196食目 ナイトクラスの男
オンドレラ島の戦機協会同様に開放的な雰囲気のそこには、施設同様に開放的な姿の職員たちが。
アロハシャツに丈が短すぎるズボン、という刺激的すぎる姿は果たしていかがなものかと思われるが、エデンテルの裸族たちを思い出す、とそんなこともないように思えて来るので割とセーフっぽく感じました。
「ようこそっ! 戦機協会ヤーバン支部へっ!」
金髪サイドテールの褐色元気っ娘が太陽のような笑顔で戦機乗りたちを出迎える。
どうやら、彼女がここの看板受付嬢であるようで、野郎どもは彼女にメロメロになっているもよう。
彼女もそれを頷かせるだけの美貌を持っていた。
加えておっぱいデカすぎ案件。
胸にスイカが二つも装着されておられる。
よって、彼女に骨抜きにされているのは、おっぱい星人と考えていいだろう。
彼らは恐らく狩人に仕留められるに違いない。
「おらっ、てめぇらっ! 用もないのにニューパに群がるなっ!」
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!? ペッタン娘だっ!」」」
切り揉みしながら吹っ飛んで行くおっぱい星人。
そして、それを笑顔で見送る超乳受付嬢はなかなか胆が据わっておられる。
「おっす、クロヒメさん。切れがある一撃だったんだぜ」
「あ、エルティナちゃん。いらっしゃい。その様子だと無事にミラージュをゲットできたようね?」
「ご覧の通りなんだぜ」
俺が説明するよりも先にミラージュたちは俺の魂より、にゅるんと飛び出し物珍しそうに戦機協会の中を泳ぎ回る。
稚魚とはいえ、幻影の魚の姿に戦機協会はざわめきに包まれた。
「おいおい、マジか。なんだ、あの魚はっ」
「宙を泳ぐ魚? 七色に輝く鱗? いや、まさか……」
ざわざわ、どよどよ、と場を混乱させる稚魚たちはそんなことなどお構いなく、職員たちの机の上や頭の上、果ては股の下ではしゃいでおられた。
どうやら好奇心が旺盛な子たちであるもよう。
「おんっ」
しかし、これをとんぺーが一鳴きで納めてくれた。
戻って来なさい、との指示を受けてミラージュたちは、ゆるゆると俺の周りで回遊し始める。
「その子たちがミラージュ? あと見慣れないワンちゃんね?」
俺とザインちゃんを背に乗せている真っ白な犬、というか狼なのだが……をモフモフし始めるクロヒメさんは、やがてその表情をふにゃりとさせ始める。
「やだ……この子、超もふもふ」
「とんぺーの毛は魔性のもふもふなんだぜ。あ、ちなみにとんぺーは風の枝だから」
「……えっ?」
俺のカミングアウトにクロヒメさんは一瞬固まる。
しかし、そこは修羅の女。
一向に構わんっ、とのお返事をいただきました。
マジパネェっす、クロヒメさん。
「もふもふと言えば、あの妙な子もそうだったわね」
「モフモフもっちり爆裂丸試作二十五号機のことか?」
「エルティナちゃん、モフモフしか合ってないよぉ」
「もきゅ~」
モフモフさえ合っていれば、他は割とどうでもいい気がするっ。
エリンちゃんの左肩の毛玉饅頭はクロヒメさんを発見し身構えた。
果たして、彼女に危機感を覚えているのか。
いつでも、逃走できるよう備える。
しかし、毛玉饅頭をロックオンしたクロヒメさんの姿が掻き消えた。
「よぉぉぉぉし、よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしっ」
「もきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
次の瞬間、或いは瞬きした瞬間、既に毛玉饅頭はクロヒメさんの手の中にて激しく摩擦されておりました。
「んん~! この触り心地っ! 実にYesっ! 柔らか、艶やか、滑らかっ!」
モフられまくる毛玉饅頭はやがて、ぐったりとした姿を見せ、チーンとの音が聞こえると同時に動かなくなったとか。
その残虐な行為が終わる、とモフモフハンターはお肌がつやっつやになっておりました。
ふっきゅんきゅんきゅん……君には悪いが、俺の代わりに生贄になってくれたまえ。
「めいんでぃ~っしゅ!」
「ふきゅ~ん! ふきゅ~ん! ふきゅ~ん!」
「にゅわ~っ!?」
逃れられぬカルマっ!
結局、俺とザインちゃんも狩人の魔の手からは逃れられないっ!
そして、とんぺーも助けてはくれなかったっ!
ヘルプミール貝の心境を理解してしまった俺たちは、遠い目をしながら「タスケテー」と繰り返す珍獣と化すっ!
「……はい、ストップ。話が進まないから」
「え~?」
暴走状態のクロヒメさんを見かねて、同じく狩る側のヒュリティアさんが助けてくれました。
「助かったよ、もう駄目かと思った」
「タスケテー」
でも、ザインちゃんは手遅れだったもよう。
マサガト公も手を出さないクロヒメさんは超危険人物で間違いないようだ。
マジで震えてきやがった。
「ま、腹一分ってとこかしら」
これに俺たちは、ただただ戦慄するより他になかったという。
「やれやれ、相変わらずじゃな。わしらは向こうで子供たちの面倒を見とるから、話を聞いてやるがいい」
「分かったんだぜ」
ガンテツ爺さんとヤーダン主任はおチビたちを引き連れて、戦機協会入り口付近のお子様スペースへと向かったのだった。
クロヒメさんがここに残ったのは、彼女の友人である超乳褐色娘のニューパさんが抱える、とある問題を解決するのに奮闘しているからだそうだ。
それがまた厄介な案件だそうで。
「ナイトクラスに付き纏われている?」
「そうなのよ。ニューパも断っているんだけど聞く耳持たずって感じで」
フルオープンの職場には応接室などはなく、それっぽいスペースにソファーとテーブルが置かれているだけであった。
なので秘密の会話ができないできにくい。
「あら、そんなにしつこいのなら、もいじゃえばいいじゃない?」
「そんな発想に至るのはユウユウだけよ。相手は一応、戦機乗りのトップクラス……聖騎士と謳われる存在なんだから」
なぬ? そんな奴が、ここにいるのか?
