19食目 打診
◆◆◆ エルティナ ◆◆◆
機獣退治を無事に終えた俺たちは、キアンカの町へと帰還した。
ゴーグル兄貴は救出が早かったため、命を落とすことはなかったようだ。
ただし、パンツがお亡くなりになったとの事。
早急に洗ってどうぞ。
がしゃこん、がしゃこん、と凱旋する戦機たちはどこか誇らしげだ。
アイン君も超ご機嫌である。
「ふっきゅんきゅんきゅん……今回も大活躍だったな」
「あい~ん!」
さて、町に戻って安心する、と色々と疑問点が浮上してきた。
レーダー云々はそういう装備をしていた、で片付くとして、あの殺気と陰湿過ぎる感情だ。
人を喰らう、それは自然界でも割とあることだ。
これは自然が定めた掟であるため、否定することはできない。
現に俺たちも、生きるために殺して喰らっているのだから、お互い様ということになる。
それを踏まえても、あそこまで憎悪を向けてくるのは、いったいどういう事だろうか。
そういうプログラムを施されている、にしては感情が生々しい。
果たして、ヒュリティアは、それに気づいているだろうか?
『……エル、あの子たちの力、感じた?』
「やっぱ、ヒーちゃんも違和感を感じた?」
『……エル、機獣は……いえ、まだ確証が持てないわね』
「勿体ぶりだぞぉ、ハッキリとゲロっちまうんだぁ」
『……おえ~』
「棒読み、ありがとうございます」
どうやら、まだ答えたくはないもよう。
時期がくれば向こうから話すだろう、とここは会話を切り上げる。
やはり、鍵を握るのは俺の失われた記憶となるだろう。
さっきから、はよ思い出せや、とガンガン頭痛がハッスルしてやがる。
でも、思い出せないねんやなって。
再び応接室に通される生還者たち。
その数、僅か六名という有様。
この惨状にルフベル支部長は頭を抱えた。
しかし、後の俺たちの報告に安堵と喜びの表情を見せる。
「二十匹のレ・ダガーを僅か六機で……しかも大破は一機のみとは」
「死ぬかと思ったぜ、マジでよ」
ゴーグル兄貴は、あの時の恐怖を思い出したのか、二の腕を擦る仕草を見せた。
「あんときゃあ、ホント、生きて帰れるとは思っていなかったわ」
「あぁ、それもこれも、銀閃の腕前と、おバカな嬢ちゃんのお陰だな」
ワイルド姉貴とスキンヘッド兄貴も、達成感に満ち溢れた表情で、ソファーでくつろいでいる。
しかし、モヒカン兄貴だけは別であった。
「今こうしていられるのは、確かにエルティナの嬢ちゃんのお陰だ。でもよ……」
あれは異常だ、その言葉が物議を醸しだす。
「ラルクよぉ、嬢ちゃんのお陰で命拾いしたんだろうが」
「それは分かっているし、感謝もしている。だが、知っておかねぇと今後、チームを組めねぇ」
「おめぇは心配性だな」
「レダムは足りねぇんだよ」
だが、モヒカン兄貴の言わんことは理解できる。
わけの分からない者に背を預けるのは自殺行為に近いのだから。
「とはいってもなぁ……俺もエルティナイトの事、よく知らないんだ」
「は?」
困惑するモヒカン兄貴に事情を説明する。
追加装甲を取り付けたアインリールの変異と、俺が持つ魔法の力の事を包み隠さずに打ち明けた。
当然ながら、更に困惑する戦機乗りたち。
「魔法……だって?」
「そうだぁ、魔法障壁という、黄金の鉄の塊級の頑強さを誇る、魔力の壁を使ったんだ」
スキンヘッド兄貴は理解が追いついていないのか、しきりにツルツルの頭を撫でまくっていた。
それに何故かワイルド姉貴が便乗、スキンヘッド兄貴の頭部は壮絶な輝きを見せることになった。
無駄に、きらり、と輝いて眩しいので磨き上げるのはやめて差し上げろ。
「それは、今使えるのか?」
「おう」
というわけで、魔法障壁を展開。
対象は無駄に輝いて眩しいスキンヘッド兄貴の頭部。
そこに編み笠のような形状の魔法障壁を生成し載せる。
「うおっ、なんじゃこりゃっ!?」
「マジで触れるぞ。映像の類じゃねぇ!」
そして、みんなして、バシバシ、と魔法障壁を叩きだす。
遠目からだとスキンヘッド兄貴を苛めているようにしか見えない。
「そこまでにしておきたまえ。魔法というのは理解し難いが、エルティナ君が不思議な力を持っているという事は理解した」
「ま、その認識でいいと思うんだぜ。魔法を真に理解すると、頭がおかしくなって死ぬ」
俺は魔法障壁を消しルフベル支部長に魔法の危険性を示した。
そして、魔法障壁が消えた、というのにバシバシ叩かれるスキンヘッド兄貴。
彼はしっかりと報復を行い、その存在感を示した。
「いたひ……」
「自業自得だ」
ほっぺを伸ばされて涙目になっているロクデナシどもは放って置く。
尚、終始無言だったヒュリティアは、当たり前のようにホットドッグをむしゃっていた。
隙あらばホットドッグ。まさに彼女こそが、ホットドッグなのだ!
