192食目 誇れ ~なんちゃって真・身魂融合~
クロナミへと帰還した俺たちにビックリ仰天したのは、もちろんアナスタシアさんたちメカニックチームである。
「な、なんだいこれっ!? いったいどうしちまったのさっ!」
「うす、なんだか生き物みたいっす」
真・身魂融合で劇的ビフォーアフターを成し遂げてしまったル・ファルカンを見て鼻息を荒くする変態たちは何かの儀式でもしているかのように体をくねらせる。
なので俺は、彼女らをそっとしておくことにした。
この選択はきっと正しい。
『マネックはここでいいか?』
「いいんだぜ。早く、ぽっちゃり姉貴を介抱してあげないとっ」
流石に先ほどの精神状態は危険がエクストラ・ステージ。
狂気がコサックダンスをしながらオーダーを受けに来ているようなものなので正気に戻す必要がある。
「エルティナイト、マネックのコクピットにっ」
エルティナイトの手に乗ってマネックのコクピットハッチを強制展開する。
「おいぃ、ぽっちゃり姉貴、大丈夫……うわぁ」
そこにはアヘ顔状態で盛大にお漏らししながら、ビクンビクンしている成人女性の姿がっ!
こんなの絶対に見せられないよっ!
怖いなーモザイク掛けとこ。
『膨大な正気度を失った結果かぁ』
「アレは仕方がない」
『うちに関わるのなら、そんなんじゃ甘い感』
「許して差し上げろ」
精霊戦隊に女性スタッフが多くてよかった。
モザイク塗れのぽっちゃり姉貴を救助し、モザイク塗れのコクピットをメカニックチームにお任せする。
一部大興奮する真正の変態もいたようだが、もちろん華麗にスルーする。
「……刺激が強過ぎたかしら。見た目に反して繊細な精神ね」
「超常現象の塊な俺たちと同じ風に考えたらダメなんだぜ」
「……ナイトクラス、といってもしょせんは下位という事かしらね」
ヒュリティアさん、辛辣ぅっ!
機獣と戦うのが戦機乗りの本分だから許してあげてっ!
俺がそのように、ぽっちゃり姉貴に黙祷を捧げていると、ル・ファルカンからファケル兄貴が降りてきた。
結構な高さのコクピットであるが、そこから飛び降りたのである。
しかし、彼の身体は風に纏われてゆっくりと降下する。
ミラージュの能力を使いこなしているのであろうか。
「うわ、随分とスゲェ姿になっちまったな、相棒」
すっかり様変わりしてしまったル・ファルカンに苦笑する彼は「俺もか」と自分にもツッコミを入れる。
顔に走る傷跡は凄惨なものだ。
しかし彼にとって、それは掛け替えのない絆になっているのが十分に理解できる。
何よりもファケル兄貴から感じる強大な力。
桃力だけで言うなら俺では到底、及ばない高みに至っているのではなかろうか。
これが本物の真・身魂融合を乗り越えた者の力。
いやいや、何を凹んでいるんだ。
真・身魂融合をおこなうのは、どうしようもなくなった最後のケースだ。
俺は最後まで真・身魂融合をおこなわなくてはならない状況を作らないぞっ。
誇れ、俺っ! そして、なんちゃって真・身魂融合を称えよっ!
独り決意に震えている、とひょこっと俺からミラージュたちが飛び出して来た。
そして、彼らは「食べてー食べてー」と願ってきたではないか。
「ふきゅん、一応、真・身魂融合で食べた扱いなんですが?」
しかし、彼らはそうじゃないと告げる。
どうやら、しっかりと味を理解してこそ、なんちゃって真・身魂融合は完了するとのこと。
そして、既に魂と魂同士でくっついてるので食べたところで俺の根本に帰還するだけなので問題無しとのこと。
更に身体は風を使えば幾らでも作り出せる、という無茶ぶり。
つまり、ミラージュは【風を食べる】も同義なのである。
「風を食べる……か」
「おんっ」
それを肯定するのは全てを喰らう者・風の枝とんぺーだ。
彼の主食は風であるが、話を聞くと雑食なのでなんでも来い、とのこと。
特に桃先生はウェルカムらしいので早速、召喚して振舞う。
「くぅ~ん」
むしゃり、と食べ終えたとんぺーの目には光るものがあった。
何かしらの万感の思いでも込み上げてきたのであろうか。
「ふぁ~、今回も凄かったねぇ」
「もきゅ~」
「エリンちゃん、お疲れ様なんだぜ」
ガラクタから降りてきたエロエロパイロットスーツ姿のエリンちゃんが声を掛けて来た。
その肩には毛玉饅頭の姿も。
「それにしても、こいつはいったい、なんなんだろうなぁ?」
「面白い子だよねぇ」
「その感想が出る辺り、流石エリンちゃんなんだぜ」
「えっへん」
「もっきゅ~」
エリンちゃんがドヤ顔をする、とモフモフもそれに倣った。
