198食目 激突 ~ヤーバン共和国防衛戦~
クロナミへと戻った俺たちは、直ちに戦機へと乗り込む。
機獣の群れ迫るの報告はメカニックチームも知るところであり、既に戦機を稼働させていてくれた。
とはいってもエルティナイトは万事稼働状態なのでメカニックいらずなのだが。
「エルティナイトっ!」
『遅いぞっ、ちんちくりぃん! ナイトは、いつだって窮地にカカツと駆け付ける準備が万端っ。早く合身してどうぞ』
「精霊合身っ!」
俺の肉体は直ちに粒子化しエルティナイトの心臓へと取り込まれる。
コクピットのそこで再構築された俺はアイン君のヘルメットを被り、黄金の鉄の塊たる騎士と一つになった。
「エルティナイト、敵は海の上やら中やらだっ。やれるか?」
『ナイトに苦手な地形など殆どあり得ない。でも敢えて言うなら俺はカナヅチなので多少はね?』
「ダメじゃないですかやだー」
なんという事でしょう、出撃前になってエルティナイトが海に適性がないことが発覚してしまいました。
『浮き輪を使えばイケるっ』
「あの世にな」
そんなものを使って、ぷかぷか浮いていたら、ただの的になるだけだ。
しかし、俺はもうエルティナイト以外の戦機を動かす自信が無い。
何がなんでもエルティナイトでどうにかするしかないのだ。
「あ、いや、待てよ? そもそも俺たち、浮き輪やら何やらに頼る必要無くね?」
『ほう……それは、どういうことですかねぇ?』
「ヒント、精霊戦機」
ピコン、と効果音がなって鋼鉄の騎士の頭上に電球のエフェクトが発生する。
どうやら、エルティナイトも俺が何をしたいのか気付いたもよう。
そう、【彼】本来の役割を全うしてもらう。ただそれだけの事。
「来たれ! 海の精霊マッソォ!」
「プロ☆テイン」
「マッソォ! 精霊魔法【母なる海】!」
「エキサイティング☆マッスル」
海の精霊マッソォはダブルバイセップスを披露した後に鋼鉄の騎士へと吸い込まれてゆく。
やがて、エルティナイトの鎧は白からアクアブルーへと変化を果たした。
海の精霊の加護を得た証である。
「精霊戦機はただの戦機じゃない。摩訶不思議な能力をホイホイ見せつけちまうだろうな」
『おいぃ、もう俺の筋肉がビキビキいって大変に危険。今なら海も割ることができる』
「あいあ~ん」
これでエルティナイトは問題無い。
問題は他の機体だが……どうやらミオとクロエはルビートルに乗り込むようだ。
あれなら海上を滑るようにして移動できるので問題はないだろう。
ルナティックも同様に海上を強引に滑る腹積もりのもよう。
マネックは空戦装備があるので問題無しとして、他はどうか。
クロヒメさんのアインラーズはマネックのフライトユニットを装備するようだ。
これも戦機間で規格を統一したお陰であろう。
ただ、クロヒメさんはフライトユニットでの慣らし運転をしていないような?
いや、それともマネックのフライトユニット装備型のテストパイロットを務めていた?
いずれにしても、その自信のある表情は戦果を期待させるものだ。
そういえば……ぽっちゃり姉貴も空戦使用の戦機に乗るのは初めてだったような?
ひょっとして、深く考えたらダメなのだろうか? うごごごごっ。
残るはガンテツ爺さんのデスサーティーン改だ。
彼の機体はハンドメイドな上にマーカスさんとヤーダン主任がやりたい放題にやってしまった末に完成した機体で、戦機の規格などくそ喰らえの下で完成した。
要するにマネックのフライトユニットが装着できないのである。
「おいぃ、ガンテツ爺さん。デスサーティーン改でやれるのかぁ?」
『問題無いわい。火の精霊戦機の能力を、連中に見せてやるとしようじゃないか』
かっかっかっ、と余裕を見せるガンテツ爺さんと、彼の頭の上にちょこんと乗る赤いヒヨコは余裕を見せた。
うちから出せる戦力はこんなものであろうか。
と他にも起動している機体を確認。
その内、二機はスナイパーライフルを手にしたマネック狙撃タイプだ。
「ヤーダン主任にユウユウ閣下?」
『はい、僕たちはクロナミの甲板から狙撃で援護します』
『うふふ、間違えて当ててしまったらごめんなさい』
「ふきゅんっ!?」
マジでやりそうなので勘弁してください。
どうやら、ユウユウ閣下は日頃の練習の成果を見せたくて、うずうずしていたらしい。
そしてもう一機だが、これは東方国から頂戴したサムライだ。
いったい誰が動かしているのか、とコンタクトを取ってみたところ、サブモニターにマサガト公のドアップがっ。
「ひえっ、マサガト公っ!? ということはザインちゃんもかっ!」
