機程度、残っているだろうか。
更には海から機獣たちの上陸を確認した。
『機獣の上陸を確認! 各パイロットは対処に当たられたし!』
戦機協会より悲鳴に近い指示が飛ぶ。
それも当然のことで、彼らはヤーバンの戦機協会にて指示を出しているのだ。
機獣が町に侵入して破壊活動をおこなえば自身の命が危ぶまれるのだから、こうもなろう。
『やっぱり、海の方が苦戦しとるわ』
『そうね、私たちは頭上のエイをやりましょうか』
そういうや否や、アインラーズとマネックは大地を蹴り地上に別れを告げた。
離陸直後にスナイパーライフルをぶっ放したのは我慢ができないクロヒメさんだ。
しっかりと当てている辺りは流石と言えようか。
さて、俺ものんびりとはしてられない。
上陸してきた機獣たちはレ・ダガーとは比べ物にならないほどの耐久力を持たされていた。
なので、レ・ダガーに苦戦している戦機やパイロットたちでは対処が難しい。
『な、なんだっ!? この異様な硬さはっ!』
『ライフルが通用していないっ!』
『被弾したっ!? こいつら、腕が伸びるっ!』
戦機乗りたちの悲鳴が通常回線で流れ込んでくる。
「……やっぱり、荷が重かったようね」
ヒュリティアは、ぷひっとため息を吐いた。
もちろん、これは想定内。
本命は彼らではない。
「キャノンの人くらいだなぁ、まともにやり合えているのは」
「……あら、多数で一機を確実に落し始めたわね」
戦機乗りたちは、どうやら弱っている機獣に集中攻撃を加えて撃破する戦法へと切り替えたようだ。
この臨機応変な対応は、彼らが無能ではない証明に足るだろう。
「これなら、いけるかな」
「……そうね。でも、油断せずに行きましょう」
なんとかなりそうな戦況。
しかし、それに不穏な空気をもたらす者が現れた。
『ぶほほほほほっ! ナイトランク6位の男、電撃のドープが来てやったぞ!』
「……帰れ」
『ぶひぃっ!? だれだぁ! 辛辣な言葉を投げかけて来るやつはぁ!? 泣くぞっ!』
大変に申し訳ない。うちのヒュリティアさんでございます。
電撃のドープは見慣れない戦機に乗って戦場へ駆けつけていた。
紫色をメインカラーにし所々にゴールドの差し色を入れた痩躯の機体だ。
そのデザインはやたらと尖った部分が多く、雷をモチーフにしていることが窺えた。
正直、中の人を知っているとミスマッチにもほどがある、というものだ。
『諸君、偶然ここに居合わせたナイトランカーに協力を要請した! どうか、彼と共にヤーバンを護っていただきたい!』
『ぶほほほほほっ! これもナイトランクの務めっ! 大船に乗ったつもりで戦うがいい!』
いいから、はよ戦え。
肉団子さんが余裕かましている間にも、戦機乗りたちは必死に戦っております。
もちろん、俺たちもエリン剣を片手に機獣を叩き潰している次第で。
『んん~! そろそろ、機体も温まってきたぁ! 【ライトルグ】よ! そろそろ、やるとするかぁ!』
紫色の機体は【ライトルグ】というらしい。
武装はハンドガン二丁と背中の実体剣のみ。
その機体のデザイン的にガンマンと言えなくもない。
さて、問題となるのはその腕前だ。
果たして電撃のドープは、ナイトランク足り得る実力を持っているのであろうか。




