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199食目 反則 ~精霊に翻弄される常識人たち~

 雨のごとく降りそそぐ破壊光線とミサイルは、駆逐艦にとって致命的になる。

 通常であれば、こんな物は防ぎようが無く、当たらない事を祈るだけという原始的な選択肢を選ばざるを得ない。


 でも、エルティナイトなら、精霊戦機なら力技でどうにでもできるんですがね。


『唯一無二の盾っ!』

『ファイアーウォールじゃっ!』


 ガンテツ爺さんの炎の壁でミサイルを、それでは防げない破壊光線は俺の魔法障壁でがっちりとガード。

 結果、機獣たちの攻撃は徒労に終わった。


 このタイミングを突き、ヤーバン共和国軍に戦機を出撃させるように連絡を入れる。


「精霊戦隊のエルティナだっ! 今の内に戦機をっ!」

『一体その防御システムは……!? いや、了解したっ! 感謝するっ!』


 やはり、一般人では魔法というものを理解できないらしい。

 まぁ、リアルロボットの世界観にファンタジーという名のこん棒をもってヒャッハーしているんだから当然と言えよう。


 でも、戦いに情けは無用。

 使えるものは全部使って勝利するのが俺たちの信条なのであ~る。


『クロナミ、前に出過ぎるんじゃないぞい』

『了解です~』


 のほほんとした返事の割にガンガン進むクロナミ。

 攻めの姿勢は自信の表れであろうか。


 やがて、クロナミは主砲を遠慮なくぶっ放し始めた。

 二度、三度、轟音が鳴り響き、それは機獣の群れのど真ん中へと着弾する。

 数体の機獣が海の藻屑となったが、焼け石に水という感覚は拭えない。


『……まともにはやってられないわね』

『せやなぁ。でも、こつこつ駆除するしかないで』


 ヒュリティアのうんざりするかのような答えに、ぽっちゃり姉貴もうんざりした声で返事を返した。


 そこに止めを刺すかのような情報が飛び込んでくる。


『全機に報告! 機獣の増援を確認! 数……五千!』

「ふぁっ!?」


 思わず変な声が出てしまった。


 ただでさえ、こちらは戦力が少ない、というのにエリシュオン惑星軍は増援を送り込んでくださりやがったのだ。


 もう許さねぇからな、おいぃ。


「これは、調子ぶっこいてますなぁ、ナイトさん」

『調子ぶっこき過ぎたヤツは頭がおかしくなって死ぬ』

「しかも、密集陣形とか」

『波に流されないようにとか、装甲に自信があるとかをアッピルしている感』

「『でも、そんなんじゃ甘いよ?』」


 そう、本当に甘い。


 例えるなら歯が溶けるレベルの甘さを誇るワッフルに、追加で気が狂うほどに甘いホイップクリームをごってりと載せるくらいに甘い。


 戦機にとって海は戦い難い環境の一つだ。

 それに適応させるべく機獣も進化開発をおこなったのだろう。


 だが、それであっても自然の猛威には抗えないのだ。

 その自然を味方につけ行使できる精霊戦機の恐ろしさ、とくと味わうがいい。


「来たれ! 風の精霊とんぺー!」

「おんっ!」


 コクピットに白いモフモフが出現。

 しっかりと精霊が座れるスペースを設けている辺り、エルティナイトも今後のことを見据えているもよう。

 こういう時、自由自在に空間を調整できるのは便利である。


「続けて……来たれ! 水の精霊ヤドカリ君っ!」


 小さなヤドカリがコンソールの上にちょこんと出現。

 どうやら、そこがお気に召したもよう。


 既に海の精霊マッソォは召喚憑依しているので、これで精霊三体同時召喚が成立した。


 これより見せるは精霊の暴力。

 即ち、自然災害だ。


 ヤーバン共和国軍が前に出ていない今を以って他に使いどころがない精霊魔法。

 それを、おまえらにご馳走してやろう。


「融合精霊魔法!【厄災乃大津波タイダルウェイブ】!」


 エルティナイトが両手を突き出す、と小さな波が不自然に発生。

 こちらに押し寄せる波に、小さな波は反逆の姿勢を見せる。


 大きな流れは小さな反逆者を飲み込もうと躍起になるのだが、小さな波はそれをことごとく粉砕し、やがてその身を大きくし始める。


 これは当然のこと。

 何せ水の精霊ヤドカリ君と、風の精霊とんぺーが二人掛かりで波を形成し、海の精霊マッソォがそれを御しているのだ。