少々混乱したが、俺たちはルフベル支部長より報酬をいただく。
「報酬は百万ゴドルだが、今回は一人当たり五百万ゴドル出そう。また、順位を上げることも約束する」
これに大喜びなのはワイルド姉貴だけ、という意外な形になった。
俺も任務に対して報酬が、へちょい、と思わざるを得なかった。
ヒュリティアと合わせても一千万ゴドル。
そして、彼女は特殊弾をバカスカ撃ちまくる。
経費が怖くて請求書が見れねぇよぉ!
「む、不満そうだな」
「まぁ、な」
「いや、俺たちは別に不満はない。だがよ、ロイドの奴は戦機をダメにしちまってる。事前情報じゃ、数機の偵察機だったはず。それが、現地に赴いてみりゃあ、待ち伏せされてた上に二十匹もの群れだぞ? こんな顔にもなるだろ」
ふむ、とルフベル支部長は顎に手をやった。
流石に気前よく戦機を支給する余裕が無いのだろう。
一応ここは田舎という事になっているのだ。
その一支部であるキアンカ支部の資金は潤沢にあるとは思えない。
尚、戦機一台のお値段は三千万ゴドルから。
しかも、これ作業用の戦機なので戦うだなんてとんでもない、という性能である。
戦闘に耐えれるであろう戦機は一億ゴドルから。
よって、大抵は中古を買い取って戦機乗りとなる。
新品なんざ、とてもじゃないが手が出せるようなお値段ではないのだ。
「……もしかしたら、融通が利くかもしれない」
そこに手を差し伸べたのは他ならぬヒュリティアであった。
「融通とは?」
「……私、アマネック社のお得意様になってるから」
「あぁ、そういえば、きみはアマネック社の試作兵器のテストを積極的におこなっているんだったな。アマネックの営業マンが、きみのレポートをべた褒めしていたよ」
そういえば、隅っこ小屋にもスーツを着たあんちゃんが、ヒュリティアを訪ねて何度か訪れていたな。
てっきり、弾代の催促かと思っていたのだが、そうではなかったらしい。
「ルフベルさん、ヒーちゃんのレポートって、評判がいいのか?」
「うん? あぁ、素晴らしく辛辣だって」
「おいぃ、それはべた褒めポイントなのかぁ?」
「それだけ、不満点と改良要望点が多いのさ。それは開発側にしてみれば、貴重な情報だ」
ルフベル支部長は、まるで自分の自慢話のように語り出した。
「やはり、現場の生の情報は貴重だ。それがEランクとはいえ、1位の戦機乗りからの意見なんだから尚更さ」
「ヒーちゃんの腕前は既にEランク1位の枠を超えてると思うんですがねぇ?」
「それだよ、私からも何度かクラスアップを打診したのだがね?」
ルフベル支部長は視線をヒュリティアに向ける。
すると、彼女はぷいっと露骨に顔を背けた。
「これだよ。彼女はきみがランクアップ圏内に上がってくるのを待っているのさ」
「な、なんだってー」
きっと、そんなこったろうと思ってたよ、ふぁっきゅん。
これはなんとしても、一緒にDランクにランクアッポしなくてはなるまい。
「私としても、ヒュリティア君ほどの戦機乗りを、いつまでもここで遊ばせておきたくはない」
「……そんなに中央は酷いの?」
「そう……だな。Dランクであっても、これは、という戦機乗りたちは前線に赴いてもらっている」
それはつまり、機獣との戦いに参加しろ、という事であろう。
ルフベル支部長はちらり、と俺の方を向いて、一つの提案を示す。
それは、Eランク2位を賭けて、現在のEランク2位と【バトル】をおこなうというものだった。




