200食目 味方の敵は味方だった?
巨大タコさん機獣との戦い。
正直な話、普通に戦っていれば負ける要素があんまり見つからない。
タコさんのメイン武装は太くてたくましい触手だ。
確かにそれは船にとって致命的な一撃になり得るし、その自由自在な動きで翻弄することも可能だろう。
また、並みの戦機であればバラバラにできるパワーも持っている。
ごぃんっ。
ただし、エルティナイトは並ではないのでタコさんの一撃は通用しない。
更にマッソォと融合しているので、各パラメーターは防御力を中心として軒並み上昇中。
地形が海ともあり、海の精霊マッソォの独壇場と化していた。
『ハイスラァッ!』
今日もエリン剣による「はい、スラッシュはいかがですか」は絶好調。
タコさん機獣の触手を切断する。
これで鬼だった場合、にゅるんと再生してこいつはヤヴェ、となるのだが、機獣の場合はそれがない。
なので、どうしても鬼と比べると見劣りしてしまうのだ。
とはいえ機獣も普通に危険な存在であり、意志を持った侵略者どもだ。
情け容赦なく叩きつぶして侵略行為を阻止して差し上げなくてはなるまい。
『うぬぅっ! そのような棒切れでよくも【ソ・クトパ】の足をっ!』
「エリン剣はただの棒切れじゃないっ!」
『なにぃ!?』
「凄い棒切れだっ!」
『あぁ、やっぱり棒切れなんだ』
タコさん機獣はソ・クトパというらしい。
茶褐色の機体は、うねうねと動きまくるもしょせんは機械だ。
動かない部分が圧倒的に多いため、タコを模していてもその利点が十分に生かし切れていない。
それに、今更全身からミサイルを放っても遅いのだ。
だって、魔法障壁でタコさんを覆い尽くしてしまえば、それは自爆にしかならないのだから。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 何故ミサイルが発射直後に爆発をっ!』
そりゃあ、すぐ傍に爆発させられる壁があれば、そうもなろうというものだ。
極普通の戦機相手であれば、優勢を保ったまま一方的な戦況を作り出せただろう。
でも、君が戦っている戦機は普通ではない。
そして、戦機自体は普通でも中の人が普通じゃないのだ。
クロナミからの援護攻撃。
スナイパー使用のマネックからえげつない弾丸が飛んでくる。
それはソ・クトパの装甲に命中すると小さな黒点を作り出し、範囲内の全ての物を強引に破壊しながら吸い込んで消えてゆく。
『もうちょっと範囲を広げても大丈夫かしら?』
「ユウユウ閣下、めっちゃ戦い難いんで、それ以上は勘弁してほしいんだぜ」
ユウユウはマネックのスナイパーライフルの弾丸に鬼力の特性を乗せてぶっ放してくれてやがりました。
お陰でハートがヒュンとなりながら戦わなくてはならない。
ヤーダン主任も光素式のスナイパーライフルで援護してくれている。
……のだが、その黄金の光線が何故か海水を巻き込んで水の槍と化し、タコさんを貫くという珍現象が発生していた。
『え~っと……ぼくはなにもしていませんよ?』
「おいぃ、何かしているのは分かってるんだぞぉ」
『あっはい。アクアにおっぱい上げてます』
「戦闘中っ」
なんという事でしょうか。
ヤーダン主任は戦闘中にもかかわらず、息子様に授乳していらっしゃるではありませんかっ。
『いや、僕もよく分からないんですよ。気づいたらコクピットにアクアがいたんです』
「なんですと……うおぉっ!? あっぶね!? ユウユウ閣下!」
『あら、ごめんあそばせ。おほほ』
『おいぃっ! 桃力で相殺してなかったらブラックホールであの世行きだったぞ!』
まだまだ戦機の操縦がへたっぴなユウユウ閣下は、ある意味でソ・クトパよりも危険だった?
『ましゃきゃどこー! このままでは、せっちゃたちの、かちゅやきゅがっ!』
『然り、取り敢えずは撃ち込むで候』
そして、功を焦るザインちゃんがマサガト公を焚きつけて光素弓を引かせる。
サムライが持つ焦げ茶色の弓から光素の弦が伸び、それを引くと光素の矢が出現する仕組みだ。
だが、興奮したザインちゃんから色々と漏れてはいけないものが漏れ出した結果、光素の矢はバチバチと雷を纏って、なんだかえらいこっちゃな状態へと移行。
そして、エルティナイトは下半身を海に浸からせていたり。
『なぁんだか、いやぁな予感がするんですが?』
「奇遇だな。俺もだぁ」
『ひっしゃつ、ひっちゅー!』
『この一撃にて止めで候っ! ……あ』
びよよ~ん、と情けない軌道を描き雷の矢は放たれた。
マサガト公め、失敗したな?