「……チャンスよ、エル。そいつを殺ってナイトクラスの座をまるっといただきましょう」
「おいぃ、暗殺は汚い忍者のやることだぞ」
「……堂々と暗殺すれば汚くない」
「なにをいっているのかわからないよ」
そんな危険な発想に至る黒エルフさんは桃力に罰しられません。はい。
「クロヒメも頑張ってくれているんですけど~。ほんっと、話を聞いてくれない方で~」
独特の間延びした話し方をするニューパさんは二の腕でパイパイをぎゅむっと挟んで強調すると俯いてしまった。
彼女的には強調しているつもりはなさそうだが、何気ない行動すべてが露骨に見えてしまうのはいただけない。
なるほど、これならその容姿も併せて、自動的におっぱい星人が陥落してしまうわけである。
「そのナイトクラスって、どんな奴なんだ?」
「説明するよりも見た方が早いって感じね」
その時、入り口付近が賑やかというか不穏な騒めき声が聞こえ始める。
「ぶぉっほっほっほっ! 僕のニューパちゃ~ん! ナイトクラス6位の【電撃のドープ】が来てあげましたよ~?」
なんだ、あのおっさんっ!?
そのような言葉が思わず出てしまうのは無理もないというもの。
入り口付近で無数の取り巻きを引き連れた巨漢、というかおデブは不細工の塊であった。
本人的にオシャレのつもりであろうか、ちんまりとした緑色のモヒカンはまったくの逆効果でしかない。
サイズの合う服がないのか、今にも破れそうなアロハシャツとズボンが可哀想に見える。
のっしのっしと歩く肉塊は、やがてその脂ぎった視線をお子様スペースへと向けた。
そして、ぴたり、と時が止まったかのように動きを止めたではないか。
「えっと……何か?」
「お嬢さん、私のハーレムに加わりませんか?」
どこからともなく赤いバラを取り出し、ヤーダンママにとんでもない事を口走る肉塊。
流石のヤーダンママも、これにはどうしたものかと困り顔。
「折角のお誘いですが、子供もおりますので」
「ぶおっほっほっほっ、一向に構いませぬ。纏めて面倒を見て差し上げましょう」
「うわぁ……財力持っている人だ」
流石はナイトクラス。
有り余る財力でヤーダンママを篭絡する腹積もりか。
そして、その視線の先が彼女のおっぱいにしか向けられていない件について。
「ママを困らせるな~!」
「んん~! お子様もベリーグッド! 将来が約束されているっ!」
「リューネ、いいから下がってなさい」
「で、でもっ!」
「そうじゃな、ちぃと下がっとれ」
ボンっ、と何かが爆ぜた音、と出口に向かって転がる肉塊。
「ぶひぃぃぃぃぃっ!? な、何をするぅぅぅぅっ!」
「貴様っ! ナイトクラス6位の電撃のドープ様に対してっ!」
「ただで済むと思うなよっ!」
いきり立つ取り巻きどもは肉塊をふっ飛ばしたガンテツ爺さんを威圧し始める。
しかし彼はそんなものなど、どこ吹く風だ。
「ぼ、僕にこんなことをしてっ! ただでは済まさないぞっ、ジジイっ!」
「ほう、どうしてくれるのかの? 小僧」
「こ、小僧っ!? 僕を小僧と……こぞう……」
ガンテツ爺さんを見つめる電撃のなんちゃらさんは、やがてカタカタと肉を振るわせ始める。
「ガ、ガンテツのジジイっ!? まだ生きていやがったのかっ!」
「お陰様での。それで……また以前のように可愛がってやろうか?」
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁっ!」
肉まんじゅうさんは慌てて立ち上がると「ぶひぶひ」と悲鳴を上げながら逃げて行きましたとさ。
「やれやれ……あんなのがナイトクラスとか、今の戦機協会はどうなっておるんじゃ」
トントン、と腰を叩くガンテツ老人はヤーダンママにウインク一つ。
彼に頬を染めるヤーダンママは果たして枯れ専であろうか。
「おいぃ、大丈夫だったか?」
「……優しいのね。逃がしてあげるだなんて」
「ばかもん。放って置いたら、おまえさんたちが黙っておらんじゃろ」
その通りでございます。
既にうちの武闘派たちがスタンバっておりました。
特に戦闘民族にゃんこびとは戦いの空気を察して臨戦状態。
確実に血の雨が降ること待ったなしの状態でした。
「残念ねぇ、殴り応えのありそうなサンドバッグだったのに」
「おまえさんの冗談はシャレにならんわい」
ユウユウ閣下のジョークに呆れを見せる彼は、先ほどのドープとやらの因縁について語り始めたのであった。




