201食目 長い平和はポンコツの素
◆◆◆ 機械人 I・イグス少将 ◆◆◆
「なんなのだっ!? あれはっ!」
潜水母艦ハム・エイシャーの艦橋。
そこにて空前絶後の大敗北を見届けてしまった私は、怒りを抑えることができず鋼鉄の拳を手もたれに叩き付けた。
「被害報告っ!」
「はっ! イグス大隊の六割が消失! 残る二割も戦闘不能!」
「……なんたるざまだ」
頭部の制御チップがイカれてしまいそうな報告だ。
A・ヴァストム中将より賜った部隊を呆気なく壊滅させてしまうとは。
確実に軍裁判ものの失態。
後などあろうはずもなく。
「残存勢力を掻き集めろ! 日が沈むと同時に仕掛ける!」
「無、無茶ですっ! それでは機体の修理すら間に合いませんっ!」
「黙れっ! 最早、我らに退路など無いのだ!」
部下は何か言いたげであった。
しかし、そんなものを聞いていられるほど私に余裕はない。
機械人は女性型であっても容赦というものがない。
失敗には罰を、それも徹底的にというのが掟だ。
此度の失態は恐らく最上級の処罰が下るだろう。
それを回避するには是が非でもヤーバン共和国を落とさねばなるまい。
K・ノインのようになって堪るか。
あんな悲惨な扱いを受けるくらいなら死んだ方がマシというものだ。
◆◆◆ エルドティーネ・ラ・ラングステン ◆◆◆
ひとまずクロナミへと帰還。
割りと攻撃が激しかったのだが、損傷は一切無しというのは上出来である。
やはり、攻撃は最大の防御とでもいうのか、いつもはクロナミを制御しているヤーダン主任までもが攻撃に加われたのは大きかったようだ。
それもこれもニューパさんがハッスルしてくれたお陰でもある。
ヤーバン共和国軍の追撃隊とすれ違う際、ニューパさんは「もう追っても無駄ですよ~」と連絡を入れるも、追撃隊はこれを無視して追撃していた。
もう姿形もない機獣をどうやって追いかけるつもりなんだろうか。
「ガン無視とか失礼な連中なんだぜ」
「……功を焦っているか、面子を保つために必死なんでしょ。放っておくのがいいわ」
だいたいは後者であろうか。
きっと徒労に終わるだろうに……ご苦労なことだ。
「それにしても、見事な船捌きだったんだぜ」
「このクラスの船は運転し易くていいですね~。素直な反応で好感が持てますよ~」
てしてし、とコンソールを叩くニューパさんはご機嫌であった。
このことから、相当なじゃじゃ馬も運転したことがあるのだろう。
臨時加入とはいえ、うちに最も欲しい人材であることには変わりがない。
いっそ、このまま精霊戦隊に加入してくれないかなぁ、とも思ったり。
まぁ、その場合は正気度チェックに成功するか大失敗してもらう必要があるが。
普通の人では、うちでの活動は正直きついだろうし。
壊れるなぁ、普通。
そういえば、この人、おっぱいが普通じゃなかった。
なら、普通じゃないな。うん。
「しっかし、まさかデスサーティーン改をあんな方法で飛ばすとはなぁ」
「正確には飛行能力ではないがの。吹っ飛んで姿勢制御しとるだけじゃし」
半精霊戦機といえる漆黒の機体を見事に舞わせたガンテツ爺さんはチュウチュウとスポーツドリンクをストローから吸飲。
満タン状態のボトルはあっという間に空になったもよう。
そうするとまるで人間ストーブ状態だった彼の体温がスン、と一気に下がって暑さが気にならなくなったではないか。
「やっぱ、魔法を使うと体温が上がるの?」
「そうじゃな。魔法使用後のワシに触ると火傷をするぞい」
「ふきゅんっ、高熱過ぎるじゃないですかやだー」
でも、本人はまったく問題が無いらしく、かえって調子が良くなるとのこと。
半分、というかほぼ全部、人間を辞めているから仕方がないねっ。
「お疲れ様。やっぱり難しいわね、戦機」
「お疲れ様なんだぜ、ユウユウ閣下」