 両手を突き出したマッシブな巨人に、機獣たちやヤーバン共和国軍はポカーンと呆けていたが、やがてその無駄な行為を死ぬほど後悔することになる。


 ほらほら、来たぞ。


 全てを飲み込む暴虐の力だ。


 ゴンっ、と大きな音。

 そして巨大な何かが首をもたげ広がってゆく。

 それは、あり得ない方向に向かって進撃を開始するのだ。


 きっと今頃、機械人たちは顔を青褪めていることだろう。

 慌てて逃げても、もう遅い。


 海上は全てを押し流し破壊する連続張り手の嵐。

 海中に潜れば、そこは全てを粉々にするミキサーだ。


 通信が繋がっていないので聞こえることはないが、エリシュオン惑星軍では今頃、悲鳴の雨が降りしきっていることだろう。


『な、なんだ……あれはっ!?』

『津波っ!? 大津波だっ!』

『何が起こっているっ、報告をっ! 報告をっ!』


 どうやら、こっちでも正気度に大ダメージを与えてしまったもよう。

 ヤーバン共和国軍もほんのりとパニックに陥りましたとさ。


『また無茶をしおるわい』

「最初しか使えない大技なんだから仕方がないんだぜ」

『……そうね、味方を巻き込んだら笑えないわ』


 ぐちゃぐちゃに粉砕されながら沖へと流される機獣たちは、そこからやってきた増援に衝突。

 彼らは壊滅的な損害を被ることになる。


『おまえら、ファンタジー要素を考慮しなかった結果だよ? 深く反省すべき、そうするべき』

「普通は考えないんだよなぁ」


 だからこその奇策、だからこその奇襲。


 でも、魔法を理解しない軍人たちは口々に『神風が起こった!』と言ってる。


『うわぁ……向こうにいなくてマジによかった。主様、無茶苦茶すぎるでしょう』


 この凄惨な状況にウサちゃん号のH・モンゴーが呆れ声と共に本音を漏らす。

 ウサちゃん号に抱き付くという名の合体をしているガラクタ号からは、毛玉饅頭のご機嫌そうな『もきゅ』という鳴き声が。


「よし、出鼻を挫いたんだぜ」

『というか壊滅だよねぇ、あれ』

「根性のない連中だぁ」

『根性でどうにかできるのなんて、エルティナイトくらいなものじゃない?』


 エリンちゃんの鋭いツッコミを受けたナイトは、どこか誇らしげだ。


『ナイトの十二割は根性で出来ている!』

「九割でいい」

『謙虚だな~、憧れちゃうな~』


『ほれほれ、遊んでないで追撃戦を始めるぞい』

「『あいっ!』」


 ガンテツ爺さんのいうように、機獣たちは「こらあかんわ」とばかりに撤退を開始し始めた。

 正直、この結果はぼんやりと見えていたが、本当に撤退するとは。


 どこぞの三匹の機獣並みに根性のあるやつはいないのか。


『おいぃ、ちんちくりぃん! それはフラグが、にょっきりとハッスルするぅ!』

「なん……だと……?」


 エルティナイトの指摘は鋭い、鋭すぎるっ!


 だから殿が発生するだろうな。


 海中から巨大な何かが飛び出してくる。

 それは、こちら側に無数の何かを飛ばしてきた。


 太くて巨大な棒のようなものはしかし、グネグネと蠢き軌道を変える。


「んなろっ!」

「おりゃあっ!」


 ナイトを無視して後ろのクロナミを狙ったそれに蹴りを入れる。

 クロヒメさんのアインラーズも同様に蹴りを叩き込む。

 甲高い金属音が鳴り響き、あらぬところに着水するそれをみて俺は叫んだ。


「あの触手は……イカだっ!」

『……残念、タコさんでした』

「なん……だと……!?」


 なんという事でしょう、この触手の持ち主は巨大なタコ機獣でした。


 ヒュリティアのいうように、つるつるの丸い頭を見せて「はぁい」と陽気に挨拶をしてくる巨大機獣の姿が。


「許せん……この俺の予想を覆すとはっ!」

『酷い八つ当たりを見た感』


 なんだっていい! 機獣は破壊だっ! うおぉぉぉぉぉぉっ!


 いろいろと誤魔化しつつ、俺はエルティナイトをタコさんに突撃させるのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 霧が出てきたな…
[一言] 次回、鉄棒ぬらぬら ナイト「あ~駄目〜そんな所に入らないで〜」 珍獣(ナイトごと消し飛ばしたい…)
[一言] もう「タコ」さんです…
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