202食目 朽ち行く者
面倒臭いのがいなくなったことで、俺たちは無事に町へとくり出すことができるようになった。
あ~、娑婆の空気はうめぇぜ。
その足で戦機協会に赴き状況を確認する。
もちろん、ニューパさんはクロナミでお留守番だ。
俺とザインちゃんのお耳がピクピクと小刻みに動いて嫌な予感を盛大にアピールしていたので大事を取ってもらった。
肉団子に目を付けられないように、無、とぺたーん、そしてガンテツ爺さんという構成は間違いではないだろう。
案の定、肉団子さんが戦機協会にいらっしゃいました。
「ぼ、僕のニューパちゃんは、どこだっ!? 隠すとためにならないぞっ!」
「そう仰っても……」
支部長はのらりくらりと肉団子の問い詰めをかわす。
なかなかの狸ぶりに俺たちもにっこりである。
なかなかにヒートアップしている肉団子さんはは俺たちに気付き、ぶるんぶるん、と嬉しくもなんともない肉を揺らしながら迫ってきた。
「お、おまえらだなっ!? 僕のニューパちゃんを返せっ!」
「……あなた、あの子のなんなの?」
よこはまよーこよこはまよこす……うっ、なんだ、これはっ。
なんだか母の穢れた記憶が頭に浮かび上がる。
だめだ、こんな記憶に負けるなっ、俺。
「銀蠅ごときがなぁ! おっぱいに狂うなどとっ!」
そして、ナイトランクのドープにも臆さないぺたーんが怒れる肉団子に立ちはだかった。
一発触発な状況に戦機協会の職員たちもおろおろする。
そして、ワクワクしているのはにゃんこびとたちだ。
「そこにゃ、殴ってくるにゃ」
「きせーじじつさえ作っちゃえば、あとはやりたい放題だねっ」
にげてー。肉団子さん、にげてー。
なんだかヘルプミール貝の親戚に【ハヤクニゲン貝】っぽいのがいるような気がしてきた。
しかし、今回のドープは退く気が無いらしい。
凶悪な子猫と、ぺたーんことクロヒメさんがやっばい闘気を撒き散らすこの場にて、しかしドープは「ふん」と鼻を鳴らし人を小馬鹿にしたかのような笑みを浮かべる。
「棒人間に用はないんだよ」
「んだとゴルァっ!」
一番言ってはいけない事を言ってしまった肉団子さんは、ドえらい速度で天井に突き刺さりました。
クロヒメさんのアッパーカットが見事にドープの顎を捉えたのである。
人間凶器を通り越した修羅を怒らせてはいけない。いいね?
「にゃ~! お肉がー!」
「保存食になっちゃったー」
君たち、あれはモズの早贄じゃないからね?
それに、あんなものを食べたら精神が汚染されるからっ。
「ふん、最初っから、こうしておけばよかったわ。ナイトランクがなんぼのものよ」
「無茶をするのう」
そのように呆れていたガンテツ爺さんであったが、もしもの場合は容赦しなかったんだろうなぁ、と。
その証拠に彼の右腕に精霊ちからが集結していたことを感じ取っている。
こんどは焼き豚でも作る気であったのだろうか。
この騒動によりAランクのクロヒメさんは【狂戦士】というありがたくない二つ名を獲得することになったのだが、それはまた別の話である。
「支部長さん、お邪魔虫がいなくなったから情報交換といくんだぜ」
「あっはい、そうですね。ニューパちゃんはストッパーだったんだなぁ……」
支部長は遠い眼差しをしながら、ぷらーんぷらーん、と揺れている汚いオブジェを眺めておりましたとさ。
秘密を一切隠せない応接スペースにて情報を纏める。
ヤーバン共和国軍はまず当てにならない。
これは双方で同じ認識となった。
しかし、その理由というのが俺たちと戦機協会とでは違っていたのだ。
「クーデター?」
「えぇ、大きな声では言えませんが……狙っているのでは、という噂が広まりつつあります」
今度の大統領選挙に出馬する予定の候補に現元帥の【メカルグ】という男がいるらしい。
彼はヤーバン共和国の安全を謳い、軍を強化することこそが国の発展に繋がる、と主張している。
しかし、その理念はヤーバン共和国の人々の求めるものからは逸脱しているため、今度の選挙もマシュー現大統領で決まり、という大勢となっていた。
「だからか……そのメカルグがどさくさに紛れて武力制圧するために、戦力を出し渋っているって考えでいいのかぁ」
「恐らくは。ただ、あくまで噂ということを認識しておいてください」
証拠が一切ない、ということか。
ただ、そんな連中に背中を任せるのは自殺行為に等しい。
そう考えると戦機協会と戦機乗りだけで防衛戦を行うのは理に適っているのかもしれない。
問題となるのが戦力の方か。
流石に今度はエリシュオン惑星軍の連中も学習してくるだろう。
戦力を集中させずに分散してきた場合、【厄災乃大津波】もしっかりとした効果を発揮できない。
となれば、戦力を三つに分けて進行してくるのが濃厚だろう。
各部隊に所属する機獣を少なくしての電撃侵攻作戦。
これしか彼らに残されてはいないはずだ。
「……と考えているわね?」
「人の頭の中を読むのはNGっ」
「……別に読んではいないわ。顔に書いてあるし」
「おぉん!」
なんという事でしょう。
俺は思っていることが顔に書かれてしまう怪奇現象が起こって……?
