18食目 規格外
◆◆◆ スキンヘッド兄貴 【レダム】 ◆◆◆
最悪の展開だ。
まさか、レーダーに反応しない機獣が存在するだなんて、誰が想像しようか。
これでは、目視以外は当てにならない。
背後から狙われて押し倒されちまったら、それこそさっきの連中みたいに一巻の終わり。
後ろに目を付けるだなんて出来っこねぇ話だ。
にもかかわらず、独り突貫する馬鹿発見。
エルティナの戦機だ。
アインリールに追加装甲を取り付けただけの機体のようだが、その割に妙に素早い動きだ。
いや、今はそんなことを悠長に考えている暇はない。
いきなり、機獣の群れに突っ込むヤツは、いまだかつて見たことが無い。
自殺行為を通り越した無謀ぶりに思考が停止し掛ける。
『……問題ないわ。攻撃を』
「銀閃っ! お前の相棒だろうがっ!?」
『……だからこそ、よ』
銀閃こと、ヒュリティアのブリギルトが射撃体勢に移行した。
マジでやる気だ。
「ええい! もう知らんぞっ! ラルク、ロイス、ミーシャ!」
『おうよ、どの道、やるかやられるかだ!』
『今更、じたばたしても変わらないってな』
『最後まで抵抗してやろうじゃない』
残った奴らが肝の座っている連中で安心した。
これで、情けない最期を迎えることはなさそうだ。
まぁ、死にたくはないがな。
俺もアインリールを砲撃体勢へと移行する。
片膝を突かせれば砲撃の反動も軽減できるのだ。
ただし、そこを狙われると脆い。
スクリーンモニターにはエルティナに殺到するレ・ダガーの姿。
絶体絶命だが、構わず砲撃を開始する。
いったい、どれくらいの鋼の獣を道連れにできるかは分からない。
できるなら、半分くらいは持ってゆきたいところだ。
『ぶるるぅあっ!』
そして、信じられない光景に出くわす。
エルティナのアインリール振り下ろした何かの塊に、容赦なく叩き潰される鋼の獣の姿。
それは、あり得ない光景だった。
『……それでいいわ、エル。引き付けて』
『マカセロー、バリバリ』
そして、通信に飛び込んでくる何かを噛み砕く音。
『……せんべい?』
『ごません』
食ってる場合かっ!?
そう突っ込みたくなるも、俺たちは余裕が無い。
現在はエルティナがレ・ダガーの敵意を一手に引き受けてはいるが、いつまでも彼女の機体が持つはずがないのだ。
そう、持つはずが……持つはずが? 無いのか?
『その程度の攻撃では、このエルティナイトを傷付けることはできないできにくい!』
やはり、信じられない光景だった。
ただの追加装甲を取り付けただけのアインリールが、レ・ダガーのレーザークローの集中攻撃を耐えきっているのだ。
あまつでさえ、反撃の鉄の塊でレ・ダガーを撃破している。
規格外、そう思わせるには十分過ぎた。
そしてもう一機。
『……選り取り見取り』
銀閃が輝きを見せる時、鋼の獣は一匹、また一匹と確実に仕留められていった。
だが、いよいよ標的を変えられる時がやってきたのだ。
ヤツらも、まずはこちらを仕留めなければ拙い、と認識したのであろう。
『レダム! 生きて帰ったら奢れよっ!』
『ロイス、頼む!』
俺たちは、レダムのブロウリヒトがレ・ダガーを引き付けている間に、撃って撃って撃ちまくる。
それこそ、砲身が焼き付いてもだ。
『おいぃ! 超一流のナイトを無視するとか、得体の知れない鉄の塊でぶん殴るぞ!』
セリフが長いので途中でぶん殴っている件について。
色々とツッコむ部分があり過ぎて忙しい。
しかし、エルティナの嬢ちゃんのお陰で、生きて帰れる見込みが出てきやがった。
『ラルク! 群れのボスは分かるかっ!?』
『あぁ、一番奥の角付きだ。狙ってみるさ』
ここで、ラルクのアインリール改が密かに単独行動を開始した。
あいつのアインリールはステルス性能を高めた機体だ。
こちらもレーダーが使いものにならないが、あちらも条件は同じとなるはず。
「銀閃! 右の数を減らせるかっ!?」
『……ミーシャさんが手伝ってくれるなら』
『あたしは問題ないよっ!』
「なら頼む!」
鋼の獣はその数をどんどん減らしてゆく。
このまま上手く行く、誰しもがそう思っていた。
俺もそうだ。
しかし、運命の女神ってやつは、とことん意地が悪い。
『う、うわぁっ!?』
「ロイスっ!」
ロイスのブロウリヒトが、レ・ダガーに背後から押し倒された。
レーダーも使えないのによくやっていたが、ついに捕まってしまったのだ。
「今、助ける!」
だが、砲弾は周囲のレ・ダガーによって撃ち落とされてしまった。
ヤツらには、背中に二連装レーザーガンが装備されているタイプもいたのだ。
『やめろっ! た、助けてくれっ!』
ロイスの悲鳴が、俺の判断力を鈍らせた。
砲撃を繰り返すも、そのことごとくが撃ち落とされる。
背中を食い破られるブロウリヒト。
もう、助ける手立てはないのか?