『然り、我らも弓にて尽力いたすで候』
『びじゃきゅなれども、せっちゃも、おてつだい、いたしましゅっ!』
ふんす、ふんすと息巻く幼きサムライは短いちょんまげしか見えていなかった。
どうやら、座席にクッションを置いていないもよう。
まぁ、操縦の殆どはマサガト公が担当するようなので問題はないとのことだ。
「よし、それじゃあ、精霊戦隊、出撃だっ!」
砲弾型カタパルトで射出されるのはルビートルを除く機体だ。
ルビートルはその使用からクロナミから直接、戦場へと移動する。
そして、もう一機。
『もきゅ』
『モンゴー君、やっぱり残っていた方がいいんじゃないのかな?』
『な、何を仰るかっ! わ、わわわわたしはっ! これでも元軍人なのですよっ!』
超絶震え声の機械人H・モンゴーはウサちゃん号に乗り込み、ガラクタに抱きかかえられての出撃となる。
エリンちゃんはガラクタ号に乗り込んで彼をサポートするようだ。
というか、俺的には二人とも残っていて欲しいのだが、戦力はいくらあっても足りないであろうこの状況では強く言えない言い難い。
海上にてクロナミは次々に精霊戦隊を戦場へと送り込む。
砲台カタパルトから打ち出される戦機は、他の誰よりも早く戦場に駆け付けるだろう。
「海面が迫った……魔法障壁っ!」
海面に魔法障壁を広域展開し足場を作る。
風の精霊であり、全てを喰らう者・風の枝でもあるとんぺーの覚醒は、俺にかなりの量の魔力をもたらした。
全盛期までとはいかないものの、およそ半分程度の魔力が戻ってきた今、多少の無理もできるというものだ。
でも、ヒュリティアにはしっかりと釘を刺されているので自重いたします、はい。
「あれが機獣の戦力か」
『およそ二千、といったところかのう』
エルティナイトの隣にデスサーティーン改が着地した。
この足場は消さずに残していた方が、彼にとっても都合がいいだろうか。
『……案の定、ほぼ全機が海戦仕様の機獣ね』
続いてルナティックが魔法障壁に着地。
アインラーズとマネックも光素を温存するために着地を果たす。
『うはぁ、イソギンチャクにナマコもどきかいな。ゲテモノばかりやないか』
『逆に可愛らしい機獣じゃなくてよかったじゃないの』
『いや、それもそうなんやけど……今まで可愛かった機獣なんてあるかいな?』
『無いわね』
軽口を叩き合うぽっちゃり姉貴もクロヒメさんも余裕がありそうで何よりだ。
彼女たちは武装に光素系ライフルを選択。
これらはビーム兵器とは違い、海中で拡散してしまうことがないためだ。
ただし、ビーム兵器とは違い有効射程範囲に難がある。
おおよそビーム兵器の半分の距離しかないと考えるべき、とのことだ。
そうはいっても、がっつり出力を高めたバスターランチャーなどは、とんでもない距離を示すのだが。
要はパワーを高めた兵器は、なんだってスゲー、という事なのだろう。
そういった不確定要素を嫌う者は自ずと選択が実弾兵器となる。
ヒュリティアのスナイパーライフルなどが良い例といえよう。
エルティナイト? 存在その物が不確定要素の塊なのでセーフっ。
それに今回は、しっかりとエリン剣も持って来たので大活躍待ったなし。
見とけよ見とけよ~?
迫る機獣の群れ。
ヤーバン共和国の戦力は防衛隊に不細工カエル戦機を主軸にした駆逐艦が十五隻。
一隻当たりカエルが五機載っているから……75?
君たち、国を護る気あるの? ほんま、つっかえ。
『なんや、その数っ!? 国を護る気あるんかいな! ほんま、つっかえ!』
ほれ見ろ、ぽっちゃり姉貴も激おこですぞっ。
『みんな~、聞こえてる~?』
「ニューパさんっ?」
『戦機協会からも出撃要請があったから受理しておいたよ~。あと~、現地の戦機乗りおよそ三百もそっちに向かっているわ~』
どうやらニューパさんは艦橋にいるもよう。
そういえば、クロナミはオートパイロット機能を使用しているのだろうか。
いや、それにしては戦場に到着する速度が早過ぎる。
『早いわね。腕は衰えてないってこと?』
『たま~に練習してたから~』
「どういうことだってばよ?」
『ニューパはSクラス船舶免許を持っているの。全ての船を操ることができるわ』
「マジパネェっす」
『えっへ~ん』
ただの超乳お姉ちゃんではなかったもよう。
頼もしい限りである。
『そろそろ、射程範囲じゃ。警戒せいよっ!』
「おう! ナイトの盾はどんな攻撃でも受け止めるっ!」
「あいあ~ん!」
海上、海中から無数の光線とミサイルが放たれる。
いよいよ、ヤーバン共和国を護るための戦いが始まったのであった。