「部隊を小分けにしての電撃作戦以外にも何かが?」
「連中は航空母艦を所持しとるんじゃ。空からの侵攻も考えておかねばならん」
「それは厄介です。小分けした部隊と空からの部隊、これらを相手にする場合、戦機協会だけの戦力で足りるかどうか」
ガンテツ爺さんの説明に支部長は難しい表情を示す。
ヤーバン共和国の戦機協会が出せる戦力は水陸両用のスチールクラス戦機【フロッガル】が150機。
そして海戦仕様のアインリール50機。
あとは陸戦使用のアインラーズ100とブリギルトが200機程度とのこと。
圧倒的に海での戦力が不足している。
下手をすれは本土決戦となってしまう、というか濃厚説だ。
エリシュオン惑星軍が増援を送り込んでいない、とはいえないこの状況。
こちらも、何か手を打たなければ大被害を被りかねない。
「というか、この状況で大統領は動かないのかな?」
「動いていると思いますよ。ただ、手続きをわざと引き延ばされている可能性がありますね」
「市民の安全よりも自分たちの欲望を優先する、とか軍人の風上にも置けないんだぜ」
「絶好の機会なんでしょう。なんとしても、市民たちのマシュー大統領に対する好感度を下げておきたいんでしょうね」
愚かしい行為だ。
普通はあり得ないものなのだが、人間というのは欲が絡むと途端に愚かしくなる。
何故、そうして得たものの先には破滅が待っている、と理解できないのか。
本当にそうやって得たものに価値があるというのか。
一度、立ち止まって振り向けば簡単に分かるというものだ。
「う~ん、何かいい方法はないかなぁ?」
「一応、備蓄の戦機は100機ほどあるのですが……パイロットがいません」
「……それじゃあ、ただの案山子ね」
支部長の話によれば旧式のアインリールが倉庫に保管されているらしい。
ただ、それらはあまり手入れがされていないらしく動くかどうかも不透明とのこと。
前任の支部長が万が一の際に、と中古の戦機を購入していたとのことだ。
それが納められている倉庫に案内され、朽ち行くアインリールを見てアイン君が悲し気な声を上げる。
「ボロボロなんだぜ」
「いあ~ん……」
錆びた部分を軽く擦る、とぼろぼろと表面の錆が崩れ落ちてゆく。
かつては相棒と戦場を駆け巡ったのであろう彼らは、ここで緩やかな滅びを待つだけであった。
しかし、彼らは言うのだ。
もう一度、戦いたい。
朽ち果てるなら戦場で、と。
「その願いを叶えてあげたいところなんだがなぁ」
「あいあ~ん」
アイン君も彼らの願いをなんとか聞き入れてくれないか、とお願いしてくる。
だが、どうやって彼らの願いを叶えればいい?
クソザコ一般市民を突っ込む?
いやいや、あり得ない。
ただ突っ立っていればいいわけではないのだ。
一般市民がアニメの主人公のように無双できるわけない。
そんな才能を持っている者など、一万人に一人いるかどうかだろう。
俺? 俺には戦機の才能はございません。あしからず。
「あいあ~ん」
「あい~ん」
アイン君が声を掛ける、と錆び付いたアインリールから豆粒サイズの鉄の精霊たちが顔を覗かせる。
なんと、これらのアインリール全てに精霊が宿っていたのだ。
「……驚いたわね。こんなボロに、まだ精霊が居付いているだなんて」
「きっと、思い出があって離れられないんでしょうね。私のアインラーズにも精霊が居るのかしら?」
「サラッと精霊が見えているクロヒメさんが怖い説」
もうなんでもありですぞ、この人。
「ぶろ~ん」
「……そうね、ブロン君。助けてあげたいところだけど」
ヒュリティアは、やるせないため息を吐いてアインリールたちを見渡す。
その数100。救うにしては数が多過ぎる。
更にその奥にブリギルトの姿。
こちらも結構な数が見受けられた。
「選別してなんとかする必要があるのかなぁ」
ブリギルトに乗っている戦機乗りにアインリールを使ってもらうしか方法が無さそうである。
でも、それではブリギルトが悲しむだろうか。
うんうん、と葛藤している、とまたもや桃力が勝手に暴走し桃色の果実となって俺の目の前にぷかぷかと浮いたではないか。
「ふきゅん、桃先生っ。俺はいったいどうすればいいんだ。俺はこいつら全員の願いを叶えてやりたい」
桃色の果実は静かな輝きを湛えたまま。
何も応えてはくれないまま、しかし、自分を食べるのですと訴えかけてきた。
「いただきますっ」
だったら食べるよね? むしゃむしゃ。
無心で桃先生を食べ進め完食。彼女との強い繋がりを感じ取る。
すると悩んでいたことが、ちっぽけに感じ始めた。
だから俺は両頬をバチンと手で叩くだろうな。
「ままうえっ」
「ザインちゃん、俺は間違っていた。選別など不要らっ」
俺は錆付いたアインリールを見上げる。
ナイトは救いを求める者を、ただの一人も見放してはならない。
その方法は桃先生がたった今教えてくれた。
「……エル、何かいい方法が見つかったのかしら?」
「うん、俺たちにしかできない反則技なんだぜ」
「……そう。なら、私たちは夜に備えるわ。支部長さん、話を詰めましょうか」
こうして、俺はアインリールたちの面倒を、そしてヒュリティアたちは機獣の再侵攻に備える流れとなる。
そして、数時間後。
日は暮れて闇夜の世界が訪れる。
彼らは、その胸に不退転の決意を秘めてやってきた。




