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197食目 意外な提案

 ぶひぶひ男が場を騒然とさせたが、ガンテツ爺さんがボムっと収めたので戦機協会は再び元の落ち着きを取り戻す。


「なんだったんだぁ? あの肉団子はぁ」

「あ~、あれなぁ。ナイトクラスの問題児や。うちも口説かれてんやで」

「見境ないなぁ」


 紳士的ではないおっぱい星人は駆除の対象なのだが、それを理解していないのであろうか。

 これには流石のぽっちゃり姉貴も呆れを通り越した表情を窺わせた。


「あれがニューパの抱える問題よ。追っ払っても、追っ払っても迫ってくるの。しかも、私はガン無視よ? 信じられる?」

「……あの肉団子、胸しか見てないわ」

「おのれ、乳かっ!? 乳がなければ人権は無いというのかっ!」


 益々、殺意のなんちゃらがバーストしていらっしゃるクロヒメさんに、俺は「ひえっ」と悲鳴を漏らす羽目になる。

 早いところ、あのナイトクラスを黙らせないと真っ赤な雨が降りそうだ。


「えっと……クロヒメちゃん。あんな人でも、戦機協会の財産なので手荒な真似はダメなのよ~」


 そういうニューパさんであるが、既にガンテツ爺さんが彼に芳ばしいにおいを発生させていた点について。


「ふん、あれが娘さんを悩ませていた原因か。厄介なヤツに目を付けられおって」


 ガンテツ爺さんが、ヤーダン主任とちびっ子たちを引き連れて俺たちの下にやって来る。

 その表情は心底面倒臭そうだ。


「ガンテツ爺さんは、あの肉団子と面識があるの?」

「うむ、昔ちっとな。うちの奴に手を出したもんじゃから、きついお灸を据えてやったんじゃよ」

「今も昔も変わってないってことじゃないですかやだー」


 ということは、ガンテツ爺さんが追っ払っても何事もなかったかのようにやって来るってことなのだろうか。


「やっぱり、本物の肉団子にしてしまった方が良くなくって?」

「ユウユウや、おまえさんはもちっと凶悪な性格をじゃな……」


「そうにゃ~」

「食べ物を粗末にしちゃダメなんだよ~」

「クロエはお利口さんにゃ~」

「……違う、そうじゃない」


 肉団子を獲物にしか見ていない別の意味で凶悪なお子様たちに、修正のツッコミを炸裂させたヒュリティアさんナイスでーす。


「おいぃ、話が進まない進みにくい。こうなったら、暴力で黙らせるしかないですね」

「こりゃ、エルティナまで何を言っておる」

「ガンテツ爺さん、アレに勝負を挑もう」

「うん? ドープの奴にか?」


 う~ん、とガンテツ爺さんは腕を組んで数瞬、考え込んだ。

 しかし、出た結論は「無理じゃな」というものだった。


「奴にメリットが無い。受けるはずもないんじゃよ」

「むむむ」


 確かに、あの肉団子様にはまったくメリットが無いだろう。

 それこそ、ヤーダン主任やユウユウ閣下を賞品にでもしない限りは。


 しかし、そんなことはリーダーの俺にはできない。

 よって、他の方法を考えなくてはならないだろう。


 ああでもない、こうでもない、と話し合ってみたものの、具体的な解決案は出てこない。

 しかし、そこに一石を投じる者あり。


「ねぇねぇ、一時的に精霊戦隊に入ってもらえば?」

「ふぁっ!?」


 なんと、リューテ皇子から、このような提案がなされたのである。


「あっ、それは盲点だったわ。うちに一時的に入ってここから姿を消せば、流石のドープも追っては来れないでしょう」

「あぁ、そっか~。クロヒメちゃんってチームに所属してたんだったね~」

「そうそう。支部長に事情を話せば、転属も許可されるでしょ」


 リューテ皇子の提案は上手い具合にハマり、トントン拍子で話は進んでいった。

 支部長のアロハなおっさんもドープにはホトホト困り果てていたようで、事が収まるまで精霊戦隊に匿ってもらいなさい、と好意的に送り出してくれた。


「それじゃあ、これから暫く、よろしくです~」


 そんなわけで、ちょっぴり暢気な褐色娘ニューパさんが精霊戦隊に一時加入することになったのであった。


 彼女は急ぎ自宅へと戻り、身支度を済ませて再び戦機協会に戻ってくる。

 やはりアロハな服装であるが、衣服は俺たちが戻った先で購入するとのこと。


 果たして、キアンカに彼女のサイズに見合う服があるかどうか心配である。

 まぁ、無かったら手直しすればいいだけの話なのだが。


 俺はこう見えても、お裁縫とかはしっかりできる三歳児。

 見た目だけが三歳児なので、脳は母から継承したおっさん臭いあれやこれで穢れている。


 壊れるなぁ……純真さ。


「そんじゃ、とっととトンズラぶっこくかぁ」


 と宣言し、戦機協会を出たところで何やら騒がしい人だかりを発見。

 何事かと首を傾げる、とニューパさんが説明してくれました。