今、銀閃とミーシャが攻撃目標を変えれば、ラルクが危険に晒される。
もう、本当に手立てはないのか?
自問自答。しかし、答えは出て来ない。
『助けてくれぇぇぇぇぇぇっ!』
ロイスの絶叫。それに応える者は……果たして居た。
『バックステッポゥ!』
吹き飛ばされる鋼の獣たち。
それを成し遂げたのは奇妙なポージングを取る、自称ナイトのアインリールだった。
『助けを求められ、即座に参上。ナイトは助けるんじゃない、助けてしまうもの』
鉄の騎士は奇妙な鉄の塊の剣を、狼狽えるレ・ダガーたちに突き付けた。
『精霊戦機エルティナイトは仲間の悲鳴に敏感過ぎるっ! おまえら、ボコボコにするぞ! 覚悟しろぉ!』
そして、精霊戦機エルティナイトは手に持つ剣らしき物を、思いっきり鋼の獣たちに投げつけた。
「唯一の武器を投げつけたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
『唯一の武器を投げつけたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
『唯一の武器を投げつけたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
『唯一の武器を投げつけたぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
『……まぁ、そうなるわよね』
一部を除き、見事にツッコミが重なった瞬間であった。
『おんどるるぁ! 俺の恐ろしさを骨の髄にまでぶち込んでくれるっ!』
そして、その身一つで鋼の獣たちに襲い掛かる精霊戦機エルティナイト。
もう、わけが分からない。
そして、その被害を一番に受けているレ・ダガーも大混乱に陥っていた。
果たして、あれは騎士と呼んでいいのだろうか。
疑問は尽きないものの、ロイドを救出するチャンスであることは確かだ。
「銀閃とミーシャは攻撃を続けろっ! 俺が行くっ!」
『……了解』
『ロイドは任せたよ!』
俺は機体を軽くするために追加装甲を排除。
爆破という原始的な手段で機体に多少のダメージを負うが、致し方がないというものだ。
人の命には代えられない出費、と自分に言い聞かせる。
エルティナの嬢ちゃんが、これでもか、とレ・ダガーを引き付けてくれているお陰で、大破したブロウリヒトの下へと難なく辿り着く。
ロイドの生死は確認しない。機体ごと担ぎ、急いでその場から離脱する。
生きた心地がしない。
追加装甲を装着していても、レ・ダガーのレーザークローに耐えれるかどうか分からないのだ。
背後で爆発が起こった。それが立て続けに発生する。
直ぐに銀閃がやってのけた事と理解した。
『……急いでっ! ミーシャさん、カバー!』
『あいよっ、お姉さんに任せときな!』
ミーシャのガントライが、砲門全てを解放するフルバーストをおこなった。
攻撃力は申し分ないが、この攻撃方法は機体に負荷が掛かりすぎるために、数十秒間のクールタイムが発生するはず。
それを迷う事なく行った理由、それは……。
『ドンピシャだ』
ラルクからの通信。
それはレ・ダガーのボスを仕留めた、という報告に他ならない。
『……あとは残りを殲滅するだけ』
「簡単に言ってくれるな」
『……大丈夫よ、エルがいるもの』
その【エル】とやらを見やる。
レ・ダガーの首根っこを抱え込み、顔面へ向けて拳を叩きつけていた。
既にやっていることは、喧嘩のそれとなんら変わらない。
もう滅茶苦茶である。
絶対に戦機の戦い方から逸脱しているといっても過言ではない。
『俺の怒りが……ウルトラマックスデンジャー! 制限なく怒りはブチ切れるっ!』
その出鱈目な戦いぶりに、レ・ダガーは恐れをなして背を向ける。
なんと、逃亡を開始したのである。
前代未聞の行動であった。
『……狩りの開始ね』
そして、この銀閃である。
結果、レ・ダガー20機は、一匹も残らずに破壊され、俺たちは九死に一生を得たのであった。