少し遅れてしっとりと髪が濡れたユウユウが艦橋にやってきた。
彼女同様に女性陣も髪が濡れていることから先に身を清めてきたのだろう。
「いや、ほんま無茶苦茶やな、自分ら」
「うちではこれが割と普通なんだぜ」
「んなことあるかーいっ」
ぽっちゃり姉貴の甘栗色の長髪は、ヒュリティアの銀の髪同様にポニーテールで纏められていた。
乾くまでの処置であろうか。
普段は三つ編み派の彼女なので、なんだか新鮮な感じだ。
尚、俺は放置派。
髪を弄る必要なんてねぇんだよっ。
でも、髪をバッサリ切ろうとすると、ヒュリティアやエリンちゃんに「とんでもない」と怒られます。
正直、そろそろ鬱陶しいので切るか纏めるかしたいところだ。
冬はそれなりに暖かくていいんだけどなっ。
「ままうえーっ! おけがは、ありまちぇむきゃっ!?」
ユウユウ閣下の悩ましい足の影から申し訳なさそうに顔を覗かせるのは、色々とやらかしてくれたザインちゃんである。
大きな耳も、今はしょぼ~んと垂れ下がっていた。
「ぐおぉぉぉぉぉぉっ、思い出したら激痛がっ」
「ぎゃーっ!? えいしぇいへー! えいしぇいへー!」
わざとらしく痛がって仕返しといたしました。俺は悪くない。
「……取り敢えず今後の対策しておきましょうか」
そして、俺たち親子のやり取りを華麗にスルーするヒュリティアさん。
ちょっぴりセンチメンタルジャーニーな親子は揃って「ふきゅん」と鳴いた。
「対策といっても、あいつらもう来ないんじゃないのかぁ?」
「……それは無いでしょうね。司令官が余程の腰抜けじゃない限り、これほどの大敗北を喫して一矢も報いないなんて恥晒しもいいところだわ」
ヒュリティアは、壊滅状態の機獣を纏め上げて夜にでも仕掛けてくる、と予想した。
俺なら、これ以上被害が増大する前に撤退、或いは上司に報告して指示を仰ぐ。
まぁ、その上で特攻するんですがね?
報告? 連絡? 相談? んなもん建前だよっ、ぺっ。
とふざけたが、実際に命を預かる立場なら、俺は迷うことなく撤退を選択するだろう。
でも、機械人は身体が完全に破壊されても、まったく問題はない。
そうなるとヒュリティアの言い分にも信憑性が、ひょっこりと顔を覗かせるわけだ。
「ヤーバン共和国軍に連絡を入れておくべきかなぁ」
「一応は連絡を入れておくべきじゃろ。戦機協会にもな」
「あいつら結局、来なかったなぁ」
俺は呆れ顔を見せる、もニューパさんはそれをやんわりと否定した。
「来ようとしていたようなんですが、船に機体を積んでいる間に終わっちゃったんですよ~」
あぁ、そういうことか。
ヤーバン共和国軍と違って、普段から船に機体を搭載していないもんな。
その分、出発が遅くなってしまうのも頷けるというものだ。
「にゃ~ん、割と面白かったにゃ~」
「ねー?」
「みっみー」
少し遅れて、にゃんこびととミスリルの精霊が艦橋にやってきた。
彼らもシャワーを利用してきたのだろう。
でも、下着姿で艦橋に来てはいけませんっ。
「あい~ん」
「おいぃ、アイン君も、なんて格好しているんだ、と呆れていらっしゃるぞっ」
「にゃっ? これも脱いだ方が良いにゃお?」
「ふきゅん、許可する」
「……エル?」
はい、ヒュリティアさんに、ほっぺをぶにゅっと掴まれて、ぶちゃいく顔にされてしまいました。
「取り敢えずはもう一戦、あると考えていいのかしらね?」
「……その考えで問題無いと思うわ、ユウユウ」
「なら、その間は休んでいてもいいわね。鬼力を補充しておくわ」
「……ちなみにどこで?」
「うふふ、町の薄暗~い裏路地で」
殺る気だ。
彼女はヤーバンの町に蔓延る邪悪を消去する、と同時に鬼力を溜めるつもりなのである。
邪悪なる行為に疑いを持たぬ者は速やかに己を悔い改めるか、マフィアたちみたいに脱兎のごとく逃げ出したまへっ!