「パレードですよ~。ヤーバン共和国の大統領マシュー様が次の選挙に向けてアピールしてるんです~」

「ふ~ん、そうなのか~」


 ニューパさんの間延びした喋り方がさり気なく感染した俺は、ほんのりと間延びした返事を返した。


 わっせわっせ、とガンテツ爺さんを登ろうとするもそれは叶わず、結局彼に抱き上げられましたとさ。


「ふきゅん、あれがマシュー大統領か」


 意外なことにマシュー大統領は女性であった。

 短い黒髪に黒い瞳、濃い褐色の肌の気の強そうな女性だ。

 バリっとした白いスーツは、彼女の潔癖ぶりを十分に主張しているように思える。


「……随分と若作りしているわね」


 そして、見知らぬ厳ついおっさんによじ登ったヒュリティアさんは、ドえらい暴言をぶっ放しましたとさ。


「そりゃあ、激務だから仕方がねぇさ、お嬢ちゃん」

「……ふぅん。まともな部類の為政者、ってところかしら」


 彼女のエメラルドの瞳はマシュー大統領を射抜くかのようだ。

 だからだろう、マシュー大統領は大勢の支援者たちの中にあって、部外者なヒュリティアの視線を捉えた。


 マシュー大統領は一瞬、驚いたかのような表情を見せたが、すぐさま作り笑いの仮面を付け直した。


「……なるほど」


 黒エルフの幼女は納得を示し、見知らぬおっさんから降りた。


「……次もあの人で決定ね。この国は取り敢えず問題無さそうだから、一旦キアンカに戻りましょ」

「ふきゅん、そんなにか?」

「……えぇ、目が腐ってなかった」


 目を見ただけで人となりが分かる、とかマジで震えてきやがった。


 まぁ、ヒュリティアがそう言うなら問題はないのだろう。

 問題なのは、あの肉団子さんだ。


「それじゃあ、クロナミに戻ろうぜ」

「そうじゃな」

「おんっ! おんっ! おんっ!」


 ガンテツ爺さんに下ろしてもらったところで、ザインちゃんを背に乗せたとんぺーが咆え始めた。

 その視線の向こうには海。穏やかな水平線しか見えない。


 しかし、とんぺーは意味も無く咆えたりすることは決してない。

 では、何故。


 決まっている。


 敵だ。


『緊急事態発生、緊急事態発生。トルテイア海岸沖にて機獣の群れを確認。市民は直ちにシェルターへと避難を開始してください。繰り返します……』


 けたたましいサイレンは、今までのんびりと生活をしていた人々に、これ以上ない恐怖を植え付ける。

 どうしたらいいか分からず、おろおろする市民たちに凛とした声を掛けたのはヤーバン共和国の大統領マシューだ。


「皆さん! 落ち着いてください! 今からシェルターに向かえば十分に間に合います!」


 彼女は車の上に立ち、市民たちをシェルターへと誘導し始める。

 真っ先に逃げ出さない辺りは強烈なリーダーシップを持っているようだ。


 これも人間の群れの特徴であろうか。


 野生動物の群れである場合、どうしようもない危険を察したら真っ先に逃げ出すのが群れのボスである。

 群れのボスに必要なものは、強さもさることながら圧倒的な危険察知能力だ。


「よし、精霊戦隊は機獣討伐に参加するぞっ!」


 危険察知能力の件はどうしたって?


 だって、俺はボスじゃなくてリーダーだもん。

 そしてクソザコナメクジの貧弱一般市民を護るナイトでもある。


 突如として出現した機獣の群れ。

 攻め込んでくるタイミングが妙にも感じられたが、大統領マシューを狙っているとするなら納得もできる。


 機人の存在はまだ公にはなっていないこのタイミング。

 エリシュオン惑星侵略軍が本格的に動き出した可能性は十分に考えられる。


「鬼も活発化しているってのに面倒なことなんだぜ」

「うちも手伝うわっ。あぁ、もう、グラントシェイカーを持ってきておくんやったわ」


 ぽっちゃり姉貴も再度、マネックに搭乗してくれることになった。

 ファケル兄貴は離脱したものの、今度はガンテツ爺さんが復帰しているので戦力的には不足していない。


 あとは群れの規模と、ヤーバン共和国の戦力がどれほどなのかだ。


 とにもかくにも俺たちはクロナミへの帰艦を急ぐのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] さすが、ニャンコ… 「肉団子」=「食料」… 単純な方程式だ…
[一言] 賞品にする事なんて出来ない 珍獣「最速で終わるとしてもだ」 ユウユウ「フンフンフフ〜ン」 ゴォウ!ゴォウ、!グォォォン!!(素振り) クロヒメ「彼女なら殺ってくれるわ」 珍獣「殺っちゃ駄目だ…
[良い点] 珍獣戦隊が珍乳戦隊に! 珍獣「乳に貴賎無し!大小はあるけどな」 [一言] 肉団子・・・流石ににゃんこびとでもぽんぽん痛い痛いになるから食べたらメッ!
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