しかし、それはヘロヘロしながらもタコさんの近くに着水しました。
後はもう、お分かりいただけるかと。
『ほぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
「んぴょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
『おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』
俺たちはタコさんと仲良く感電し、揃った震え声を奏でることと相成った。
尚、アイン君はへっちゃらなもよう。
だが、問題が発生した。
海の精霊マッソォは電撃を苦手としているようで、融合が解けてしまったのである。
『ぬおぉぉぉぉぉっ! 沈むっ!』
「やっべ! 魔法障壁っ!」
慌てて魔法障壁の階段を作り出して海底旅行を回避する。
「あぁ、もう滅茶苦茶だよ」
『味方の敵は味方だった?』
「わけがわからないよ」
個性的すぎる戦機とパイロットは取扱注意ってそれ一番言われているらしい。
酷い目に遭った俺とエルティナイトだが、しっかりとヒュリティアとガンテツ爺さんがソ・クトパにダメージを蓄積してくれているので問題はないだろう。
いやしっかし、ガンテツ爺さんの魔法捌きよ。
というか、空飛んでる。
デスサーティーン改は足の裏に炎の板を発生させて、それを爆発させる要領で宙を自在に舞っていた。
爆発に耐性を持っているのだろうデスサーティーン改は傷ひとつ付いていない。
流石は火の精霊戦機だ。
といっても、ル・ファルカンとは違って完全な精霊戦機ではないのだが。
これはきっと、パイロットのガンテツ爺さんの能力が多分に影響していると思われる。
『ほれ、【ファイアーウォール】じゃっ』
ファイアーウォールは本来、そのような使い方をいたしませんっ。
タコさんの真上を取り、炎の壁を投下する黒い死神はえげつない。
炎の壁はソ・クトパの装甲を融解させながら徐々にタコを侵食してゆく。
これは堪らん、と海中へと潜ろうとするが、そんなんじゃ甘いよ。
「魔法障壁っ!」
潜れないようにタコさんの足場を作ってあげました。
『か、海中に潜れないっ!? なんだ、何が起こっているっ!』
きっと下を見ればそこには海中が見えていることだろう。
モニターを通すと魔法障壁は見えにくい。
しかも、それが海中にあるのだから殆ど見えていないも同然になる。
パニックになったタコさんは、うねうねと数が減ってしまった触手を蠢かせた。
やがて、炎はソ・クトパのミサイル貯蔵庫に引火し大爆発を引き起こす。
吹き飛ぶ頭部、しかしそれでもソ・クトパは戦闘不能にはならない。
どうやら、頭部と思わしき場所はただの弾薬庫でしかなかったもよう。
『……しぶといわね。でも、これでどこを狙えばいいか分かったわ』
『にゃ~ん、ルビートルにもだいぶ慣れたにゃ』
『そろそろ、触手だけじゃなく本体にも攻撃していい?』
触手の迎撃に専念していたルナティックとルビートルが攻勢に出る。
海面を高速移動するこの二機に、まったく対応できていないソ・クトパは残り三本となってしまった触手で迎撃せんとする。
だが、内一本はヤーダン主任の水の槍によって粉々に粉砕されてしまった。
「恐るべきは授乳パワーなんだぜ」
『妙な命名をしないでくださいっ』
『けぽっ』
どうやらアクア君は満足したもよう。
可愛らしいゲップをしてキャッキャと笑っておられました。
そうなれば、とっとと決着をつけてまったりしなくてはなるまい。
既に死に体のソ・クトパに起死回生の手段はないはずだ。
しかし、この時点でタコさんは己の使命を全うしている。
ヤーバン共和国軍の追撃は、いまだ俺たちの要る場所にすら到達していないのだ。
そして、機獣の残存勢力は既に沖へと姿を消した。
『……まんまとやられたわね』
ヒュリティアのスナイパーライフルの一撃が、ソ・クトパの顔に当たるであろう部分に突き刺さる。
巨大タコの機獣はビクンと一瞬、機体を震わせた後に魔法障壁の床からずり落ち、海底の奥深くへと消えていった。
「試合に勝って、勝負には負けた感じだな」
『なんだっていい! 勝利だっ!』
エルティナイトは明快な奴で助かるなぁ。
エリン剣を掲げ勝利を宣言する黄金の鉄の塊の騎士はしかし、暫くの間、エメラルドブルーに輝く沖を眺めていたのであった。