刺激的な姿のユウユウ閣下と薄暗い路地で遭遇したら、それは確実な死亡フラグ。
きっと、ほんのちょっぴり世界が平和になるんだろうなぁ、と遠い眼差しを未来の犠牲者に捧げる。
ヤーバン共和国軍に今夜機獣たちが仕掛けてくる可能性が高い事を伝える、と彼らは素人の予想、と一笑に伏せた。
やる気があるのだろうか、このポンコツどもは。
「……ま、予想通りね」
「長いこと平和なせいもあって、見事に使い物にならんの」
とはいえヤーバンの人々のためにも精霊戦隊は夜に備える。
ただ、軍とは違い戦機協会は動いてくれた。
ニューパさんは結構な発言力を持っている模様。
「現地の戦機乗り約三百が協力してくれるようです~。ヤーバン共和国で活動しているだけあって、かなりの機体が海戦仕様なので期待していいかと~」
「軍に期待できない分、頼もしい限りなんだぜ」
機獣の群れは最大でも千体程度と予想している。
その内、どれだけソ・クトパクラスの機獣がいるかだ。
それが出てきた場合、うちで対応する予定になっていた。
ヤーバンの港に到着する、とやたらと人だかりが。
なんじゃありゃ、と顔を覗かせるとバシャバシャとフラッシュが焚かれる。
「謎の戦機チームの帰還だっ!」
「是非、うちとの独占インタビューをっ!」
「あの津波は、どのような兵器をっ!?」
集まった連中はどうやら記者連中だったらしい。
あれくらいに派手にやると、こういうことが起こってしまうようだ。
「……面倒臭くなってきたわね」
「銀閃だっ! 彼女も一枚噛んでいるに違いないっ!」
ヒュリティアが顔を出したことによって更に現場はヒートアップ。
これでは下りるに下りれない。
でも、そこに下りてゆく剛の者がっ。
コツコツ、とハイヒールの音を立てながら、悠々と階段を下りてゆくセクシードレスのご令嬢は危険極まりない最強生物、その一柱だ。
純白の日傘を差し、これまた純白のドレスをなびかせながら優雅に階段を下ってゆく姿に記者たちは茫然とその様子を見つめる。
だが、その内の一人が我に返り、階段を下り切ったユウユウにマイクを伸ばそうとする。
がしかし、その手が止まる。
ぶるぶると震える手は、きょとんとした彼の表情と一致しない。
頭で理解するよりも先に、身体が恐怖を感じ取ってしまったのだろう。
「下がりなさい、死にたくなければね? くすくす」
ユウユウの極上の笑みには死が付き纏う。
いよいよ以って頭で理解し始めた記者たちは悲鳴を上げ、蜘蛛の子を撒き散らすかのように逃走を開始。
すっかり誰もいなくなってしまったそこで、彼女は愉快そうに笑いながら町を目指し始めた。
「無茶苦茶なんだぜ」
「……あれでも鬼だから」
俺とヒュリティアは、そんな無茶苦茶なユウユウに手を振って送り出すのであったとさ。
これからは、ああいう輩が湧いて出てきた場合、彼女に任せちゃおう。うん。