どうやら、毛玉饅頭は彼女に懐いたらしい。
「ままうえ~っ! ごぶじでごじゃりゅきゃっ……ほにゅっ!? と、とんぴぇーっ!?」
「おんっ!」
とてとて、と駆け付けて来たザインちゃんは、とんぺーの姿に仰天する。
一方のとんぺーは再会を喜ぶことを伝えるために、高らかに一鳴きした。
「ふぉ~! さしゅがは、ままうえっ! もうえだが、はんぶんも、しょろいまちたでしょうりょー!」
「雷は殆ど未覚醒なんですが?」
「しょ、しょーじん、するでごじゃる」
俺の鋭いツッコミに、ザインちゃん大きなお耳をしょんぼりさせてしまった。
そう、雷蕎麦である程度は覚醒したものの、完全覚醒には程遠いのだ。
俺の子として再誕した彼女は、他の枝とは違う工程を踏まなければ全てを喰らう者の枝として覚醒しないらしい。
そもそも、生きたまま枝になることができるのかどうか。
こう見えても、とんぺーは魂が物質化しているので厳密には生者ではないのだ。
生と死との境界があいまいな状態にできるのは、それすらも食ってしまえる全てを喰らう者だから、とヒュリティアさんから説明がございました。
へー、そうなのかー。
「……ザインちゃんは深く考える必要はないわ。よく食べ、よく学び、よく遊びなさいな」
「ち、ちかしっ! しゅぎょーをおこたりゅのは、ましゃがとこーもいくにゃいと」
『然り、幼少期に覚える基本は今後を決定付けるで候』
既に師匠的なポジションに納まっている悪霊さんは、ザインちゃんに剣技を教えているもよう。
ザインちゃんの話では、前世では剣を振るっていたものの、その殆どが自己流であり割と滅茶苦茶であったとのことだ。
なので、しっかりとした剣技を習得しているマサガト公に自ら教えを乞うたようである。
「たいらりゅーは、すばらちぃでごじゃるっ! ぜったいに、きわめてみしぇるでしょーろー!」
『良き決意、某も尽力いたす所存』
「……あっそ」
ひでぇ返答があったもんだぁ。
ヒュリティアさんは剣技にまったく興味がないのか、素っ気無い返事で終わらせましたとさ。
「まぁ、ザインちゃんは、マサガト公に任せておけばいいんだぜ。何かやらかしたら退治すればいいんだし」
『ご無体なっ!?』
一応は釘を刺して置く。
指導がエスカレートしても困るし、まだまだお子様だから身体も出来上がっていないからな。
俺もだけどっ!
「だらしないわねぇ、あの程度のことで」
「あれは、あの程度とはいえません閣下……げふっ」
ユウユウ閣下がウサちゃん号で白目痙攣状態に陥っていたH・モンゴー君を引っ張り出してきた。
もちろん当然の権利である、と言わんばかりに彼を床に放り投げる。
H・モンゴーは蛙の断末魔のような悲鳴を上げ、ケツプリ土下座を披露。
そのまま動かなくなった。
いつもの光景なので誰も気にしない辺り、彼も精霊戦隊に馴染んできているもよう。
「うふふ、これで枝も残すところ、土、闇、光、竜、ね」
「その内、闇と竜は一応、目覚めてはいるんだぜ」
「そうね、でも……一番手こずるのは闇ね」
ふぅ、とユウユウ閣下は大きなおっぱいを抱え、憂鬱そうな表情を見せた。
「管理者がいないから?」
「そうね、管理者のいない枝は獣と同じ。目の前の餌をただ食らわんとするわ」
「前はいたの?」
「いたわよ。芋虫が」
「芋虫っ!?」
衝撃の事実に、俺は速やかに白目痙攣状態へと陥る。
母よ、あなたは何と真・身魂融合をおこなっていたのだ。
「きっと、光の枝の前任者を解き放ちたかったんでしょうね」
「え? 殉ずる者って交代できるの?」
「普通はできないわ。でも、全てを喰らう者が変異した瞬間、可能になったんでしょうね」
「変異?」
俺の質問はしかし、「ちょっと喋り過ぎたわね」というユウユウの微笑により却下されてしまった。
「それじゃ、シャワーでも浴びてこようかしら。それにしても鈍っているわねぇ、あの程度の鬼力で汗を搔くだなんて」
ひらひらと手を振って格納庫を後にするユウユウ閣下。
彼女を見送った俺は彼女と入れ替わるように走って来たにゃんこびとたちに揉みくちゃにされる。
「おみやげー!」
「おみやげー!」
「ふきゅ~ん! あるから落ち着きたまへ!」
「「にゃ~ん!」」
しかし、彼らの興奮はオメガスタイリッシュバーストとなり、遂には胴上げへと至った。
そして俺は、そのままキッチンへと運ばれることになる。
まぁ、どの道ミラージュを調理するから移動の手間が省けてよかったのだが。
さぁ、特殊食材ミラージュ、調理開始だ。




